ー地方都市ー
正式な定義はない言葉。広義には首都以外と都市のこと。狭義には首都圏、中京、京阪神以外に存在する都市のこと。
「……」
目の前に広がる光景を見る。
草原、だと彼の脳は判断する。
「都市って、なんだっけ?」
虚ろな瞳で彼は呟く。
もう決意とか覚悟とかは、ない。
少なくとも、建造物一つなく地平の彼方まで続く緑の平原を、そうは呼ばない筈だったと、彼は思う。
「いやそれよりも…」
と彼は手にしているモノに目を向ける。
ソレは四角だった。
だいたい1メートル四方の立方体。
手に伝わる感触からソレはおそらく、多分、もしかしたら、土なのだろう。
何故彼がこんなモノを持っているのか、話は1時間程前に遡る。
彼はレイシフト完了後、暫く呆然とその場に立ち尽くしていた。
だって仕方ないだろう。
混沌とした惨状の地方都市を想像して目を開けたら、世界がカクカクしてたのだから。
彼が暫く動けなかったのは、誰れにも責められまい。
それでも持ち前の根性とかでなんとか意識を再起動して、彼は恐る恐る地方都市(仮)を歩いてみた。
視界いっぱいに広がるカクカク。
やがて彼はある事に気づく。
ーこのカクカク、長さがなんか一定だ!ー
そう、あっちのカクカクも、こっちのカクカクも、遠くの方のカクカクもなんか一定なのである。
何故か泣きたくなった。
しかも、目を凝らすと世界に線が入った。ナンダコレ。
世界の全てが1メートル四方の立方体で区切られてしまったのだ。
脳と精神が壊れていく音を彼は初めて聞いた。
しかし彼はめげなかった。
崩壊しそうになる精神を、
ーこれは新手の魔術、精神汚染系のそんなかんじの魔術だー
という謎理論で無理やり繋ぎ止め、彼はその場にしゃがみこみ、線で区切られた地面を確かめるように撫でたり叩いたりしてみた。
するとそのうち、ポコンっと子気味のいい音を立てて地面の一部が飛び出した、勿論立方体で。
無言で彼はそれを持ち上げた。
見た目程重くはない、でもかなり頑丈だ。
土なのに、力をいくら込めてみても崩れない。
すこぶる恐ろしい魔術師だなと、思いました。
ここでまた一旦彼の思考は停止する。
「……」
回想終了。
無言のまま、彼は今度はその立方体がこれまたおそらく元あったであろう場所へと視線を移す。
抉れている。
真っ平らな草原の一部分だけ。
だいたい1メートル四方の立方体が入りそうな感じで。
「ええぇ…」
切ない声が静かな世界に響く。
立方体の土をポイっと捨てて、彼はその場に蹲ってしまう。
「冬木は、どっちですか……」
悲しくなるほど弱々しい声に応えてくれる者は、いない。
「っ…そうだ! 召喚っ」
暫くリアルにorzだった彼は、唐突に立ち上がった。
大切な事を思い出した。
世界のカクカク感に完全に飲まれて、レイシフト後最初にやらなければならない事を彼は忘れていた。
「サーヴァントがいれば、何か分かるかもしれないっ」
あわよくばなんとかしてくれるかもいやしてくださいと祈りながら、急ぎ聖昌石をいくつか取り出した。
サーヴァント
カルデアが保有する《英霊召喚システム・フェイト》によって過去、現在、未来全ての時間軸から呼び出される英雄の魂。
そんな偉大な存在を現世に呼び出すトリガーとなるのが、彼の手にある石、聖昌石。
けして安くはない貴重な石を、彼は躊躇うことなく地面に放る。
「頼むっ…きてくれっ」
祈るように両手を組み、地面に落ちた石を見つめる。
その祈りが通じたのか、やがて聖昌石が輝きはじめ、その輝きに呼応するかの如く、石を中心に光の線が走り出し複雑でしかし美麗な陣を描く。
真っ平らでカクカクな地面に。
「やった!…カルデアとは繋がってるんだ。 いけるっ」
彼は歓喜の声を上げ、英霊の召喚を待つ。
陣から溢れる光は輝きを増し、最後に弾ける様に周囲に散る。
訪れる静寂、陣の中央、聖昌石があった場所には石の代わりに1人の英霊がいた。
「……」
とてもカクカクした世界とは思えない程に厳かな空気の中、その英霊はゆっくりと口を開いた。
「サーヴァント・アーチャー、召喚の呼び声に応じ参上した…君が俺のマスターか?」
サーヴァントはその声と同じ様にゆっくりと瞼を開け、マスターとなるであろう彼をその瞳に移す。
「ああ、俺がマスターで間違いない。 令呪もここに…」
先程までの弱々しく情けない感じを捨て、戦いに挑む戦士の如き鋭い瞳で彼はサーヴァントの視線を受け止める。
手の甲に現れた令呪を確認し、頷くサーヴァント。
ここに主従の契約は交わされた。
2人もう運命共同体。
『汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に』
という感じで。
契約の繋がりを確かに感じた彼は1歩、アーチャーへと歩み寄る。
「アーチャー…俺がお前に聞きたいことは1つだけだ…」
「…何かね?」
マスターの尋常ならざる雰囲気に、アーチャーも真剣な表情で聞き返す。
恐らく、この問いにはこれからともに戦う上で、必要なことなのだろうと、アーチャーは考えた。
「……」
流れる沈黙。
マスターたる彼は、最早最後の希望である己がサーヴァントに万感の想いを乗せて問いかける。
「冬木は…冬木市は、どっちですか?」
「……………………え?」
返ってきたのは、赤い外套の偉丈夫の、間抜けな顔と声だった。