提督に会いたくて   作:大空飛男

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コラボ、最終回です。


コラボ最終話:伏見稲荷です! 下

さて、そんなこんなで調子で進んでいった俺たちは、薬力社、御劔社と周り、頂上の一ノ峰まで順に進んでいった。

 

頂上の一ノ峰は言わずと稲荷山の最高峰で、標高は二三三メートルほど。ここは末広大神と崇める信仰があるけど、かなり前から続く信仰だとさ。長ければ長いほどいいってわけではないけどね。

 

末広社の参拝所も例に漏れず参拝を行うと、右手にあるおみくじを引き、その結果を楽しんだ。ちなみに俺は、末吉でした。蒼龍とキヨは、同じく大吉。何故だ。

 

まあ所詮おみくじだからと思うだろうけど、ここ末広社のおみくじはかなり当たると評判だったりする。それでも信じないとか言いたいが、金運に指摘を受け、さらに恋愛も気を抜くななどの事を書かれているもんだから、これが見事に合致してむしろ怖いくらいだ。気をつけよ。

 

おみくじの結果をまあ胸に刻んだ俺たちは、残すとこ下るだけ。ここからは特に記することは無く、ニノ峰の中社神蹟、三ノ峰下社神蹟とスムーズに下っていき、再び四ツ辻にたどり着く。

 

ここで再び小休止。今度ばかりはキヨは勿論、俺も少々ばててしまった。まあ再びあの茶屋で今度はキンキンに冷えた麦茶をいただき、数十分滞在。空腹は最大の調味料というが、極限に追い込まれた際の水分は、たまらなく美味い。もう殺人的。

 

こうして俺たち稲荷山登山組は、正午を跨いで二時頃には下まで降りることができた。結構時間を取ったが、下の食べ歩き組は何をしていたんだろうか。

 

「あ、いました!あそこあそこ!」

 

少々疲れが溜まっている状態な俺とキヨとは対照的に、まだまだ元気いっぱいな蒼龍が指をさす。流石は艦娘ですねぇ。おじさんつかれちった。

 

ともかくヘルブラ達を見つけたので、そちらへと合流する。どうやら奴らは奴らで、麓の茶屋で楽しんでいたらしい。

 

「おーう。もどったかぇ?どうだった?山登りは?」

 

統治がずずっと湯呑を口に運びながら、聞いてくる。茶を飲むときだけ、こいつはジジ臭い。なお、隣にいる夕張もほんわかとした顔をして、お前ら老父婦かよと突っ込みを入れたくなる。

 

「ま、充実した山登りだったよ。な?蒼龍」

 

「そうねー。いい運動になったと思うかなー」

 

腕を十字に組んで、ぐいぐいと体を伸ばす蒼龍。まだ運動したりないのか?それとも、クールダウンのための柔軟体操だろうか?と、いうか胸をぐいぐいと強調しているが、おそらくわざとではないんだろうね。あざとい。

 

「俺は糖尿病になりそうだったわ。もしなったら訴えるからな!本当だぞ!」

 

まだまだダルそうなキヨであったが、こういう時だけ元気よく見せてくる。お前は日頃の私生活からくるだろ糖尿病。断じて俺のせいではないし、蒼龍のせいでもない。

 

「あー。まーたお二人お熱くしてたんですかぁ?いやー青春してますねぇ。夏は二人の距離を縮めますねぇ」

 

にやにやといつも通りの口調で飛龍が茶化してきた。もうこいつは本格的に立ち直ったようだが、かえってうっとうしさ倍増。少しはこたえてるかと思ったが、むしろひどくなってやがる。しかも、飛龍の後ろにはヘルブラもにやにやしてるんだもの、飛龍は新たなポジションを獲得したっぽい。煽り隊って言うね。泣きたいね。

 

「あー、もうだるいわお前ら…。蒼龍、こうなったら見せつけてやろうか。もう気を使わなくてもいい気がしてきた」

 

「え、えぇ…は、恥ずかしいよそれは…」

 

こうなったらいっそ!と、いった投げやりな提案だったが、蒼龍は苦笑いを浮かべながらそれに乗ろうとしなかった。まあ、はい。そうですよね。俺も同意見なんで。

 

「あ、そういえば拓海は?姿が見えないけど」

 

一緒に行動していたと思っていたが、どうやら違ったらしい。思い返せば蒼龍に何かを頑張るような事を言っていたような気がするが、ひょっとして一歩踏み切ろうとしているのだろうか?

 

「ああ、あの二人はいま買い物中だと思うぜェ?もといそう言って、俺たちから一旦別れたしなァ」

 

くいくいと咥えた団子の串を加えながら、浩壱は腕組みをして言う。その様子は時代劇に出てきてもおかしくない雰囲気だが、役は盗賊の頭領だろうね。盗賊改だ!神妙にいたせぇ!とか言いたくなる。

 

まあ妄言はさておき拓海の話に戻すが、これは予想的中だったらしいな。外とか二人っきりで出かけた事ないとか言ってたし、二人の進展に今後期待しよう。

 

「さてと、まだどこか行く予定はあるか?俺らも少し休憩してから、今度は下を回ろうと思ってたしよ」

 

これは山から降りてくる際、三人で話し合った結果からの発言だ。山登りも良かったし、残りは土産を買うのみだろう。あ、俺はあくまでも回るだけです。強いて言うならば、神札を買うくらいだろうさ。他にも御朱印を頂くかも。

 

俺の問いかけに浩壱達は、それぞれ首を横に振る。どうやらおおよそは見てきたらしい。まあ山登りに費やした時間分、こいつらは下を見ているはず。下を回るくらいならそれの三分の一くらいで充分事足りる。

 

「ん。そうか、じゃあ改めて聞くけど、キヨと蒼龍どうする?見て回るか?」

 

「私はもちろん行きたい!お土産見たいし!」

 

すぐに答えたのは蒼龍。本当女の人は土産を見て回るのが好きなんだろうなぁ。

 

「俺も行くわ商売繁盛の縁起物。何か売ってるといいが…」

 

と、言うわけで再びこの三人で下を回る事となった。

 

 

 

 

さて、その後も特に記する事もなく、ただ純粋に土産を見て回った俺たちは、目について気に入ったものを数点買った程度。約一時間のうちに下を回り終えると、再び茶屋で寛いでいるヘルブラ一行と合流を果たした。お前ら入り浸るなよとは言いたい。

 

周りの雰囲気は、もうそろそろ撤収しようと言った感じ。俺もそれには同意見。ひとまず今回の旅行は、もう十分堪能できた。

 

「よし、じゃあ名残惜しいがそろそろ行こうかね」

 

パンパンと俺が手を叩くと、全員は同意する意見をそれぞれ述べ、順々にその場から立ち上がる。

 

「もう帰ります?」

 

すると、先程までいなかった拓海がいつの間にやら現れて、そう口にしてきた。どうやら俺たちが回ってる間に、合流を果たしていた様だ。気づけば大和もちゃっかり拓海の隣へと立っていて、距離が何処か縮まっているところを見ると、拓海が試みた事は、うまく行ったのだろうね。たぶんだけど。

 

「そうだな、そろそろ帰らないと日が暮れちまうし、運転にも支障が出るかもしれない。あんがとな、昨日今日と」

 

「いえいえ、そんな。これも仕事ですから。まあ…仕事としては少し申し訳ない気もするんやけど…。もう少し勉強する必要があるかもしれねえっす」

 

まあ拓海は正直道案内役みたいになってたし、観光地の要所は趣味で俺があらかじめ調べたり、そもそも予備知識を持ってたから説明役を取られてたからね。学ぶことも多かったのかもしれない。今度何処かへ旅行するときは、地元に詳しい人と行ってみたいものだ。

 

「でも、こっちもこっちで感謝してますわ。その、色々と気付かされましたしね」

 

そう言うと拓海は、大和ににこっと笑顔を見せる。また、大和もそれに応じ、美しく微笑んだ。

 

「はー。おめえらも砂糖が増してやがるぜ。良かったよかった」

 

二人の場合、拓海が年下で大和が年上の構図だろうが、それはそれでお似合いな感じだと思う。姉さん女房ってやつだが、大和は何処か抜けている節があるそうで、立場が逆転しているところが、何とも特異で面白い。

 

「そや、セブンスターさんと蒼龍に渡したいものがあるんですよ。感謝の意ってヤツですね」

 

「うわ、気持ち悪。お前らしからぬ発言だな」

 

拓海とはネットで知り合ったとは言うもの、それなりに付き合いが長いし、何か奢って欲しいだの何だの言うことが多かった。年下だしまあそれはいいのだが、今回いきなりのこんな発言。そら気持ち悪いと感じるはず。ギャップありすぎて怖い。

 

「こっちは純粋な気持ちなんですよ?それをそう反応されると泣けますわぁ」

 

しくしくと泣き真似をして言う拓海。確かに決めつけすぎるのはよくないだろう。その泣き真似には拳を入れたくなるんですがね。

 

「うん。わかった。ありがとよ。で、何をくれるんだ?」

 

「あーもうあげる気なくなりそうですわぁ。もっと感謝の意を述べてほしいですわぁ」

 

まてまて立場が逆転しているぞ。おかしいな、お前が俺に感謝の意があるから何か上げるんじゃなかったのか?あれ?なにこれ?

 

「わかったわかった。アーすごいありがたいわぁ。ありがたすぎて殴りたいわぁ」

 

こぶしをバシバシと叩きながら俺は言うと、拓海は「冗談つうじないなぁ」とにやにやしながら言う。ああ、もういいです。結局いつものコイツです。

 

「じゃあこれ、ありがたく受け取ってくださいな」

 

まだいうかと言いたいが、拓海が俺にくれたのは白い紙袋に包まれた、小さな長方形状のものだった。お、これはひょっとして。

 

「お守りか?まあ伏見稲荷のお守りは買わずじまいだったし、マジありがたいわ」

 

「へへん。俺だってそういう時はまじめに選びますよ。好きでしょ?セブンスターさん」

 

確かにいいチョイスだ。神札や御朱印はそれこそ漏れなく頂いたが、お守りはそれこそ買わなかった。まあ理由はお察しの通り、お金の問題なんですけどね。高いんだよねぇ。そこ、神札の方が高いとか言わない。

 

「あ、まだ中身は見ないでくださいね。ちゃんと家に帰ったから、見てください」

 

そういうと、拓海は「じゃあ僕、蒼龍にも渡してきますわ」と言い残し、ささっと蒼龍の元へと走って行った。

 

「あ、えっと。せぶんすたーさん」

 

後を追おうとした大和が、ふと俺に、面と向かって口を開いた。どうしたんだろうか。唐突に。

 

「その、今後も提督と、仲よくしてくださいね?」

 

そう、大和はどこか苦笑いで言う。ひょっとしてさっきの絡みがいがみ合いにでも見えたのだろうか?

 

「ま、それは当たり前って感じだぞ。正直な話、俺はあいつが好きだ」

変な意味ではないのはわかるだろう。なんだかんだ言ってこうして用意してくれるあたり、本心的には律儀な性格なんだろう、拓海は。なんだかんだ言って、どこか憎めないやつなんだよね。

「はい!じゃあ、私も後を追います!」

そういって、大和はその場から拓海の方角へと駆けていく。

その途中、大和が何もない所で足を引っ掛けて、盛大にこけたが、まあそれもいい思い出になるだろう。ただ一つ、色は拓海と彼女のこれからを占うように、ピンクでしたがね。

 

 

楽しかった―とは言えるかわからないが、総じていうとやはり楽しかった京都旅行も、伏見稲荷で拓海と別れを告げ、終わりを迎える。

 

今思えば、たった一日なのに長く感じた。楽しい事なら早く時は過ぎると言うけれど、今回の旅行は言ってしまうと濃厚な一泊二日だったよなぁ。

 

「望?どうしたのぼっとして、危ないよ?」

 

助手席の隣で、蒼龍が心配そうに聞いてくる。おうおう、いかんいかん。今は運転中。高速に乗ってるんだし、下手すりゃ大事故じゃすまないな。

 

「いや、大丈夫。ちょっと考え事をね。ほら、俺の顔は運転集中マンさ」

 

そういって、俺はきりっと顔を凛々しくする。あ、したつもりです。蒼龍はそれを見て安心してくれたようで、くすっと笑いを漏らしてくれた。

 

「ねえ、二人とも寝ちゃってるよ?キヨさんとかよだれ垂らしてるし」

 

どうやら、キヨと飛龍は気持ちよさそうに夢の中らしい。そういえばどことなくかわいらしい寝息と、おっさん臭い寝息が聞こえてくる。バックミラーでふと後ろを見れば、飛龍とキヨがそれぞれもたれ掛るようにして寝ている。なんというか、今回の旅行で地元メンツと飛龍が仲良くなれたのは、うれしいことだったりするね。

 

「あ、そういえば、拓海さんからもらったお土産…お守りだよね?これ」

 

「まあそうだろうさ。その形からして、間違いはないだろう」

 

お守りを買えばわかると思うけど、こうして白い紙に包装されて手渡されるよね。それも、手触り感から高そうな。

 

「ねえ、開けてもいい?」

 

俺が許可を出す前に、蒼龍はびりりとお守りの封を開けていく。まあ、あいつに言われた通りその場では開けなかったが、何か意味があったんだろうか?

ふとそう考えが過ぎるうちに、蒼龍は封を開け終えたようで中身を取り出した。するとその刹那、蒼龍は「ふぇ!?」と愛くるしい声を漏らした。

 

「ん、どうした?」

 

「あ、あの…。望、あの…これって…。安全の『安』に、産まれるの『産』で、何て読むかわかるよね?」

 

ん?安全の『安』に、産まれるの『産』…?そう脳内で復唱し、その意味が合致した途端、俺は盛大にぶほっと吹いた。

 

「安産じゃねーか!あいつめ!このやろう!まだ気が早いわボォケェ!」

 

うん、出産を安全に行うべく願いを込めたお守りですね。江戸時代とかは今みたいに医療技術とか発達してなかったからね。神頼みするよね。うん、じゃなくて。

 

蒼龍を横目で見れば、そりゃあもう噴火しそうな勢いでぷるぷると震え、顔が真っ赤。どうやら拓海は、盛大な時限爆弾を用意していたらしい。何がいいやつだよ。やっぱりやつはやつだった。どこか憎めないとかもう言えないわ。

 

「の、の望のやつも開けよう!うん!」

 

そういうと、蒼龍は真っ赤な顔をしながら、先ほど預けた俺のお守りをおもむろに開けたようだ。その様子を横目で見つつ、蒼龍は中から少し取り出すと、一番上には『安』の文字が見える。

 

「ハァ?あいつ俺にまで安産を押してけくんのか!?なに?ちゃんとたどり着けって?バカじゃねぇの?あいつ何、下ネタに生きてんの?」

 

そらもう、俺も大声で叫びますよ。てか、そんな洒落たギャグを運転中にかまされるとは思っていなかったわ。あいつ今度会ったらヘルブラにシャチホコの刑に―

 

「あ、まって望。あはは…これ、安全運転だ」

 

そういって、蒼龍は苦笑いをしながら俺へと手を引きつつ見せてくる。ああ、それなら安全に家までたどり着けますね。うん、なにが安全運転だ。お前のせいで事故りそうになるわ。と、言うかだからあいつ、その場で開けるなとか言ってたのか。むしろ家に帰って開けろってことだったのか?てか、大和がどこか意味深に言ってたことは、これを意味してたわけ?

 

「はあ…なんか一気に疲れが押し寄せてきたよ…」

 

ともかく、こうして俺たちの京都旅行は、本当に終わりを告げる。いや、最後の最後で拓海の盛大な嫌味を受けたが、まあそれも思い出に―できるわけないんだよなぁ。




どうも、飛男です。
またまた一か月後の投稿となってしまいましたね。まあ、卒論も残すとこあと二か月以内でありまして、追い上げをかけている感じ。小説は行き詰った合間のうちに書いており、ずいぶんと遅くなっています。とか言って、新しい話も書いてたりしてますが…。
ともかく、これで京都編(コラボ)は終了とさせていただきます。最後の最後であんな終わり方ですが、まあそれが望と蒼龍らしいかなとは思っています。

次回の投稿は、ひょっとすると一か月を過ぎる可能性がございます。一応不定期更新としておりますので、どうかご理解いただけるようお願いします。

では、また次回にお会いしましょう!

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