しま◯らへと到着した俺たちは、車から降りる。蒼龍はじっとCX—5をを見ていたが、俺の呼びかけに応え、すぐさまこちらに寄ってくる。
「ここがしま◯らだ。気にいる服があると良いな」
まあ、蒼龍が如何いう服を選ぶかわからんけど、気に入る服はあるだろう。まさかいまさら和服しか嫌とは言うまいね。
「おっきいですねぇ…車から見た景色も大きな建物いっぱいありましたし、ここが提督の住む世界なんですね」
物珍しそうにしま◯らを見る蒼龍はそう呟く。確かに鎮守府付近には、マンションやデパート、ショッピングモールやスーパーなんてないだろうしね。仕方ないね。
さて、早速だが、俺たちはしま◯らへと入店した。蒼龍が自動ドアに驚いたのは言うまでもない。察しろ。
軽快な音楽の流れる店内は、ここを『お店』と再認させてくる。正直こういうBGM、好きじゃない。せめて普通なJPOPを流せば良いんじゃないですかねぇ。
「うわぁ!服がいっぱいありますよ!しかも、どれも可愛いのばかりです!」
蒼龍は乙女スイッチが入ったのか、黄色い声を上げる。俺は見つけれないわ、乙女スイッチ。そもそも男だし、なによりやる気スイッチも、まだ見つかってねぇよ。俺のはどこにあるんだろう。見つけてみろよ。
「あまりはしゃぐなよ?恥ずかしいわ」
「女の子が服を見てはしゃぐなと言われても、無理ですね!」
いや、何自信満々に言ってるんだお前。って俺も軍払い下げ店でテンションフルマックスになるのと同じか。まあ可愛いし、仕方ないから許しちゃう。
「あ、提督!この服みてください!」
蒼龍はそう言うと、Tシャツコーナーから1着を取り出す。なんかリアルなカエル書いてあるんですけど。なんでこんな服女性コーナーにあるんだよ。怖えよ。大学のとある友人が見たら、発狂間違いなしだ。
「かえるさんですよ!」
「かえるさんって…カエルは『さん』付けする程身の程高くねぇだろ」
子供かよ。君、正規空母ですよね?おそらく駆逐艦共(主に第六駆逐隊)でもさん付けしなさそうだ。あ、諏訪大社関係者の方はマジすいません。私の氏神は多度系列です。
ともかく、そんな少し子供っぽいのが蒼龍の可愛いところなのかもしれない。てかギャップスゲェな。もう蒼龍にお淑やかイメージ抱けないわ。
「で、そのかえるさんTシャツが欲しいのか?」
幸いこのコーナーにあるTシャツはかなり安い。個人的にはこんなかえるさんTシャツを着てほしくはないが、蒼龍の趣味なら仕方ないだろうか。後々更正したいけど。
「いや、流石に女の子がこんな服着ていたら嫌じゃないですか?」
わかってるならなんで聞いたんだよ。突っ込んで欲しかったのか?面白そうに笑うって事は、確信犯か。
「えーっと、どれにしようかなぁ」
蒼龍はウキウキ感もろに滲み出しながら、店内を歩いていく。俺は出しっぱなしのかえるさんTシャツをたたみ、蒼龍へと着いて行く。
少し歩くと、蒼龍は足を止めた。彼女の目に留まったのは、清楚感漂う白を基調にしたワンピースだ。フリル付き。
「かわ…いい」
乙女スイッチフルスロットルじゃないですかーやだー。
「これにするか?」
「え?あ、いや…飛龍なら似合うと思いますけど、私には似合わないかも」
いやいや、そんなことない。君は女子力高いから。きっと似合うから。あと飛龍ってもそういうの好きなのか。正規空母は乙女が多いな。うん。
「まあ…お前がそう言うんなら仕方ないか…」
でも、強要はしない。俺の趣味を押し付けるほど、強情にはなれない。他人の意見を尊重し、糧にすることも重要だ。
「これよりもっと、動きやすそうなのはないかなぁ」
再び歩き出す蒼龍。割と細かいところにこだわりあるらしい。
それからまた暫く歩くと、再び蒼龍は歩みを止めた。今度はなんだろうか。
「これ…提督のこれと同じ生地ですか?」
蒼龍がジージャンをぱたぱたと動かして手に取ったのは、俗に言うホットパンツだ。やばいな、これはこれで似合うに決まってる。
「これにしようかな…」
しかし待ってくれ。ただでさえ女の武器を惜しみなく発揮しているのに、これに着替えると鬼に金棒。龍に翼を得たる如し。弁慶に薙刀、蒼龍にロング。最後は違う。でもそれくらい凶暴じゃないか。
「うーん。だがそれね、今の季節は少し寒いぞ。今は長ズボンが良いだろうね」
まあ先のことを踏まえても、蒼龍の体のことを考えると体に悪い。それに、女性は体を冷やしてはいけないと妹は言っていた。だから身の凍るような冬にストーブを独占されたけど、仕方ないよね。うん。
「そうですか。じゃあこんな感じの奴、ないですかね?」
蒼龍はそう言うと、俺のズボンをぽんぽんと叩く。ああ、そういう細身なズボン、気に入ったのね。
「店員に聞いてみるか。すいません」
片手を上げて、俺は近くの店員に声をかける。眼鏡をかけた、地味っぽい女性だ。
「はい。なんでしょうか?」
愛想よく笑顔を作る店員だった。地味っぽいと言うのは失言だったな。
「えーっと、彼女が似合うような細身のズボンを探しているんです。何かないですか?」
「はい。えーっと失礼ですが歳は幾つですか?」
年齢…しまった。俺は彼女の年齢を知らない。おそらく高校生から大学生の半ばくらいだとは思っているが、実際はどうかわからない。まさか俺より年齢が高い訳ではないだろうが。あ、着工日から考えると…これ以上いけない。
「えーっと…」
蒼龍もどう答えればいいか、俺へと助け舟を求める。さすがに迂闊に答えるほど、アホの子ではないらしい。
しかし、このまま黙っていると怪しまれる。年齢をスラスラ言えないと、何かおかしいと思われるのは当然だ。
「…おまえ、確か19だっけ?」
「え、あ、そうですね。はい!」
俺の素早い機転に蒼龍も合わせる。店員は「19歳ですか。ではこちらの方にございます…」と、品物を探し始める。
「どうして19に?」
店員に着いて行きながら、蒼龍は小声で俺に質問をしてくる。まあそうだよね、気になるよね。
「あー。お前の着工時、昭和9年だっただろ?それに十足した。それだけ」
その意見に蒼龍は「なるほど」と納得するように頷く。ちなみにこれを通したら、蒼龍は一一月二〇日が誕生日になるね。まだまだ遠い。
「あ、これなんかどうでしょう?」
店員は足を止めると、俺たちにミルク色の細身ズボンを取り出す。なるほど、これは普通に、良いかもしれない。
「わあー!これも素敵ですねぇ。でも、これ長門さんが似合いそう…」
確かに奴なら、これを着こなすに違いない。個人的長門には、女性用のスーツが似合うと思う。凛々しいし。
「長門に似合うのは分かるけど、お前にも十分似合うと思う」
「あの…」
俺と蒼龍の会話に、店員が割り込んできた。
「もしよろしければですけど。私が似合いそうな服を持ってくるのは如何でしょう?」
しま◯らってそんなサービスもしてくれるのか。それは心強い。俺には女服、よくわからん。
「お店の方にわざわざ選んで頂けるのは嬉しいですね!お願いします!」
蒼龍も乗り気だ。それなら俺は、文句を言えない。言わない。
「はい!では早速、お持ちしますね!」
あんたもやる気十分ですね。まさか声かけられるの待ってたな?蒼龍は着せ替え人形じゃないんだぞ。色々な服を着る蒼龍もぜひ見たいけど。
「どんな服持ってきてくれるんでしょうか?私ワクワクしてます!気分が高揚します!」
この言い回し、加賀にもろ影響受けてるよ。まあカッコ良いんだろうね。あいつ、女性受けも良さそうだ。
「お待たせしました!」
お、来たみたいだ。なにやら藍色の洋服を持ってきたな。
「これなんて絶対似合うと思います!イマドキの服で、人気も高いですよ!」
「うわぁ!私これ欲しいです!可愛いです!」
ツインテをピコピコと揺らして、蒼龍は小さく跳ねる。お前の反応の方が可愛いわぼけぇ。
「この服はカーゴリボンワンピースです。お客様は青や緑などのおとなしい色を感じることができましたので、大人しさを武器にする女性にはもってこいです!あとブーツを履いてみると、彼氏さんも虜ですよ!」
残念だったな。すでにイチコロ、もう虜。
「ふむふむ。なるほど!これなら提督も満足ですよね?」
ワンピースをじっくり見ていた蒼龍は俺に振り返り、目を輝かせる。うおまぶし。
「提督?え、提督?」
おい、店員困惑してるぞ。しまったな。提督と公然の場で言われるのは色々まずい。社会的に。
「ごほん。こら蒼龍。公然の場でも舞台の役で呼ぶんじゃない。普通に望と呼んでくれ」
個人的によくこんな嘘思いついたと思うよ。そろそろ頭が回ってきたな。
「え、提督は提督ですよ?」
「うん。わかった。もうそれで良いわ」
とりあえずこう言えば、蒼龍のみが痛い子と思われるだろう。すまぬ蒼龍。社会はそれほど、温かい目で見てくれないんだ。
「はぁ…?それで提督!どうです?私に似合うと思いますか?」
蒼龍はワンピースを手に取ると、身に付けるように肩まで上げて、くるりと一回転する。ちくしょうあざといな。だがそこが良い。
「うん。十分似合うな。まあ素足が半分ほど出ちまうが、それはタイツとか履けばなんとかなるやろ」
ところで店員さん。なんでそんな微笑ましい顔して俺たち見てるんです?恥ずかしいのでやめてくだち。
「店員さん。あと適当にTシャツと、タイツも揃えてあげてください。先ほど言ったブーツもあるなら、お願いします」
「わかりました!少々お待ちくださいね!」
もはや店員さんもノリノリだ。残念女子ばかり相手にしていたのだろうか?俺、失礼な奴。
「試着室を借りて、とりあえず買い次第着替えちまおう。早速あの服、着たいだろ?」
「もちろんです!あ、でも…」
元気よく返事を返してきたが、蒼龍は急に俯いた。何か変なこと言っただろうか。
「ん?どうした」
「いや…。ちょっともったいないなって」
「服は着ることに意味があるんじゃないですかねぇ。勿体ないのは、着ないことだぞ」
なんのための服だろうか。確かによそ行きの服とかはそんなに着ないとしても、あんなもの普通の洋服だ。着なければ意味がない。
「あ、いや。そういうことじゃなかったんですけど。まあ良いです!早く着たいですね!」
そういうことじゃないって、どういうことだ。俺には彼女がわからない。
「はい!ご所望のものをお持ちしました!」
店員が絶妙なタイミングで割り込んできた。これではどういう意味かを、問いただせない。まあ詮索するだけ野暮かね?
「…ああ、ありがとうございます。これ全部いただきますんで、着て帰ってもよろしいですか?」
「あ、どうぞ。って、その前にバーコードとか取っておきますね」
ポケットから店員ははさみを取り出すと、バーコード類を切り始める。さすがは服屋。手際良いな。
「はい。どうぞ!」
店員は蒼龍へと服を渡す。受け取る蒼龍はたいそう嬉しそうで、ほくほく顔だ。そんなにその服が気に入ったのか。
「じゃあ私、着替えてきますね!」
そういうと蒼龍は、先ほどの店員に連れられてきた店員2に連れられ、試着室へと向かっていく。まさか…おおよそ理解してたのか?この店員。
「では、お会計に行きますかね」
「わかりました。こちらです」
俺と店員はとりあえず、レジへと向かう。
レジへと着き切り取ったバーコードを並べて、店員は一つ一つ読み込んでいく。ピッピッと音を鳴らし、ゼロの数も植えていく。
「二万八千円になります!」
…。え?そ、そんなに?しま○むらは市民の味方じゃないのかよ!って待ってくれ、店
員。そんなやってしまったみたいな顔をするな。金はある。あるぞ!
「あー少々予想した金額と違ったみたいでしたね。まあ、これで」
俺は財布から三万円握りしめ、ドンとおきたい衝動に駆られつつ、おもむろに置く。まあ一般的に見れば、彼女に買う服の料金が足りなかったって、格好がつかない。くっそださい。
「二千円のお返しですね!ありがとうございました!」
店員はにっこりと笑顔を作って、俺へとお釣りを返す。そのスマイル。デビルスマイルにしか俺には見えんぞ。
ともかく信じたくないが、レシートを確認してみる。全体的にそこそこ値が張るものばかりのようだ。特にブーツ。なぜ金額を確認しなかった俺。浮かれすぎたのだ。
それから店の出入り口で蒼龍を待っていると、彼女はうれしさを体からふわふわと出しているように、俺の目の前に現れた。もうこの時点で、魅力爆発してる。俺の心にクレーター空いちゃってる。
「お待たせしました!どうです?似合いますか?」
いわゆるモデルのようなポージングを蒼龍はしてくる。さらに俺に追い打ちをかけてくるのか君は。もう俺の自制心。背水の陣だよ。
ゆったりとしたワンピースに黒タイツ。ブーツは足の長さを強調し、まさにモデルと言っても過言ではない。まあ正規空母勢って、みんなモデルみたいな体系だよね。美人でスタイル良いって、完璧じゃないですか。おまけに和服姿だし。あ、今の蒼龍は違うけど。
「さっきも言った通り似合うよ。やっぱり蒼龍は、青色も似合うね」
「あはは…。青色は加賀さんだと思いますけどね。でも、ありがとうございます!」
加賀はあいにくそんな格好に合わんよ。俺の観点だけど。あの人がワンピースとか来てる姿、ちょっと想像できない。あ、でもそれはそれで、ありかもしれない。俺の心、揺れまくり。
「さて、行きますかね。そろそろ腹も減ってきたところだ」
「同感です。私、おなかと背中がくっつきそうです」
「おいおい。もうお金も少ないし、たらふくくわせれねぇぞ。まあ俺、車取ってくるわ」
某赤い正規空母の人よりは食わんと思うけど、蒼龍も立派な正規空母。俺の財布がゴーストタウンにならなければよいが…。
俺はそんな思いをはせ、とりあえず走りだしたのだった。
どうも、センブスターです。
現在絶賛爆走中で書いていますが、さすがに一日五千文字付近を毎日はつらいと感じてきました。まあ、いけるところまではいくと思います。
あ、サンマイベ始まりましたね。いまごろポッポちゃんがかわいそうなことになっているのだろう。そうであろう?
では、また不定期後(一日後?)に!