インフィニット・ストラトス〜月夜に駆ける黒狼〜 作:ツンツン
セシリアと洸輝の戦いは20分が経過していた。
「うわー、やっぱセシリアはすごいな、洸輝はずっと防戦一方だし」
モニターを見上げる一夏がそう漏らすが、
「馬鹿者が、お前は何を見ているんだ?」
千冬はモニターを見上げたまま一夏に言う。
「え?」
「一夏、洸輝は最初の一撃しか当てられてないよ?」
「!!?」
一夏はシャルロットに言われるまで気づかなかったが、確かに洸輝は最初の一撃以外の攻撃をもらっていなかった。一夏が初めてブルーティアーズを操るセシリアと対戦した時、セシリアが死角を突いて攻撃してくることに気付くまでかなり攻撃をもらったし、例え知っていたとしても全部を避けるなんて今の一夏でも不可能だ。それをやってのけている洸輝に一夏はただただ驚いていた。
「(一体どうなってますの!?)」
セシリアは焦っていた。先制攻撃は成功したものの、その一発しか当てられてなかった。洸輝が攻撃せず、回避に専念しているからというのもあるだろうが、それでもここまで完璧に避けられるのは予想外であった。
「(わたくしの攻撃を初見でここまで完璧に回避するなんて、一体あの方は何者ですの!?)」
セシリアは洸輝を睨む。当の本人は、
「うおぉ、ちょ、いいかげん、攻撃止めてー!」
と、切羽詰まった状態に見える。だが、やはり攻撃を全て避けられているセシリアからすれば、逆に余裕の姿にも見える。
「あー!もう!あなた、さっきから逃げてばっかで戦う気がありませんの!?まるでゴキブリを相手にしているようですわ!!」
怒りを露わにするセシリア、
「いや〜、そんな褒めるなよ〜、ゴキブリほどの俊敏さと生命力は持ち合わせてないって〜」
皮肉を言ったつもりだったがモノともせずさらりと流す洸輝にさらに怒りが増す。
「本当に気持ち悪い方ですわね!!」
「う〜〜ん、こうくんそろそろ真面目にやってくれないか〜」
つまらなそうにしている束の声がロボットから聞こえる
「『真面目にって』、洸輝は回避に専念しているからここまで避け続けることができているのではないのですか?」
質問した箒だけではなく専用機持ちは皆そう思っていたらしく、束ロボの方を見る。
「いや、明らかに反撃のタイミングを理解した上でそれをしていない」
束の変わりに千冬が答える。
「だよね〜だよね〜」
一体何を判断基準にしているのかはわからないが、二人の意見は一致していた。
「おそらく、女に攻撃するということに抵抗があるといったものだろう。まったく、これでは模擬戦にならん」
「それではどうします?中止にしますか?」
モニターを操作している真耶が千冬に確認する。
「いや、大神にやる気を出させるためにセシリアに挑発させる」
「え、でもさっきゴキブリ扱いされても平然としてましたよ?」
「ああいうタイプは自分のことをとやかく言われても流すだけだ」
「ではどうしたら?」
「セシリアにプライベートチャンネルを」
「は、はい!」
あれからまだ攻撃し続けているが当てられていないセシリアにプライベートチャンネルが開かれる。
「セシリア」
『は、はい!?』
いきなり千冬の声が聞こえたことに驚いたのか、セシリアの変に高い声がモニターから聞こえる。
「今から大神を挑発しろ。ただあいつは一筋縄ではいかないので今から言う方法でやれ」
『は、はぁ』
何故挑発などしなければならないのか分からなかったが千冬には逆らえないのでとりあえず承諾する。
「挑発するに当たって凰を罵倒しろ」
『え、はい?なぜあの方を挑発するのに鈴さんを罵倒しなくてはならないのですか!?』
余計に理解できなくなった上に鈴に対してそんなことしたくない思いがあり、千冬に食い下がる。
「いいからやれ、命令だ」
それでも千冬は強気にセシリアに強要する。
「え?え?」
鈴も何故自分がセシリアに罵倒されなければならないのか理解出来ず、混乱していた。
「わ、わかりました」
結局セシリアは承諾してしまった。
「織斑先生!何故洸輝を挑発するのにアタシが罵倒されなくちゃいけないんですか!?」
混乱していた鈴が千冬に確認する。
「ああいうのは自分のせいで誰かが傷付くことが許せないと感じるタイプだ、だから洸輝がこの学校に来てから一番一緒にいるお前のことを罵倒することであいつを挑発する」
「で、でも…」
「なんだ?私に文句があるのか?」
「ううう、理不尽だ」
反論しようとした鈴だったが、千冬には逆らえず受け入れるしかなかった。
「そ、そんな落ちこむなった、セシリアだってそこまできついことは言わないって」
フォローする一夏だったが、
「そう願いたいわね」
鈴は嫌な予感を感じていた。
「(はぁ、あまり気が進みませんけれど、織斑先生に逆らうことも出来ませんし……鈴さんに後でお詫びしませんといけませんわね)」
そう思いながら鈴のことを罵倒する文句を考える。
区切りのいいとこで攻撃を止め、口を開く。
「まったく、逃げることしか出来ないなんてさすがは鈴さんと同じクラスになるだけはありますわね?」
「あぁ?」
今まですました顔をしていた洸輝が初めて不快な表情を見せる。セシリアはそれを見て手応えを感じた。
「だってそうではなくて?鈴さんがクラス代表になれるくらいのレベルなのですから2組なんてたいしたことありませんわ」
セシリアは洸輝に対してのうっぷんを鈴を罵倒することで発散しているようだ。
「………」
洸輝は何も言わず、セシリアに表情が見えないように俯く。
「だいたい鈴さんは女性としてまだまだ発展途上ですわ!まあ、あの胸を見れば一目瞭然ですけれど」
「………」
「あれでは同じ女性として恥ずかし…」
微動だにしない洸輝に追い打ちをかけようとする。が、
「おい」
声を張ったわけではないのだが妙に圧のかかった洸輝の声で止められる。
「!…なんでございましょう?」
一瞬驚いたセシリアだったが平静を装う。
「今、鈴や二組のやつらのことは関係ねぇだろ、謝れよ」
「違うというのなら証明して見せてくださいな?(本当に挑発に乗りましたわね…)」
最初は半信半疑だったセシリアだったが、今明らかに怒っているだろう洸輝に素直に驚く。
「…そうか…わかった…それなら」
ゆっくりと顔を上げた洸輝は凄まじい殺気を放ち、セシリアを睨みつける。
「ツブス!!」
そう言い放った洸輝は黒い物体に球状に包まれた。