提督に会いたくて   作:大空飛男

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うわぁああああああ!時間過ぎちゃったよぉおおおおお!すいませんでしたぁああああああ!


剣術指南です!

 「盗賊改めだ!神妙いたせぇ!」

 

 テレビの向こうでは、羽織袴すがたの役人たちが賊を成敗している。今回出てきた賊は、残虐非道の盗め(つとめ)を働き、それに腹を立てた長官が殴り込むという話だった。

 

「いけー!そんな奴らやっちゃぇー!」

 

蒼龍は今まさに捕り物で盛り上がりを見せる中、自らもハイテンションになっている。先ほども非道なる描写を見て、蒼龍は息をのんで見守っていし、おそらく彼女の湧き上がる胸糞悪い思いが、この取り物で一気に解放されたのだろう。

 

「まあこいつらは久々のクズどもだったねぇ。役者さんすげぇわ」

 

最近時代劇をみて思うのが、今の俳優とは比べ物にならないくらい上手いことだ。某ダンスグループのドラマは本当にひどかったし、もはやお遊戯会レベル。その他もろもろアイドルグループを使ってやるドラマと比べると、もう雲泥の差があるよね。さすがに比べるのも失礼か。

 

「はぁ…面白かったぁ…」

 

心底満足そうに言う蒼龍。まあ時代劇のいいところは、最後のスッキリ感だよね。これを求めて、俺は見ていたりもする。

 

「さーて。じゃあ次は…っと」

 

俺はそういって、リモコンを手に取る。今度は何を見ようか。鬼平はこれで全部見終わったし、次は刑事ものでも見ようか。

だが蒼龍はうつむき、もじもじとし始める。どうしたのだろうか?

 

「トイレか?行って来いよ」

 

とりあえず思いついたことを言ってみる。ってうお、殴ってくるな。冗談だよ冗談。

 

「どうしたのさ?」

 

「そのぉ…望さんって剣道をやっているんですよね?」

 

まあ蒼龍にはもう何回か言ってるし、すでに知っているはずだ。こうして探ってくる意図が見えない。ましてや恥ずかしがるように聞くことでもないはずだ。

 

「そうだよ。だから?」

 

首を傾げ、俺は問う。すると蒼龍はがばっと顔を上げて俺の目をまっすぐと見てきた。

 

「あの…私も、私にも剣道を教えてください!」

 

ああそういうことか。つまり。

 

「はっはーん。影響されたな?時代劇に」

 

 

まあ断る理由もないもんで、とりあえず自室の木刀と倉庫の奥にしまってあった妹の竹刀持ち出し、俺と蒼龍は草履へと履き替えると、外に出た。さすがに家の中で竹刀を振ることは狭くてできないし、何より家に傷をつけてしまう。それでネチネチ言われるのは、なんとしても避けたい。

 

外へと出た俺に対し、蒼龍は竹刀をせがんできた。早速持ちたいのか。

 

「はい」

 

「ありがとうございます!」

 

蒼龍は笑顔で竹刀を受け取ると、いったん各部位を見まわし、竹刀を構えて見せた。うん。「どうですか」と得意げな顔をしてるけど、早速手の位置が違うぞ。

 

―とりあえず、振り方だけでも教えるかな。

 

まず、俺が手本を見せるように木刀を構えてみる。お、左手と右手の位置が違うことに、気が付いたみたいだな。慌ててる姿は、初心者そのもの。まあ仕方ないけど。

 

ちなみに木刀は本来、日本剣道形と呼ばれるいわば演舞のような物に使われる。幕末から明治にかけて木刀で練習試合のようなことをしていたともいうが、あれはかなり危ないです。ともかく喧嘩とかに使う木製の棒ではないんですよね。まあ知ってるだろうけど。ほかにも木刀は小判型の柄だから、実は持ち方のコツをつかむためにも使えたりする。

 

「まず振ってみる。見ていてくれ」

 

俺は振り上げると同時に息を吸い、振り下ろすと同時に息を吐く。まあ基礎中の基礎だけど、こうした一連の動作の積み重ねが、勝敗のカギを握ったりするんだよね。

 

「こうですか?」

 

蒼龍もおれと同じく大降りに振り上げると、勢いよく振り下ろす。まあうん。ありきたりな間違いを犯してるな。それじゃあ畑を耕しているだけだぞー。

 

「蒼龍。いいか?右手は添えるだけなんだ。こんな感じ」

 

俺はつば止め付近を包み込むように持ち、先ほどと同じ動作を繰り返す。剣を持つ原則として、芯になる左手をへそのあたりに置かなければならない。いわゆる正中線から外れないように振り上げる必要があり、必然的に右手に力が入らなくなるんだ。

 

「すぅうううはぁあああ。こう…です?」

 

さすがは艦娘だろうか、早速俺の言いたいことが分かったようだ。正中線から外れることなく、まっすぐと振り下ろすことができている。

 

「うん。そうそう」

 

「おお…なるほど…。弓術とはまるで使う筋肉とかも違いますね。興味深いです」

 

まあ弓術は弓術で難しいと思う。そもそも弓術と弓道じゃ、まるで違ったりするらしいけど。

 

「とりあえず十本振ってみてくれないか?」

 

「はい!望先生」

 

おおう。そう来たか。まあ先生と呼ばれるのは実のところ慣れているけど、あくまでもそれはガキどもだけであって、同じような年代の奴には言われたことないな。とくに蒼龍なら、なおさらいろいろと考えてしまう。

 

「ひとーつ、ふたーつ、みーっつ…」

 

え、なにそう数えるの?いち、に、さんの方が気合入るんだけど…。まあ人それぞれなのかな?

 

「やーっつ、ここのーっつ、とう…はい!どうでしたか?」

 

なんというか、特に問題はなかった気がする。ゆっくり振っていることもあるだろうし、気にしつつ振っている様子も見受けられた。よし、ならば次は。

 

「じゃあテンポを速めてみようか。見ててくれ」

 

俺は肩から腕を上げ、そのまま体を落としつつ、振り下ろす。実のところ、剣は腕で振るものではない。肩から振り上げて、肩から下すものなんだ。

 

「わかったかい?」

 

「うーん。何が違うかわからないです…」

 

まあそうだよね。素人に解れと言うのは酷だろうさ。

 

「よし、じゃあね…」

 

「ひゃっ!え、いきなりどうしたんです?」

 

どうやら二の腕付近を持ったことで、驚かせてしまったようだ。でも振りの動作を覚えさせるには、これが一番わかりやすいんだよね。うん。ところで、ふにふにしてるな。そういえば二の腕って胸の柔らかさと―あー、これ以上はいけない。

 

「いいかい?こうして上げて…」

 

俺は蒼龍の腕をゆっくりと動きのガイドをしつつ持ち上げていき、そのまま振り下ろさせる。へっぴり腰であるのは致し方ないとして、せめて振り下ろしだけでもマスターさせてやりたい。

 

「どうだ?わかったか?」

 

「…はいぃ…それどころじゃないですけどぉ…」

 

顔を赤くして、蒼龍はつぶやく。うーむ、下心なくやったけど、今になってちょっと意識し始めてきちゃったな。いかんいかん。

 

「さっきの動きを思い出しつつ、勢いよく振ってみろ」

 

「はい!…やぁ!」

 

ひゅんと、風を切る音が聞こえる。まあ目いっぱい振った感じだけど、形はそこまで崩れていない。まあどうしても右手が力んでしまうみたいだけど。初心者じゃよくある光景だね。

 

「うん。もうちょっとだ。意識して数本振ってごらん」

 

「わかりました。…やぁ!やぁ!やぁあ!」

 

ひゅんひゅんと風を切り、蒼龍は竹刀を振り続ける。もうちょっとなんだよなぁ。呑み込みが早いから、だんだんと楽しくなってきたな。

 

「右手は添えるだけだ!それと、腰をもっと落としてみろ」

 

「はいぃ!やあ!やあ!やあー!」

 

だんだんとうまくなってきたじゃないか。艦娘の理解力と言いセンスといい、末恐ろしいぞ。

 

「それまで!うん、だいぶよくなったじゃないか!」

 

「えぇ?そうですか?望さんみたいに綺麗な振りをできていないです」

 

そんな自信なさげに言わなくてもいいじゃないか。俺と蒼龍とではキャリアが違う。初めてにしては十分にうまい振りなんだ。

 

「そうだなぁ…ちょっとくっつくぞ?」

 

「へっ?あっ…」

 

とりあえず下心やスケベ的な考えは一切捨て、俺は蒼龍を後ろから覆いかぶさる。そして右手左手それぞれを蒼龍の手の甲の上に置き、説明を始めた。

 

「右手はこう。グーじゃなくて、ぞうきんを絞るように持つんだ。まあたとえだから、

実際はそこまで力を加えなくてもいいぞ、左手もただ握るんじゃないんだ。いいか?」

 

「は、はい!その…近いです…よぉ…」

 

おい!意識をしないようにと心がけていたのに、そういうから俺も意識しちまうんだよぉ!蒼龍の女性らしい甘いにおいを、じかに感じる。このまま抱きしめてやりたい。だが、今は先生をやっているんだ。よこしまな気持ちは、武に失んだ。

 

「うぐぐ…俺も恥ずかしいんだ。まあでも我慢してくれ。綺麗な振りをしたんだろう?」

 

「で、ですけど…」

 

「ほら、こうやって上げて…」

 

すうっ息を吸い込みつつ、静かに竹刀を振り上げる。

 

「だいたい頭頂よりも少し剣先を後ろに傾けるんだ。そして腕からじゃない。肩からこう息を吐くように…」

 

息を吐き続け、俺と蒼龍は同時に竹刀を下していく。うおお…振り下ろすと同時に、蒼龍の髪の毛が近づいてきて…。

 

「う、はぁ!?」

 

ついに恥ずかしさが我慢できず、俺は蒼龍から離れてしまう。また蒼龍も膝をついて、はあはあと息を付く。

 

「そ、そんな感じだぁ…はぁ…」

 

俺も腰が砕けるように地面へと腰を下ろす。これだけ急接近したのは、蒼龍が来てから初めてだ。ずっと自制心を抱えて接してきたが、もういま目の前にいる蒼龍がいとおしすぎてたまらない。

 

「の、望さぁん…」

 

蒼龍も頬を赤くしながら、うっとりとした瞳で俺へと振り返る。ああ、もうたまらなく愛おしい。愛おしすぎる。今からダッシュで、抱きしめてやりたい。

 

「ど、どうした蒼龍…。振り方…その…理解できたか…?」

 

しかし、俺は男だ。まだ一線を越えてはだめなんだ。高鳴る心臓を締め付けるように俺は抑え、ゆっくりと立ち上がった。

 

「も、もう一度…いいですか?よく…わからなっかったので…」

 

ま、また?今日はいつになく積極的に言ってくるな。落ち着け、俺は先生なんだ。平常心を持て、あくまでもわかりやすく…わかりやすく…教える。

 

「ほら、じゃあもう一度だ。立って」

 

腰に手を当て、照れた表情を隠すように、うつむきつつ言う。蒼龍はそんな俺を見て、立ち上がろうとする。だが。

 

「あっ…あ、あはは…。なんだか腰が…抜けちゃって…」

 

「お、おう…大丈夫か…?」

 

俺は手を伸ばして、蒼龍の手を取る。

ああ、蒼龍の手のひらって、こんなにすべすべしてるのか。逆に、俺の手のひらは、どう思ったんだろう。マメにマメを重ねて厚くなり、分厚く硬くなってしまったこの手のひらを…。

 

「その…望さんの手のひら、たくましいですね」

 

うっとりとした瞳で、蒼龍は見上げながら言ってきた。ああ、もう駄目だ。ワレ、カンラクス…。

 

と、その刹那だった。

 

「あああああ!にいちゃんと龍子ちゃんがイチャイチャしてるぅ!ひゃー!見てられねぇ!このリア充めぇ!しんでよーもお!」

 

唐突に、若い女性の声が聞こえてきた。俺たちは即座に手を放し、それぞれ反対の方角を見る。

 

この声は聴き間違えるわけもない、我が異常なる女子高生の妹、WA☆KA☆BA☆DA。やろう絶妙なタイミングで帰ってきやがって…。

 

「はーああ。私も恋とかしてみたいわー。そんなあまーい恋をさあ」

 

「…おめぇ彼氏いただろうに…フッたのもお前だったけどな」

 

「はぁ?うざいんですけど。あいつの話しないでよ。と、まあ私は家に入るから、お続きをどうぞーっと」

 

そういうと、妹は玄関へと入っていく。

 

「そのあの…ひゃぁあああ…はずかしいよぉ…」

 

蒼龍は顔を両手で隠し、顔を真っ赤にしている。俺もそうしたいわ。マジ死にたいくらい恥ずかしいわ。

 

それからしばらく俺たちは無言だったが、ちらりと同時に目線を合わす。

 

「家、入りますか…」

 

「そ、そうだな…」

 

俺と蒼龍はそれぞれ竹刀と木刀を手に取ると、家の中へと入っていったのだった。




どうも、トビオです。
まず最初に、昨日中に投稿できずもうしわけありませんでしたぁああああああああああ!マジ謝罪します。心からお詫び申し上げます。

しかし、ああ…一日投稿ここでついえてしまったか…本当に残念極まりないです。みなさん楽しみにしていたはずなのに…。あ、うぬぼれならすいません!
と、まあ本気で謝罪申し上げます。それとさらに、明日ももしかしたらバイトの関係で日をまたいでしまうかも…。

さて、今回はかなり砂糖多めにしたつもりです。また、剣道を教える描写が数多くありますが、私は体験した技術をそのままかいたつもりですので、間違っている場合があるかもしれません。ちなみに蒼龍にくっついて教えた方法は、わりと剣道では普通だったりします。ああやって動きをガイドすることで、体で理解させようとするんですね。

では、また今度お会いしましょう!さようなら!

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