【短編集】須賀京太郎、ここにあり 作:にしん
「京ちゃん、世界で一番大切なものって分かる?」
「……さぁ? 何?」
「すぐ聞かないで、少しは考えて」
「えっと……金? 命?」
「はぁ……分かってないなぁ。それはね、とっても素敵で、とっても暖かくて、何よりも強いの。世界で一番尊いものなの」
「……で?」
「愛じゃよ、京ちゃん。愛じゃ」
「…………」
「……ふふん」
「また本からパクったのか。お前、気に入ったのすぐ言いに来るのやめろよ」
「なんで。いい言葉じゃん。文句あるの!?」
「ないけど……」
「死の呪文すら跳ね返す最強の守りなんだよ!?」
「いや、魔法なんてないし」
「そういう事言う!? 今そういう話してるんじゃないの!」
「お、おう……。あれ、それって映画になってなかったっけ」
「なってるよ。でも、最終巻まで読んでから観ようと思って」
「ふーん」
「……興味ないね。京ちゃんはもうちょっと、本とか読もうよ。マンガしか読まないじゃん。ファンタジーだったらマンガっぽいし、ライトノベルとかは難しくないからおすすめだよ。何か貸してあげようか? あ、さっきの言葉の本とか」
「え、いいよ」
「なんでそこで断るの? おすすめだよ? 面白いよ?」
「いやほら……どうせ読まないし……」
「えー……。じゃあ、私が最終巻まで読んだらさ、一緒に映画観ようよ。ビデオ屋さんで借りて」
「おっ、それならいいぜ。ポップコーンとかポテチとか買ってさ」
「そうそう。プチ映画パーティーだよ」
「おー、楽しみにしてる。早く最後まで読めよ」
「言われなくても読むよ。っていうかなんで自慢げなのさ」
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「京ちゃん。フィボナッチ数列って知ってる?」
「知らん。数学?」
「うん。前の二つの数の和が次の数になるっていう……」
「もうちょっとわかりやすく」
「1・1・2・3・5・8・13、みたいな感じで続いてく数の事だよ。ほら、足したら次のになるでしょ?」
「おお、そうだな。……で?」
「実はこれがね、自然界の中にもいっぱいあるの。花びらの数とか、ヒマワリのあの螺旋の数もフィボナッチ数なんだって」
「へー。で?」
「ううん。それだけ。私もよくわかんない」
「だよな。お前、理系苦手だもんな。その代わり文系っていうか、国語がすごいけど。やっぱ本読むからか?」
「たぶん。私、国語で悩んだ事ないよ。あ、古文とか漢文は除いて」
「すげぇな」
「でしょ? もっと褒めていいよ。日本のダ・ヴィンチって呼んで」
「その人画家じゃなかったっけ」
「なんか、研究とかしてて、すごいらしいよ。よくわかんないけど」
「ふーん」
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「あれ、お前がリングつけるなんて珍しいな。……って、去年俺がやった奴じゃん」
「たまには着けようかなって。学校には着けていけないし、休みの日しか出来ないおしゃれだよ」
「お前がおしゃれとか言うと違和感やべぇな……なんか変なものでも食ったか?」
「えぇ……。私だって女の子なんだよ?」
「そうだけど……俺がプレゼントした時、全然着けなかったじゃん」
「京ちゃんだって、今は全然着けないじゃん。中二の頃は無駄に『シルバーかっけー!』とか言ってたのに」
「そりゃ、なぁ?」
「クラスの子に『ヤンキーみたい』って言われたの気にしてるの? 確かにすごくチャラかったし一緒に歩くのは遠慮したいけど、似合ってない訳じゃなかったよ」
「すっげぇ貶してんじゃん」
「まぁ、そんなだから私が着けてあげようかなって。どう?」
「ん、似合ってるぞ。なんせ俺が選んだからな」
「その自信はよく分からないけど。センスはいいと思うよ」
「だろ?」
「うん。あとさ」
「ん?」
「私、消えてたりしないかな」
「は?」
「こう、透明人間的な」
「……あ、なるほど。この前観た映画か? でもマントなんてねぇじゃん」
「違うよ! このリングだよ!」
「……わかんねぇ。何?」
「なんか幽霊みたいなのが追ってくるの。あと目玉」
「うん。腹減ったしどっかでメシ食おうぜ」
「ちょっと、無視しないでよ」
「ラーメンとか嫌か? ハンバーガーとか、こう、ガッツリ食いたいんだけど」
「別にラーメンでもいいよ。そうじゃなくて、ほら。このリングみて『愛しい人……』みたいな気持ちが湧き上がってこない? 少し古いけど、有名なファンタジーでさ、今のファンタジーの」
「よっしゃ。この前ダチが旨いとこ見つけたって言ってたから、そこ行くか」
「京ちゃん! 置いてかないでよ!」
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「京ちゃん、来週大会だよね?」
「おう」
「最後の大会だし、応援行くよ」
「別にいいって。県予選だし」
「まぁまぁ。それでさ、一つ質問なんだけど。野球だったら、甲子園とかじゃない? ハンドボールって全国大会どこでするの?」
「あぁ、決まってないんだよ。関西とか関東とか年ごとに違うっていうか」
「へー。じゃあ、あれ言えないね。あれ」
「あれ?」
「私を甲子園に連れてって。とか」
「あー、言えないな。全国に連れてって、なら言えるけど。でも、お前がマンガの話するの珍しいな」
「この前、テレビでやってたよ」
「なんだ映画か。観てないな」
「録画してるけど、うち来る?」
「いや、大会あるし。終わったら行くかも」
「うん。でも、正直あんまり面白くは……」
「観る前からそういうのやめろよ。面白くないと思って観ると全部つまらなく感じるだろ」
「あ、でもヒロインは可愛かったよ」
「おもちは?」
「黙って」
「はい」
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「あのさ、もし、もしもの話だけど」
「うん」
「私が事故にあって、指一本しか動かせなくなったらさ」
「うん?」
「私の代わりに、事件を解決してくれる……?」
「うん」
「そっか」
「うん」
「あのね、安楽椅子探偵っていうのは昔からよくあるものなんだけど、この本はちょっと違ってね」
「うん」
「動かないんじゃなくて、動けないの。でも、一本だけ動く指で部下に指示を出して、犯罪の証拠を集めて、事件を解決するの」
「へー」
「本人の推理力だけじゃなくて、物的証拠を重視するのも特徴かな。昔の有名作品もいいけど、最近のベストセラーもなかなかだよね」
「そうだな」
「それに推理小説は『トリックを思いつく力』と同じくらい『トリックで読者を魅せる』力も必要だからね。何回も使われたトリックでも『ああ、そんな!』って感心するような、歴史の積み重ねを使ってストーリーを作るのも推理小説だからね」
「ふーん。あのさ」
「うん」
「今映画観てるんだからちょっと黙れよ」
「ごめん……昨日ハマっちゃって……」
「後で聞いてやるから」
「ありがと」
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「っていう事が中学時代、よくありまして。こいつ、本とかにすぐ影響されるんですよね」
「もう、京ちゃん……そういう恥ずかしい事バラすのやめてよ」
(色々聞いたけど……)
(こいつら……)
(イチャついてるようにしか)
(聞こえなかったじぇ……)
10/27は咲ちゃんの誕生日!
何か書かなきゃいけないという使命感に駆られたんですが、気付くのが遅すぎました。
宮守の続きはもうちょっと待って……待ってクレメンス……