そして、今更ながら多機能フォームに文頭に空白を入れる機能があることを知るという。
なので、早速使ってみました。読みやすくなってればいいナァ……
少年は、新たな運命と出会う(支離滅裂)。
「……ハァッ、ハァッ!」
咲夜は、疲労が蓄積し重みを増す身体に鞭打ち、霞む眼を必死で凝らして『敵』を探す。
しかし、未だ彼女の瞳が映すのは、ただ生を貪らんとする『死の河』のみであった。
『影』の壁を突破し、多少なりとも目標の『敵』に近付けたと思った次の瞬間には、またしても新たな『影』の壁による追い討ちが迫り来る。
能力のインターバルを埋めるため、僅かに後退しながら
その僅かな前進とは不釣り合いに、大きく奪われていく気力と体力。
かといって、
たとえ、状況が醒めぬ悪夢の如く、前進しては後退を強いられることの繰り返しだとしても。
その果てに辿り着く先が、惨憺たる結末でも。
今はただ、必死に前へ、前へ。
「前へ……前へ!」
彼女の思いの丈は心に収まらず、いつしか声となって現れていた。
意図せず口走る、自分に言い聞かせるかのような、力強い独語。
「……!」
そして、数え切れないほど『影』の壁を抜けた時、突然に訪れた転機。
(ようやく、捕まえた……!)
『影』の壁を抜けた先、不意に視界に飛び込んで来た
それは、咲夜の確固たる意志が引き寄せ、そして掴み取った好機だった。
「踊り狂いなさい……その命尽きるまで! メイド秘技『操りドール』!」
その人影に向かって、無数のナイフを投擲すると同時に、多大な負荷を承知で、強引にインターバルを縮めて行使された
本来ならば発動さえ危うかった能力は、その持続時間をほとんど失った状態ではあったが、辛うじて咲夜の要求する及第点ーー先に投げた無数のナイフを
だが、それだけでは飽き足らないとばかりに、緻密に配置されたナイフが
瞬間、檻から解き放たれた獣のように、一斉にアーカード目掛けて襲い掛かる殺意の刃。
しかし、彼の四方八方から不規則に互いを反射させながら迫るそれらは、その目的を達することなく、全て空中で砕け落ちた。
「純銀製マケドニウム加工弾殻。マーベルス化学薬筒NNA9。全長42cm、重量17kg。15mm炸裂徹鋼弾……『ディンゴ』。
髭面で騎士様の姿から、それ以前の容貌に戻り、不敵に笑うアーカード。
そんな彼の頭上から、宙を舞う咲夜の追撃が振り下ろされる。
「ぜやあああぁぁぁぁッ!」
咆哮ひとつ、渾身の力を込めて放たれたナイフでの一撃。
しかし、その攻撃は、間一髪差し出された『ディンゴ』の銃身の背を削り火花を散らすに留まった。
咲夜は、これ以上の追撃は不可能だと察すると、すかさず
能力の発動には、指を鳴らすという予備動作が必要であると思い込ませるための
加えて、リスクを度外視したインターバルの排除。
それらの積み重ねの果てに放ち、造作もなく打ち破られた自信の弾幕。
そして、それを予期した上で、駄目押しの意味で仕掛けるも、虚しく弾かれた決死の一撃。
しかし、そんな絶望的な状況においてもなお、未だ輝きを失わずに『敵』を捉える双眸。
「見事だ、我が宿敵」
アーカードは、その咲夜の気概に、生き様に、矜持に、
「まだまだァ! 幻符『殺人ドール』!」
身に迫る絶望を拭い去るような叫びと共に、咲夜は再び『敵』目掛けて駆け出す。
彼女がただ無策に、闇雲に、躍起になって飛び出したかに見えた次の瞬間、その背に現れる無数のナイフ。
白銀の壁が咲夜を巧みに避け、彼女を追い越してアーカードに迫る。
アーカードがそれらを正確無比に撃ち落としていく最中、咲夜はその合間に自分に向けて放たれる弾丸を躱しながら、受け流しながら、弾きながら、その距離をたちまち縮めていく。
そして。
「おおおぉぁぁぁぁッ!」
アーカードの姿をいよいよ目前に捉えると、手にした大振りのナイフで目一杯薙ぎ払う。
アーカードは、その乾坤一擲の攻撃をまたしても難なく防ぎ切り、打ち破り、真っ直ぐに咲夜を見据えた。
対する咲夜もまた、先程までと変わらず一撃離脱の戦法を取ってはいたが、その瞳は更なる追撃の機を窺うように、アーカードを捉え続けている。
両者の視線が、一直線にぶつかる。
「何という女だ。人の身で、よくぞここまで練り上げた……敵よ! 殺してみせろ! この心臓にその刃を突き立ててみせろ! この私の
その表情に余裕と驚嘆の微笑を浮かべたアーカードは、度重なる負荷に堪え兼ね、未だ肩で息をする咲夜に、容赦なく銃口を向ける。
「……語るに、及ばず!」
言葉や態度では強がっていたが、その実、咲夜の身体と精神はその限界を
しかし、それでも彼女は、ナイフを構えることを、敵に立ち向かうことを、止めなかった。
それは、館の仲間のため。
そして、敬愛する主人のため。
何より、自分自身のため。
彼女の生き様が如く研ぎ澄まされた切っ先鋭い刃は、まるで、彼女の矜持が乗り移ったように儚く強く、輝いた。
「「…………」」
両者は視線を逸らさず、互いを牽制するように、緩やかに体勢を変えていく。
と、そこで、咲夜の身体が不意に硬直する。
まるで、それを
(……! しまったッ!)
そして、今まさに弾丸が放たれる寸前、咲夜ははっと我に返り、そこで初めて、目を合わせた時に敵の術中に嵌っていたことに思い至った。
俗に言う『
視線を交わしただけで人々の心を惑わす、いわゆる洗脳や精神干渉と呼ばれるものの一種。
本来であれば、対吸血鬼戦を知り尽くした咲夜に、吸血鬼の目を見詰めるような失策はあり得ない。
また、仮に
しかし、疲弊しきった肉体と憔悴した精神が、不用意に目を合わせるという油断を生み、そして、術に抵抗する力も奪っていた。
咲夜が、回避行動を取るため足のバネを溜めるが早いか、彼女の瞳に映る銃口の黒と火薬の炸裂光。
反射の域で動き出し、辛うじて紡ぎ出した一瞬にも満たない時間では、弾丸の直撃を避けるように身体を捩る程度が精一杯で、結局、
それに合わせて、咲夜の身体も、後方へと引き寄せられるように吹き飛んでしまう。
彼女は、そんな窮地を好機に変えるべく、その体勢を空中で整える。
そして、右手のナイフを地面に突き立てる事で制動し、それを軸に旋回、更にその勢いを利用してアーカードに飛び掛かろうとした。
しかし。
(……!)
次の瞬間、彼女を襲った
右手が動かない。
否、右腕の
(……それ、ならッ!)
咲夜は、即座に軸とする腕を左に切り替え、ナイフを地面に突き立てる。
それから半拍も置かずに、強烈な遠心力が彼女の体を軋ませ、脳を揺らした。
その、まるで暴れ馬に片手で掴まっているかのような劣悪な状態の中で、彼女は狙い澄ました一瞬を見出し、旋回の勢いに乗ったまま、地面を蹴って飛び出す。
にわかに詰まる両者の距離。
一閃、瞬く白刃。
(手応え……あった!)
しかし、咲夜が捉えたのは有象無象の『影』であり、討つべきアーカードの姿は、遥か遠くにあった。
開いた二人の間隔を、見る間に『影』の亡者達が埋めていく。
もう、空間にその残像が焼き付けられるほどに、幾度も繰り返された光景。
「どうする? どうするんだ? 化物は
咲夜の視界を占領し、蠢き連なる亡者の『壁』の向こう、アーカードの挑発的な声が響く。
「たとえそれが那由多の彼方でも……私には充分に過ぎる!」
感覚が戻ると共に、痛みと熱を帯び始める右腕。
肩の大部分を抉り取られ、もはやぶら下がっていると形容するに相応しい状態の
「うらあああぁぁぁあぁぁッ!」
それでも、咲夜は自分を奮い立たせるかのような雄叫びを上げ、『影』に走り寄る。
ただ、ひたすらにナイフを投げ、斬り、振るう。
だが、投げつけるほどに、斬り倒すほどに、振るうほどに。
『影』の亡者はその数を増やし、少しずつ、しかし確実に、彼女を追い詰めていく。
「どうした使用人。調子はどうだ? 満身創痍だな。どうするんだ? お前は
「満身創痍……それが
瞬間、アーカードの表情が驚きに、そして微笑みに変わる。
「……素敵だ。やはり人間は素晴らしい」
彼が幾年月を重ねて喰らい、使役する亡者達。
それらは、いつしか深追いが過ぎた咲夜を取り囲んでいた。
(……ッ! いよいよ、進退窮まったわね……いいえ、きっと最初から
だが、たとえ周囲を隙間無く取り囲まれようと、未だ輝きを失わない瞳を伴った咲夜は、今一度目の前の『影』に向かい踏み出そうとした。
ーーその時。
不意に後方から彼女の頬を掠めた
それは、
「そんな……パチュリー、様……」
振り返った先、浮かび上がる見知ったシルエット。
『影』は炙り出しのようにじんわりと輪郭を得て、その姿を
それは、咲夜がその可能性を感じながらも、無意識の果てに放逐していたほどに恐れていた事態。
即ち、顔見知りの誰かが『影』として使役されているという、最悪の成り行きであった。
(一体、どうすれば……)
咲夜は現実から目を逸らすように、反射的に視界からその『影』を外すと、現状を打開する手段を思慮し始めた。
しかし、ただでさえ不利な状況に置かれていた彼女がいくら頭を捻ってみても、戦況を覆すような策が浮かぶはずはなかった。
咲夜の脳裏を過る『敗北』の二文字。
考えることを放棄して飛び掛かろうにも、既に心は絶望に打ちひしがれ、両脚は頼りなく震えるばかり。
(これじゃあ、もう……ッ!?)
途方も無い諦観が咲夜を圧倒した刹那、地下室の天井に二つ目の大穴を空けて、彼女の目前に降り注いだ巨大な光芒。
そして、亡者達が薙ぎ払われたそこへ降り立つ、多数の人影。
「あっ、貴女達……ッ!」
「遅く、なりました。咲夜さん……ぐぅッ!」
「無理しちゃ駄目です、美鈴様! まだ傷が塞がってないのに……」
「美鈴! それに、こあ……と、妖精メイド達も!?」
予期せぬ闖入者の正体に、咲夜は思わず声を上げると、しばし目を白黒させた。
彼女の目の前に、彼女を護るように並び立つ美鈴、小悪魔、そして妖精メイドの面々。
「貴女達、一体何を考えてっ……!?」
咲夜は、自身の処理力を超えたその光景と突然の援護による混乱から即座に醒めると、叱りつけるような声色の一言を辺りに響かせた。
「すみません、咲夜さん。こあの指揮の元、皆を避難させようとしたんですが……この有様です」
「無謀よ! こあ、今すぐ美鈴と妖精メイド達を連れて……!」
ばつが悪そうに反応を返す美鈴、そして彼女の体を支える小悪魔に、咲夜は今一度、毅然とした口調で撤退を強いようとする。
「駄目です」
しかし、その言葉を遮り、小悪魔はぼそりと呟くと、咲夜に潤んだ眼差しを向けた。
「え?」
「駄目なんです。私達は、ここで
その言葉を受け、目を丸く見開いた咲夜に、無言で立ち並ぶ妖精メイド達も、小悪魔の背中から決意の視線を送った。
「……呆れた。誰も彼も、
「大丈夫です、メイド長。私達に『死』はありません。また、同じ姿で生まれ変わるだけです」
それは、どの妖精メイドが発した言葉かまでは咲夜にはわからなかったが、彼女の耳に確かに届き、その胸中に広がった。
確かに、咲夜が知る限り、この
先程の言葉の通り、何かの要因で消えることになっても、地獄などへは行かず、
しかし、
それは、数時間後かもしれないし、数年後、或いは限りなく永遠に近いほど先のことになるかもしれない。
つまり、妖精メイド達の消失が意味するところは、結局ほとんど咲夜が言わんとした通り、
「……はぁ。もういいわ。言葉の
お世辞にも賢いとは言えない妖精メイドらしく、咲夜が言葉の裏に隠した、再考を促すという意図を汲みきれず、言葉をそのまま捉えたが故に飛び出した一言を反芻しながら、咲夜は深く溜息をついて俯いた。
「まったく、
彼女は俯いたまま呟くと、
「いいわ、
そして、再びその双眸に、群がる『影』の亡者達を映した。
(もう一度、近付ければ……!)
咲夜は意を決して、懐にした
おそらく、自身に残された時間がそう長くはないであろうことを、彼女はこの戦いの
それでも、許された僅かな生を、敬愛する主人と共に歩むためだけに使うつもりだった。
だが、今の彼女は違う。
自分の命と引き換えにしてでも、ここで目の前の敵を屠る。
今一度、『
そんな想いを、妖精メイド達の決死の勇に抱きながら、咲夜は弾かれるように飛び出した。
妖精メイド達も、その背に続き特攻を開始する。
まるでそれを待っていたかのように、『影』の亡者達も進軍を再開し、両陣営の熾烈な激突の火蓋が切って落とされた。
「……! やはり、そう簡単には援護さえ許して貰えませんか」
「パチュリー様、ご容赦を」
『影』の包囲を掻き分け進むメイド隊を見送り、彼女達の後方から弾幕での支援を試みる美鈴と小悪魔の前に立ちはだかった、『七曜の魔女』。
ーー否、
……。
…………。
「「「うぉああああぁぁぁああぁぁ!」」」
メイド隊の面々が進んでいく。
弾幕を放ちながら、亡者に斬り裂かれながら、貫かれながら。
それでもなお、ただひたすらに進んでいく。
「では、
「私も
「ええ……
メイド隊の面々が散っていく。
ある者は断末魔が如く弾幕を撒き散らしながら、ある者はその身体を貫かれたまま、体内で増幅した魔力を暴走、爆発させて。
ただ、道を拓くために散っていく。
そう、道を拓くために。
咲夜の刃が、アーカードを斬り裂くために。
「…………」
一方、アーカードは戦いに王手をかける寸前まで状況を掌握しているにも関わらず、未だ闘争の昂りを阻害する違和感に苛まれていた。
傍目には、高みの見物に興じているように映るその姿とは裏腹に、彼の心中に渦巻く漠然とした違和感。
不安にも似た
そして、ほどなくして思い至った、
吸った者の存在
何故か、自分は吸血鬼の少女達と戦う最中、そして、
否、
今まで
それは、カレンダーに書き込んだ予定を一瞥するように、或いは、万華鏡を手に取り覗き込むように、容易く行えるはずなのに。
何故か
それとも、もしかしたら
今まであまりにも当然に行ってきたが故に、見落としていた異変。
もっとも、その真相は、全ての
あまつさえ、ここで、彼は自身の記憶が、
積み重ねられた状況証拠によって輪郭を得た違和感は遂に、
その疑念とは、彼が『
それは即ち、自身が
不意に膨れ上がる、言い知れぬ焦燥感。
覗き込んではいけない深淵に目を遣るような不安。
アーカードは、その身に宿す『影』と等量の、膨大で不定形な鬼胎を抱いていた。
「今はただ、闘争を……」
覆い被さる蟠りを振り払うように、そして、自分に言い聞かせるように、彼は静かに呟く。
そう、雑多で歪な水平思考など、
「……待たせたわね、化物」
と、そこで、アーカードの耳に心地よく響く声。
彼は熟考を切り上げ、声の主を見据えた。
傷だらけで
そう、咲夜は迫る絶望を掻き分け、同胞の屍を踏み進み、今一度アーカードと対峙するに至ったのだ。
「あの包囲網を突き破り、私の眼前に立ったか……流石だ、人間。今一度問おう。お前の名を」
「私は、咲夜……『紅魔館』のメイド長、十六夜咲夜よ!」
戦闘開始時はつっけんどんに切り捨てた問い掛けに、咲夜は高らかに名乗りを上げる。
それは、彼女がアーカードを命に代えてでも斃すべき敵と認めたことの現れであった。
「咲夜! いいぞ、いい名だ! いい目だ! 来い、
咲夜の名を聞くと、アーカードは拍手するように手を叩き、不敵な笑みを浮かべた。
「……終わりにしましょう。お嬢様が
対する咲夜は懐から、大ぶりな懐中時計を取り出し、アーカードに向けて掲げる。
その勢いで時計に繋がる鎖が擦れ、金属音が涼やかに鳴った。
「ほう。それが、お前の切り札か」
「そうよ」
その懐中時計の天板の反対側、小物入れのようなスペースから取り出された、小瓶に詰まった液体。
「それは……まさか! お前
いつかの光景が、ぼんやりと彼の脳裏を過る。
それは、かつて彼が今と同じように戦った一人の神父との、闘争の顛末。
やはり、はっきりとは思い出せないけれど。
それはきっと、呆気ない幕切れ、望まない決着だったのだろう。
「これほど戦ったのに、まだ分からないかしら? 私は、ただの刃でいい。忠誠という名のナイフでいい。私は生まれながら、嵐なら良かった。恫喝ならば良かった。一つの信管ならば良かった。心無く涙も無い、ただの恐ろしい暴風なら良かった……かつては
アーカードの言葉を受けた咲夜は、険しい表情で歯噛みする彼に、哀れみにも似た視線を送る。
そして。
(ああ、
液体の蓋を器用に片手で外すと、一息に飲み干した。
「……!」
瞬間、彼女の脳裏を走馬燈のように駆け巡る、数々の記憶。
……。
…………。
「来い、化物ども。始末してやる」
来る日も来る日も、吸血鬼を狩り続けた毎日。
「化物はお前だろう。さっさと出て行け!」
その果てに、人々に迫害された日々。
「無様ね、人間。でも、とても……美しいわ」
人生の転機となった、一人の吸血鬼との出会い。
「望むなら、私の
「後悔するぞ……私は必ず、貴様を討つ」
気まぐれに結んだ、仮初の主従。
(確かに、神は居た。でも、残酷だった。祈っても、届かないなら。見守られるだけなら。私は、差し伸べられた手を取るわ。それがたとえ、悪魔の手でも)
「それなら、アナタが私を
いつか交わした約束。
「咲夜、アナタ最近おかしいわよ? すぐにぼうっとしたりして……」
音もなく忍び寄る不調。
「ま、時を弄んだ罰ってトコじゃない?」
「治療法は?」
「端的に言うと、ないわね」
永遠亭で突き付けられた現実。
「ねぇ、咲夜。貴女がどうしてもと言うなら、貴女を蓬莱人にすることだって……」
「それは、お断りします。それでは」
「ちょっと待って。これ、持って行きなさいな」
そこで受け入れた運命と、半ば押し付けられた秘薬。
そしてーー
……。
…………。
「何故……何故だ! 何故、お前
アーカードは歯軋りを響かせ、懐中時計を握り締めたまま蹲る咲夜に銃口を向けた。
ーー刹那、目にも留まらぬ一閃が、アーカードの首を刎ね飛ばす。
同じくして、引き金を引かれた彼の『ディンゴ』が火を噴き、咲夜の頭部を撃ち抜いた。
大きく仰け反った二人の体が、そのまま後方に傾き倒れるかに見えたその時、二人は自らの足で体勢を立て直していた。
アーカードの首元からは影が噴き上がり、吹き飛んだ筈の頭を形作る。
また、大部分を欠損した咲夜の頭部も、まるで時間を巻き戻すように元通りになっていく。
更に、負傷していた彼女の右腕も、頭部と同じように修復されていく。
しかも、それだけではない。
傷の修復を終えた彼女は、その容貌までもが、時間を巻き戻されたかのように
同刻。
「貴女とこうして肩を並べて、背中を合わせて戦うなんて、何十……いいえ、何百年ぶりかしらね?」
「そうねぇ、月で大暴れした時以来かしら。昔過ぎて覚えていないわ」
「やっぱり、老け込んだんじゃない?」
「あらあら、手厳しいわね」
麗亜の傍ら、軽口を叩きながら群がる『影』を薙ぎ払い続ける幽香と紫。
「この気配は……咲夜!?」
その後ろで、レミリアは自分の使用人の変化を察知していた。
「ようやく、
「
「私でも、わかります……これって」
「咲夜だ! 咲夜だよ!」
僅かに遅れて、他の者達も
全てを掻き乱す魔力の渦の只中でも、確かにそれが感じられる異様に、紫を除いた一同は困惑と驚嘆の色を隠さなかった。
「紫……一体どういうことよ!? 何か知っているんでしょう!? 答えなさい!」
自身では文字通り手も足も出ない状況に焦れるばかりのレミリアは、その不満をぶつけるが如く、紫にがなり立てる。
「まさに彼女は、
「だから、それはどういう……!」
「たとえそれが、この短い夜が明けて鶏が鳴けば身を滅ぼす、法外な利息を伴ったとしても、彼女は
「まさか……」
紫の回答から、レミリアが思い至った恐ろしい結末。
それは、彼女にとって想像さえしたくない残酷な幕切れだった。
「さぁ、運命がカードを混ぜたわ。
後編もよろしおす。