Real-Matrix   作:とりりおん

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バトルパートになるはずだったのが日常パートになる・・・・・・はずだったのがバトルパートの手前で終了という形になりました。二転三転してホントすみません・・・・・・


闇を抉るは飛龍の爪 Independent Wyvern

 マグナモンがネットの海に臨む断崖にてデスモンを討伐し、負傷した躯のまま帰還して間もなく。デスモンに転送プログラムにて放逐され、未だ負のデータの溜まり場をデュークモンが浮揚していた頃。

 

 ヴァルハラ宮――聖騎士達の城にして、世界樹の名を冠した電脳世界の唯一神、「イグドラシル」が最深部に鎮座するとされる聖域。

 

 地上7,000メートルか8,000メートルに達そうかという険峻な銀嶺の頂きに偉容を誇るその大宮殿は、あたかも塵界の喧噪とは無縁であるかのように、寒々とした静寂の中に佇んでいる。

 

 聖騎士の象徴である十三の尖塔は天を衝かんばかりで、円形を成して聳え、彼方の神域を抱くように群れる。うねる北極光の移ろう極彩色をした障壁を越えることが叶ったのならば、日の差さぬ凍える極夜の漆黒を映し取った外壁を目にすることが出来るだろう。

 

 高潔や正義の権化として戦いに身を投じる者達の居城としては、およそふさわしくないであろう色を。

 

 しかし、聖騎士団を発足させ、城の建設を提唱した皇帝竜はこう言った。

 

 ――純白ならば、染まってしまう。脆すぎると。

 

 確固たる信条の元、騎士は行動しなければならない。

 

 心が揺らいではならない。もはや何ものにも染められない漆黒として、その信念の命ずるままに戦わねばならない。

 

 そしてまた、時には犠牲を厭わず信念を満足させることを覚えねばならない。清廉なる正義とは呼べぬであろう信念を。

 

 その証として、城は黒くする。

 

 しかし、皇帝竜とて、無軌道に信念を掲げよといったわけではない。

 神意を逸さない限りにおいて、信念を貫けと言ったに過ぎない。

 

 だがもはや、ドゥフトモンは知らない。神意とは何かを。

 

 彼は不毛な自問自答を繰り返す。

 

 ――神意とは何だ。

 

 予言に依りて我々をセキュリティ最高位の騎士に任じておきながら、何の前触れもなく見限り、咎もなしに不死性を剥奪し、命に限りある脆い存在に堕したのが神意なのか?

 

 神は死んだのだ。

 

 喩え大樹は未だ枯れずに屹立しているとしても、死んだも同然ではないか――

 

 その千々に散逸しそうな心を、かろうじてドゥフトモンを繋ぎ止めていたのは、聖騎士達を束ねる者としての地位だった。

 

 ドゥフトモンはロイヤルナイツ創設時に皇帝竜より司令塔に封ぜられ、爾来ヴァルハラ宮に常駐し、有事の際にはロイヤルナイツ全員に事の次第を通達し、必要とあらば指示を出す権利を行使してきた。

 

 かつて束ねていた矢数は十二もあった。

 

 しかし、ベルフェモン討伐に駆り出された同胞は、神の加護を失って冥府のあなぐらを漂う二進数の塵と成り果てた。

 

 イグドラシルに神意を問うべく赴いたオメガモンには、何の咎あってか天誅が下された。

 

 ロードナイトモンは“希望”を逃がす代償に、魔王の凶刃に斃れた。

 

 デュークモンは異空間に放逐され、帰還は叶わぬやも知れない――。

 

 今や、矢の総数はたったの5本。

 

 握り込んだものは余りにも少なくて、掌底に爪が食い込みそうだ。

 

 だが、手放すわけにはいかない。自身の自己同一性を守り通す為にも。

 

 最後の一本だけが残っても。

 

 黄金の鬣を緩やかに波打たせる黒豹を模った簡素な甲冑を纏い、背より天使のそれに似た純白の翼を二枚生やした聖騎士は、悲愴ですらある覚悟に突き動かされて、ディスプレイの前に佇立していた。

 

 ディスプレイ以外の一切に背を向けた状態の彼は無防備という他ないが、波動感知センサーは意図的に切ってあった。センサーを起動し続けるのは単純に疲弊するからというのが一つ、そしてそれ以上に――彼を背後から強襲するような輩が侵入するような事態は、金輪際発生しない、してはならないという“安全神話”への盲目染みた信頼ゆえだった。

 

 しかし、突如階下から掛かった声に、その神話が崩壊する音をドゥフトモンは聞いたような気がした。

 

「失礼する。通達を受けて来たぞ」

 

 硝子が砕ける様にも似てドゥフトモンの思考が破られ、背筋を悪寒にも似たインパルスの激流が這い上がっていく。

 

 (何者――!!!) 

 

 インパルスが回路を疾駆し終えるより前に、最大級の警戒態勢へと突入する。あらゆる感覚器が極限まで精度を高めて稼働し出す。

 

 ――全く気配がなかった。いや、今もない。

 

 声を聞くまで、何者かが居ることにすら気付かなかった。

 

 奇妙だ。幾ら訓練しようとも、電脳核の波動を完全に停止させることなど、心臓を止めることと同様に不可能であるのに。

 

 対象に接近しなければ波動を感知出来ぬとはいえ、全く感知出来ぬなど有り得ない。

 

 究極体である、もしくはそれに準じた力を有する者が然るべき修練を積んだならば、草木が伸びる音を聞き分けるが如く、絶えず震える大気の中から生命の鼓動を拾う力を習得するのだから。

 

 何より、全く聞き覚えがない声だった。

 

 超速で電脳核の深部に圧縮して格納されている、膨大なメモリーデータを照会しても、該当結果は一つもなかった。

 

 このような、険があり、高慢であり、それでいて鷹揚な声など知らない――

 

 本能に追い立てられるまま、腰に佩いた白銀の円錐剣を抜剣する。涼やかな金属音が奔り、刀身が空間を満たす淡い白色光に濡れて冷たく艶めく。

 

 抜剣の勢いのままに背後を振り返り、切っ先から収束したエネルギーの光線を声のした方向に放った。

 

 急だったゆえ、力を完全には練り切れておらず、大した威力は期待できない。

 

 だが、敵ならば牽制として上出来。ダメージを与えられれば儲けもの。

 

 味方なら――これしきの攻撃は難なく躱すはずだ。

 

 果たして、闖入者は後者だった。

 

 ゆらりと左側に体を傾けると、射線から身を外すことで事なきを得る。ドゥフトモンが矛先を向けてくる数瞬前には、既に動作に移っていたのだった。

 

 ほぼ同時に光線は彼の首と右肩の間の僅かな空間を擦り抜け、クロンデジゾイド製の内壁に衝突した。瞬く間に幾筋かに分かれて壁を四方八方に奔り、彗星の尾のように消え去る。

 

 緊密な二秒ののち、ドゥフトモンは深紅の双眸に来訪者の姿をしかと収めることが出来た。

 

 5メートルばかり離れた階下に立っていたそれは――竜人。

 

 堂々たる体躯に、純白を基調とし、そこかしこに竜爪を模った黄金の突起をあしらった鎧を纏っている。大きく広げられた双翼は濃紺に染め抜かれた外套のようだ。

 

 両腕をがっちりと組んで階下からドゥフトモンを軽く仰ぐその様は自信に満ち溢れているようでもあり、彼の反応を心底面白がっているような節さえあった。

 

 ドゥフトモンは、自分のメモリーデータにその姿がしかと存在しているのを確認した。

 

 だが、その為人までも良く知っているわけではない。

 

 ふうと軽く溜息を吐いて警戒を解くと同時に、別の意味での警戒を強める。

 寧ろ疑問に近いが。

 

 「――デュナスモンか」

 

 「これは挨拶か?」

 

 竜人――デュナスモンは腕を組んだまま、傾けていた体をいつの間にか直立に戻していた。

その様子を半ば憮然とした面持ちで眺めながら、ドゥフトモンは剣を静かに収めた。

 

 珍しい客人にも程がある。

 

 ロイヤルナイツが、イグドラシルという創世樹にして唯一神を主とし、その枝葉に従っていたときから、この竜人は呼ばれなければヴァルハラ宮を訪うことは一度たりともなかった。

 

 ヴァルハラ宮より西方に浮かぶ、風薫る桃源郷に聳え立つ、古色蒼然とした孤城「パレス・キャメロット」の主にして、孤高の風来坊。

 

 それが自ら赴いてくることなど。

 

 何をしに来た。

 何が目的なのか。

 

 同じロイヤルナイツでありながら、疑わずにはいられない。

 あたかも一本だけ鏃が逆向きの矢の如し。

 

 「・・・・・・誰そが来たのか、全く分からなかった」

 

 「そうか」

 

 「転送陣を使わなかったのか」

 

 「・・・・・・使用したが?」

 

 おかしな事を言う、と言いたげな口調で返される。

 しかしドゥフトモンにしてみれば、この事態の方が余程おかしなものだった。

 

 第一の間から第五の間、そして中央の第三の間から長い回廊を通って辿り着ける十三の騎士の尖塔、生体データの損傷修復用空間、イグドラシルのコアへと至る長き回廊――オメガモンが神意を問いに単身赴き遂に帰らなかったその時から、禁足地と化している――を有する広大なヴァルハラ宮は、それらしい内装として長い螺旋階段は用意されているものの、ロイヤルナイツがわざわざそれを上り下りすることは皆無に等しい。

 

 というのも、セキュリティコードを入力すれば使用可能な転送陣が方々に用意されているので、それに乗れば極めて簡便な移動が保証されるのだ。

 

 しかし、使用されたならば必ずその記録が残り、ドゥフトモンが今し方向き合っていたディスプレイの右側部に最新の履歴として表示される。

 

 ――はずなのだが、履歴はアルフォースブイドラモンが第三の間から己の尖塔へと移動したところで止まっており、そこから更新されていない。

 

 回路を疾駆するインパルスが、疑惑の指向性を持ってドゥフトモンの思考を支配し出す。

 

 ――よもや、履歴が残らぬようにプログラムが改造されたのか。

 

 ロックをその都度解除せずとも、誰にでも転送陣を使用できるような細工をされたのか。

 

 更に踏み込めば。

 

 ドルモンをリアルワールドに送る計画の決行日や、デュークモンの位置を横流ししていたのは此奴ではないのか――

 

 須臾のうちに、インパルスが幾十幾百もの回路を疾走し、膨大な思考過程と結果をドゥフトモンにもたらす。

 

 だが、考えても詮無きことばかりだった。証拠は一つもないのだから。

 

 それにしても、気配が感じられないことといい、この不可解な現象といい――不気味な奴だ。

 

 ドゥフトモンは、自分の電脳核が粘稠な溶液の中で何度も転がされるような錯覚に陥っていた。

 

 「手短に言うが」

 

 そんな相手の心中など知る由もなく、或いは知っていてもお構いなしに、デュナスモンは両腕をほどくと、階段を昇りながら訥々と話し出した。

 

 一段上る度に、踵に龍の蹄をあしらった長靴と段がぶつかり、玉が触れあうかのような涼やかな音が響く。

 

 その清音を耳にしながら、何故気配が――電脳核の波動が感知できないのか、ドゥフトモンは首を捻らざるを得なかった。

 

 確かに、これは生きている。

 

 断じて、ダークエリアの淵から這い上がってきた幽鬼などではない。

 

 自分のセンサーが狂わされているのだろうか。

 それとも――。

 

 「デュークモンの件で、具申がある」

 

 「聞こう」

 

 「デュークモンは、ダークエリアに送られたということにしておけ。データベースから抹消しておくと尚良い」

 

 デュナスモンが階段を昇りきり、ドゥフトモンの横に立った。

 

 間近で改めて見るその体躯は、圧倒的であった。2m近くあるドゥフトモンよりも、更に一回りも二回りも大きい。同じく二足歩行の竜であるアルフォースブイドラモンに比肩する巨躯だが、纏う雰囲気は彼よりも遥かに峻烈であり――異様だ。

 

 電脳核の波動は相変わらず感知できない。しかし、そういった生体活動領域を司る二進数の累卵を奔るインパルス――という単なる現象を超越した、もっと高次の真実か、或いは真理か――喩え感覚を絶たれても分かるような何かに自分は直面しているという認識だけは、ドゥフトモンの中に然りと存在していた。

 

 だが、気を張らねばならない。

 

 よりによって同胞に臆するなど、騎士の――司令官の恥。

 

 ドゥフトモンは胡乱な目を拵え、竜人に向き直る。

 

 「目的は?」

 

 「情報攪乱だ」

 

 至って簡潔な回答。

 

 是とも否とも言えず、ドゥフトモンは暫し押し黙った。

 

 デュナスモンが何を言いたいのか、汲み取るのは容易だった。要は、相手に戦力が一つ減ったと誤認させ、ここぞと云うときにデュークモンを隠し球として機能させるのが目的だ。

 

 だが、“真面目な”ドゥフトモンには、そういった搦め手の発想はなかった。また、主義的な観点から、賛意を示しがたかった。

 

 伝達された内容に忠実に報告書を作成し、方々に伝達する。虚偽の情報を織り交ぜるなどして、その指針を逸した行動をみだりに取るべきではない。

 

 デュナスモンの言い分は理解出来るが、司令官として、やはり譲るわけにはいかない。

 

 「しかしだ……正確かつ精緻な情報の伝達が、我々に残された手段ではないか。あまり敵の裏を掻こうとしても下手を打つことになりかねぬ。この昏迷した状況の中で、これ以上の混乱を招くのは望ましくないだろう」

 

「賛同出来んな」

 

 だがその正当な反駁を、デュナスモンは容易く切り捨てた。

 

 「裏切り者がいて、真実の情報を売り渡しているかも知れないだろう。それともお前は――『ロイヤルナイツは一枚岩である』という確たる証拠でも握っているのか? お前自身が背信者である可能性すら、否めんぞ」

 

 腹の底がすっと冷え込み、次いで灼熱の激流が湧き上がってくるのをドゥフトモンは感じた。

 

 侮辱。最大級の侮辱だ。

 

 叙任されて以来、堅実に、そして忠実に司令塔としての役割を果たし、与えられた使命に爪の先程の疑問も持たなかった、衷心からの聖騎士としての自分への。

 

 喩えその可能性を指摘されるだけであっても、背信者呼ばわりだけは許しておけぬ――

 

 一度は収めた剣の柄に、再び手が掛かる。

 

 だが、抜剣したい衝動は、内なる声にすんでの所で押し止められた。

 

 (冷静になれ。此奴の言っている事は正しい、怒れども仕方がない)

 

 そう、仕方がないのだ。

 

 今や誰が疑われても仕方がない状況なのだ。

 

 己とて例外ではない。絶対的信頼を得る手段などない。寧ろ、真っ先に疑われてもおかしくはない。情報を集約し、良いように方々に横流しする権利すら持ち合わせているのだから。

 

 大体、決闘を申し込んで名誉を回復したとして、どうするのか。

 

 ロイヤルナイツがもはや五体しか残っていない現況、内輪で相争って疲弊することは余りにも愚かしい。

 

 ようやっとのことで己を沈静化させると、ドゥフトモンはやや弱々しい声音でいらえた。

 

 「貴殿の、言う通りだ」

 

 そして、言いたくもない、自虐的な問いを投げかける。

 

 「仮に、私が背信者であるとしたら・・・・・・どうする」

 

 「特別どうもしない」

 

 相変わらず無情な艶めきを放つ真紅の双眸で、自分より幾分小柄な黒豹の騎士を見下ろしたまま、デュナスモンは言い放った。

 

 「勝手に端末を操作させてもらうだけだ。――お前をデリートした上でな」

 

 ドゥフトモンは身を強張らせた。

 

 “お前をデリートした上で”。

 

 底冷えする凍土の極夜を思わせる、その低声。

 波動は魂の内側へと入り込むように、電脳核内で直に、警告として鳴り響く。

 

 おそらく、本気で言っているわけではない。

 裏切り者だと疑われているわけではない。

 それは明白だ。

 だがそれは、突として背骨に鉄棒をねじ込まれたような衝撃を伴っていた。

 

 声が、ほんの僅かに――千分の一波長程の乱れを伴っていることを、ドゥフトモン自身も認識していなかった。

 

 「・・・・・・出来るとでも?」

 

 「ああ」

 

 肯定。

 

 特段自信があるといった風情でもない。

 

 「オレが強いのではなく、お前が弱いのだ」――そういった含みだ。

 

 ――竜は、百獣の王すら嬰児のように縊る。

 

 そんな箴言か戒告か、ドゥフトモンの脳裏を過ぎる。

 

 軽んじられた事に対する怒りなど湧かなかった。ドゥフトモンは畏れを前にして、臓腑を焼き尽くすような激烈な瞋恚を覚えたことすら、忘れ去ろうとしていた。

 

 「反対に、オレが背信者だとは疑わんのか?」

 

 問い掛けに、ドゥフトモンは僅かに首を振った。

 もはや疑うだけ愚かだ。

 そうであるならば、自分の躯は疾うに二進数の屑へと散らかされているはずだ。相手はそれを呼吸するが如く実行できる力を有しているのだ。

 剣を交えずとも、既に全身でそれを理解させられている。

 

 「・・・・・・なら、何故私をさっさと始末しない? 端末の制御権が欲しいのだろう?」

 

 「分かっているじゃないか」

 

 初めから答えを確信していたような風だった。

 

 要は、お前は信用していると言いたいらしい。

 

 だが、ドゥフトモンは少しも喜ばしさを感じなかった。

 

 皇帝竜に刀礼を施され、聖騎士に叙任された時。

 

 ベルフェモン討伐の緊急召集がかけられた時。

 

 数える程しか、この竜人とは顔を合わせていないにもかかわらず、全て分かったような口を利かれるのは、気味が悪くすらある。

 自分が相手の性質を把握しかねる場合には、尚更。

 

 ともあれ、ドゥフトモンに、是を口にする以外の選択肢はなかった。

 

 「……“デュークモンはダークエリアに送られた”、そう方々に伝達しておこう。データベースからも直ちに抹消する。――しかし」

 

 ドゥフトモンは敢えて一歩踏み出し、威圧感を放ちながら佇んでいる竜人との距離を詰めた。相手は、それをどうとも思った様子はなかった。

 

 「二つ問わせてもらう」

 

 「何だ」

 

 「貴殿は、デュークモンが真にダークエリア送りになってしまうとは考えていないのか」

 

 「いない」

 

 返答に、間は半秒となかった。

 

 そして続く答えは、ドゥフトモンの想像を逸したものだった。

 

 「デュークモンが、下郎の下策を前にしてくたばるわけがないだろう」

 

 思わず息を呑む。

 

 有無を言わせぬ、あまりに強い語調。

 何より、今までの物言いと違い、遥かに感情的だった。

 

 先程ドゥフトモンをデリートすると脅迫した時のように、己の強さに対する絶対的自信に裏打ちされているのを――否、あれ以上の自信、信頼を置いているのだと、否が応でも感じ取らねばならない程に。

 

 だが、それは不可解なことこの上ない事だった。

 

 何故、デュークモンを信頼しているのだろうか?

 

 寧ろ、全電脳世界でデュークモンのみが接続可能な、“プレデジノーム”なる神秘の原初プログラムの力をば信頼しているのか。

 

 デュークモンと特別親しい間柄なのだろうか。

 

 だが事情の一切をつまびらかにするには想像を絶する困難を伴う事は考えるまでもないことだと直観し、ドゥフトモンは増幅するばかりの無為な思考を停止させた。

 

 「では、二つ目だ。・・・・・・貴殿、一体何を考えている。自発的に来訪し、尚且つ提言までするなど、有史以来無かった珍事だぞ」

 

 「話す義理はない」

 

 叩き付けるような即答。

 

 ドゥフトモンは別段失望しなかった。もとよりまともな回答は期待していない。

 

 それ以上に、とりつく島のなさは、もはや爽快ですらあった。

 

 「それだけか?」

 

 「・・・・・・そうだな」

 

 「そうか」

 

 そうして挨拶もなしに、デュナスモンが踵を返しかけた時だった。

 

 けたたましく鳴り響き始めたサイレンと赤光に、空間中が満たされる。

 

 二体の聖騎士は、反射的に背後を見やる。

 

 万象をモニタリングしているディスプレイは赤く点滅を繰り返し、警告文を中央に表示させている。

 

 『Caution! Raiders Appearing』

 

 危機感を煽る色、音、文言、全てがドゥフトモンの電脳核を直に強かに打擲する。

 

 脈動が激しくなってゆく。電脳核が熱い。呼吸の――思考のパルスが乱れる。

 

 終始自若としていたデュナスモンですら、眉を顰めたようだった。

 

 決して起こってはならない、直視したくない、認識したくない一つの真実が、浮き彫りになってゆく。

 

 今度こそ、神話に終止符が打たれたのだ。

 

 「侵入者・・・・・・だと」

 

 「鼠が紛れ込んだな」

 

 各々独語する騎士。

 この極寒の霊峰の頂きに、敵が登ってきたのだ。

 




ということで前から名前だけは出ていたドゥフトモンと、デュナスモンお披露目です。次回こそ絶対にバトルです。

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