HELL紅魔郷SING   作:跡瀬 音々

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またしても長々しくなってきたので、一旦投稿しておきます。

後々追記形式で更新しますが、とりあえず生存報告も兼ねて。

Twitterの垢も作ったことだしね!

※6月17日、追記形式で更新しました。この話(物語そのものじゃないよ!)はこれにて終了。次話をお楽しみに。


Nosferatu

「…………ふ、フフッ」

 

 くすくす。鈴を転がすような笑いだと、紫は自分で聞いて思えた。

 最後にこんな笑い方をしたのは、いつのことだったか。

 

 今、ここに夜の女王は誕生し、やがて、()()()()()()()だろう。

 

 その方法や過程は予定と違えど、結果は求めたモノと寸分の狂いもない。

 

 そう、全ては思いの儘。

 

 紫は静かに、しかし確かに、歓喜の絶頂にあった。

 

 だが。

 

「……余韻に水を差してごめんなさいね、レミリア。ちょっと一息、つかせて頂戴」

 

 複数、かつ強大な『境界』の維持は流石に堪えたのか、彼女は少し息を乱した様子で、力無く呟きを零す。

 

 すると、それを皮切りに、一同を取り巻く『境界』が足元の円状の部分だけを残して消失し、瞬間、獲物に飢えた獣の如く『闇』が殺到する。

 

(あら、ちょっと時間不足……だったかしら?)

 

 その時、未だ黙って佇んだままのレミリアを見て、紫は一抹の不安を覚える。

 

 灰と消えた伴侶の亡骸のあった場所に視線を落とし、その面影を慈しんで。

 そっと眼を閉じ、届かない祈りを捧げ、死を悼むように沈黙に服す。

 そんなレミリアから発せられ始めた、圧倒的な妖力に潜む()()()

 

 ()()()のが存外に遅い。

 

(マズい、わね……まぁ、でも)

 

 このままでは、全員揃って『闇』の餌食となる。

 

 そんな最悪かつ明白な未来を頭の片隅で思案しつつも、紫の口角は上がっていた。

 

「……!」

 

 一同が全滅を覚悟しながらも、少しでも抵抗の意思を見せるよう臨戦態勢に移った瞬間。

 

 ()()はまるで天恵の如く、皆の頭上から降り注いだ。

 

「……これは!?」

 

 不意に『闇』を貫く、上空からの弾幕。

 

 それは、間断なく降り注ぐ()()()

 

 そして、その出所たる規則正しく横一閃に並んだ無数のプリズムと、それらを両翼の如く従える光球が、一同の眼に映り込む。

 

「……パチェ!」

 

 見上げた光球の中に三つの影を認めたレミリアは、もう会えるはずのなかった無二の親友の名を呟いた。

 

「……待たせたわね。真打登場、といったところかしら?」

 

 その呟きに応えるように光球から声が響くと、それは一際強い輝きを放ち、プリズムはばら撒く弾幕をより一層濃厚なものとした。

 

(……よかった。これで()()()()()()を運べそうだわ)

 

 上方から降り注ぐ銀弾によって『闇』だけが正確無比に撃ち抜かれていく最中、呼吸を整えた紫は、舞うように扇子を伴って旋回する。

 彼女がその大仰な身振りを終えると、新たに『境界』が築かれ、三度(みたび)安全地帯(セーフティエリア)』が創り出された。

 

「一度降りるわ。二人の受け入れ、よろしく頼むわね」

 

 紫達の周囲をひとしきり薙ぎ払うと、パチュリーは光球と共に、ゆっくりと『安全地帯(セーフティエリア)』の傍らへと降り立つ。

 

 それを視認した紫は拍子を合わせ、光球の中の三人ーーパチュリー、美鈴、小悪魔をその中へと招き入れた。

 

「パチェ……美鈴、こあ……」

 

 その姿を間近に捉えた時、レミリアは思わず、三人の名を呟いていた。

 

「ふふ。二人は無事よ。ただ、少し休ませているだけ。放っておけば、じきに目覚めるわ」

 

 その呟きに、パチュリーが自身の健在を主張するように応える。

 

 彼女の言葉の通り、その輪郭を淡い光に縁取られた美鈴と小悪魔は、すやすやと寝息をたて、深い眠りに堕ちているようだった。

 

「よかった……! 本当に、私……」

 

「でも、再会を喜び合うのはもう少し後よ、レミィ。ねぇ、そうでしょう? 紫」

 

 親友との再会の昂揚を抑え付けながら、パチュリーは眉をひそめて、紫に睥睨するような鋭い視線を向けた。

 

「よかった。間に合ったわね、パチュリー」

 

()()()()()? それは一体、どういう意味かしら? まるで……」

 

 パチュリーが不快感を露わにし、敵意を隠すこともせず「この展開を見越していたかのような口振りね」と続けるはずだった言葉を遮り、紫が口を開く。

 

「アナタの()()()()()、受け取ってもらって構わないわ。でも、お察しの通り、積もる話は後」

 

 その紫の言動で一触即発の空気が漂い、片時の沈黙が走る。

 

「……そう、ね。まずは()()をどうにかしないと。まったく、酷い有様ったらないわ」

 

 パチュリーは納得のいかない様子で、それでも、自分に言い聞かせるように呟くと、紫から視線を逸らし、眼前に広がる『闇』を見遣った。

 

 一同の目の前に横たわる、未曾有の危機的状況。

 いかに現状が逼迫したものであるのかは、パチュリーが親友との会話を打ち切り、紫への追及を不本意ながらも切り上げてまで状況に臨んだことからも、容易に窺える。

 

「…………」

 

 目前で這いずり回る『闇』の悍ましさに、その場にいる誰しもが言葉を失ってしまう。

 流動する『闇』が生み出す不協和音だけが響く中、紫と麗亜は、十数年前(あのとき)の惨劇を克明に思い浮かべていた。

 記憶の根底に刻み付けられた恐怖に抵抗しようとするも、その勢いに気圧され、ただ押し黙ることしかできない。

 

 一同が相対しているのは、そんな、まさに有無を言わせぬ暴力であった。

 見れば見るほど、本当に()()をどうにかできるのか、という疑念が皆の脳裏を埋め尽くしていく。

 

「ちょっと、二人とも。いい加減、蚊帳の外にも飽き飽きしてきたわ。そろそろ始めましょう? 紫。四の五の言わずに、策の説明をなさい」

 

 と、その時。

 親友に自分との語らいを後回しにされご機嫌斜めなレミリアが、話を途切れさせた二人の間に無遠慮に割り込んだ。

 その動機はどうあれ、彼女の一言は一同を状況に引き戻し、不安に滞っていた場を進捗させる。

 

「ええ、そうね。アナタ達ならわかると思うけれど、()()はもうどこからが()でどこまでが()ではないのかが曖昧な、数多の命を抱える一つの()()となってしまった」

 

()……ね。やっぱり、()()はあの吸血鬼の成れの果てなのね。それに……いいえ、何でもないわ。続けて頂戴」

 

 紫から、改めて『闇』の正体を聞かされたパチュリーは、自身の推測を確信へと変えるための質問を彼女に投げ掛けようとする。

 が、時間が押している事を考慮したのか、歯切れ悪く言葉を区切ると、紫に説明を続けるよう促した。

 

「いいかしら? それで、この『闇』の中から()を見つけ出して、私の『境界』で存在を固定化。そして、そのまま封印するわ」

 

「単純ね。そんなことだけで大丈夫なの?」

 

「ええ。()()()を封印できれば、おそらく事態は収束するはずよ。状況は重く見て()()()と同じか、それよりも幾分か軽度だから……()()()()()方法で解決できるはずよ。もちろん、()を引っ張り出す時に、アナタの大事な妹も一緒に()()()()()あげるから……安心して頂戴ね、レミリア」

 

 他人の命、それも目の前にいる者にとってのかけがえのない者の命、ひいては幻想郷(せかいじゅう)の人々の命が懸かっているというのに、まるで茶屋でいつもの、と注文をするかのように平然と、根拠の曖昧な策を語る紫。

 その言葉の隙間には、自身の余裕を見せつけるが如く、先程パチュリーが尋ねようとした案件への答えが抜け目なく織り込まれていた。

 パチュリーが口元に手を添え、沈黙で理解を示したのを察すると、紫は会話の対象を重苦しい表情を浮かべるレミリアへと移す。

 

「フランのところ以外は、さっきも聞いたわ。それで、もっと具体的な方法は?」

 

 それは、大切な妹を()()のついでに扱われ、その存在を蔑ろにされたようで。

 レミリアは苛立ちを覚えながらも、怒りの言葉を噛み潰し、未だ漠然とした段取りと外縁しか見えない策の子細を紫に問い返す。

 

「アナタ達は、小難しい事を考える必要はないわ。ただ、()()()()()()()を削って貰えれば結構よ。細かい部分や()()は、()()()でやるから、ね?」

 

 そんなレミリアの様子に気を留めることもなく、紫は淡々と、思案した算段と要求を彼女に突き付けると、麗亜と顔を見合わせた。

 突然の目配せに一瞬、麗亜は目を丸くしたが、すぐに紫の意図を察すると、その眼差しをいつになく険しいものへと変え、紫の瞳を見返した。

 

「ふぅん、なるほど。ここまで来て、要はゴリ押しってワケね。いいわ、サクッと片付けて……その後はアンタよ、紫」

 

 レミリアは、再生した両手の具合を確かめるように二、三回掌を開閉すると、早く暴れ回りたくて堪らない、とばかりに拳を合わせ、牙を剥いた。

 

「ふふ、元気があって何よりだわ。それで、パチュリー。アナタはどのくらい()()()()かしら?」

 

「本当に、よくもまぁぬけぬけと……ま、いいわ。愚痴やら何やらは、後回しにしてあげる。そうね……『賢者の石』を基盤に、ざっと千人分以上の魔力を掠め取ってやったから……()()()()くらいは、何とかなるかしら」

 

 パチュリーは、紫の妖しい色を孕んだ瞳を真っ直ぐに見据えると静かに、しかし力強く魔力を滾らせる。

 

『賢者の石』。

 それは、魔法使いパチュリー・ノーレッジが辿り着いた一つの()()

 赤青緑黄紫、五色の魔力の結晶(プリズム)を自身の周囲に旋回させ、様々な属性の魔法を絶え間なく放つ『七曜の魔女』の真骨頂。

 ただし、それはあくまで()()()()()()()()場合の話である。

 もっとも、本来の用途は()()()()()()のだが、魔女の底知れぬ研鑽と探究心は、その結晶を禁忌の存在にまで昇華せしめた。

『七曜の魔女』が生成する『賢者の石』が持つに至ったのは、錬金術等で語られる()()としての側面。

 即ちーー不老不死の達成、正確には、()()()()()()()()()()を可能としたのである。

 とはいえ、()()自体は、レミリア達吸血鬼や輝夜をはじめとする蓬莱人達などが無造作に行なっていることとほぼ同様であり、幻想郷(このせかい)においては、さして珍しいことでもない。

 では、何故パチュリーの『賢者の石』が禁忌的な力を持つと断ぜられるのか。

 その理由は、完全に肉体を喪失した状態であっても、結晶に()とでも呼ぶべきものを乗り移らせ、幻想郷(このせかい)の輪廻から外れることができる点、そして、()()()()()をも、自身の糧とすることができる点にあった。

 ただ、それらについて深く言及するには、もう一人の魔女が編み出した()()()()についての説明が必要になるので、ここでは省いておく。

 とどのつまり、『七曜の魔女』は自身に限ってではあるが、異質なメカニズムとプロセスでの再生を可能とした、と。

 その程度の認識で問題はなく。

 

 また、紫達がそれらを気に留めることもなかった。

 今は、パチュリーがどれほどの戦力になるのか。

 それ()()が重要なのだから。

 

「それは重畳。せいぜい、派手に暴れて頂戴な」

 

「もとより、そのつもりよ」

 

 パチュリーは冷たく言い放つと、これ以上醜いモノを見るに堪えないといった様子で、紫の瞳から視線を逸らした。

 

「それで、いつ始めるのよ? 時間がないんでしょう?」

 

 と、時間が惜しいという割にいつまで経っても動きを見せない紫に痺れを切らしたのか、レミリアが急き立てる。

 

「そう慌てないで。私達も最後の仕込みをするから……」

 

「……呆れた。はいはい、わかったわよ。準備が出来たら、合図しなさい」

 

 紫ののらりくらりとした対応に、レミリアはうんざりした様子で彼女から顔を背けた。

 

「ええ、そうさせてもらうわ。それじゃあ、しばしご歓談どうぞ」

 

 レミリアとパチュリーにそっぽを向かれた紫はそう言い残すと、麗亜と幽香を振り返り、先の二人から少し距離を取った。

 それが、彼女らしからぬ気遣いや配慮の表れであったのか、はたまたただの気紛れであったのかは、本人以外に知る由もなかった。

 ただ、麗亜はその紫の背中に、忍び寄る死の影を見たようで、死に臨む覚悟を見たようで、どこかうら寒さを覚えた。

 

 

「……はぁ。ああやってまた自分のペースでコトを運ぼうとするのよね、紫は。少しは巻き込まれる側の気持ちを考えてほしいものだわ」

 

「まったくね……して、パチェ。よく、無事で」

 

「アナタもね、レミィ」

 

 紫への愚痴を零しながら、二人は先延ばしにした語らいを少しだけ前借りする。

 

「当然よ。だって、()()()()じゃない」

 

「……! そうね……そうだわ。ありがとう、レミィ」

 

 パチュリーは、親友が自身との約束を胸に抱き続けてくれていたことに、面映ゆさと喜びを感じ、頬を赤らめ俯いた。

 

「……フランは、()()()にいるのよね?」

 

 少しの沈黙の後、顔を上げたパチュリーは、一転して深刻な話題に触れる。

 

「そうよ。だから、助けなきゃ。私の、たった一人の妹だもの」

 

 一点の曇りも感じさせない決意の篭った声。

 それとは裏腹に穏やかな横顔を見詰めるパチュリーは、安堵から微笑みを浮かべた。

 

「……ねぇ、レミィ。咲夜、逝ったのね」

 

 しかし、次の瞬間には少し険しい表情に戻ると、ここまで忌避していた話題に立ち入る。

 それは、事実の確認と共に、親友がこれから死地に臨むに足る精神状態であるかを判断するためでもあった。

 

「ええ。でも、咲夜は()()()()()わ」

 

 再び力強い声色で紡がれた一言。

 レミリアはそこに宿る存在を噛み締めるように、ぎゅっと胸を押さえた。

 

「……! そういうこと、ね。道理で……」

 

 全ては杞憂だったと悟り、パチュリーは口元を緩める。

 

「こんな異変、早く終わらせてまた()()()で……」

 

 それを見て、レミリアが呟いた。

 

「ええ、()()()で」

 

 二人は目を見合わせると、眼前の『闇』を、そして、その先にある未来を見据えた。

 

 

 …………。

 ……………………。

 …………。

 

 

「さぁ、二人とも。最後の大立ち回りよ。まずは幽香。とりあえず、預かっていた()()、返すわ。そこの『スキマ』に手を入れて頂戴」

 

「何かしら……ああ、()()ね」

 

『スキマ』にぶっきらぼうに手を突っ込むと、棒状の物を握る。

 

 幽香が懐かしい感触と手馴染みを感じながら『スキマ』から引き抜いたのは、一見何の変哲も無い日傘であった。

 

「それじゃあ、一切合切消し飛ばしましょうかしら」

 

「ダメよ。少なくとも()()()が来るまでは、ね。当面、それは防衛用。私はしばらく別の仕事につきっきりになるから……私達のこと、任せるわ」

 

「またそんな小間使い? 不完全燃焼にも程があるわよ、これじゃあ」

 

 感じたままに不満を漏らし、ブラウスの両袖を捲り上げる。

 日傘を手にした幽香はよほど暴力的な衝動に駆られているらしく、全身から発せられる殺気と妖力は、先程までとは比べものにならないほど攻撃的な色を帯びていた。

 

「だから、()()()が来たら合図するわ。もうしばらく、辛抱して頂戴」

 

「それなら、まぁ……よしとしましょう、かっ!」

 

 そう言いながら、それでも我慢できないとばかりにその場で日傘を振り回す。

 驚くほどしなやかなそれは、華奢な外見からは想像もできない轟音を立て、空を切った。

 

「……して、麗亜。にとりから貰った()()、持ってるわよね?」

 

 幽香との会話を一頻り終えると、麗亜の方へと向き直りながら、言葉の矛先を彼女へと向ける。

 

「は、はい。一応……」

 

 紫が言う()()とは、麗亜が後生大事に懐に忍ばせている護身用の武器ーー河童、河城にとりから『ディンゴ』と一緒に手渡された簡素な造りの単発式拳銃と、それに装填された一発の『夢想封印弾』であった。

 好奇心旺盛で器用。学問の追究に余念がなく、こと科学技術においては他の種族の追随を許さない河童達。

 その中でも、とりわけ優秀な発明家(エンジニア)であり、人間を盟友と呼んで憚らないにとりが手ずから製作し、麗亜に()()()()贈った()()()は、護身用とはいえ充分な精度と威力を持っているに違いなかった。

 

「そう、よかった。アナタには、()()で私が固定化した()を撃ってほしいのよ」

 

 そう言いながら、紫は麗亜から逸らした視線で『闇』を示した。

 

「……っ! 私、が?」

 

「そんなに気負わなくても大丈夫よ。『異変』が起き、そこに『博麗の巫女』がいる。誂え向きの状況ではなくて?」

 

 突然の要求とそのあまりの重圧に身構え、体を強張らせるばかりの麗亜に、紫は優しく諭すように語り掛ける。

 

「…………」

 

「麗亜。()()は他でもない、アナタと私でするのよ。『博麗の巫女』と『幻想郷の賢者』の二人で、ね。だから、この『異変』は解決したも同然……そうでしょう?」

 

 黙り込む麗亜を真っ直ぐに見詰め、同意を迫る。

 その言葉には、穏和な声色や口調とは対照的に、否定的な返答を制するような凄みがあった。

 

「でも、あれは単発式ですし、何より『夢想封印弾』も装填してある一発しか……」

 

 傍観者から介入者へと返り咲くことを覚悟していたとはいえ、まさか斯様に重要な形で()()を任されるとは想像さえしていなかった麗亜は、沈黙の後に逡巡を見せる。

 もっともそれは、覚悟や勇気の不足からではなく、生来の遠慮がちな性格が、大役を振られることへの抵抗を生んでいるが故の躊躇いだったのだが。

 

「ちょっと、紫。こんな調子なら、私かアンタがやった方がいいんじゃないかしら? 使い慣れない道具だけど、この娘にやらせるよりマシなんじゃない?」

 

 その麗亜の反応を見て、煮え切らず頼りにならないと判断した幽香が、痺れを切らして会話に割り込む。

 

「無理よ。私は今から手が離せないし、アナタにも全力で護って貰わないと。それに、この役回りはやっぱりこの()じゃなきゃ」

 

「異変を解決するのは、あくまで『博麗の巫女』、ということかしら?」

 

 それでも、断固として主張を曲げない紫に、畳み掛けるように問い掛ける。

 

「それもあるけれど……ただ、麗亜が適任なのよ。色々と考えると、ね」

 

「根拠が見えないわ。この娘の反応からして、ほとんど実戦経験はないんでしょう? 私には、荷が勝ちすぎるようにしか見えないけれど。もし、世界に愛されているから、みたいな戯言を宣うなら、私は……」

 

 好きにやらせてもらう、と。

 そう締めの言葉を言いかけて、幽香はあることに気付く。

 それは、麗亜から発せられる霊気のゆらめきが、気に留めることもないほど微弱だった先程までとは打って変わって大きくなっていることだった。

 寄せては返す波のように強弱を繰り返し、そして次第に底上げされていく霊気の高まり。

 それが最高潮まで達した時の、もはや別人と見紛うほどの霊力の強大さに、幽香は先代『博麗の巫女』の片鱗を感じ、目元をひくつかせた。

 

(成る程。紫、アンタは文字通り()()の事態を想定しているワケね。確かに、この娘なら……)

 

「私は、何かしら?」

 

 と、言葉に詰まった幽香に意地悪く尋ねる紫。

 

「いいえ、何でもないわ。その娘がやれるっていうなら、やらせればいいんじゃない?」

 

「ですって。どう? 麗亜」

 

「やり、ます……やらせてください」

 

「ええ。それじゃあ、一緒に頑張りましょうねぇ」

 

 望んだ返答に、満足気な笑みを浮かべて頷く。

 

「はぁ……紫。アンタって本当に、典型的な妖怪よね。いくら取り繕っても、その本質は利己的で残酷。いつか報いを受けるわよ?」

 

「ふふ、幽香。私もアナタも、妖怪よ。()()()が来たら、無様に報いとやらを受けようじゃありませんか」

 

 会話の終わりに浴びせ掛けられた皮肉に皮肉で返し、紫は悠然と『闇』を振り返る。

 

「はん。ロクな死に方しないわよ、アンタ」

 

 紫には届かなかった最後の一言。

 ぽつりと零れたそれは、自身への戒めのようでもあった。

 

「さて、そろそろ始めましょうか」

 

「ええ、そうしましょう」

 

「この()()()も、いい加減終わらせないとね」

 

 紫が誰にでもなく呟くと、会話を終えたレミリアとパチュリーが応える。

 

(これだけ揃えば、充分よね?)

 

 準備万端、意気軒昂。

 近付く幕切れを前に、紫は自分自身に問い掛ける。

 

(もう一度アナタに会うなんて、高望みだったかしら? ねぇ、霊夢……)

 

 そして、心の何処かで期待していた友人との再会に想いを至らせ、静かに眼を閉じた。

 

「さぁて、仕切り直しよ。反撃開始と洒落込みましょう」

 

 寂寞とした感情を振り切るように、今一度眼を見開き、手にした扇子を翻す。

 

 と、同時に一同を取り巻く『境界』が足元の円状の部分だけを残して消失し、そこへ襲い掛かる『闇』を薙ぎ払う弾幕が、戦いの口火を切った。

 

「私が先行するわ! 背中は任せたわよ、パチェ!」

 

「任せて頂戴。蚊の一匹も、アナタに近付けさせはしないわ」

 

 返事を待たずに飛び出したレミリアの背中を追い掛け、パチュリーもまた『安全地帯(セーフティエリア)』を後にする。

 

 二人の斬り込みを合図に、本格的な攻防が始まった。

 

 この『異変』最後にして、最大の攻防が。

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