提督に会いたくて   作:大空飛男

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これにて、夏休み編は終了となります。


交差編
鎮守府に帰りますよ?


さて、八月も終わり九月。夏休みもあと少しとなっていた。どうして夏休みってすぐ終わってしまうん?

 

約一か月半の休みから現実に引き戻してくるように、本日は秋学期オリエンテーション。春学期と同じくまーた下らん話――とは言い難いけどともかく聞くこ事に関しては退屈な話をされ、だいたい四十分ほどで終了を迎えた。いやまじ、なんでこれだけの為にわざわざ来なきゃいけないんですかねぇ。メールとかでいいじゃん。

 

「あー秋学期かぁ。講義が始まるのかぁ」

 

机に突っ伏したくもなりますよ。なんたって結構この期間、人生において重要じゃん?ともかく必要単位を取って、さっさと就活や卒論の準備に取り掛からないといけないわけですよ。いやー今の時期にやらないといろいろまずいとか聞きますしね。遊び過ぎた。

 

「おう七さん。授業決めをさっさと行いましょうや」

 

隣の席に座っていたくらっちの掛け声と共に、まばらに座っていた席を立ち、いつものように集まる大学メンツ。とは言うものくらっちや木村はすでに単位が四年に上がれる単位まで保持しているので、あまり講義は取らなくてもいい感じらしい。ずりぃわーうらやましいわーとか言いたいですが、まあ講義中寝たり他事したりと単位を落とした俺が悪いですね。はい。

 

「とりあえずさぁ、まずこれでしょ?で、これと…」

 

そんなこんなで取る講義の選別を行う俺達。もう三年後半にもなるので、どの教授が当たりかはずれかは、なんとなくわかるようになってくるよね。あの先生は話が超絶つまらないとか、好き勝手話してるだけのオ○ニー教授とかね。ともかく厳密な選別により要領よくやっていけば、この先御の字だろう。たぶん。

 

さてはてあらかた決まりそうになった頃合い。ふとピリリリと携帯が鳴った。自宅用の着信的に、言わずと家からかかってきたらしい。今のところの大学在籍中、こんなことはなかったと思う。いや珍しいこともあるもんだ。

 

「ゴメン、ちょいと電話でる。とりあえずそれで決まりでいいね?」

 

そういって、俺は講義室から外へと出た。その際後方から「せやねー」とか聞こえてきたので、もはや決まったも同然か。いよいよもって秋学期始まる感じに、少しげんなり。

 

「あーはい、もしもし」

 

『飛龍だよー。いま時間ある?』

 

電話に出てみれば、元気っ子ぽい感じの声。この声は名乗ってるように、家に待機している飛龍からだ。まあうん。彼女、結局携帯買いませんでしたからね、もちろん彼女が帰る時期的にいらないってこともあったけどさ、あいつは蒼龍よりもやらかしそうなので買わなかったのが本音。前者の理由を話せば納得してくれたので、まあ良しでしょう。

 

「ん。あるよ。なにさ」

 

しかしまあ、飛龍がわざわざ電話をかけてくるのはずいぶんと久々だろうか。いや、待てよ。と、言うか初めてかもしれないな。以前はバイトの定員として出ただけだったしね。

 

『えっとね。帰ってきたらちょっと話したいことあるからさ、いい?』

 

「わかったわ。あー…気が重くなりそうだが、またぶっちゃける感じ?」

 

『いやー。それはもう伝えたのでないですよー。まあ電話だとアレなんで、切りますねー』

 

そういうと飛龍は、ブツリと電話を有無言わさず切ってしまう。面と向かって話したいことか。なんだろう。ツラ貸せやとか?イヤないか。俺は彼女にどんな印象を持ってしまっているんだ。

 

ま、そんなことはとりあえず後回し。俺は電話を切って室内へ戻ると、くらっちたちは話に花を咲かせていた。どうやら、どこかメシを食いに行こうと言った内容である。まあなんつうか恒例行事なので、いわゆる『いつもの』と言うやつです。

 

「ところでみっくんは吉牛派ですかね?す○家派ですかね?ここで重要なのは、紅ショウガが乾いてるかそうでないかが肝心なんだよなぁー」

 

話を引っ張るのは木村のようで、牛丼トークに盛り上がっている。まあ大学生ってこんな話ばっかりですよホント。変なこだわりを開示してくるわけですよ。あ、私はす○家派ですね。紅ショウガうまい。

 

「お前らさぁ、また牛丼食いに行くわけ?蒼龍行に言ってたからな?牛丼じゃなきゃいいなぁーとか。木村お前、牛丼の貴公子みたいに見られてるぞ?」

 

蒼龍は現在図書館で待機中。まあ時間をつぶしてくれている。これは先ほどオリエンテーション行く前の運転中での話で、木村=牛丼マン的なイメージを蒼龍は持っているとの内容から来ている。と、言うか春学期中、話に出なかっただけで結構この面子で、牛丼を食いに行っている。うまいんだけど、継続的に食うと味覚もなれる。

 

「あーそうやってまたボクが丸いからって牛丼扱いするー。このわがままボディを否定するー。いやいやこのボディ、さわり心地は蒼龍の豊満さに負けないですからね?わかります?さわります?」

 

はい、また木村のスイッチが入ったらしいうっとおしい絡みが発動しましたね。とりあえず全員、くるんじゃねぇホモとか言って、軽く流しておく。

 

「まあ、ともかくさ、すまねぇが俺はちょいと用事ができちまってね…すまんが今日はなしで頼む。代わりに残り少ない夏休み――とは言ってもあと3日くらいの間に行きましょうぜ」

 

そう提案すると、他メンツは「まじかー」と言いつつも手を振り送り出してくれた。ああ、そういえば蒼龍メシ食うの牛丼以外は楽しみにしてたな。あとで飛龍もつれて、三人でどこかへと行くか。

 

 

 

 

さてさて、運転中に蒼龍からどうだったと聞かれたので、あたりさわりのないような会話をし、自宅へと帰った。ちなみに木村の牛丼貴公子の話をしたところ、蒼龍は案の定苦笑い。木村の扱いって、結構かわいそうに思えてきた。まあ彼がそういう性格なので、自業自得なんですけどもね。奴は騒がしさ一個大隊レベル。それは言い過ぎか。

 

「ほーい。飛龍帰ったぞー」

 

そういいつつ自室をガチャリ。中には飛龍が、某ゲーム機と格闘中であった。彼女らそれなりに上達して、今では上位行けたくらい。轟龍トラックに引かれたりもしてたけど、まあうまくなりましたよ。

 

「あ、おかえり―。うん。じゃあパタリと」

 

飛龍は某ゲーム機を折りたたむと、今度は俺の布団へとダイブして、足をバタバタさせ始める。ぼふぼふと埃やらなんやらが飛びまくり、少しむせそう。てかお前は子供か。

 

「ちょっと飛龍ー。布団散らかるからやめなよー」

 

苦い声で蒼龍は言うと、飛龍を布団から引きはがそうとぐいぐいし出す。ああもう、なんだこれ。

 

「で、だ。飛龍さんよ。わざわざ電話しておいて、何さ?」

 

このままだと飛龍と蒼龍のゆるやかなキャットファイトが勃発しそうなので、話やすくするべく声をかける。すると蒼龍に引っ張られるのを抵抗していた飛龍は、「あっそうだ」とかさも今思い出したように言い、力を緩めた。その拍子で、引っ張る蒼龍がバランスを崩し、しりもちをつく。

 

「もう!飛龍!」

 

と、ぷんぷんしている蒼龍はいいとしてだ。飛龍は通称女の子座りをしたまま、俺の方へと顔を向けた。

 

「えーとね。話したいことっていうのは、そろそろかなーとか思ったのよ」

 

そろそろ?何がそろそろなのだろうか。女の子がグロッキーになるアレ?いや、それわざわざ俺に言う意味ないしな。てかデリカシーが俺には欠如してるな。うん。でも、彼女らの戦没日ももう過ぎたし、うーむ。

 

「わからないのー?しょうがないなー。ほら、明石さんのメール。覚えてない?」

 

そういえばと、俺は納得がいった。明石から最近来たメールに、俺達は確かに関心の声を漏らしたもんだ。

 

明石曰く、コエールくんはやはりと言うべきか、思いのほか安定してくれたのだという。なんでも飛龍を送っての数か月間、向こうの艦娘がこちらに来たいと言った要望が殺到し、明石は暇があればほとんどをコエール君に消費していたらしい。そして、研究中に偶然見つけた装置の法則性から、その性質を見出し、なんとクールダウンの速度を調節できたようだ。いわくクールダウンモードとか言うらしい。モード選択できるのかよ。

 

いやあ、ともかくうちの明石は優秀だなぁ。そこまでレベル高いわけではないのに、向こうはそれなりに懐いてくれているよう。なんか申し訳ない。

 

「…と、なるとそろそろ帰るってことか。…えらい唐突だな」

 

「え、帰っちゃうの飛龍!?そっか…」

 

俺と蒼龍は、言葉を発したけど、おそらく思ったことは一緒だろうさ。さびしいってね。まあそろそろだとは思ってたけども、どうせならもっと前に言ってほしかったとは思う。

 

「そんな寂しそうな顔しないでよー。蒼龍はともかく、望君はなんかキモイ」

 

キモイってお前な。しんみりしてる最中、そうちゃちゃを入れるんじゃあない。

 

「で、まあ、もう私の役目というか、目的は果たしたからね。ほかの子にも、代わってあげなきゃいけないんだよね」

 

そういうと、飛龍はにっこりと笑顔を見せてきた。

 

「私が最初にきて、望君は蒼龍以外にぶれないことが知れたから、たとえほかの子が来ても、きっと心動かないでしょ?」

 

まあ、彼女の言う通りではある。確かに飛龍が来た際、どこか心の内が揺れたと言えば揺れたが、それは飛龍が特殊だったにすぎないしね。そして現に、京都の旅行でいろいろぶちまけられたけど、俺も俺で気持ちの整理ついた。なんというか贅沢極まりない話。

 

「…ひょっとしてそういう目論見があって、最初に来たってことか?」

 

「んー。もちろんじゃんけんで勝てたからだよ?でも今思えば必然だったのかなーって。それこそ、神様が勝たせてくれたのかもね」

 

飛龍が最初の頃と比べて代わったと言えば、こういう所だろうか。完全に認めている感じで、いっそう友人のように接してくる。そう思えば、飛龍は飛龍で、蒼龍とは違う居心地の良さを感じる気もするし、彼女はいわばそういうポジションに落ち着いたのだろう。

 

「ん。まあそうかもな。それでいつ帰るんだ?まず明石に連絡しないといけないだろ?」

 

「あ、それはもうやっておいたよ。勝手にパソコン使わせてもらったから、きっと向こうは準備し始めてるんじゃないかな?一応、三日後にしておいたけど」

 

三日後か。ちょうど講義が始まる一日前になるな。まあ講義が始まって蒼龍はまだしも、さすがに飛龍までもを講義中に無断で入れるのはまずい気もしていたし、いいタイミングかもしれない。

 

「それとさ、望君に一つお願いがあるけど、いい?」

 

「お願い?」

 

「うん。加賀さんにもらった提督服あったでしょ?私が帰る前にさ、あれ着てよ」

 

 

 

 

思えば、飛龍と過ごした時間は、蒼龍と比べて明らかに少ない。それでも濃厚に感じることができたのは、夏休みだったからだろう。その間にいろいろありすぎて、酒を飲みだせばそれだけで酒の肴になりそうでもある。

 

帰ると告げてから三日後。ついにその日はやってきたわけだ。時刻は午前七時五十分。太陽が昇ってしばらくした時間で、まだ朝特有の日の光が家を照らしているんだろう。

 

「んー。なんか高校時代を思い出すな」

 

飛龍に頼まれたので、仕方なく提督服を着ているわけだが、今思えば高校時代の学生服とあまり大差ない気がする。しいていうなら質感とかだろうけど、着方とかはそこまで変わらない。ただ学生服特融のごわごわ感はなんかしなかった。あれ嫌いなんだよねぇ。

 

俺は着終えるや否や、こっそり洗面所へ向かって身だしなみをチェックする。まあどうせ着ることはもうないんだろうけどさ、なんか気になるわけですよ。大学生はおしゃれにも敏感なんですよ――ってわけでは俺に限ってないけどさ、最後に飛龍が見るリアルな俺の姿は、やっぱりかっこよく見せたいわけ。男が女性の前でかっこよく見せたいアレに近いわけ。

 

「ん…なにこれ」

 

と、まあそんなこんなでシワを伸ばすべく上着を着たままパンパンと叩いていると、胸元に違和感を覚えた。内ポケットに何か入っていたらしい。

 

「…お守りか。加賀もなんか、粋な計らいするねぇ」

 

見れば手作りのお守りで、中に何やら固い物が入っているようだった。質感からして石っぽい。あれか、パワーストーン的なにかだろうか。加賀もなんだかんだ、乙女だね。パワーストーンとか信じちゃうのかな。

 

さて、加賀の分析はどうでもいいので、身だしなみもばっちり決め込めれたし、またもやこっそり自室のある二階へと階段を駆け上がり、部屋に入る。すでに飛龍は用意が終えたようで、あの馬鹿でかいバッグを片手に持ち、初めて来た際に身に着けていた着物を羽織っていた。

 

「おー。なんか久々に見るなそれ」

 

「そうねぇ。って、望君も似合うなー。むしろ似合いすぎて逆にクスってきちゃう」

 

ふふっと言った感じで笑う飛龍。まあこの笑顔を見れるのも最後だし、俺もははっと笑っておこう。

 

「って蒼龍なに見惚れててるのー?何か言ったら?私の為もあるけどさ、蒼龍にも当然見せたいわけでしょ?望君は」

 

「あっ…うん。その…望…素敵です…は、はい…」

 

蒼龍はぼっとしていたのか、飛龍に声を掛けられるや否やそういって、顔を真っ赤にした。あーこれは結婚しよ。完全に結婚しよ。

 

「よし、まあこんなもんだ。ほら、ちゃんとホルスターには南部を刺したし、サーベルポーチにも小刀を指しておいた。完璧だろ?」

 

とりあえず着るだけだとアレなんで、付属についてきたガンホルスターとサーベルポーチにも、武蔵に以前もらった銃とかさしといた。自分で言うのもなんだが、今最高に決まってると思う。あ、いや、ナルシストとかじゃないですからね。こう、どうしてもそう思えてしまう訳でありまして。まあ総じて言いますとだって男の子だもん!

 

「うんうん、完璧。最後にその姿見れたのは大きいなー。ふふーん。みんなに自慢しちゃお」

 

飛龍はそううきうきとしながら言う。いやまあ、確かにレアでしょうね。軍装好きですけども、どっちかっていうと兵士の服装の方が好きですし、高官系の服は、着る柄じゃないとは思っていますし。

 

『あのー。一応私もみましたからね。司令窓で。確かにキマってますよ。で、そろそろこっちは準備できてますよーって、時報っぽく言います』

 

おっとそういえばつけっぱにしていたな。明石の少しばかりあきれたような声に俺達は我に返って、パソコンの画面に視線を寄越した。

 

「じゃあ明石、パパってやってくれ」

 

『わかりましたーじゃあ、コエール君、スイッチオン!』

 

明石はそういうと、別にカウントダウンするわけでもなく、スイッチを押したようだ。ぱぱっとやれとは言ったけども、もう少し猶予くださいよ。

 

さて、唐突に画面から明るい光が、ふわっと言った感じで溢れ始めてきた。へえ、こうなってるのかとか思いつつ、俺と蒼龍は飛龍に視線を向ける。

 

「飛龍。またみんなによろしくね!私は…もうちょっとこっちにいたいの。だからごめんね」

 

蒼龍はどこか申し訳なさそうに言う。まあそうだろうね。でも、俺ももっと蒼龍にはいてほしい。

 

「…じゃあ飛龍。元気でな。あーまあいろいろあったが、楽しかったよ」

 

そう、やはり面と向かって言うと恥ずかしいかなとか思いつつ、飛龍に声をかける。すると、飛龍はこちらへと目線を向けて、再び笑顔になった。

 

「もちろん私も!蒼龍とも一緒にこの世界で過ごせましたし、望君とは仲良くなれましたし。もう言うことないです!」

 

その瞬間、バッと光が強くなり。俺達は光に包まれる。こうして飛龍は、向こうの世界へ帰ったのだろう。そう、彼女の休暇は終わったのだ。再び艦娘として、俺の預かる大湊警備府で、奮戦激闘をしてくれるだろう。

 

だが、そう思った刹那―

 

「なッ!?あっ…」

 

急にぐわんと視界が歪み、俺は意識が遠のいていく。もっとも光で何も見えないけど、確かに今俺の視界は、なんというかぐにゃぐにゃして、朦朧としているようだ。

 

 

 

そして、薄れゆく意識の中、俺の耳にはある言葉が入ってきた。

 

 

 

『提督が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮に入ります』




どうも、飛男です。少しの暇を、友好的に使わせてもらいましたので、思ったより早くかけました。

さて、今回でまえがきにも書いた通り、夏休み編は終わりを迎えます。てか、もう十一月なのに何が夏休みだよって感じ。

さて、次章に移行しますが、まあ以前の活動報告で書いた通りになるでしょう。どうなるかは、お楽しみに。

では、また次回お会いしましょう!

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