転入手続きの翌日、俺は朝早くから生徒会室に来ていた。絢瀬さんと東條さん以外の生徒会メンバーに挨拶するためだ。
「初めまして。今日から生徒会に入る事になりました天原真人です。すでにお聞きかと思いますが、音ノ木坂共学化のテスト生して来ました。生徒会業務は初めてなので至らないところもあるかと思いますが、どうぞよろしく」
挨拶が終わると、生徒会の皆から拍手が送られる。いやぁ、女の子しかいない状況で喋るのって初めてだったから緊張で死ぬかと思ったぞ。
その後、他の人から軽い自己紹介があり、朝の生徒会は解散となった。他の役員が帰った後、絵里から話しかけられた。
「あなたには書記の方を担当してもらおうと思っています。分からない事があったらどんどん聞いて」
「わかった。改めてよろしくな、絢瀬さん」
などと話していると、横から東條さんが、
「なあなあ、その絢瀬さんとか東條さんって他人行儀な呼び方やめへん?これから一緒に仕事していくんやし、ウチの事は希でええから」
と言ってきた。
「いやいや、まだ会って2日だぞ?流石に名前呼びは早いだろ」
「ええからええから」
なんか強情だなぁ。これ以上反論しても無駄だと思ったので、素直に従う事にした。
「よろしくな、の、希…」
「うん、こちらこそよろしく、真人君」
…なんだろう、この何とも言えない気恥ずかしさは。やっぱりほとんど初対面の人を名前呼びするのって抵抗あるな。すると絢瀬さんが、
「私の事も名前呼びでいいわ。よろしくね、真人」
と言った。まあ、希だけ名前呼びってのもおかしいしな。
「わかったよ。よろしく、絵里。っと、そろそろ時間か。この後全校集会があるんだったな」
「ええ。そこで廃校についての説明と、真人の転入についての説明がされるわ」
そう言った後の絵里の表情は、なんだかとても悔しそうだった。
その後準備を終え、全校集会が始まった。廃校の知らせをされた時の皆の表情は、悲しそうだったり、寂しそうだったり、暗い雰囲気が漂っていた。そこから、この学院がとても愛されていたんだなと思い、同時にそれがなくなるということに胸が痛くなった。その後の俺の話は、まあさっきしたような挨拶をしただけなので割愛させて頂く。決して恥ずかしいとかそんなんではない。決してだ。
そこからクラスで自己紹介を済ませ、クラスメートからの質問の嵐をなんとかやり過ごした昼休み、俺はある人物達に中庭に呼び出されていた。
「真人、これはどういうことですか?」
「どうもこうも、朝説明あったろ」
「そういう事を聞いているのではありません!どうして私たちに何も言ってくれなかったんですか!」
「それを言っちまったら、俺が何のためこの学院に来るんだって話になる。そうなりゃ、廃校なるってことがバレるだろ。一応、今日まで廃校については生徒にはバラすなって言われてたんだよ。」
「そういうことでしたか。それは失礼しました」
この敬語で俺に説明を求めてきたのは幼馴染みの1人である園田海未。ストレートの黒髪ロングヘアーが特徴の大和撫子然とした女の子である。
「ところでことり、お前雛乃さんからなにか聞いてなかったの?」
「ううん、私は何も聞いてなかったよ。」
「そっか。出来るだけギリギリまで辛い思いをさせたくなかったのかもな」
この俺がことりと呼んだ甘々ボイスの女の子が南ことり、理事長である雛乃さんの娘さんだ。母娘そろってコルク色のロングヘアーを頭の上でトサカのようにまとめているからすぐに分かる。一体どんな風にしたらそんなトサカが出来るんだろうな。永遠の謎である。
「ところで穂乃果、またお前パン食ってるのか。太るぞ」
「そんなことないもん!穂乃果は太らない体質だもん!」
「言ってろ。そのうち 体重増えて『海未ちゃん助けて!』とか言って泣きつくんだろ」
「もう!まーくんのいじわる!」
そう言って菓子パンを食べてるのが高坂穂乃果。オレンジ色の髪をサイドポニーでまとめてるのが特徴。あと基本おバカさん。実家が和菓子屋で、この3人の中で1番俺ん家から近くて付き合いが多い。
この3人は、幼稚園の頃からずっと一緒で、音ノ木坂に、来る前にもよく会っていた。この前は俺ん家でBBQしたっけか。
すると突然、穂乃果がこんなことを言い出した。
「ねえねえ、まーくんは音ノ木坂が無くなったらどう思う?」
「この学院に思い入れとかは無いが、いい気はしないよな。」
「じゃあさ、私たちで廃校をなんとか出来ないか考えてみない?」
「どうやって?」
「う…それは、これから考えるけど…」
「そうか…。お前らはどうするんだ?」
「私は穂乃果に賛成です。私たちに出来ることがあれば是非やらせていただきたいです。私も廃校は嫌ですしね」
「私も穂乃果ちゃんと海未ちゃんと同意見かな」
「そっか。生徒会があるから俺はなかなか手伝えないかも知れないけど、俺に出来ることがあったら言ってくれ」
「うん!ありがとうまーくん!」
そうこうしてるうちに昼休みが終わり、俺達は教室へ戻った。
―この時俺は、運命の歯車が回り始めていることに気づいていなかった。
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