提督に会いたくて   作:大空飛男

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活動報告にも記述していますが、いろいろあって予告通りに投稿できませんでした。もう一度この場で、お詫び申し上げます。


旅行話、掘り下げますよ? 下

それから二本目の煙草が半分燃えたころ合いだった。奥の曲がり角から見たことある人物が二人、自転車に乗って現れた。遠目でもわかる、統治と夕張だ。

 

二人は運転手を統治、キャリアには夕張と、これ見よがしに二ケツ(二人乗りの事)をしていて、後輪に多大なる負荷をかけている。工場のそだちの男が、なぜ物を大切にしないのか…。知っている人は多いと思うけど、ニケツは自転車の寿命を縮めるんだよね。特に後輪の消耗率が著しく早くなってしまう。事故は…自己責任ってか。やかましいわ。

 

「おーう。待ってたぞ」

 

煙草を指で挟んだまま、俺はその手を挙げて統治たちへと軽い挨拶を贈る。奴らもこっちに気が付いたようで、自転車で近付きつつ、夕張が手を挙げてきた。

 

「お待たせしましたー。統治さんを手伝ってたんですよ」

 

夕張がそういうと同じくらいに、ちょうど俺の目の前へと自転車が止まる。統治は最初に夕張を自転車のキャリアから下すと、その次に降りる。レディファーストってやつか。いや、違うけどね。降りにくいだけだろうけど。

 

「あーまた家族関係か。お前も大変だねぇ」

 

「んだ。今日はたこ焼きを作ってきた。あ、余った奴持ってきたから、あとで分け合いながらダベるか」

 

今更ながら統治は、学生でありながら半場主夫に片足を突っ込んでいるような男だ。この場合なんというんだ?主子?とりあえず、料理や家事はお手の物。女子力が違う意味で高いやつ。まあ誤解されないように言っておくが、俺たちに準じてやっぱりこいつも、言うまでもなくおっさん。よく言っても、おじさん。

 

「おうおう、さっさと入ろうぜ。夕張乗せて漕いできたから、壮絶にのどが渇いてる」

 

「ほうほう。恋した奴を乗せて漕いできたってか―おい!叩くなよ!」

 

俺のくだらないダジャレにシバきを入れるように、統治は軽く叩いてくる。夕張はそれを見て苦笑いをこぼしていたが、まあいつものノリだ。

 

「お邪魔しまーすっと」

 

そんなやり取りをしつつ、俺と統治、そして夕張は雲井家へと入る。そしていつもの和室へと入ると、統治は荷物を下ろし始めた。

 

「あんれ?そういえば七星荷物は?」

 

「車のなカーってか」

 

さすがに愛想が尽きたのか、統治は「あ、ソッスネ」と軽く受け流して、自分の荷物を開け始める。なんか今日俺、ダジャレがさえてるな。ふふふ、いい気分だ。

 

「ねえキヨさん。じゃあこの戦車は?」

 

顎鬚を軽くなでながらそんなことを思っていたら、ふと飛龍の声が耳に入ってくる。どうやらキヨと飛龍、そして蒼龍は、棒ハートフルタンクストーリーを視聴しているようだ。

 

「んーこれはドイツのヘッツァー。かわいいだろ?」

 

「あー!確かグラーフがヘッツァーの模型を部屋に飾ってたっけ。海軍だけど、可愛いから持ってるとか言ってたなぁ」

 

ふんふん頷いて、飛龍は絶賛マウスに踏みつぶされている、ヘッツァーを見つめる。

グラーフがそんなコアな趣味だとは、衝撃の事実だ。グラーフってもしや機械フェチなのでは…?なんかクールなイメージだったが…。今思えばうちの鎮守府って普通とは違う、ちょっとズレた奴が多いんだろうか。

 

「お前ら何盛り上がってるんだよ。ほらキヨ、さっさと旅行話するぞオイ」

 

俺がキヨの肩を叩いて言うと、キヨは「んだ」と返事をして、部屋の少々端にある長机の前へと正座をし、俺も奴に続く。

 

「さてと。候補はいろいろあるんだよな?」

 

まず切り出したのは、キヨだ。座って早々、会話の梶を取っていくつもりらしい。まあいつもは俺の役割でもあったりするが、今回は楽をさせてもらおう。

 

「ああ、以前蒼龍と話したが…京都、奈良、伊勢、諏訪、出雲ってとこだな。いろいろと調べてはみたぞ」

 

「わーお。恐ろしいほど歴史バリバリな感じやな。さすが歴史学科。って、以前京都に行ったじゃん」

 

俺が案を出すや否や、統治が茶化してくる。まあ言われてみればそうだけどね。と、言うか歴史学科になったことで、数多くの歴史的建造物を、この目で見てみたい衝動に駆られているのは、間違いないだろう。京都は最近言ったけどもう一度行きたいし、奈良は小学生の時に修学旅行で行ってはいるけども、その際は案の定子供だったから特に何も感じず、この歳になって改めて見直したい気分ではある。

 

「うーむ。近場に絞れば伊勢、京都か。伊勢は神宮以外に何があるんだ?」

 

浩壱が腕を組み、移動経緯を考える。まあ車で行くことになれば、こいつの車と俺の車を使うことになるだろう。正直、車で行く方がお金も浮くし、できればそうしたい気もする。

 

「京都は車で行くのはよくないらしい。確か、駐車スペースが無いそうだ。それに俺と七星と健次は以前行ったからね…。あ、伊勢は在来線を使う場合、京都より安いぜ?」

 

「だよなぁ。まあ伊勢で決まりかなぁ…?」

 

移動面と資金面、そして人員面を考えると、伊勢にするのが妥当かもしれない。伊勢神宮へと行き、近場で食べ歩きした後、のんびりと旅館で過ごし、温泉で疲れを癒す…。おおよその流れてしてはこうなるだろうし、ジジババ臭いのは置いといて、充実した旅行を行えることは間違いないだろう。

 

こちらの意見は早々にまとまり始める。だが―

 

「私京都がいいなぁ」

 

と、俺の後ろからそう声が聞こえてきた。この声は、飛龍だ。

 

「え、いや。なんで?」

 

統治が飛龍に問うと、飛龍はうーんと考え込むしぐさをする。そして、さも当たり前のようにつぶやいてきた。

 

「いや、普通京都でしょ?」

 

少々理解に苦しんだ統治は、あからさまに口元を歪ませて、「はっ?」と言わんばかりの顔をする。まあ正直、俺も今回は統治に同意せざるを得ない。飛龍の普通って、なんの普通なんだろうか。艦娘として?と、言うか、もう順応してるよこの子。

 

「…あーうん。旅行で京都は王道だと思うよ。いや、でもさ伊勢だって悪くないと思うぜ?」

 

普通すなわち王道のことだと解釈した統治は、納得するそぶりを見せつつ、伊勢のリスペクトを行う。しかし、飛龍は「えー」と嫌がった口ぶりだ。

 

「そもそも、私たちそこまで内地を回った事ないんですよね。それにどうせなら、京の都を見て見たいじゃない?」

 

確かにそういわれれば、彼女たちは海に面している日本しか見たことないはずだ。彼女たちは言わずと艦だし、艦娘になったとしても、任務のために結局海に出ていることが多いはず。つまり艦娘達は、観光名所に足を運んだことがほとんどないと言うことだ。

 

「いや、でも伊勢神宮だって内地じゃないか。港があるのは確かだけど、と、言うか京都だって舞鶴があるだろ?何が違うん?」

 

「舞鶴は京都ですけど、京都の観光地よりずいぶん離れてません?」

 

飛龍の的確な指摘に、統治は「あー」としか言うことができないようだ。まあ京都は第二候補みたいな流れだったし、いいんじゃないかな。

 

「夕張、蒼龍。お前たちはどうなのさ?伊勢と京都」

 

統治は自分の判断だけでは決めかねたのか、某ハートフルタンクストーリーを見ている蒼龍と夕張へ質問を投げかける。二人は一度考え込むしぐさをすると、蒼龍が最初に口を開いた。

 

「私は京都がいい!ほら、私も飛龍と同じで、京都の風景は見て見たいし」

 

どうやら蒼龍は、飛龍の意見に便乗したらしい。と、言うか同じような考えだったのかもしれない。以前話した際にも、京都を第一に行きたいとか言っていたし。

 

「うーむ。そうですね。私はみなさんが決めたほうで」

 

一方夕張はどちらにもつかずと言った意見を出してくる。すると、統治は大きなため息をついた。

 

「はーでたよ。いいか?ここはお前の意見が欲しいんだよ。どちらかを選んでくれ」

 

そういうや否や、夕張は「あはは、やっぱり」と言葉を漏らし、再び考え込む。

 

「私も京都ですかねぇ。あ、いや。飛龍さんと同じで、私も内地はあまり見たことないですし、それこそ、ここら辺が初めての内地の風景でしたしね」

 

夕張の意見を最期に言えることは、艦娘達は皆、京都に行きたいらしい。どうやら艦娘達は、京都に何かしらの憧れを持っているようだ。まず最初に京都を選ぶところが、またなんというか…。

 

「あ、そうじゃん」

 

ふと、記憶の片隅にある引き出しを開いて、思い出したように俺は言う。俺の予想が正しければ、京都にいかなければならない理由があるじゃないか。

 

「あのさ、みんたくにまた会いに行けばいいんじゃないか?」

 

みんたく。彼は以前話した、オンゲー友人のことである。以前俺、統治、健次で京都へ遊びに行ったとき、いろいろと案内してくれたのはこの人物だ。年齢は俺らより二つほど下で、最近は浪人生として勉強に追われていることから、あまりオンゲーに顔を出さなくなってしまった。

 

「それはまあいいと思うけどさ…。みんたく、確かあいつ…絶賛浪人生じゃねぇの?」

 

苦い顔で、健次がくぎを刺す。彼が浪人生なのは、俺、健次、統治が知っている情報で、健次は健次なりに彼を心配しているのだろう。ちなみにキヨと浩壱はあまりオンゲーには顔を出さないため、知らない。

 

「うん。話にはちらほら出るけどさ、そいつ。でも、だからってなにさ?」

 

キヨは話の意図が読めないのか、若干眉をひそめて言う。確かに奴の素性を知らないと、話も見えては来ないから仕方ない。

 

「まあ話を聞け。奴は実家が…。そう、旅館なんだよ。だからさ…」

 

ここまで言って、俺、健次、統治を除く全員も理解をしたようで、それぞれ小さく言葉を発する。つまり彼に頼めば、もしかしたら格安で旅館に泊まれるかもしれない可能性があるのだ。

 

しかし実際は、現実的に考えて厳しい相談だろう。彼は何度も言うように浪人生で多忙の身。おそらくそれ故に、この頼みは淡い期待に終わってしまうはずだ。しかもオンゲーの友人であるため、面と向かって話しているこいつらのような友人関係とは、多少違うことも明白で、そうやすやすと値下げをしてくれるとは思えない。

 

「まあそう考えると、いいかもしれない。だが、浪人生でオンゲの友人。そううまくいくか?俺はそう思えないんだけども」

 

まあ案の定、キヨは俺の考え通りのことを指摘する。実際は連絡しなければわからないし、連絡を取ったとしても、多忙故で返事がいつ帰ってくるのかもわからない。

 

「そうだなぁ…とりあえず、いつ頃にするかが重要だと思う。奴が連絡をくれる日程の猶予が欲しい」

 

「わかった。そうだな…。猶予としては、今日から一週間はどうだろう?俺らにとっては夏休みに入ってまだ間もないけど、普通に考えると休みの中盤に差し掛かっている人間が多いはずだ。それに、日程としてお盆休みと被るから、結果的にほかの旅行先の宿が取れなくなっちまう」

 

キヨは冷静に分析して、そういってくる。まあキヨの意見は正しいし、俺は「了解」とその意見に賛同する意を見せる。正直できるだけ早くいきたいのは間違いないし、早速明日の朝には、みんたくに連絡を贈っておこう。

 

「よし、じゃあそれで行こう。それでもし良い返事が期待できなかったら、伊勢と言うことにするか。艦娘達の諸君も、それでいいかい?」

 

どうやら艦娘達も仕方ないと判断したのか、キヨのまとめに対して三人一致で、同意をするようにそれぞれ返事をする。

 

こうして、艦娘達と行く初めての旅行先は、伊勢か京都となったのだった。個人的には艦娘達の意見を尊重したいんだけどもね。




どうも、今日から講義が始まってタルい気分な飛男です。

今回もまあぐだぐだな感じで話が進んでいきました。もうどうせなら、こんな感じのゆるいグダグダしている方が、みなさんものんびりとみられるんじゃないかなぁと思ってみたりと、絶賛試行錯誤しています。展開が早すぎるのも良くなければ、グダグダしすぎるのも良くない。その配分ってすごく難しい。

ところで今回、前々から引っ張っていたオンゲー民の一人が出てきました。と、言うか名前が出てきましたね。おそらくコラボは、このような流れで行われていくと思います。しかし、京都民で旅館持ち。おまけに『みんたく』。おそらく最初のコラボは、このキーワードからしてわかってしまうかもしれませんね。

では、また次回に!

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