インフィニット・ストラトス〜月夜に駆ける黒狼〜   作:ツンツン

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第球話 畏れ

『まったく、逃げることしか出来ないなんてさすがは鈴さんと同じクラスになるだけありますわね?』

 

モニターでは千冬の命令通り、鈴を使った挑発をするセシリアが映っていた。

 

「…あれは挑発してるだけ…挑発してるだけ…挑発してるだけ…」

 

鈴は自分に言い聞かせるようにブツブツ呟く。

 

『だいたい鈴さんは女性としてまだまだ発展途上ですわ!』

 

「…あれは絶対胸のことなんかじゃない…胸ことなんかじゃない…」

 

鈴の目には生気が感じられない。

 

『まあ、あの胸を見れば一目瞭然ですけれど』

 

ープッツンー

 

そんな音が聞こえた瞬間、

 

「よし、殺そう…」

 

鈴がスタスタとアリーナに向かって歩きだす。いち早くそれに気付いた箒達が鈴の体を抑えるように止めに入る。

 

「鈴!あれはセシリアの本心から出た言葉ではない!」

 

「そうだよ!セシリアはしょうがなく言ってるだけだって」

 

「セシリアのことを信じてみようではないか!?」

 

「う〜」

 

三人にフォローされ、なんとか落ち着いていった鈴だったが、

 

「人ってね〜咄嗟に嘘つく時は大なり小なり内に秘めてることを口にしちゃうっていう傾向があるんだよ。だからもしかしたら今の金髪の発言は本心かもしれないよ〜?」

 

束ロボからそれを聞いた瞬間、鈴の中でまたふつふつと怒りが込み上げてくる。だが、箒達に体を抑えられているので動かすことができない。

 

「ああ、もうこうなったら洸輝!!セシリアをギッタンギッタンのボコボコにしなさーーい!!」

 

鈴は洸輝に聞こえるはずもない命令を叫ぶ。

 

「無茶言うなって、だいたい聞こえてないだろう…」

 

「うぐぐぐ」

 

呆れ顔で一夏が鈴をなだめるが鈴はまだ怒りが収まらない。だが、

 

「お前らいつまで遊んでいる」

 

その声でその場の全員が千冬を見る。

 

「べ、別に遊んでるわけじゃあ…」

 

いつもの出席簿アタックが飛んでくるのでは?とヒヤヒヤした一夏だったがそれが飛んでくることはなかった。

 

「なら試合に集中しろ、お前らが遊んでいる間に状況は変わったぞ」

 

一夏達がモニターに視線を戻すと洸輝が怒りに満ちた表情でセシリアを睨んでいた。

 

『ツブス!!』

 

そう言い放った洸輝は黒い物体に球状に包まれた。

いきなりの出来事に鈴の怒りはどこかに消え、モニターを凝視していた。

 

「あの黒いのは一体…」

 

「わからん…が、ようやく試合開始だな」

 

 

 

 

「ファーストシフトですわね。けれどあの黒いのは一体…」

 

セシリアは以前の対一夏戦のように向こうの機体はまだ初期設定であることは分かっていた。なので、あえてトドメは刺さずファーストシフトしてから即片付けるというつもりでいたのだが、予想以上の洸輝の動きに予定が狂っていた。

 

「(まあ、とにかくあれがなんであれここからは本気でやらせていただきますわ!)」

 

セシリアはライフルを構え直し、黒い何かに包まれた洸輝に標準を合わせる。

 

ーバリッー

 

洸輝を包んでいた黒い何かが消え、ファーストシフトを終えた黒雷を纏った洸輝が出てくる。先ほどとは違い、黒雷の姿はより鋭く、且つさらに深い黒になり、所々に黄色のラインが入っている。どこか獣を思わせる雰囲気であった。

 

「どうやらファーストシフトは済んだようですわね。それではわたくしもそろそろ本気で…」

 

ービュッー

 

セシリアが言い終わらないうちに洸輝は黒いナイフ型の装備『無暗』を投げつける。セシリアは驚くもそれを辛うじて避ける。

 

「ひゃっ!?ちょっと!まだわたくしが話して…」

 

「お前の戯言なんて聞きたきゃねぇよ!!」

 

そう叫んだ洸輝は二対の黒い刀型装備の『黒月』を展開し、セシリアにイグニッションブーストをして突っ込む。

 

「(これはイグニッションブースト!?素人ができるようなものでは…しかし仮にイグニッションブーストだとしてもこの技は直線的な動きしか出来ないはず!落ち着いて対処すれば!)」

 

そう思ったセシリアはスターライトMKⅡを構え、引き金を引く。黒雷の防御力を考えるとまともに当たれば大幅にエネルギーを削るはずだった(・・・・・)

セシリアが放ったエネルギー弾は洸輝に当たることなく後ろのアリーナのシールドに当たった。

 

「なっ!?」

 

驚きを隠せないセシリアは後ろに回り込まれた洸輝に反応が遅れてしまう。

 

ーズドッ!ー

 

「ぐっ!」

 

洸輝の横一閃の攻撃を左腕に喰らう。だが瞬時に態勢を立て直し距離をとる。

 

「(狙いは完璧だったはずなのにどうして!?)」

 

黒雷はエネルギー弾が当たる前に真横にイグニッションブーストを行っていた。本来ならイグニッションブーストをしてから軌道を変えたりすれば機体に負荷が掛かり最悪骨折なんてこともある。さらに言えば洸輝がしたような真横にもイグニッションブーストを行うなんて動きはできるはずもない。

 

「(さっきの動きがあのISの兵器能力なのかは分かりませんが、あれは恐らく一夏さんと同じ近接型!これ以上近づけさせないようにしてブルーティアーズで削っていけば勝てる!!)」

 

そう考えたセシリアはビットに命令を送り、ビットが動かす。だがその瞬間、4つのビットの内2つが爆発した。

 

「きゃっ!?な、なにが!?」

 

「お前はビットに命令を送る時必ず動きが悪くなる。おそらくかなりの集中が必要なんだろ?それが分かっていればビットがいつ動くのかが手に取るように分かりるし破壊も簡単だ」

 

そう言った洸輝の手には先ほど持ったいた『黒月』が消えていた。

 

「簡単って、そんな口で言うほど簡単なことではないはずですわ!わたくしに悟られないように武器を投げるなんて!?」

 

「気付かなかったのは単にお前が俺に集中してなかったからだ。それよりいいのか?おしゃべりなんかしてて?俺は攻撃の手を緩めるつもりはないぞ?」

 

そして洸輝はまたしてもイグニッションブーストでセシリアに突っ込む。

 

「くっ!今度こそ!」

 

セシリアもスターライトMKⅡを構え、エネルギー弾を放つ。が、先ほどと同じように躱され、後ろに回り込まれる。しかし、

 

「先ほどと同じだとお思いになって!?」

 

そう叫んだセシリアは瞬時に後ろを向き、スカート状になっているアーマーを動かし、ミサイルを発射させる。

 

「そりゃー、一個や二個ぐらいは接近された時ようの装備は持ってるよなー!!」

 

洸輝は驚いた様子もなくそのまま突っ込み、ミサイルに当たる寸前にピタッと止まりそのまま後ろに一回転するとミサイルは洸輝の顔面すれすれのところを通り抜けて行き、またもアリーナのシールドで爆発した。

 

「なんてむちゃくちゃな動きを!?」

 

「どうした?もう終わりか?まだ隠し玉があるなら出してみろよ」

 

余裕の態度を見せる洸輝。

 

「ぐぐぐ、あまり調子に乗らないでくださいまし!」

 

セシリアは残った二つのビットを操り、洸輝にビームを放つ。

 

「何度やったて同じだよ」

 

スゥッと横に逸れただけの洸輝の横をビームが通り抜ける。

 

「いいえ、同じではありませんわ!」

 

セシリアは指を宙に滑らせる。すると、ビームはグニャリと曲がって、完全に洸輝の死角から襲いかかる。ブルー・ティアーズの精神感応制御こと『偏向射撃』だ。

 

「(今度こそもらいましたわ!!)」

 

セシリアは、迫るビームの方を振り返らない洸輝を見て、そう思った。だが洸輝は後ろを振り返ることなく真下へイグニッションブーストをすることでビームから逃れる。

 

「ま、また…」

 

完全に死角をついたと思っていたのにも関わらず避けられ、ショックでそれ以上言葉が続かった。そこに洸輝がセシリアを見上げながら話しかける。

 

「残念だったな」

 

それだけ言うと洸輝はトンファーの先に大剣が合わせたようなこれまた黒い二対型の装備『狼牙』展開する。

 

「今度はこっちの番…だ!!」

 

言い切る前に洸輝は今までで最速のイグニッションブーストでセシリアに迫り、斬りかかる。

 

ーガッ!!ー

 

「ぐふぅっ!?」

 

まともに洸輝の斬撃がセシリアの腹を捉え、シールドエネルギーを大きく削る。それでもセシリアはなんとか反撃しようと洸輝の抜けていった方に標準を素早く合わせる。が、そこに洸輝の姿はなく、今度は下から、次は斜め上から、そして次々とあらゆる方向からの斬撃を喰らい、セシリアはまともに動くこともできなくなり、攻撃を受け続けた。最後に真上からのかかと落としが決まったところで地面に吹き飛ばされたセシリアのシールドエネルギーは0になった。

 

『ブー!!勝者大神洸輝!!』

 

「そ、そんな…わたくしの…負け?」

 

放心状態のセシリアを洸輝は上空から冷めた目で見下ろしていた。

 

 

 

「…本当に洸輝が勝っちゃった…」

 

勝てるわけがないと思っていた鈴は今のこの状況に驚いていた。

 

「いやー、コウくんは本当に期待通りの活躍を見せてくれたね〜」

 

ロボからでも分かるぐらい束の声は上機嫌であった。そこに千冬が質問する。

 

「あれがお前の言ってたシステムか?」

 

「そうそう、名付けて『重力制御(グラビティロール)システム』だよ〜、このシステムを使えば360°あらゆる方向に完全停止からトップスピードのイグニッションブーストをすることが出来るし、逆にトップスピードのイグニッションブーストからの瞬時に完全停止状態に戻すことだって出来るのだ〜ブイブイ」

 

束ロボは変なとこから出てる手みたいなアームでピースする。

 

「しかし、そんな動きをすれば体にかかるGが相当なものに…」

 

箒がそんな疑問を浮かべるが束が即答する。

 

「それを緩和するために色々詰め込んで防御力が下がっちゃったんだよ〜、けどまぁ、機動力と最高速度は紅椿を凌ぐほどだから問題無いよね!」

 

「あの紅椿よりも速くなんのかよ、すげーな」

 

「えへへへ、いっくんもっと褒めて褒めて〜」

 

素直に驚く一夏の周りをグルングルンと回る束ロボに一夏も苦笑いを浮かべる。そんな姿を尻目にシャルロットとラウラはモニターを見つめていた。

 

「ねぇラウラ?洸輝はなんでジッとしてるのかな?試合は終わったんだから戻ってくるはずなのに」

 

そんな疑問をラウラに聞くとラウラは少し考えてから答える。

 

「わからん、だが、なんだか獣が狙いを定めている時のような…そんな姿にも見える」

 

そうラウラが言った矢先、洸輝は放心状態のセシリアに向かって突っ込む。

 

「洸輝っ!?」

 

突っ込んでいく洸輝を見て、鈴が叫ぶ。

 

 

 

「へっ?」

 

セシリアが洸輝に気付いた時はもう自力で避けることも防ぐことも出来ないとこまで接近されており、どうしたらいいか分からなくなっていた。

 

「ご、ごめんなさい!!!!」

 

何に対してなのか自身でも理解できなかったがセシリアは謝罪の言葉を叫ぶ。すると洸輝の攻撃がセシリアの目と鼻の先で止まった。

 

「ととっ!危ねぇ、これもう終わってんのか!」

 

洸輝はすぐにセシリアに向けられていた『狼牙』を収納する。

 

「わりぃ、わりぃ終わってんの気付かんかった、怪我はないか?」

 

セシリアを心配する洸輝の顔は先ほどの敵意向きだしの表情がなくなり、いつも通りの穏やかな表情に戻っていた。それでも、先ほどまで凄まじい殺気を浴びせられていた為か、セシリアはビクビクと怯えてしまう。

 

「だ、だ、大丈夫ですから先に戻っていてください!!」

 

「え?けど顔色悪いし…」

 

「いいですから!!早くあっちに行ってください!!」

 

「あ、ああ、じゃあ先に戻ってるからな?」

 

そう言って洸輝は先にピットへと向かう。セシリアはその場で立つことも出来ず、後に一夏がお姫様だっこするまで震えていた。

洸輝はというと『もう少しでセシリアに大怪我をさせることになっていたかもしれない』という理由で千冬の出席簿アタックをもらい、悶絶することとなった。

 

 

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