誰もが予想できるありきたりな展開に、凡庸な文才。
それでいて、必死に読者を求めるその様たるやーー
誠に度し難く、暗愚魯鈍であるッ!
いざ、南無三ーー!
※本編にひじりんは登場しません。
そんなことよりぱっちぇさんウッ!
「アッハハハ! やっぱり、こうでなきゃ! 楽しい! 楽しいよ! ねぇねぇ! キャッハハハハハ!」
「お愉しみのところ悪いが……」
眼前の敵に一息で肉薄し、紅の刃をぶっきらぼうに振り回すフランドール。
彼女は剣術の心得など無用と言わんばかりに、ただ力任せに斬撃を繰り出し続ける。
その猛攻を、反撃の機を窺いながら寸の処で躱していくアーカード。
そう、彼は攻撃を
かの
規格外の不死性を持つ彼には、相手の攻撃がどんなものであってもまずはその身に受け、それにより、相手の技の全容を把握したり、相手の攻撃後の隙にカウンターを狙うような戦い方を得意とする傾向にあった。
その彼が、有無を言わさず回避一辺倒になっている。
それは、彼の本能が、フランドールの紅の剣を至極危険なものだと直感していたからだ。
否、厳密には、彼は、この剣に似た雰囲気を持つ
どこでか?
いつか?
それは、彼自身にもわからないことであったが、ただ一つ。
あの業火に触れれば
一太刀でも受ければ全身が、『吸血鬼アーカード』という存在そのものが、自身の世界が
故に、器用に、繊細に、普段の豪胆な振る舞いや吸血鬼の血みどろの闘争とは対照的な戦運びで、華麗な体捌きで、攻撃を躱していく。
そして。
「少々
アーカードは業火の剣を携えたフランドールの右腕を左手で捉えると、そのまま彼女の小さい体を引っ張り上げざまに、空いた右の手刀を、その胸に目掛けて放つ。
そして、呆気なくその手刀が、彼女の小さな身体を貫いた。
「グッ……かは……ッ!」
刹那の出来事に、フランドールの口元が歪む。
(……!? まったく、これは一体
しかし、それは、苦しみを示すものではなく、
「禁忌『フォーオブアカインド』……」
その胸を手刀に射抜かれたまま、フランドールはぼそりと呟くと、がっしりと両手でアーカードの腕を掴み、固定する。
「ふふっ、残念でした……壊れちゃえ」
瞬間、その背後から、
「……ッ!」
吸血鬼はその眼で人を惑わし、また、幻覚や幻術を容易く看破する。
それは、彼らが物事の
それはもちろん、アーカードも例外ではない。
しかし、その眼を、感覚をもってしても。
目の前の現象を、
幻術やその類いであると認識できなかった。
そう、アーカードの感覚は、目の前のフランドール三人が三人とも
「オオアァアァァァッ!」
アーカードは一瞬で状況を判断すると、その謎を解き明かす事を一旦放棄し、一先ず直面している事態の収拾にかかった。
最初に、自分に組み付いている一人の対処。
これには、左手も右手と同様に胴に突き刺し、右の手刀を思い切り振り上げることで、彼女を頭の方向に切り裂くという方法をとった。
半ば両断されたフランドールは、無邪気で意味深な笑みを浮かべ、霧消する。
「「キャッハハははハハハハはははハハは!」」
続いて、揺らめく紅焔の剣を振り上げ、左右から迫る二人のフランドールへの対応。
「
敵が発した高笑いの残響の中、ぼそりと零し、両手を大きく広げたアーカード。
彼が手にしていた無骨な鉄の塊が、二人のフランドールの瞳に映り込む。
次の瞬間には、彼が温存していたスペアの『ディンゴ』が、向かって右側のフランドールを撃ち抜いていた。
撃ち抜かれた方のフランドールは、脳天に空いた風穴から空気が抜けるように、音も無く空に溶けた。
「
「化かし合いは……」
そして、アーカードはいよいよ最後の一人となった『左側から襲い来るフランドール』の方に向き直り、両者は真正面に向かい合う。
半瞬間後、銃を構えた影に、剣を大きく振りかぶった影が重なった。
「さ……ッ!?」
二人の影が交錯したまさにその時、突如としてアーカードの胸を貫いた、予期せぬ背後からの一撃。
紅の剣が、彼の背中側から胸を突き通していた。
それに半拍遅れて、重なった二人の影からぬらりとその姿を現す
加えて、追い討ちとばかりに正面から剣を振り下ろす『左側のフランドール』。
彼女の完全なる不意打ちと挟撃により、勝敗は決したかに見えた。
が。
「私の勝、ぢッ……!?」
勝利を確信した『背中側のフランドール』は、首と四肢の端々に衝撃を感じると、次の瞬間には壁に叩きつけられていた。
「ぐぎぎっ……! な、何コレ? 体が……」
彼女は、全く予期せぬ展開に戸惑いながらも、己の置かれた状況を把握するため、自身に近い場所から順番に状態を確認する。
まるで指揮系統を失ったかのように、力の入らない四肢。
その端々、衝撃を感じた箇所を締め付けている、得体の知れない光の輪。
それにより、十字架に磔にされたような格好になっている自分。
視界の端に見える、敵と相討ちとなり消えていく自分の分身。
そして、その横にある
彼女が目視したのは、先程まで剣を突き立てていた男の背後、そのやや左側遠方に位置する、男の足元から伸びた影から生えた、銀色の銃を握った
ギチギチと奇怪な音を立て、不恰好に、無機質に震える
フランドールは事ここに至って、自身の立ち回りが
「全てが本物であり、偽物でもある……まやかしを体現する
「くっ……」
身動きの取れなくなったフランドールを前に、勝利を己がものとしたと見るや、アーカードは余裕の笑みを浮かべながら、どこからともなく彼女の眼前に現れる。
その後方では、『左側のフランドール』と相討ちとなった
それは、アーカードが二重、三重にも策を張り巡らせていた事を、フランドールに嫌というほど認識させ、後悔を強いる。
「……ッ! このッ! はがれろっ!」
しかし、彼女はまだ諦めてはいなかった。
迫る敵を前にして、勝負はまだこれからとばかりに、壁に固定された体を必死に動かそうとする。
だが、彼女の体はまるで、自分のものではなくなってしまったかのように、全く言う事をきかない。
それは、銀色の銃から放たれた弾丸が、本当の意味で
通称:『夢想封印弾』。
元々
そしてそれは、好奇心旺盛な河童達により構造を解析され、今では、彼らは自分達で銃を
そう、アーカードが用いている『ディンゴ』が、まさにそのうちの一つであるように。
もっとも、魔法などの非物理の力が広く普及しているこの幻想郷においては、銃はあまり実用的な武器とはなり得ず、よほどの好事家でもなければ、遣い手もほとんどいない有様ではあったが。
ともあれ。
河童の技術力により454カスール弾と、麗亜の能力である『その場に留まる(留める)程度の能力』を融合させたこの『夢想封印弾』は、早い話が、先代『博麗の巫女』が得意とした弾幕攻撃『夢想封印』を、弾丸として放つ、といった様相のものであった。
その複雑怪奇なメカニズムはさておき、ふんだんに麗亜の霊力を蓄えた河童製特注品の弾丸は、命中さえすれば有無を言わせず魔を封じ、穢れを浄化する、まさに妖怪の天敵と形容するに相応しい性能を有していた。
並の妖怪なら、即封印。強力な妖怪でも、時間制限こそあれ、動きや能力を封じるには充分すぎるほどといった高性能。
それを五発も受けたフランドールが、普段通りの力を振るうなど、無理なのは道理。
彼女にとってこの拘束を自力で振り解くのは、ほぼ不可能な話であった。
「さぁ、お前を
「やっ……ヤダっ! 来ないでッ! 吸うのはいいけど、吸われるのはヤダぁ!」
もはや、勝敗は決した。
それでも、諦め悪く抵抗を続けるフランドール。
力を封じられ正気を取り戻したのか、彼女は無垢な少女のように、酷く怯えた様子で喚き散らす。
「刹那の快楽を、愉悦を、共に……」
にじり寄る敵。
迫る敗北、即ち『死』。
「……!」
フランドールは、増大する恐怖に表情を歪ませて。
自分の目の前で大きく開かれた、アーカードの口から目を背けることもできずに。
ただ、自分を待ち受ける結末に堪え切れず、思わず目をぎゅっと瞑った。
瞬間、響く轟音。
遠ざかる
「……!?」
にわかにその気配を消した、訪れるはずの終焉。
恐る恐る開かれたフランドールの瞳が映した光景は、彼女が予想だにしていないものだった。
地下室から館の天井までを突き破り、ぽっかりと空いた大穴と、その先の空に浮かぶ紅い月。
そして、一対の翼を携えた、小さくも大きな背中。
「おっ、お姉様……ッ!?」
「待たせたわね、フラン。それと……」
『お姉様』と呼ばれた、フランドールの目の前に佇む少女は、彼女の方を振り返ると優しく微笑み、そして。
部屋の隅に転がる一つの亡骸に、その視線を向けた。
「……ッ!」
ぐったりと、力無く血だまりに伏せるその姿は、見た目から、絶命していることがはっきりとわかる。
その骸は、少女が救援に、助けにくるはず
堪え切れない悲しみと怒りに、少女は微笑みを掻き消し、強く歯軋りを響かせる。
間に合わなかった。
自分がもっとしっかりしていれば。
自分にとっての大切なひとが一人ではないことを、早く思い出していれば。
それらの後悔を全て、怒りに変えて。
彼女は真っ直ぐに、目の前で蠢く巨大な影を睨み付けた。
「一撃で仕留めるつもりだったけど……私の
蠢動する不定形の影に鋭い眼光を向ける少女は、吐き捨てるように呟く。
「なるほど、本命は
その少女の呟きに呼応する形で、まるで地の底から這い上がるように、ぬらりと
少女の初撃によりその大部分を欠損したであろう彼の体は既に、五体満足の状態に回復していた。
「お姉様……アイツ、普通じゃないよ。気をつけて!」
「見ればわかるわよ、フラン。それにしてアナタ、随分と厄介な攻撃を受けたものね。博麗の封印式じゃない、それ」
フランドールの忠言を背に受け、少女は目の前の敵を見据えたまま、背中越しに彼女に言葉を返す。
「はくれい? それって、あの……」
「そう、間違いなく、
「でも……」
姉の言葉を受け、フランドールは何かを言いたげな、しかし、それを言葉にできないような、そんな複雑な表情を浮かべ、心苦しそうに言葉尻を濁した。
「大丈夫よ。それは時間が過ぎれば勝手に外れるし、それまでは、アナタは私が護るもの。それに……」
不安げなフランドールに優しく語り掛けるが早いか、少女は一瞬で部屋の片隅へと移動し、そこに横たわる骸を抱きかかえる。
今までの
少女はその感触をしばし噛み締めると、また一瞬でフランドールの目の前に戻り、彼女の隣の壁に亡骸をゆっくりともたれ掛けさせた。
「パチェも、ね」
それら一連の動作の中でも、少女は目の前で蠢く巨大な影と、
(パチェ、間に合わなくてごめんなさい。せめて、貴女の亡骸だけでも……)
「ふ、ハハ! ハハハハハ! いいぞ、実にいい! 面白い! さぁ、お前はどう私を愉しませてくれる、
少女のただならぬ殺気と様相に昂りを抑えきれなくなったアーカードは、彼女の感傷を遮り、声高に叫ぶ。
その興奮した様子のアーカードとは対照的に、冷めきった表情の少女は、儚い涙を浮かべる代わりに、敵の姿を深淵の瞳に映していた。
「
少女がぼそりと零すとともに、彼女の殺気がひときわ強くなる。
その反応に、アーカードはにやりと笑い、彼女に白銀の銃口を向けた。
「私と対峙した時点で、アナタの運命は既に敗北へと向かっている……」
「何が言いたい?」
銃口を向けられてなお、余裕を見せる少女の要領を得ない言葉に苛立ち、アーカードは怪訝そうな顔で問い掛ける。
「例えば……ほら、アナタの
「……ッ!?」
アーカードは、少女の言葉に誘われるように引き金を引くが、白銀の銃は鈍い音を立て、その撃鉄を止めた。
それが
「ほら、ね……紅符『スカーレットシュート』」
そして、今度はこちらの番、とでも言いたげに高く右手を掲げると、それを振り降ろすと同時にアーカードを指差し、宣言する。
「ぐ……オオ……!?」
瞬間、多数放たれた大きな妖力の弾丸が、中小様々な妖力の弾丸を伴い、連続でアーカードに襲い掛かる。
それらは容赦なく、彼の体を削り取っていった。
『運命を操る程度の能力』。
少女が持つ、字面だけでは理解困難なこの能力は、噛み砕いて言えば
または、
要するに、彼女は
かといって、いきなり望む
また、その能力は、引き寄せる事象が現実に起こり得る可能性が低ければ低いほど、実現に力を消費してしまうという欠点も孕んでいた。
しかし、それを差し引いても、万象一切をほぼ自在にコントロールできるこの能力が強力無比であることは、疑いようがない。
そして今、その能力は『彼女の勝利』という大目標の達成のために、
「名も知らぬ吸血鬼よ……永遠に明けない弾幕の夜を、悪夢の度に思い出せ。夜に怯え、名に怯え、世界を染める紅に怯えるがいい。私こそが、この『紅魔館』の主、レミリア・スカーレット! この幻想郷の夜を統べる、
レミリアは勝利への一歩を踏み出し、高らかに名乗りを上げる。
「レミリア……スカーレット!」
それを受け、絞り出すように敵の名を呟いたアーカードの体は、早くも欠損からの再生を終えていた。
「いい、夜ね……」
不意に、今まで睨み続けていた敵から目を逸らし、レミリアは天井の穴から空を仰ぎ見る。
それにつられて、アーカードもまた、同じく空を見上げた。
にわかに辺りに満ちる静謐。
「こんなに月も紅いから」
「こんなに月も紅いというのに」
細めた目に紅の月を映した二人は、互いに静謐を保つように、ただただ静かに零す。
そして。
「永い夜になりそうね」
「短い夜になりそうだ」
両者は同時に、穏やか、それでいて強い口調で、誰に聞かせるでもなく、言葉を空に投げ掛けた。
「さぁ、せいぜい私を
「クハハ! では参るとしようか……
簡単に会話を交わすと、二人はその体から殺気と妖気を滲ませ始める。
そして次の瞬間、二人の吸血鬼の姿がその場から消え、相克の幕が切って落とされた。
旦那VSフランちゃん、一応決着です。
次回、まさかのカリスマブレイク……?