ー夢を見た
それは幼い頃の自分の記憶。
まだ幸せだった頃の記憶だ。
そこには2人の男の子。
共に屈託のない笑顔を浮かべている。
共に目指した夢があった、必ず一緒に成し遂げようと、約束をかわした。
叶えてみせると、叶えられると、自分達は思っていた。
自分達の未来の可能性を信じきっていた頃の自分の、幼い頃の記憶、夢。
だが、その可能性は唐突に、理不尽に、当たり前の様に奪い去られた。
夢の場面が変わる。
どこか広くてとても神秘的な空間、大勢の人がいて、彼等の前に1人の女性が立っている。
彼女は言う。
ー私達は最後の希望だーと。
ー私達がしくじれば、本当に人類は滅亡するとーと
そんな彼女の言葉を、自分もその空間で聞いていた。
信じたくなかった、認めたくなかった。
しかし現実はどこまでも残酷だ。
彼女の言葉に嘘はない、狂言や妄想なんてもので片付けられるものではけしてなかった。
ーこれが現実だ、認めろー
成長し、知識を手にした自分の脳がそう告げる。
認めたくない感情と、認めてしまった理性が自分の中で交錯する。
そんな自分の内面を押し隠し、自分は前に進んできた。
知識を手にした、そして幸運なことに自分には力もあった。
人理継続保障機関・カルデア
聖杯探索・グランドオーダー
自分には、それに参加する資格があった。
危険だと言われた、関係ない。
未来を、人類の可能性を取り戻せるのなら、例えどんなに困難な障害があったとしても歩みを止めない…そう誓った。
諦めたくない、あの日の夢を絶対に叶えてみせる。
その想いがあれば、自分はやっていける。
そうして自分は、聖杯探索の第一歩を踏み出した。
この手に未来を掴む為に。
さぁ、行こう。
目指す場所は西暦2004年日本、とある地方都市。
ここから始まるのだ、自分のグランドオーダーが……
男の意識が覚醒する。
霊子転移は成功したようだ。
長くもあったようだし、短くも感じた。
男を中心に渦巻いていた魔力が霧散し、光が収まる。
時間を逆行した世界に、自身という異物が安定していくのを感じ取る。
「……」
男は瞳を閉じたまま1度、大きく息を吸い込んだ。
緊張はある、今にも体が震えだしそうな程に。
決意はした、諦めるつもりなど欠片もない…だが。
(本当に俺に、できるのか?)
脳裏を掠める不安。
それは確かに自分の中にあって、意識してしまえば加速度的に大きくなってしまいそうになる。
飲み込まれてしまえば、もう立ち上がれない…そんな予感がある。
「っ……」
その考えを振り払う様に彼は頭を振る。
(やめろ! こんなこと考えるなっ! できる、いややるんだ、それに…)
と、彼は大切なことを思い出す。
(俺は1人じゃない)
そう、聖杯探索に挑むのは彼1人ではない。
彼の他にも優秀な魔術師が沢山いるのだ。
彼等も自分と同じこの地に来ている筈だ。
心強い限りではないか。
指先まで凍てつく様な冷たさが消える。
仲間達とともに原因を究明する、自分はけして孤独ではない。
そう考えたら少しだけ、心が軽くなった気がして、彼は表情を緩めた。
不安が消えたわけではない。
恐怖もある。
「でも…」
彼はゆっくりと瞼を開く。
「絶対に…負けないっ!」
その瞳に揺るぎない決意の火を灯して。
例えこの瞳にどんな惨状が映ろうとも、決して目を逸らさない。
握る手に力が篭る。
「未来を、俺達の未来を切り開く為にっ!」
そんな、覚悟とか決意とか幼い頃の約束とか叶えたい未来とか厳しい鍛錬や辛い勉強とか不安とか恐怖とか、そんな色んな想いとともに叫んで気合を入れた彼の、挑むべき世界を見据えた最初の一言。
「なぁにぃ…これぇ?」
世界はなんだか、とってもカクカクしていた。