提督に会いたくて   作:大空飛男

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お久しぶりです。今回は少し短いです。


鎮守府生活の、第一歩だ。

鎮守府着任二日目は、すがすがしいとは言いにくい起床だろう。しっとりとした空気を肌身に感じて、不快感を感じつつ目覚めたからである。

 

まだ薄暗い様ではあるが、時計を見ればすでに早朝を迎えている事に気が付く。

 

とはいうもの、時刻は四時半といったところ。早朝というには個人的に早すぎる。もう少し寝てしまおうかと思ったが、どうも寝つけれそうにはない。いや、四時半ってそもそも早朝?深夜?どっちだ。

 

「ふぁーあ。まあいいや、変な時間に目が覚めちまったな。中途半端だ」

 

少し損した気分になりながらも、布団から体を起こす。昨日、寝る前に飛龍には――

 

『六時頃に起きれば、いいと思うよ。お寝坊には罰が待ってるからね。期待してるから!』

 

こう教えられていたために、この鎮守府内においても早起きだろう。期待ってなんだ?俺が罰せられるのでも見たいのかあいつは?

 

「つうか、本格的に始まるんだろうなぁ。ここでの生活」

 

そんなことをつぶやきながら、布団から身を出す。今日は何するかわからないけど、少なくとも朝礼には出なきゃいけないだろうし、何かしらの業務も開始されるはずだ。そう考えると少し憂鬱な気持ちになる。そもそもよく漫画でありそうなパターンではあるけどさ、俺みたいな民間人がいきなり軍事組織に組み入れられて、とんとん拍子に成功するなんてありえないでしょ。おそらく失敗を積み重ねていくんだろうなぁって重荷が、割とくる。

 

 まあくよくよしたって始まらないので、布団をたたみ終え、それを押し入れにしまうと、クローゼットを開いてみる。

 

「…もう一回これ着るべきなのかなぁ」

 

 純白に輝く提督服は、さらに俺をげんなりとさせる。いわば提督の証みたいなものだろう、この服は。そもそもこんなもの柄じゃないし、せめてもう少しラフな格好をさせてはくれないものか。それこそ、大淀や武蔵にでも聞いてみようかね。

 

 まあぶつぶつと言っても仕方ないだろう。とりあえず明石が用意してくれたインナー類や下着なんかはあるもんだから、それだけでも良しとする。つうか明石、なんでこんなもん用意できたんだろうか。

 

「まあ女性用の下着じゃないだけましだわ。ははは…」

 

それしかないからとか言われたらどうしようかと思ってた。特殊な趣味の方なら大喜びかもしれないが、俺はノーマルだ。アブノーマルではない。そうなっていたら最悪着回しだっただろう。

 

とりあえず仕方ないと割り切って、提督服にささっと着替える。しかしやることがない。さて、どうしようか。

 

「そうか、どうせなら散歩でもしてみるか。何か発見があるかもしれない」

 

要するに暇つぶしなんですがね。でも、少し憧れもあったりする。こんな時間に鎮守府を一人で歩けるなんて、ある意味では贅沢だし、洋画とかではよくありそうなシチュエーションだ。大体は走ってるけど。まあそんな作品の登場人物の一人となった感じで、探検してみることにした。

 

 

ふらふら歩き続けて、大体三十分くらいが経過しただろうか。腕時計なんてものはこっちに持ってきていないし支給もされていないので、明確な時間は体感時間からの計算である。そういえば明石が必要な物あったら言ってくれとか言ってたっけ。どうせなら何が頼めるかとか聞いてみよう。また後で。

 

さて、言うまでもないが大体の施設は施錠されている。つまり開いていないし開く気配もない。昨日尋ね歩いた施設をもう一度把握しあう名目で歩いていたものだから、特別訪れる気などなかったけどね。

 

ちなみに艦娘が寝泊まり生活している宿舎にも、鍵がかかっている様子だった。まあ当たり前だろうとは思うが、もしや俺が来たから鍵閉めるようになったのかと考えると、ちょっぴり気分が落ちる。俺、信用されてないのかなってね。

 

「おっ…まぶし」

 

港に出れば、大々的にゆっくりと昇りゆく太陽の日差しが、目に刺さる。目上を手で覆い光をカットすると、奥に数人の人影が見えた。

 

「おお?」

 

誰だろうかとまぶしいなりに目を凝らしていると、向こうもこちらに気が付いたのだろう。一人走り寄ってくるのが見える。

 

徐々に視認できるようになると、どうやら女子高生のようだ。いや、女子高生なんてこの鎮守府にはいないけどね、普通に艦娘だけどね。

 

「おーい提督ー。艦隊戻りましたー!」

 

確かこの決まり文句のようなセリフを言うのは――

 

「鬼怒か」

 

鬼怒はうちの鎮守府だと一番最初に練度がカンストした軽巡だ。指輪抜きの話だが。

 

そもそもどうして鬼怒を?と疑問を持つだろう。俺だって不思議。なんたってサービス開始付近の鬼怒は『コロンビア』をしているネタ的艦娘扱いで――今でもそうだけど――それ以外注目されることがあまりなかった記憶がある。それなのになぜか、摩訶不思議な、ともかくどうしてだろうと言わんばかりに、練度が爆上がりしていった。本当に今でもわからない。

 

と、そんな事を思い出していると、鬼怒は会話に不自由ない距離までたどり着く。軽く走ってきたはずだが、肩で息をしているあたり、疲れを感じることができる。

 

「おー出迎えしにきたの?良い所あるんだねー提督。見直しちゃったー」

 

「え、あー。おう、そうだぞ。遠征ご苦労」

 

まあそんなことないですがね。実際はただ散歩してただけなんですけども。つうか遠征君らが行ったことを把握してなかったし。誰が出した?大淀?武蔵?

 

「ふふーん。作戦大成功だからね。たーくさん燃料鋼材をゲットしてきたよ。どう?すごい?」

 

「すごいじゃないか。…しかし見直したっていうと、お前もあまりよく思ってない口か」

 

「え、なにが?」

 

頭にはてなマークを浮かべているような、不思議そうな顔をする鬼怒。こいつのことだから、何にも考えてない可能性のほうが高いかもしれない。

 

「あーいいわ。やっぱ」

 

「えー。気になるー。ねえー気になるんだけどー」

 

どこぞの黄色空母のように、腕をつかみぶんぶん振り回してくる。あいつの場合は胸を押し当ててきたりして俺の反応を楽しんでくるが、そこまで鬼怒はしないようだ。…別に下心なんてありませんがね。比較ですよ比較。おしいとか思ってないですよ。ええ。妻に誓って。

 

「…まあじゃあ聞くけど。俺がこっちに来て迷惑だったかって話よ」

 

「…え?普通うれしくないのかな?鬼怒はすっごくうれしいよ」

 

さもそれが当たり前だろうと言わんばかりに、鬼怒はすっぱり言い放つ。ちょっとうれしいが、喜ぶ顔は見せないでおこう。

 

「お、おう、そうか。ならいいんだ。…っと、他の奴らも来たか」

そうこう話していると、他の遠征組もこちらへと寄ってきたようだ。東京急行弐組なだけあってそこそこの練度を持つ艦娘で、つまり馴染みのある奴らである。

 

「提督、おはようございます!」

 

「おぉ~提督じゃないかー。江風さんをお迎えとは義理堅いねぇ~」

 

元気よく挨拶をしてくれたのは、朧と江風だ。そんな彼女に続いて、道場でも見かけた三日月や、遠征にはよく赴いている不知火に菊月も寄ってくる。

 

「提督…。おはようございます」

 

不知火は淡々とした姿勢で言う。いつも通りの様子だ。つんつんしているが、それが逆に愛らしいのが彼女の特徴だろう。

 

「うん。おはよ。そしてお疲れさまと言うべきか」

 

「いえいえ、これも朧たちのお仕事なので。むしろお仕事がない方が個人的には堪えてしまします」

 

なるほど、そういうとらえ方もあるのか。働いたら負けとかそういう考えもあるが、それは差別的な発言になってしまうけど裕福で充実した人間がいうことかもしれない。彼女らは人間でもあるが兵器でもあって、それゆえに使われないと不満がたまるのは、間違いないだろう。

 

「あれ…?じゃあなんでだ?」

 

思わず声に出る。じゃあなんで天龍はあんなにブチ切れてたんだろうか。あいつは遠征にもよく出るし、仕事がないわけではないはずだ。確かに出撃数は昔に比べ減ったかもしれないが、今ではすっかり遠征番長で、大きく貢献していると思うんだが。

 

「どうしました?」

 

不知火が俺の言葉に反応したようで、声をかけてくる。ふむ、どうしようか聞いてみるべきか…。

 

「んー。天龍ってさ、なんか不満とか持ってたりするのかな?」

 

一人で悩んでも仕方ないので、ともかく聞いてみた。すると全員、唸るようにして考え始める。

 

「鬼怒はわからないなー。なんていうか、いっつもおらおらーって感じだし、少し抜けてるし、悩みとか聞いたことないなー」

 

「朧もそんな感じです。と、言うか天龍さんとあまり話さないですね。その、昔はよく話したんですが、今は友達も増えましたし、一緒の遠征隊にも組まれないので」

 

「ええ、不知火も同じです。高練度組なので」

 

「んー江風さんはそもそもが運用違いでなぁー。ほら、大発積むし?」

 

鬼怒、朧、不知火、江風は純粋にわからないようだ。確かにレベルと艦種の関係上、彼女らは天龍と一緒に仕事になることは少ないだろう。基本は天龍龍田コンビでの遠征組に、鬼怒や朧といった高練度で構築された遠征組。おまけに鬼怒は必要時には前線に出るし、まず天龍とはかかわらない。

 

「…私もわからないですね。天龍さんはいっつもなんだかんだ優しいですし」

 

「記憶にはない…。この菊月…天龍と一緒することは多いが、遠征時はあまりしゃべらないからな…」

 

三日月と菊月も、彼女らとは同意見のようだ。正直この二名は燃費的にも天龍と一緒の任務に就くことが多いので、何か知っているかと思ったが…。

 

「あ、そう。まあいいや。すまんね、変な事聞いて」

 

「いや…司令官。別に構わないぞ…。その、私たちにも気軽に声をかけてくれるのは…うれしい…」

 

少し照れくさそうに言う菊月。そんなほとばしるうれしいオーラ出されても、これが普通じゃないのか?

 

「そう?じゃあ今後も気軽に話しかけるわ。いやー話し相手が増えるのはうれしいからね」

 

「…司令官には話し相手がいない…?ぼっちなのか?」

 

「ぼっちちゃうわ。ただ、安易に声をかけたら、拒絶されるのはさすがに来るものがあるからな」

 

そういうと、三日月が「あっ…」と何かを察したような顔をする。まあきっと、天龍事件のことを思い出したんだろう。要するにそういうこと。拒絶されたり、嫌がったりされるのはこっちとしても向こうとしても、嫌な思いしかしないだろうしね。

 

「よーし、じゃあ鬼怒は今度執務室に突撃するね!御菓子は持っていくから、お茶よろしくね!」

 

「図々しいねぇ君。まあいいけどよ」

 

こうして遠征隊とは気軽に打ち解けることができたが、結論を言うと収穫はナシだ。まあ散歩がてらに遠征隊と仲良くなれたのは、普通に収穫なのかもしれないがね。

 




どうも、飛男です。
こんかいも二か月開いての投稿ですね。リアルで忙しいので、許してください。
さて、鎮守府生活がこれで開始されます。いろいろ考えてはいますが、のんびり書いていくつもりです。

では、また次回お会いしましょう。

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