提督に会いたくて   作:大空飛男

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専門的用語などが出てきてしまったために、黒星回。例のごとく、まあそういうものがあるんだなと、感じてもらう程度で結構です。


★バイトの話ですよ? 下

飛龍を車へとのせ数分。自宅までもうすぐのところで、俺はふと思い出した。

 

―そういえば、飛龍と二人っきりになることって、これが初めてだよな。

 

夏休みが開始と同時に来た飛龍。いつもならば蒼龍となりにいて、三人で和気藹々と話すことが多かったし、なんだか新鮮な気分だ。

 

「え?なにか言いました?」

 

どうやら心のつぶやきが、口に出ていたらしい。飛龍は再度聞き取ろうと、若干顔を近づけてくる。

 

「いやな、お前と二人っきりって…今が初めてだなって」

 

俺の言葉に、飛龍はきょとんとした顔をするが、すぐににやりと口元を歪ませる。

 

「えぇ?何ですかぁ?意識しちゃいます?」

 

まあ意識していないと言えばうそになる。もっとも、今でこそ一番―と言うより愛しているのは紛れもなく蒼龍だが、彼女がこちらに来て魅力を再認識する以前は、飛龍だって相当好きな艦娘ではあった。彼女も同じくして初期に着任してくれて、家の鎮守府を蒼龍と共に引っ張っていったからね。

 

しかしながら、蒼龍の方が最初に着任して、初めて使った空母でもあって、また彼女の容姿の方が好みだった。本当にただそれだけに、当時は蒼龍を選んだに過ぎなかった。こんなことを蒼龍に聞かれれば、きっと怒られてしまうだろうが、本当にそうだったからどうしようもない。

 

―もし、俺が飛龍を選んでいたら、どうなっていなのだろうか。

 

こうしたifの考えが起きてしまうのは、ある意味では必然的だろう。もし飛龍を選んでいれば、こちら側に来た艦娘が飛龍になっていたとは限らないはず。そもそも、蒼龍は俺に恋心を抱きそれが爆発して、こちらへと来たわけで、飛龍の場合はそのような感情を抱いていないと思うし、こうして来ることだってなかっただろう。

 

「っと、赤か。…うーん、意識はしてないさ。ただ、新鮮だっただけだよ」

 

信号で止まった俺は、純粋にそう言い放った。最初はただ単純な理由だったけれども、今はもう蒼龍を愛している。この歳でこんな大きなことを言えないのは分かってるけど、それでも蒼龍を思う気持ちは、だれにでも負けないつもりだ。

 

「へぇ。つまんないの」

 

流すような返事をした俺に対して、飛龍は聞こえるような小言で言う。すまないね。

 

「うーん。でも、私はちょーっと意識しちゃうかなぁ」

 

「えっ」

 

純粋に驚きと疑問ゆえに、思わず言葉が漏れる。しかし、飛龍は俺がほのかに抱いた言葉にならない疑問など、直ぐに笑い飛ばした。

 

「そりゃ、だって提督ですしね。なんだかんだ言って失礼な事できませんし」

 

「ああ、そういう事ね。てか、どの口さげて言うんだお前は。さっき爆弾投下してきただろーに」

 

つい先ほどバイト先で彗星の急降下爆撃よろしく問題発言をしてきたのに、こいつは何を言っているんだろう。もしや純粋に、面白いギャグだと思って言ったのだろうか。今後いろいろな人物に会うことを考えると、先が思いやられる。

 

「えー、でもあれは、場を盛り上げるためですよ。だからほら、店長さんや、バイトさんだって私と打ち解けれたと思いますし」

 

言われてみれば、普通に初対面であるにもかかわらず、気兼ねなく喋れていたような気もする。そう考えると、飛龍は人の心に入り込む能力が、高いのかもしれない。

 

「あ、でも冗談って言い続けると、いつか真実になるそうですよ?えっへへーことあるごとに言い続けちゃおっかなー」

 

ふふーんと生意気そうな顔で言ってくる飛龍。前言撤回。ただこいつは、俺をあおりたいだけなのかもしれない。それがただ、良い方向へ進んでいるだけなんだろう。

 

「ちょ、おまえなぁ…。まったく、冗談はよせよ」

 

そういって俺は、飛龍の頭をぐしぐしともみくちゃにする。あ、以前蒼龍が言っていたけれども、言われてみれば、柴犬っぽい感じかも。

 

「あ、ちょ、めっ!やめてくださいって!もー!」

 

ぐしぐしと動かす手を必死にどかそうとする飛龍。こういうところは蒼龍に似ているんだけれども、飛龍の場合は力が結構強い。てか、痛い。

 

「っと、動き始めた」

 

信号が青に変わったので、俺はアクセルを踏み始める。

 

「冗談…ね」

 

運転を再開すると同時に、外を見ていた飛龍が何を言ったような気がしたが、いまいちうまく聞き取れなかった。

 

 

 

 

さて、飛龍を自宅へと置いたのはいいが、携帯を確認すると飯島さんからメッセージが届いていた。

 

内容はいたって簡単だ。先ほどの自転車が、修理だけではどうすることもできないのだという。パンク以前にクランクにガタが来ていたことや、スポークが数本折れていたこと、ほかにもさまざまな部分にガタが来ていて、修理をしても新車が買えてしまうほどひどいらしい。まあ高校時代はかなり無茶をさせていた自転車で、ガタが来るのは仕方のないことだと思う。

 

そこで、いっそ新品に買い替えてしまおうと、俺は思い立った。以前車に乗せていたロードバイクは、あいにく蒼龍がバイトへ向かうために使っているし、そもそも買い物云々ではいろいろなものを乗せるため、スポーツ車では酷な相談だ。だからこそ、軽快車は必要と言えば、必要になってくる可能性が高い。

 

「と、言うわけで、新しい自転車買わせてもらいますわ」

 

バイトに戻ると、俺は飯島さんと杉浦さんに事情を話し、先の自転車を廃棄することにした。いろいろと思い出の詰まった自転車ではあるが、家に持ち帰っても乗れないのならゴミになるだけだしね。ここは致し方ないだろうさ。

 

「おっけー。でも新車整備は、今予約されている自転車の整備が終わってからになると思う。だから結構時間はかかると思うけど、いいかな?」

 

まあ仕方のない相談だろう。まあさすがに今日中にはできるだろうけど、できてもちょうど夕方ごろだろうか。俺の上りは5時だし、その時刻までに整備が終わればいい。

 

「だ、そうだ。それでいいか?」

 

「まあ仕方ないでしょう。じゃあ、選びに行きますよ!」

 

飛龍はワクワク感秘めた顔で、俺に言う。新しい自転車を買うってのは、やっぱり心が躍るだろうね。

 

「うん。行ってらっしゃい。良いのあったら、俺か誰かを呼んでくれればいいから」

 

とりあえず書類だけは簡単に書いておこう。と、言うか飛龍はいま居候の身だから、家の住所を書くことになるのか?それはそれで楽だけれども、どうも違和感というかなんというか…。

 

俺がそんなことを考えながら、保証書を取り出そうとすると、飛龍が俺の服をつかんできた。

 

「ん?どうした?」

 

「いや、七星君は店員だよね?接客しないと」

 

さも当たり前のように、飛龍は俺へと催促をかけてくる。服をぎゅっとつかんで、いることから、どうやら譲る気持はないらしい。

 

「あのな、俺は付きっ切りで接客するほど暇じゃないの。書類書かないといけないの!」

 

別に接客業である以上、当たり前と言えば、まさに当たり前のことだ。しかし、彼女はあくまでも知り合いで、また接客だからと言って付きっ切りになる訳にもいかないからね。どうしたものか…。そんな思いを胸に抱きつつ、何とか言い聞かそうと頭を働かせると、ふと飯島さんが口をはさんできた。

 

「いや、ほっしー。ここは飛田さんに接客してあげたら?」

 

「え、でもこいつは…」

 

「いいのいいの。こっちはこっちでいろいろとやっておくから、思う存分自転車を選んであげなはれ!まあぶっちゃけ、今のところお客さんいないし、がっつり接客できるのは今しかないじゃん」

 

親指をグッと立てて、飯島さんはニカッと笑いかけてくる。空気を読める店長だが、変なところで気を使わないでほしいんですけどぉ。

 

「ほら、店長命令はぜったいですよ?行きましょうよー」

 

「わかった。わかったから。じゃあ、すいません飯島さん。他のお客さん来たらそっちも対応しますんで!」

 

俺は一応飛龍の接客に依存しない意思を示すと、彼女に連れられるがままになった。

 

 

 

 

こうして飛龍を接客することになった俺だが、取り敢えずこれも仕事のうちと考えて、全うすることにした。逆に考えれば知り合いを接客するんだから気持ち楽な仕事だけれども、まあそれで給料を貰うのはいと申し訳ない気持ちだ。

 

「それで、飛龍はどんな自転車が欲しいんだ?」

 

まず、飛龍がどの様な用途に使うかを考え、欲しい自転車の大まかなイメージを聞いてみる。結局は買い物に使う為の物だろうけど、例えばギアの有る無しや、ライトの種類。カゴはどの様なタイプが良いだとか、ノーパンクタイヤ(通常は空気の入ったチューブがタイヤの中にあるが、ノーパンタイヤはスポンジの様なものが代用されている)など、軽快車にも様々な種類がある。そこから大体は、値段とこだわりで、選ぶ人が多い。

 

「私はそうですねぇ…。出来れば頑丈な奴が良いんですけど」

 

なるほど、頑丈な奴か。と、なればステンレスで作られたフレームに、ローラーブレーキ(歯車の様な物を噛み合わせて、従来のブレーキよりも精度が良いもの)を搭載したものが良いだろう。

 

「そうか、じゃあこれはどうだ?うちでは売れ筋なんだが」

 

お勧めしたのは、ステンレスフレームにオートライト(従来のライトよりも前輪の抵抗が少なく、暗闇で反応するライト)搭載、さらには先のローラーブレーキに、キャリア付きの自転車だ。値段的にも2万5千円ほどのお手頃で、繁忙期には飛ぶ様に売れたりもする。

 

「おー、なんかごつごつしてますね。 なんかザ・自転車って感じがします」

 

そう思うのは勝手だけれでも、事実こんな様な自転車ばっかりなのが、軽快自転車だ。特色のフレームや高価なパーツなどを使う自転車は、それこそスポーツ車や、某石橋製の商品だろう。

 

「これにするか?」

 

むむっと先の自転車を眺めている飛龍に、俺は声をかける。性能的にも申し分ないし、何より頑丈さを求めるのであれば、これが一番だろう。

 

「うーん。これ、色って何があります?」

 

「色か。えーっと。赤、緑、青、かな。ほら、このポップに書いてあるだろう?」

 

自転車のカゴに金具で止めてあるポップを指差しながら、俺は言う。一応こうして分かりやすい様にはしているんだけれども、飛龍を含め、お客さんって案外気がついてくれないんだよね。改善案でも提出してみようか。

 

「おー、こんな所に。…なんか仲間はずれにされてる気分だ。はは」

 

「ん?なんでだ?」

 

唐突に意味深な発言を飛龍がしてきたので、俺は首を傾げてしまった。つまり何が言いたいんだ?

 

「いやほら、赤は赤城さん。青は加賀さん。緑は蒼龍だけれども、オレンジがないから…」

 

つまり、自分のパーソナルカラーの様なものを言っているのだろう。確かに飛龍はオレンジや黄色と、明るい色のイメージだ。この自転車の配色にはそれがないから、そんな考えが過ぎったんだろう。

 

「あー。それはなんつうか…ドンマイっつうかなんというか…」

 

こういう時、どう接して良いのかが、いまいちわからない。取り敢えず何か言葉をかけてやりたいが、良い言葉が思いつかないのが俺クオリティだったりする。まあでも―

 

「ふふっ、別に拗ねてないですけどね。気にしないでください」

 

「え、あ、そう?じゃあ良いんだけれども」

 

にひっと悪戯っぽい笑みを浮かべる飛龍。また俺を、からかいたかっただけなのかもしれない。こういう意味深なからかい方は、やめて欲しい。まあ、許してまうけど。

 

「でも、色はこだわりたいですね。オレンジ色ってありません?」

 

色を拘るとなると、選択肢が限られてきてしまうのも、自転車購入時には良くあることだ。特にオレンジ色など、割と珍しい色を選ぶとなると、さらに絞られてしまう。

 

「オレンジ色かぁ。えーっと、確か」

 

だが、うちの会社はそれを見越して、数多くの色を作っている。例えば車種名が違っても、自転車に使われているブレーキやサドル、さらにはフレームといわゆるマイナーチェンジを行われた商品が結構ある。台数を多く作って、それが売れ残った場合、マイナーチェンジを行うことで新商品として売り出すのは、割と普通のことだったりすんだよね。

 

「お、あったあった。これなんてどうよ?さっきの商品とは若干違うけど、オレンジ色だぜ?」

 

先に紹介した自転車のパーツが、若干違うものを飛龍に紹介してみる。すると、飛龍はそれを真っ先に見抜いたのか、興味深そうな顔をした。

 

「え、これさっきと同じじゃないんですか?」

 

「よく見てみ、サドルが茶色になってて、カゴが網目状になってるだろう?まあさっきの無骨さをおしゃれに変えてみましたって商品。俗っぽい故かあまり男性には売れないんだけども、女性は結構買ったりするね」

 

「あー、確かに男の人がこれに乗ってたら、ちょっとかっこ悪いのかもしれませんねぇ」

 

納得する様に、飛龍はまじまじと自転車をみる。先ほどよりも食い付きと言うか、目の輝きが違うというか、気に入った様だ。

 

「それにするか?」

 

「ええ!これにするわ!」

 

こっちを見て、飛龍は深く頷いた。あとは整備と、書類を書けば、お終いだ。

 

 

 

 

それから数時間後、まさにバイトが終わる5時頃に、飛龍が購入した自転車の整備が終わった。飛龍は整備が終わるまで待ってもらうわけにもいかなかったので、すでに家へと帰っている。

 

CX—5へと自転車を乗せ、家に帰る頃には蒼龍も帰宅していた。新車を下ろしてそれを見た蒼龍は、純粋に羨ましそうな顔をして、「いいなぁ」と、つぶやいていた。お前には俺のロードを貸してるんだし、まあそこは我慢してくれ。

「ふー。今日もタルかったなぁ。3時くらいにまたどどって来たんだぜ?飛龍と入れ替わりだったから、ほぼ立ちっぱなしだったわ」

 

自室に戻るや否や、ベッドでくつろいでいた蒼龍と、俺の布団を我が物顔で座っている飛龍へと簡単に語った。双方はそれぞれ表情を見せてくれたが、まあ総じると「お疲れ様」と物語ってくれている。

 

「あー艦これやろ。パソコンスイッチオン!」

 

バイトの疲れから変なテンションで、俺はパソコンのスイッチを入れる。蒼龍も艦これによる俺の仕事ぶりが見たいのか、折りたたみの椅子を持ってきて、隣へと腰掛けた。

 

パソコンが立ち上がると、ふとピロリンと音が聞こえる。この音はー

 

「お、みんたくからメッセージが来た」

 

ついに、奴から返事が来た様だ。メッセージの文章を、つづらせてもらう。

 

『その日予約取ったよ。8名4部屋でいいかな?ちなみにこの日、珍しく予約がまだはいってないから、貸し切りかも。なお金の方は聞いてみたけど…ちょっとだけなら安くなるかな…。まぁ、あまり綺麗な旅館じゃないけど、のんびりできると思うしおたのしみに!あ、手続きの書類は後日送ります』

 

とのことだった。まさか貸し切りになる可能性に加え、予約まで取っておいてくれたとは…。まあこれで決定したも同然だけれども、もしお流れになったら、キャンセル料はこっちで払えばいいだろう。

 

「このメッセージからして、旅行は京都で決定ですか!?」

 

当然隣にいた蒼龍も反応したようで、目を輝かせながらそういってくる。これでやっと、決定したようなもんだし、相当嬉しいんだろう。

 

「ああ、まあ後は地元メンツにこれを伝えればいいだろうね」

 

その後、地元メンツにメールを送ったが、8人すべては承諾したと返答が帰ってくることになる。こうして、旅行の行先は京都へと決まったのだ。

 

 

 

 




どうも、テストと課題に追われている飛男です。
今回は、自転車回!といっても商品紹介やパーツ紹介などが多く目立ちますね。実際軽快車っていわゆるママチャリ、銀チャリ、ケッタと、まあ高校生やおばさんとかが乗ってる自転車のことです。まあ細かく区分けするとまたややこしくなるので、今回は大まかに軽快車と呼ばせていただいています。

次回は京都編への準備回を考えております。そろそろコラボ先との話も、煮詰まってきましたしね。

では、また次回にお会いしましょう!

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