【短編集】須賀京太郎、ここにあり 作:にしん
・鶴賀共学化
・モモと佳織の入部が原作より早い
俺がそいつと出会ったのは、鶴賀に入学したその日だった。
いや、出会ったというほどのものではない。普通に、隣の席の奴に「よう。俺、須賀京太郎。これからよろしく」と話しかけただけだ。俺からすれば、特別なところなんて何もない。隣の席だし、なかなかのおもちな女の子だったから話しかけてみたっていう、それだけのことだった。
だが、そいつ――モモにとっては、そうではなかったらしい。
一目で分かるくらいうろたえ、どもり、まともに返事をしてくれなかった。その時は『男子が苦手なのかな』くらいにしか思わず、「悪い、驚かせたか。まぁ、よろしく」とだけ言って会話(一方的だったが)を終えた。すぐに担任が入ってきたし、頭の中はこれからの高校生活でいっぱいだった。
彼女は出来るか、部活は何にしようか、そんなことを考えながら担任の言葉を聞いていた。
後で言われて知ったのだが、その時モモは俺のことをずっと見ていたらしい。モモの性質を考えるとそれも不思議ではないが、「せっかく私を見てくれる人と出会えたかもしれないのに、さっさと会話切り上げてアホ面でのんびりしてる京さんにちょっとイラッとしたっす」とまで言われたのは、少し心外だと思う。
まぁ、つまり。
『ステルス』東横桃子は、その日、俺に見つかったのだ。
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「……京さん。何度も言うっすけど、おっぱい見るなっす」
「何言ってんの? 見てないよ? ですよね、蒲原部長」
「え? うーん……ちょっと私にはわからないなー」
「ほら、部長も見てないって」
「私が! ステルスだから! 部長たちは気づけないだけっすよ! 山からツモる度におっぱいガン見される私の気持ちを考えてほしいっす!」
「おー、モモが見える。さっきまでステルスだったのになー」
「よっしゃあ! ステルスモモ敗れたり!」
「それでも京太郎がラスなのはたぶん変わらないけどなー」
「ですよねぇ……」
「見えてるのに無視されるのが一番心に来るっす……」
「す、すまん。あの、無視するつもりはなくて……」
「泣くなモモ。京太郎はバカなんだから広い心を持て。ワハハ」
「あの、須賀君のツモ番なんだけど……」
鶴賀に入学して二週間経った。中学ではずっとハンドボールをしていたが、俺はハンドボール部には入らなかった。モモから麻雀が趣味だと聞き、それならとモモを連れて麻雀部のドアを叩いたのだ。
卓を囲んでいるのは俺、モモ、いつもワハワハ言ってる蒲原部長、いつもうむうむ言ってる睦月先輩。あと二人、姐御オーラがすごい加治木先輩とおもちがすごい佳織先輩がいるが、今は外れている。
「須賀はどうしてああなんだろうな。妹尾、お前も被害者だろう?」
「まぁ……はい。加治木先輩もですよね」
「あれさえなければ好青年なんだがなぁ……」
モモは強かった。部に入ってからルールと役を覚え始めた俺ではまったく歯が立たなかった。加治木先輩や部長曰く、それでもモモが見える分、他の部員より俺は有利であるらしい。対局中の本気のステルスモモが見えるのは今のところ俺しかいない。加治木先輩や部長はなんとなくコツを掴んだと言って、普段の生活の中だったらそこそこ見つけられるようになっのだが。
「それロン! ざまぁみろっす!」
「トバされた……」
「狙い撃ちとは、モモも酷いな。ワハハ」
「京さんが悪いっすよ! 見るなってさっき言ったのに何回おっぱい見れば気が済むっすか! ああ、もう怒るの疲れた……」
そこにおもちがあるからさ……。ツモる度に揺れるってすごい。最初、モモは見た目から大人しい奴かと思ってたが、そんなことはなかった。表情はあまり変わらないが、言う時は言うし怒る時は怒る。今は怒ってる。てへ。
ちなみにだが、同時期に入部した素人の佳織先輩にも、俺は負け越している。むしろ得点収支で比べたら話にならないレベルで俺の負けだ。なんであの人ぽんぽん役満和了るんだろう……リアルだと俺は役満どころか倍満すら和了ったことないのに……。
「さて、須賀と蒲原は交代だな」
「おー。京太郎、準備しろー」
「うっす。でも、本当にいいんですか?」
卓から立ち、少し離れた所に置いてあるパソコンに向かう。電源を入れ、大手のネト麻サイトを開きつつ、隣に座った蒲原部長に問いかけた。
現在、鶴賀学園麻雀部はインハイの地区予選に向け、絶賛特訓中である。
俺がモモを連れて入部したことで団体出場に必要な五人が集まった。今まで人数が集まらず歯がゆい思いをしてきた先輩方……特に三年生の二人にとっては、最初で最後のインハイだ。正直、俺は素人の男子だし、地区予選もすぐそこだし、しばらく麻雀は出来ないと思っていた。意外と、しなきゃならない雑用は多いし、他校の対策を立てるにも人手がいる。人数が集まって、加治木先輩が大会に向けた今後の予定を話し始めた時、俺はそっちに回されると思っていた。
「何回同じ事を言わせるんだー? 京太郎が一番弱いんだぞ。そんな事言う暇あるなら勉強するんだなー」
「一人でも教本読んだりできますし……先輩たちが付いて教えてくれるのは嬉しいんですけど、悪い気がするんです。……先輩たちは最後の大会なのに、俺なんかに時間を使うのはもったいないですよ」
だが、言い渡されたのは他の部員と変わらない、普通の練習だった。
放課後になったら部内で数回打った後、CPU相手にパソコンで麻雀。蒲原部長か加治木先輩が他校の牌譜の整理や対策を練りつつ、俺に付いて指導をする。そんな内容だった。素人という事で、牌効率から河の読み方まで、じっくり教えて貰っている。特に加治木先輩も高校から麻雀を始めたらしく、状況に応じた打ち方を分かりやすく指導してくれる。
雑務の割り当てはそこそこあるが、先輩方にも振られていた。むしろ一年なのに少ないんじゃないか、とも思った。
「私とユミちんは三年生。後輩の指導は今年しかできなくて、それをしなかったら先輩失格だ。だいたい、再来年どうする気なんだ? モモはあれだから、むっきーいなくなったら部長は京太郎なんだぞ? へっぽこ部長じゃお前の後輩が可哀想じゃないか」
「部長……。俺、はじめ、改めて蒲原先輩が部長だってことを実感してます……!」
「今初めてって言いかけなかったか? ワハハ、泣かすぞ」
「しまった! つい本音が!」
「本音だったのかー」
「すんまっせん! 冗談です!」
「そうかー。ワハハ」
言葉ではふざけてみたが、少し、感動した。
加治木先輩が実務的な部分で部長の仕事をしているが、やっぱり部長は……麻雀部の芯となっているのは蒲原先輩だな、と。
「実は、入ったころ大会までは雑用しようと思ってたんですよ。一人だけ男子ですし。ほら、掃除とか買出しとか、牌譜の整理だったら俺でもできますし。自動卓担いだりとか。しばらくそういうのかなって」
「自動卓? 二人しかいない一年に全部やらせるわけないだろ。それに、素人の新入生にそんなことばっかりさせる奴がいたら鬼か悪魔だ。ワハハ」
いつもの様に、蒲原部長はニコニコと笑っている。お前も部員で、大事な仲間なんだぞ、と俺に言っているように聞こえて、少し恥ずかしかった。
……最初は、モモの付き添い程度の軽い気持ちだった。
自分を見てくれる人が一人いればそれでいい。モモがそんな事を言うのが悲しくて、半ば無理やり麻雀部に連れて行った。モモからすれば迷惑かもしれないが、まずは知り合いを増やすべきだと考え、興味を持っているならどこでもいいと麻雀部を選んだ。もし失敗したら辞めればいい。そう思っていた。
でも、今は違う。先輩たちの期待に応えたい。じゃなきゃ、最低なヤツになっちまう。それに……。
「モモ、どうした?」
「加治木先輩……私、京さんをどうしたらいいか、本気でわからないっす……なんでおっぱい見るっすか……」
「あー……須賀はちょっとアレな面があるが、男なんて大体あんなもんだぞ」
「そうなんっすか? えぇー……」
「うむ。桃子は見えにくいから、そういう視線を向けられなかったんだろう。ある意味幸運だったな……」
「そうだよ、桃子さん。嫌だけど、慣れなきゃやっていけないんだよ……」
「えぇー……」
雀卓に肘をついて頭を抱えているモモを、みんなが慰めている。理由が理由だけに素直に喜べないが、その光景は麻雀部に入らなければ存在しなかったものだ。もう、モモは世界に一人ぼっちじゃない。
俺のおかげだ、なんて言うつもりはないけれど。入部して、みんなと触れ合うようになって、モモは毎日楽しそうだ。その姿を見ていると、自然と頬が緩む。
……あと、ごめん、モモ。正直そこまで男に免疫ないと思ってなかった。おもちが悪いよ。あんなに素敵なんだもん。
「こら、京太郎。あれだけモモが悩んでるのにまーたおっぱい見てるのか。友達一号なんだろう。優しくしてやれ」
「……マジ、すんまっせん」
後でジュースでも奢って機嫌をとろう。モモはそういう『普通の友達』がするような事をすると、すごく喜ぶ。不幸な過去を好いように使っている気がして後ろめたくなるが、使えるものは使う主義だ。
そういえば。清澄に行った中学のぽんこつクラスメイトは高校で馴染めただろうか。
ふと、思い出した。
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「京さん京さん! 海っすよ!」
「そうだな……」
「え、どうしたんすか。テンションひっく……」
「だってさ……せっかく海に来たのに……泳げないじゃん……」
「そんなに泳ぐの好きなんすか?」
長野地区予選を目前に控え、我らが麻雀部一同は――蒲原部長に誘われて、海に来ていた。親睦会と新入生の歓迎と特訓の疲れを癒すため、だそうだ。
部長が免許を持っているのは驚いたが……それよりも運転が酷かった。死ぬかと思った。正直もう二度と乗りたくない……。モモはなんでこんなに元気なんだろう。今も俺の腕を引き、ぶんぶん振り回している。
「ワハハ。水着の女の子がいなくて残念そうだな」
「げっ。バレた」
「京太郎の考える事だからなー」
現在五月下旬。暖かくなったが、それでも泳ぐには早い。せっかくなら夏に来て、モモと佳織先輩のおもちを拝みたかった……!
蒲原部長がワハワハ言いながら砂浜に下りていき、佳織先輩と睦月先輩も着いていった。モモはまだ俺の隣にいて、唇を尖らせている。
「もー。ほんとそんなんばっかっすね。変態さん」
「面目ない」
モモと連れ立って砂浜に立つ。潮風が気持ちいい。気温も丁度いいくらいで、日向ぼっこするのもいいかもしれない。暑くなったら靴を脱いで波打ち際を歩けばきっと冷たくて気持ちいいだろう。
レジャーシートを広げ、各々の荷物を置く。とりあえず腰を下ろして何をしようか考えていると、部長が加治木先輩の腕を取りつつ、俺を見てにやりと笑った。
「京太郎、荷物番よろしく。後で交代するから。ほらユミちん、行くぞー」
「え? 蒲原、私はいいって。おい、引っ張るな!」
「了解です。モモ、お前も行ってくるか?」
「いえ。私も一緒に荷物番するっすよ」
部長たちに佳織先輩と睦月先輩も付いて行き、モモは俺の隣に座る。すぐ横に座られたので肩が少し触れた。ちらりと横を見ると、モモは薄く微笑んで海を眺めている。その横顔は綺麗で、少しドキドキした。こうしてじっくり見るのは初めてかもしれない。そう思うと緊張して喋りかけられなくなった。先輩たちは見えるところにいるが、少し遠いので声は聞こえない。モモも何も喋らないので、波の音だけが響いている。
まぁ、モモとは鶴賀に入ってからずっと一緒にいたから、気まずいとは思わないけど。
そのまま仰向けに寝転がる。波の音を聞きつつ空を眺めてぼんやりしていると、モモが振り返った。
「こういうのもいいっすね」
「ん? ああ、気持ちいいよな。心が落ち着くって言うか」
「そうじゃなくて……。ただ静かに、二人っきりで過ごすのも、ってことっすよ」
咄嗟に言葉が出なかった。
「ちょっと前まで、ずっと一人だったから。静かなのは嫌いだったっす。世界から本当に私がいなくなったように思えて。だから……友達ができたら、いろいろしようって思ってたっす。喋って、遊んで、騒いで……。でも、隣に誰かがいてくれるなら、静かなのも嫌じゃないなって。まぁ、そういうことっす」
そう言って、モモが俺を見つめてくる。
何を言えばいいかわからない。嬉しかったし、悲しかった。誤魔化すように「そうか」とだけ呟いて腕を目を覆った。モモが「なんすかー」と不満気に指で突いてくるが、空いてる方の手で適当に相手をする。
少しの間じゃれついていたら、指を掴まれ、そのままぎゅっと握られた。
「また夏に来ましょう。今度は泳いで、はしゃいで、騒がしく過ごしたいっす」
「……あぁ。夏になったら、また来よう」
「約束っすよ」
嬉しそうなモモの声。口元は隠せてないので、俺が笑っているのもバレているだろう。
繋いだままの指先が、とても熱く感じた。
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インターハイ長野地区予選から二週間が経った。
鶴賀は決勝まで行ったが、負けてしまった。対戦相手は昨年度優勝の龍門淵、強豪の風越、そして咲の行った清澄だった。
高校に入ってから連絡を取ってなかったので会場で咲と会ったときは驚いたが、それより麻雀の強さに驚いた。いつも本ばっかり読んでいて、大人しくて、小動物めいた咲からは想像できない姿だった。
清澄が優勝を決めた時は鶴賀が負けた悔しさと、咲が勝った嬉しさで複雑な気持ちで。その後会った咲もそわそわしてこちらを気遣っていたが、頭を全力で撫でてあうあう言わせてたらいつもの咲に戻った。全国でもがんばってほしい。
先週の個人戦でも、残念ながら鶴賀の面々は振るわず、俺たちの夏は終わった。俺は一日目の午後で予選落ちしてしまい、面倒を見てくれた部長たちに申し訳なかったが、二人とも笑って「よくやった」と褒めてくれた。午前で落ちなかっただけで十分らしい。嬉しかったが、悔しかった。来年はせめて本選に……いや、目指すなら全国優勝だ。
三年生の二人は引退し、新しい部長には睦月先輩が就いた。まだ数日しか経ってないので、「部長」と呼んでも反応してくれないのが少し面白い。現役部員が素人二人にステルス一人と、心労が増えそうな布陣だ。本人は「部長なんて柄じゃない」と頭を抱えてたし、先日清澄から四校合同合宿のお誘いが来た時も返事を書くのに苦労していた。
丁度、皆はその合宿に向かっている所だ。
もちろん俺は留守番である。女子ばっかりの合宿に付いていけるはずもない。少し残念だが、合宿所には元部長の車で行くと聞いた時、むしろ感謝した。俺はまだ死にたくない。皆は地獄の二丁目を曲がった頃かな。合掌。
ついさっき見送った先輩たちの無事を祈りつつ、振り返った。
「先輩たち、テンション高かったな」
「大会の後、打ち足りないって言ってたっすからね。お誘いが来た時、清澄にリベンジだ、わははーってノリノリだったっすよ」
モモも公道アトラクション回避組だ。家の用事があるらしい。一応後輩として先輩方を見送ろう、とモモが言い出した時は不思議に思ったが、これはこれで役得だった。
今日は休日なので、俺もモモも私服だ。モモの私服は初めて見たが……なんというか、可愛い。いつもの三倍くらい可愛く見える。それに少し胸元が広い服で、谷間がもう少しで見えそうだ。見たらまた怒られるので、なるべく見ないようにしているが……拷問だ。見たい、すっごく見たい。
空を見上げながら煩悩と戦っていると、モモが近づいてきてそのまま腕に抱きついてきた。驚いて固まってる間に柔らかい感触が腕を包み、がっちりと捕まえられる。
「ところで京さん。この後暇っすか?」
「あ、あぁ……暇だけど……」
「だったら、デートしませんか? 私の家、ここから近いんですよ」
モモは俺を見上げて、にっこりと笑っている。笑っている……のだが、なぜか睨まれているような迫力があった。って、今こいつ何て言った。
「え? 家? デート?」
「じゃ、行きましょう。こっちっすよ」
腕を抱かれているので抵抗も出来ず引っ張られるまま歩く。え? デートするの? 家に行くの? 本当に?
「お、おい、どういうこと?」
「安心してください。両親は外出中っす。夜まで帰ってこないっすよ」
「本当にどういうこと!?」
「うるさいっすね。すぐそこっすから、ちょっと黙っててください」
唇を尖らせて、不満気に腕を引っ張られる。「モモ? モモさん?」と話しかけても無視され、そのまま連行された。
「ここが私の家っす。さ、あがってください」
「マジなの……?」
「マジっす」
十分ほど歩き、普通の一軒家に案内された。ビクビクしながら家に入ると「私の部屋、二階なんで。先に行っててください」と言われ、さらにビクビクしながら階段を上がる。
『MOMO』と書いてあるプレートが掛けられた部屋があったので、たぶんここだろうと扉を開いた。咲以外の女の子の部屋に入るのは初めてだが……なんというか、すごくいい匂いがする。そのまま少し待っていると、モモがお盆を持って入ってきた。お盆にはコップが二つ乗っていて、たぶんお茶だろう茶色の液体が入っている。
「なんで立ってるんすか? 適当に座ってください」
「おう……」
テーブルの傍に胡坐を掻いて座ると、すぐ横にモモも腰を下ろす。近い。自然に腕を組まれ、手も繋がれた。しかも恋人繋ぎ。
まったく何がなんだかわからない。離れようとするとモモも付いてきて、すぐ距離を詰められる。笑顔で俺の肩に頭を寄せ、手に力を入れたり抜いたり、にぎにぎされる。
「驚いたっすか?」
「驚くなんてもんじゃねえよ……。急になんなの? 悪いもんでも食った?」
「うわ、それは傷つくっす。せっかく、私が勇気出したのに」
体を軽くぶつけられる。甘えるような、弱い衝撃だったが、柔らかい感触にさらに緊張する。口の中がからからに乾いてしまっている。
「まぁ、ここまで直接的なのは初めてっすからね。でも、今までもアピールしてたっすよ? スルーされてましたけど」
コップを取り、お茶を一口飲む。面白そうに俺を見るのは変わらず、モモは言葉を続ける。
「あ、おっぱい見たいなら見ていいっすよ。今日から解禁っす。でも、会話してる時は顔見てくださいね」
「……」
これって、たぶん……そういう事、なんだよな?
「触るのは……まだ、お預けっす。責任取ってくれるなら別にいいっすけど」
触っていいの!?
いやいや、そうじゃない。ここで調子に乗って「じゃあ」なんて言ったら最低すぎる。
「つまり……あの、モモは俺が……?」
「好きっす。大好きっす」
恥ずかしがる様子もなく、モモは言い切った。
今までの人生で告白されたことなんてなかったから、すごく嬉しい。モモは可愛いし、優しい。今まで意識しなかったと言えば嘘になる。でも、あまりにも急すぎて戸惑いの方が大きかった。
イエスか、ノーか。少し考えて、ノーと言う理由がなかった。友達としても、女の子としても、モモは好みの女の子だ。強いてあげるなら、まだ出会って二ヶ月という所が少し心配か? でも、そういうのに時間は関係ないってよく言うよな。
覚悟を決めて返事をしようと口を開き――それより早く、モモに遮られた。
「あ、返事はまだいいっす」
「……は?」
「これは宣戦布告っすから。京さんを口説き落としてみせるっていう……予告?」
「……どういう事なの、本当に……わけがわからん……」
頭を抱えながら、モモの言いたい事を整理する。えっと、モモは俺が好きで、告白したけど、返事はほしくない。……さっぱりわからん。というか、モモは俺のどこが好きなんだろう。もしかして、俺にステルスが効かないからか?
もしそうだったら……なんか、嫌だ。モモにとっては大事なことだっていうのは分かるけど、それだけで付き合うのは違う気がする。そう思っているのを察したのか、モモが顔を近づけてきた。
「別に、私を見失わない人だからって訳じゃないっすよ。もちろんそれも理由の一つだけど、私が惚れたのは、京さんの優しいところっす。私のために麻雀部に連れて行ったり、孤立しないように先輩たちとの間を取り持ったり。そういうとこが大好きっす」
「……そういうつもりは」
「私を連れて行く前に蒲原先輩と加治木先輩に相談してたり、他のクラスメイトにそれとなく私の存在を気づかせようとしたり、人混みの中で私が他人に押されないように気を遣ったり、そういうとこにきゅんきゅんくるっす」
「……あの」
「おっぱい見てにこにこするのもバカっぽいけど可愛いし、麻雀を打ってる時の横顔はキリッとしててかっこいいし、意外と筋肉あって男の子らしいとこが」
「もうやめて……恥ずかしい……」
「えー、まだ序の口っすよ?」
たぶん俺の顔は耳まで真っ赤になってるだろう。まともにモモの顔を見られない。感情をぶつけられるのがこんなに破壊力抜群だったとは。世の中のカップルはいつもこんなことしてんのか? すごすぎだろ……。
「でも、なんで返事はいらないんだ? その、別に口説き落とす、なんて言わなくても……」
直球で勝負に来ているのに、そこだけが不思議だ。普通、返事はすぐほしいものじゃないのか?
そう思って問いかけると、モモは薄く、寂しそうに笑った。
「……まだ、リンシャンさんに勝ってないっすから」
「……咲に?」
……どうして、ここで咲の名前が出てくるんだ?
地区予選の時皆に咲を紹介したから、俺と咲がただの幼馴染だっていうのは分かっているはずだ。元カノなんじゃないかー、なんてからかわれたけど、俺も咲も否定した。
「たぶん、リンシャンさんも京さんの事が好きっす。自覚はしてないかもしれないっすけど。中学時代、一緒にいて、面倒を見てたんすよね? だったら普通惚れるっす。惚れない訳ないっす」
そこ断言する所なのか?
「大会の時、私が京さんに甘えてたらむっとしてたんで間違いないっすよ。……京さんを渡す気はないけど、ズルはしたくないっす。正々堂々と、自分のものにしたいっす。だから、リンシャンさんに『私に告白された』って伝えてください。そしたら私とリンシャンさんの勝負開始っす」
「……ちょっと、何言ってるかわかんねぇ。モモはそれでいいのか?」
「いいっす。これから全力で京さんを落としますから。おっぱい解禁も、おうちデートも、そのためっす」
たぶん、咲の事は勘違いだと思うんだが……。今ここで返事をしても、受け入れてくれそうにない。それほどの決意が伝わってきた。どうすればいいんだろうか。落とすと言われたが、既に落とされてると思う。返事はいつするべきなんだ?
いろいろと気になる所はあるが、嫌じゃなかった。何かを企んでそうな、ちょっと悪い顔をしているモモが可愛くて、咲の事が勘違いだと分かるまではそれを楽しんでもいいんじゃないか、なんて事も考えてしまったが。
「同じ学校というアドバンテージに、おっぱい大好きな京さんも満足できる私のスタイル、そして私の性質を無視できない京さんの優しさ。全部私の味方っす。絶対、絶対負けません」
耳元で、ささやくように宣言するモモ。
どういうふうに口説かれるんだろうという期待に、胸が高鳴って。
「ここからは、ステルスモモの独壇場っすよ」
これからは、モモから目を離せないな、と思った。
おまけ
「……」
「咲ちゃん、どうしたんだじょ? なんか元気ないじぇ」
「昨日、京ちゃんから電話があって……東横さんに告白されたんだって」
「……まじ!?」
「地区予選の時に会った、幼馴染さんですよね。彼が……?」
「うん。それで、その……」」
(やっぱり咲ちゃんあいつのことが……?)
(ずいぶん仲が良さそうでしたから、もしかしたら……)
「大丈夫かな……胸ばっかり見てフられちゃったりしないかな……って心配で……」
「「…………えっ」」
京モモ書いてたらいつの間にか京久に化けてたり、ならばと鶴賀にぶち込んだらワハハさんとイチャつき始めたりしたけど、私は元気です。
咲ちゃんが咲さんになってモモをゴッ倒す別ルートはありません。
モモは積極的に落としにくるタイプ。ロックオンしたら逃がさない。ちょっと愛が重そう。
地区予選とかいろいろキンクリしましたが、ワハハさんがどうしても出てきたので割愛。
(いつか咲と他ヒロインの修羅場が書きたい)
今後の予定(これを書くとは言ってない)
・アルティメット京ちゃん(清澄+麻雀)
・もし京太郎の京ちゃんが強ちゃんだったら(ハーレム+エロネタ)
・宮守で幼馴染もの(塞シロ胡桃)
・京久
・咲ちゃんが中二病を患っていた話
・ちょろいアコチャー