提督に会いたくて   作:大空飛男

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遅れながら、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
なお、瑞鶴は好きです。


どうやら、半々らしい

時刻は既に昼を過ぎようとしている。武蔵が頼んだ通りに伝えてくれさえすれば、そろそろ自由行動できるだろう。しかし飛龍の口ぶりからしていわゆるラブ勢が顔を出すかなーと思っていたんだけど、案外そんなこともないようだ。

 

そういう所は礼儀として、ちゃんとしているのだろうかなと思いつつ、窓をボケっと眺めていると、飛龍にも伝えた暗号的ドアノックが聞こえてきた。おそらく武蔵か加賀のどちらかだろう。

 

「飛龍さんや、あけておやり」

 

「自分で開ければいいじゃーん」

 

飛龍は近くのソファで寝そべり、足を交互に上げ下げしながらくつろいでいる。キミこっちでもそうなのね。恥じらいもなくなってるってことは、アレだ。もう異性として見られてないんだろう。うれしいのやら悲しいのやら。微妙な気分。

 

まあどうせコイツの事だし動くつもりもないようなので、しぶしぶ扉を開けに行く。カギをガチャっと開錠すると、ゆっくりと扉が開いた。

 

「お、うまく行った感じ?」

 

誰かも確認せずに聞いたのは失敗だっただろう。中に入ってきたのは、大淀だったからだ。どうやら何かを伝えに来たっぽい様子。

 

「えっと、うまく行ったとは?」

 

「なんでもない。で、どうした?てかなんでノックの回数とか知ってるのさ」

 

そう聞くと、大淀は微笑みながら人差し指を立てた。

 

「武蔵さんから伝言ついでに聞きましたので。それで、それとは別件も報告しに来ましたので」

 

「へぇ。別件。もしや資材云々かんぬんとか?」

 

「いえ、その件に関しては気にしなくても結構です。そもそもかなりの量を備蓄してますからね。それに高速修復材も、それなりの量が備蓄済です。ですので、御気になさらず」

 

すらすらと言葉を並べる大淀に感心しつつ、とりあえず部屋へと入ってもらう。深読みしてアレだが、なんとなくおめぇにはまだ提督的な事するのは早いって言いたいのが察せるね。

 

今回は書斎机まで足を運ぶのが面倒なので、飛龍をどかしてソファへと対面するように腰を掛けた。飛龍がぶーたれたのは、言うまでもない。

 

「さて、本題に入る前に、一つ聞かせてください。存在をこんな早期に明かした理由は?」

 

そういえば大淀は、こっちに俺が来ていることを、武蔵に聞くまで知らなかったのか。おそらく驚いただろうが、まあ来れる云々の話が浸透して、どこまで驚愕を抑えれたのか、ある意味今後の参考として大淀から読み取れるかもしれない。

 

「んー。まずはじめにさ、驚いた?」

 

「ええ、とっても。ですが近々こちらにいらっしゃる事は朝礼の際に聞いていたので、早すぎではないでしょうかと、思ったくらいですね。混乱することは、ありませんでした」

 

絵に描いたような答えだなオイ。それはともかく、貴重な意見が聞けた。すべての艦娘がそう思っているかは当然違うだろうけど、割と頭の良いやつはこう捉えてるはず。うん。

 

「なるほどなぁ。で、理由だっけか?まあアレだよ。そもそも―」

 

後はかいつまんで説明をすると、大淀はふむふむと頷きながら、話を理解していく。

 

「なるほど。つまり今後の事を考えて、早急に事実を広めたと」

 

「そうそう。武蔵も加賀もこれには同意してくれてな、えっとそれで…うまく行ってた?」

 

少々ビクビクしながら聞いてみると、大淀は顎に手を当ててうなり始める。アレ?もしかしてマズッた感じ?

 

「まあその、きっと大丈夫だと思います。確かにラウンジは騒然としましたが、驚きのあまり混乱した様子はなかったと思います。いえ、むしろ提督が此方に来た割には、半分は歓喜の声で、もう半分は特に興味なしと言った所でしょうか。だから安心してかまわないと思いますよ」

 

おおう、そうだったのか。まあ武蔵が良くやってくれたと思っておこう。しかし歓喜の声を上げてくれたのって、どんな奴らだろう。ラブ勢は含まれるとして、他が気になる。

 

「うん。サンキューな。唐突だが…とりあえず今から外出しても大丈夫そうか?」

 

「え?ええ、きっと。もうあと十分ほどで昼休憩も終わりを迎えますし、邪魔さえしなければ良いと思いますよ。それと、本日休暇としている艦娘もいますので、そうした方とは普通に鉢合わせるでしょうね。別件はそのあとにしますか?」

 

「んーまあそうしてくれ。すぐ戻ると思うし」

 

別件ってのも気になるが、まずひとまず外に出たい。つうか休暇制度もあるのか。まあ月月火水木金金みたいな考えはもう古いとかなんだろうね。…ますます時代がわからんことになってるが。カレンダー執務室にないんだよなぁ。

 

「しかしまあ、やっと外に出れるわけか。なんかすげぇ長かったわ…」

 

「よかったね。で、どこ行くつもり?ひとまず案内はするよ?」

 

「そうだな。とりあえず」

 

飛龍の問いかけに俺はソファから立ち上がると、苦い笑いを思わず浮かべる。つうか、最初がコレってまあ何とも情けないが―

 

「トイレってドコ?」

 

 

 

 

「そりゃそうだよな…一階にあっただけでもマシか…」

 

とりあえず執務室から出た俺は、庁舎一階の端にある客間室の直ぐ近く、古びた男子トイレに行くことに成功し、階段付近まで戻ってきた。なお、当たり前だが飛龍はついては来なかった。むしろついてきたら全力で断るが。

 

しかし執務室から初めての外出がトイレってなんとも情けない。つうかまず、遠すぎる。執務室は四階の右端にあって、そこから一階まで下り、左端にある客間室の方向まであるかなきゃならないっていうね。そらまあ俺が来るまでは鎮守府なんてほとんどが女性なわけで、女子トイレしかないんだよね。無論ヤバイからって入るわけにもいかんし。もう四階にも男子トイレの設置、妖精さんに頼めないかなぁ?

 

「しかしまーた階段を上らなきゃならんのか」

 

目の前の階段を見て、思わずため息が出る。こう、学校の階段って地味に疲れるよね。あんな感じの気分。別に体力がないわけではないが、気持ちの問題。

 

「んー、つうか別件ってなんだろうか?」

 

階段に足をかけて、ふと思う。おそらく先ほどの大淀が話していた内容は、武蔵の件だろう。話の内容からして作戦成功なのは間違いないだろうが、大淀の反応を見ると歓迎と不歓迎の半々と言った感じだった。まあそうだよな。全員が歓迎するわけもないし。

 

「提督?」

 

と、そんなことを考えてる矢先に、ふと後ろから声を掛けられる。あ、やべぇ誰だろうか。

 

「あ、ああ。なんだ加賀か…」

 

振り返れば加賀が、腰に手を当てて立っていた。あぶないあぶない。普通に事情を知ってる艦娘で良かった。

 

「いや、ちょっとトイレに行っててな。お前は?」

 

「ああ、そういえば一階にしか、男子トイレはないわね。私は―」

 

加賀が話をつづけようとすると、加賀とは違う、別の女性の声が館内に響いた。

 

「あ、加賀さーん」

 

「ん、その声、瑞鶴か!」

 

「え、提督さん?提督さんなの?」

 

瑞鶴もどうやら俺を視界に入れたらしい。見下ろすのはなんか感じ悪いだろうし、ひとまず階段を下り、加賀の近くへと歩む。

 

「何の用?」

 

まず加賀が、瑞鶴に対して言葉を投げかける。しかし、読んだ割には瑞鶴は、大げさに肩をすくめた。

 

「いや別に?見かけたから声かけただけよ。それにしても、提督さんってどこにいるんだろうなーとか思ってたけど、庁舎のいたのね。へぇ間近でみると…」

 

そういって、加賀の近くまで合流した瑞鶴は、俺をまじまじと見つめる。いざマジマジとみられると、恥ずかしいな。提督服も、まだ着こなしてはいないだろうし…。

 

「ふうん。あんまりかっこよくないなー。なんと言うか頼りない感じ。蒼龍さんも見る目ないなー。眼科行った方がいいかも」

 

と、強烈な一言。わるうござんしたね。つうか俺の事はいいけど蒼龍を小馬鹿にするのは許せないなぁ、と内心思う。まあそんなことを言うと、大井ほどではないにせよ、キーキー言われそうなんで言わないですがね。

 

「フッ。そういうあなたも眼科へ行きなさい。顔はどうあれ、頼りないとは思わない事。彼はやる男よ」

 

内心不服感を抱いていると、加賀が急に鼻で笑い飛ばした。どうやら加賀は味方してくれるらしい。でも過大評価だと思うんですけどぉ。つうか信頼してくれてるのか?今後の事を見越して期待とか含んでるのか?むしろそれに押しつぶされそうなんだけどなぁ。

 

「はぁ?だって提督って言っても、結局は民間人上がりじゃない。そもそも海軍の方針で、美形じゃなきゃ採用されないんでしょ?」

 

そう突っかかる瑞鶴。異を申し立てるとこそこなんだ。いやまあ確かにそうだったらしいですね、旧日本海軍って。と、いうか美形じゃなくてすいませんね。どうせ老け顔おっさんですよ。

 

「…それもそうね。そこはあなたの意見を尊重するわ」

 

「あのー加賀さんもう裏切っちゃったの?ひどくない?つうか瑞鶴厳しくない?」

 

そろそろ物申したくなりますよ。つうか瑞鶴を見る限り、余り俺に対して友好的ではないらしいな。ああ、もしや大淀の言ってた、興味なし派の一人なのか?

 

「瑞鶴は恥ずかしがってるだけよ。たぶん」

 

そう加賀の言葉に、瑞鶴は若干身をたじろいだが、すぐに言い返した。

 

「は、はぁ?別に違うけど!だ、だいたいさ、こっちに来てどうしたいわけ?そもそも提督がこっちに来るとか何考えてるんだか!前代未聞よこんなこと?提督さんは向こうの世界でお茶でもコーヒーでも啜ってのんびり指示でもだしてればいいじゃん!こっちに来られると、いろいろ迷惑なわけ!風紀とか士気にも関係するわ!それに蒼龍さんも蒼龍さん!向こうの世界に行っちゃって、第一艦隊の席が空席になっちゃったじゃない!私の練度が上がるまで待ってよホント!」

 

瑞鶴のマシンガンのような意見に、俺はふと思う。途中私見が入ってるが、まあそれはどうでもいいとして、問題は俺がこっちに来たことに対しての純粋な不満と、蒼龍をある意味たぶらかして損失させた事に対する意思を、抱いていると言う事だ。

 

要するに俺が此方に来たことに対して興味ない派の中には、こうした不満を持ち、かえって怒りを孕んでいる艦娘もいる。そもそも此方に来たことで、良い思いをするだけとは限らず、おそらく今後もこうした事に対して、向き合っていく必要があるはずだ。武蔵の言っていたコミュニケーションとは、こうした意味もあるのかもしれない。まあ瑞鶴も表情からして加賀の言う通り照れ隠しっぽく悪意がない様子だが、事実そう思っているから、出た言葉の羅列だろう。

 

「ふむ、そうだな瑞鶴。俺はこっちに来ちゃいけねぇ存在だ。むしろ邪魔だよな、ありがとう。参考になったわ」

 

「なっ…そ、そこまで悪く言うつもりはないけど…でも風紀や士気にかかわるのは当然よ。と、言うかさ、加賀さんとはなんで妙に親しいわけ?」

 

ふと話題を変えてきたが、その指摘は確かにだ。不自然だわ。加賀もそういわれてハッとなってるし。

 

「わ、私たちは、提督と艦娘。上官に対して適切なコミュニケーションを取っているだけ」

 

ちょっと焦ったな加賀さん。まあ苦しい言い訳だと思うよ?うん。支援しよう。

 

「いや、ほら、俺と加賀って結構向こうの世界でも、窓を通じて会話とかしてたじゃん?まあだから、初対面って感じはしないわけよ」

 

「そうね。提督の制服をつくろったのも、私だし。私も初対面の感じはしないわ」

 

そう持ってきたか。確かにプライベートでこの服を繕ってくれたようだし、そうした話の帳尻合わせはナイス判断だ。しかし。

 

「え、いがーい。加賀さんも節穴だったんだ!こんな奴にその服を渡すのは、どうかとおもうなー」

 

まるで水を得た魚のように、瑞鶴は笑みを浮かべ、勝ち誇ったように言う。ああうん。瑞鶴の性格予想通りだわ。飛龍とはまた違う煽りスタイルをお持ちなようで。飛龍はヘルブラ仕込みだが、こいつは天性のあおり癖を搭載しているようで。

 

「頭にきました。提督、この七面鳥を叩いておいて、焼きやすくします」

 

「へぇ上等じゃない?私、前見たいに弱くはないわよ?不本意ながら、そいつの命で実戦は経験してるわ!」

 

二人はそういうと、何故かファイティングポーズを取り始める。おいおいキャットファイトはNGだ。目のやり場に困るんだあれ。てか瑞鶴の口ぶりからして、練度が一レベの際にも喧嘩した様子だなこれ。

 

「いやいや、いいっていいって。落ち着け加賀。瑞鶴も悪かったって。俺が目障りなんだろ?なら執務室に戻るから、二人とも矛を収めてくれって」

 

とりあえずこんな不本意な戦闘で両者中破とかになっても実にくだらないので、静止してみる。まあヒートアップしてるし無理かなーと思ったが、意外にも二人はこぶしを修めた。てか君ら女性なのにこぶしで殴り合おうとしちゃアカンでしょ。

 

「目障りってわけじゃないけど…それは命令?」

 

と、そんなことを思っていると瑞鶴はふとそう呟く。気迫漂う彼女に、俺は思わず一歩下がった。

 

「え、いや、提案…かな?」

 

「じゃあ止めません。ほら七面鳥構えなさい?」

 

すると、加賀がそう言い放ち、またこぶしを収めた瑞鶴ももう一度構えを取る。おいおいなんだそれ!自主的には止めねぇってことかァ!?

 

「あーまてまて!命令!これ命令!提督命令だ!」

 

再びおっぱじめそうだったので、急いで訂正をする。すると不服そうにも、彼女らはこぶしを下ろした。命令厳守なのか。なるほどね。

 

そういえば、以前明石と大淀が俺と蒼龍のやり取りを覗いてたとか言っていた際、罰としてグランド数周を命じたことがあったな。冗談のつもりだったがあいつらは阿鼻叫喚で、あれも正直命令調だから、結局やり遂げたんだろうな。つまり、俺の命令には絶対服従ってことになるのか?

 

「…あー瑞鶴。気を悪くしてるとこ悪いんだが、お前は俺が出した命令には絶対従う訳?」

 

そう何気なく問うと、瑞鶴は心底嫌そうな顔をした。

 

「…そら、まあね。一応提督さんは、私の上官に当たるわけだし…。私たち艦娘は、従わざるを得ないわけで…」

 

へぇそうなのか。なら、少しお仕置きだな。俺の事はいいが、蒼龍を小馬鹿にした件は忘れてねぇからな。それにある意味向こうの世界とこっちの世界の指示が通るかの、実験にもなるし。

 

「ふむ、なら瑞鶴よ。一航戦より練度が上で、なおかつ強いはずだよな?」

 

その言葉に、加賀は少々驚いた顔をして、瑞鶴は一瞬嬉しそうな表情になったが、すぐに平常心を装う顔となる。

 

「ええ、当たり前よ。私の方が強いわ」

 

自信満々に言う瑞鶴に、俺は思わずにやりと口元を歪ませた。

 

「おお、心強いな。なら、演習で単艦でも大丈夫だろ。命令だ。単艦で演習の相手をしてこい。いやー瑞鶴よ、期待してますよォ!そうだもんな、五航戦は強いもんな!」

 

「え、ちょ、ちょ待って!」

 

瑞鶴は先ほどの自信満々の顔から打って変わり、顔を歪めて制止させるように手を伸ばした。どうやら向こうで上位提督がやってくれる、有り難いが申し訳ない単艦放置は通用するらしい。しかもコイツの表情からして、キツイと来た。でも瑞鶴さんツヨイんでしょ?

 

「え、でも瑞鶴は頼れる艦娘だしなぁ。いやー瑞鶴を家に迎え入れれたのは正解だったな加賀!」

 

そう加賀に言うと、加賀もやっと意図を理解したようで、その処罰に満足が行っているようだ。にやりと思わずほころんでいらっしゃって、あくどい笑みである。

 

「そうね。私も期待しているわ。提督、そういえば九六式艦戦が多く余っているわ。瑞鶴の事だし、きっとあの子たちも素晴らしく扱ってくれることでしょう。どうかしら?」

 

「お、いいねぇ。瑞鶴の良い所見てみたいなー」

 

すると、瑞鶴はうぐぐと言ったように苦しい顔になる。そして腕を組み、言い放った。

 

「ええいいわよ!やってやるわ!やってやるわよ!そして私だって、第一艦隊に入れるくらい強いって所、見せてあげようじゃない!バーカ!」

 

瑞鶴はそういうと、庁舎の出入り口から走り去っていった。命令には逆らえないって言ってたし、しばらく単艦で相手するんだようなぁアイツ。まあかわいそうだが練度は上がるし、瑞鶴も強くなれるのは間違いないだろう。そう望んでいたのは、あいつだし。

 

「さて、戻るか。つうか加賀はどうすんだ?」

 

「私も実は、執務室へ向かうつもりだったの。ちょうどよかったわね」

 

こうして、執務室へと戻る事となった。

 




どうも、あけましておめでとうございます。飛男です。
今年のおみくじは大吉でした。いいことが起こるといいですよね。まあ、結局は願掛けというか、これからも気をつけろっていう暗示らしいですがね、大吉。

さて、今回はネタ回?です。瑞鶴ってかわいいですよね。こう、負けず嫌いで、美恵はってる感じが、私のイメージだと、こんな感じです。でも蒼龍がすきですまる

では、今回はこのあたりで、また次回お会いしましょう。

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