Fate/Zero ~Heavens Feel~   作:朽木青葉

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エピローグ
奇跡の果て


 ――翌日

 

 チャンネルはどこも、昨晩の柳洞寺で起きた大崩落のニュースで持ち切りだ。

 山の一部が崩れる大騒動だったが、それでも民間人の死者、行方不明者ともになし。

 関係者であるウェイバーもここ、マッケンジー家へ無事戻ってきていた。

 敵の蟲に襲われ、一時は最悪を覚悟したウェイバーだったが、その後現れたバーサーカーのマスターだった人物と、謎の女性に助けられた。

 ただ、――もう、ライダーはどこにもいない。

 

「――アレクセイさんは、無事にイギリスに着いたかしらねぇ……」

 

 心配顔で呟くマーサ夫人に、ウェイバーは気安く頷いた。

 

「明け方にヒースローから電話してきたよ。時差を考えろってんだよ、まったく」

 

 咄嗟の嘘にも、心は揺らがなかった。

 

「あら電話が、気づかなかったわ。ウフ、でもまぁ、あの人らしいじゃないの」

 

 くすりと笑って頷く夫人。

 その顔を眺めてから、ウェイバーは決意を固め、その言葉を口にした。

 

「……ねぇ、お爺さん、お婆さん。ちょっと相談があるんだけど、いいかな?」

 

 神妙な切り出したウェイバーに、2人はコーヒーを啜る手を止めた。

 

「どうしたのだ? 改まって」

 

「うん、実はね……しばらく休学しようと思うんだ。もちろんトロントのお父さんにも相談してからだけど。学校の勉強よりも、別のことに時間を使いたくなって」

 

「ほう」

 

「あらまぁ」

 

 思わぬ孫の発言に、老夫婦は目を丸くする。

 

「でもまた、どうして急に……もしかして、学校が嫌になったの?」

 

「いや、そういうわけじゃない。ただね……今まで勉強以外のこと、ろくに興味持たなかったのを、ちょっと後悔してるんだ。それでね……うん、旅をしようかと思う。外の世界を見て回りたい。これから先のことを決める前に、もっといろんなことを知っておきたい」

 

「まあ、まあ」

 

 夫人は何やら嬉しげに胸前で手を合わせ、朗らかに微笑む。

 

「ねぇ聞きましたかグレン? ウェイバーちゃんったら急に、まるでアレクセイさんみたいなことを言い出したわ」

 

 その評されようが、少しだけ嬉しく、またほんの少しだけ寂しく、ウェイバーは苦笑いを浮かべる。

 

「ともかく、まぁ色々と準備というか、先立つものも必要になるし、まずはアルバイトでも始めようかなって。……それで、さ。ここからが本題なんだけど。この冬木で、英語しか喋れなくても勤まる働き口って、ないかな?」

 

 ふぅむ、とグレン老人が思案顔で腕を組む。

 

「んん、まぁこの街は、日本にしては珍しく外来居留者も多いしな。儂の同僚のつてを頼れば、けっこう色々と見つかるとは思うが」

 

「ウェイバーちゃん、それじゃあ――もうしばらく日本に?」

 

 目に見えて明るい顔になったマーサ夫人に、ウェイバーは頷いた。

 

「うん、もし構わない様なら……目処がつくまでこの家で厄介になっても、いいかな?」

 

「もちろんですとも!」

 

 まるで小躍りせんばかりの喜びようで夫人が手を叩く。そんな老妻の隣で、グレン老人は真顔のまま、ウェイバーだけに分かるように小さな目礼を寄越してきた。ウェイバーもまた軽く肩を竦めて、照れながらもウィンクを返した。

 

 ――ライダーはいなくなった。

 それでも――少年の物語はまだ始まったばかりだ。

 

 

 ――2か月後。

 

「――本当にいいのか?」

 

 尋ねる時計塔のスタッフに雁夜は頷いた。

 

「ああ、残り少ない命だが――何とか、間桐復興に役立てて見せるさ」

 

 そう言って、そのスタッフと別れる。その顔は、まるで憑き物が落ちたかのような、雁夜元来の人当たりの良い青年のモノだった。

 ――無論、戻らないモノもある。

 痛々しい魔術の痕跡はあの頃のまま。

 皮膚のあちこちはただれ、髪には今も色はなく、失った右腕もそのままだ。知り合いに人形師を紹介されたこともあったが、それは丁重に断った。

 

「…………」

 

 そして、時計塔のスタッフと別れたあと、帰路につきながらあの夜について思いを馳せる。

 ――あの夜、臓硯に対し離反を伝えた雁夜。

 無論、反逆者を許す臓硯ではない。すぐに雁夜の体を乗っ取ろうと襲い掛かってきた。

 彼自身、そこで死ぬ覚悟だったが――幸運なことに間を開けず駆け付けてきた舞弥さんと、雁夜が死ぬよりも早く臓硯を打ち倒した切嗣によって助けられた。

 そうして生き延びること2か月。

 臓硯の死によって、本日から正式に――雁夜が間桐家当主となった。

 ――だが、残された命は短い。

 2か月保っただけでも奇跡なのだ。残りはもう2か月か、それとも1か月か……。

 残された時間は多くない。

 そんな中で雁夜は――桜が安心して暮らせる土俵を築くことを決意した。

 ――雁夜亡き後も、桜の身には魔術師の血の呪いが降りかかる。

 後ろ盾がなければ、すぐにでも時計塔に捕縛され、実験材料にされてしまうだろう。

 そうならないように雁夜は――自身の後継者として桜を指定し、魔術師としての正式な訓練を始めている。

 

「……て言っても、俺も素人だから、一緒に習ってるが正しいのかな?」

 

 幸運なことに、あれからも切嗣さんが2人の面倒を見てくれていた。魔術の勉強も舞弥さんから教わっている。

 そうして、桜には早く1人前になって貰い――1人になっても大丈夫なように、その土俵を雁夜が作る。

 

「忙しくなるぞ……時計塔関係者への根回しに、結界の強化。俺がいなくなった後に変なことしないように鶴野兄さんにも言い含めて……」

 

 下手をすれば、臓硯の蟲蔵で責め苦にあっていた時よりも辛く、厳しい毎日になるかもしれない。

 それでも、不思議と足取りが軽い。

 何故なら――

 

「――カリヤおじさん」

 

 道行く先に、そう呟き、こちらへ手を振る桜の姿が見えた。

 

「――――」

 

 その光景に、雁夜は一瞬眩しそうに目を細めた後、

 

「――桜ちゃん」

 

 そう手を振り、家路を急いだ。

 守るべきもののいる――温かい我が家へ。

 

 

「――キリツグ。早く早く!」

 

 と、切嗣の目の前で楽しそうに白い少女が回る。

 ――イリヤスフィールフォンアインツベルン。彼女は今、彼の目の前で眩しい笑顔を浮かべていた。

 

「――――」

 

 その幸せな光景に切嗣は表情を和ませる。

 ――あの決戦の日、彼は『衛宮切嗣』としてのすべてを失った。

 けれど、まるでそんな過去を清算する様に、今切嗣の目の前には幸せな日々が続いている。

 あれからというもの、切嗣の前から去る者はいない。

 かつての出会いは別れの始まりでしかなかったというのに。

 

「…………」

 

 その幸せな日常を噛みしめながら、切嗣は再びこの半年間の出来事へと思いを馳せた。

 ――あの決戦の後、切嗣はアインツベルン城へと舞い戻った。

 当然、聖杯を持ち帰らなかった薄情者にアハト翁は門を開かず、1度目は冬山を駆けずり回ることとなった。

 そこから、2度目のアタックで切嗣は傭兵時代のコネクション、財力、人材、持ちうるすべての力を総動員し、実力行使に移った。

 サーヴァント並の腕力を持つホムンクルスたちと壮絶な争いになったり、2体のホムンクルスが何故か勝手に切嗣の方へついて来たりと、紆余曲折はあったもののこうして無事イリヤを取り戻せた。

 母親を失ったことにより、一時はショックを隠し切れない様子だったイリヤも今では元気を取り戻している。

 失ったものは多い――それでも、切嗣は我が子を取り戻せたのだ。死んでいった妻の残してくれた希望――――

 

「――――」

 

 その明るい未来へ、切嗣も歩き出した。

 

 

 そうして―――また、新たな出会いが訪れる。

 

 

 その日2人はある少年を迎えに行くため、彼の入院する病室を目指していた。

 なんでも、ある事件で両親を失ってしまった子供らしい。

 ――その運命は必然か……。

 何も知らない彼らは、そんな少年を新たな家族へ向かい入れようと、彼の病室へ足を踏み入れたのだった。

 

「こんにちは。はじめまして」

 

 と、病室へ入るや否や、イリヤが少年へ詰め寄り声をかけた。

 

「…………」

 

 突然入ってきた異国の少女に戸惑った様子の少年。

 無理もない、と切嗣は笑い、イリヤの後に続いて言う。

 

「はじめまして。おじさんたちは君の家族になりたいと思ってきたんだ。

 ――率直に訊くけど。孤児院に預けられるのと、初めて会ったおじさんたちに引き取られるの、君はどっちがいいかな」

 

 その言葉に、驚いた様子で目を見開く少年。

 それでも、いくつかの質問の後、首を縦に振ってくれた。

 その答えに切嗣とイリヤは揃って笑顔を見せる。

 

「そうか、良かった。なら早く支度をすませよう。新しい家に、1日でも早く慣れなくっちゃいけないからね」

 

「わーい! イリヤの弟だー!」

 

 切嗣は慌ただしく荷物をまとめ、イリヤは、はしゃいでクルクル回る。

 そうして散々騒いだ後、

 

「そうだ、切嗣。大切なコトを伝え忘れてるわ」

 

「ん? ―――ああ。うちに来る前に、1つだけ教えなくちゃいけないことがあった」

 

 そう振り返る切嗣。

 そんな彼の代わりに、イリヤが胸を張って言う。

 

「えっとね。キリツグは――魔法使いなんだよ!」

 

 その何とも怪しい言葉に、

 

「――――うわ、爺さんすごいな」

 

 少年は目を輝かせて、そんな言葉を返した。

 

「でしょでしょ! キリツグはすごいんだから!」

 

 それにイリヤが機嫌を良くして叫ぶ。

 

「私はイリヤ。イリヤスフィールフォンアインツベルン。あなたは?」

 

 手を差し伸べて問う異国の少女へ、

 ――赤銅色の髪をした少年は、

 

「――――士郎。俺は、士郎だ」

 

 と、はっきりとした口調で答えた。

 

「……シロウ、シロウ、かあ――うん、気に入ったわ!」

 

 その名前に、イリヤは嬉しそうに笑い、

 

「これからよろしくね、士郎!」

 

 少年の腕に抱きついた。

 

 ――こうして、再び運命の歯車は動き出す。

 

 

 聖杯戦争の後、綺礼は父の跡を継ぎ、正式に冬木市教会在住の神父となった。

 ――あの決戦の後、様々なことを考えた。

 自身の性のこと。

 同じ宿命を背負う同類のこと。

 そして――そんな綺礼を愛してくれた女性のこと。

 

「…………」

 

 結局、綺礼はあの男と違い、この生き方を変えることは出来なかった。

 それで良いとは言わないまでも、変える必要はないのだろうと、今は思える。

 だが、――もう少し、抗ってみようとも決意した。

 ――最後の試みとして綺礼は1人の女性を愛そうとした。

 ならば、

 

「…………」

 

 そして、綺礼はその教会の前へとたどり着く。

 ……数年ぶりの再会だが、緊張はしていない。

 そもそも、1度は見捨てた身だ。相手は、綺礼のことなど覚えていないだろう。

 それでも、

 

「……はい、どなたですか?」

 

 そうドアを開け、綺礼を見た少女は驚きから目を丸くした。

 その姿を目にし、綺礼は微笑む。

 

 ――最後の試みとして綺礼は1人の女性を愛そうとした。

 ならば、

 

「――こんにちは、カレン」

 

 あの少年に倣い、もう少し続けてみようと思う。

 ――その『家族ごっこ』を。

 

 

 

――――Last Episode

 

 長い旅だった。

 

 ――もう、何度繰り返したか分からない。

 

 記憶も摩耗し、もう自分が誰なのかさえ思い出せない。

 

 ――――それでも、荒野の中を■■■は進む。

 

 自らさえ見失う永劫の時の中、それでも失わない映像があった。

 

 ――たくさんの人がいる。

 

 食卓を平和に囲み、ほほ笑む人々。

 

 その内の1人がこちらを向き、

 

『――■■■』

 

 そうほほ笑んだ。

 

 ――――――荒野を進む。

 

 ――――――――果てのない道を行く。

 

 その先で――――――――――

 

「あ……………………」

 

 その場所へ辿り着いた。

 

 ――何度、空に願ったか分からない。

 

 会いたかった。

 

 会いたかった。

 

 会いたかった。

 

 そして――

 

 待ち望んだ理想郷は、あの日のまま。

 

 目の前には、たくさんの人がいる。

 

 集まる彼らを代表して、1人の少女が微笑みかける。

 

「おかえり、――――シロウ」

 

 少女が名を呼ぶ。

 

 少年の名を。

 

 同時に、記憶は鮮明に――――

 

「ああ、――――ただいま、イリヤ」

 

 そうして、

 

「――――――」

 

 長い旅路を終え、――――少年は少女の元へと駆け寄った。

 

 

 こうして、舞台の幕は下り、語り部は沈黙する。

 されど、彼らの物語は終わらない。

 

 ――多くの悲劇があった。

 

 ――たくさんの救われぬ人々がいた。

 

 それでも、彼らは彼らの道を歩んで行く。

 大切な人たちの待つ、

 

 ――――その希望溢れる未来へと…………

 

 

~FIN~

 




 ――イリヤは出ないと言ったな……あれは嘘だ。


 ……ということで、『Fate/Zero ~Heavens Feel~』これにて完結となります!

 行き当たりばったりから始まった今作なのですが、まさか完結できるとは……感無量です。

 そんなあやふやな作品なので、あらすじ詐欺、ヒロイン詐称、長期の休載……その他諸々本当にご迷惑をおかけしました。
 そんな中でも、応援してくれた皆さん。いくら感謝してもし足りません。

 すべての読んでくれた皆さんへ。
 本当にありがとうございました!
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