Fate/Craft Order   作:雪蛍

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まぁだプロローグ

 

「……」

 

沈黙は続く。

切実に、そして縋る様な瞳のマスターと、事態がまるで飲み込めていないサーヴァント。

酷い絵面である。

おまけにサーヴァントの方はとても間抜けな顔まで晒してしまっている。

 

「…質問の意味が、分からないマスター。 それは、どいう意味かね?」

 

間抜けな声を出してしまったことに若干照れつつ、アーチャーはその場の空気の仕切り直しを図る。

持ち前の鋼の精神で動揺を押し隠し、もう板についてしまった皮肉屋で斜に構えた仮面をつける。

 

「…そう、だな。 いきなりこんな質問、おかしいよな。 ごめんアーチャー」

 

気持ちが逸りすぎていたのを自覚したのか、マスターである彼はバツが悪そうに頭を掻きながら溜息をついた。

どうやら、少し落ち着きを取り戻したようだ。

 

「いや、構わない。 それだけマスターの状況が切羽詰まっていたのだろう? そこでそのまま暴走するのは悪手だが、こうして気づいて冷静になれるだけ、まだマシだろう」

 

マスターに言い聞かせるように語りかけながら、アーチャーは内心で安堵していた。

よかった、どうやら頭のおかしい人間ではないらしい。

空気も変わったところで、アーチャーは照れながら頭を掻いて笑う男を観察する。

 

見た目から判断して10代後半くらいか。

髪は黒く、男にしては少し長めのストレート。

背丈は大体170cmくらいで、少し痩せ気味。

顔は、よくは分からないがカッコイイというよりは、どちらかというと可愛らしい、という印象を受ける。

まぁ…

 

(若干、目に生気がないのが気になるが…先程の冬木、とやらが原因か?)

 

と、そこまで考えてアーチャーは違和感を覚えた。

思考にノイズが混じり、視界が一瞬砂嵐のように遮られた。

 

「っ…」

幸い症状はすぐに回復したが、これは一体何なのだろうか。

 

(冬木、という言葉が元凶か? いやしかし…)

 

考えが纏まらない。

何か、遠い記憶、もう思い出すことさえできない程に擦り切れ磨耗したその中に、そんな名前があったように感じる。

 

(いや、やめよう…今考えたところで何がどうなるということもあるまい…)

 

そう判断して、アーチャーは頭を振る。

そう、今考えるべきは役に立たない記憶などではなく、これから始まる戦いについてだ。

考えるべきことなどいくらでもある。

先ずは差し当たってマスターの魔術師としての属性でも確認でもするべきか。

「マスター、まず確認したいのだが…」

 

「いやアーチャー、それよりも重大な事があるんだ」

 

「むっ…」

 

色々とお互いのことを確認しようと口を開いたアーチャーを、マスターである彼が手を上げ制する。

先程の柔らかい笑顔は既になく、その表情は真剣そのもの。

出端を挫かれたことに小さな不満を覚えるが、口答えする程子供でもない。

アーチャーはやれやれと肩をすくめ腕を組み、小さく首を傾げることでマスターに先を促した。

 

「アーチャーの考えてることも分かる。 お互いに、色々と確認しないといけないよな。何せ俺達は、互いの名前すらまだ交わしていない…」

 

若干死にかけている目をゆっくりと閉じて、マスターである彼はそれでも…と話を続ける。

 

「それより先に、君に見てもらいたいものがあるんだ…」

 

「見てもらいたいもの?」

 

訝しげに聞き返すアーチャー。

見た目は割と普通の青年なのに、さっきから所々何かおかしなことを口にするマスターにそろそろちょっとずつ不信感が募ってゆく。

「マスター。 それは今でなければならないことなのか? 君も今言ったばかりだろう。 これから始まる戦争は、いや今回だけに限らないが戦いに置いて情報とは非常に重要なものだ。 敵より先に有用な情報を得て、更にそれを味方内で極力齟齬をなくし共有する。 それもなるだけ迅速にだ。 ならばこそ今するべきことは…分かるだろう?」

 

正論。

アーチャーの言ってることは確かに正しい。

出会ったばかりで碌に互いのことを知らない2人。

そんな状況で敵と相対しなければならないのが聖杯戦争だ。

ならば短い時間をできるだけ有効に使い、少しでも互いのことを確認する。

そんなことは分かっている、と彼は耳を痛くしながらもアーチャーの言葉に首を縦に振らなかった。

ここに至るまで、自分だって色々と教わってきたし自分でも思考を止めずに様々な準備をしてきた。

そしてアーチャーが言ってることが至極当然なことだということもこの頭は充分に理解している。

だが、だがそれでも…

 

「俺を信じて、先ずはコレを見てくれないか、アーチャー…それだけで、俺達の間にある今1番大きな齟齬が、解消される筈だから…」

 

そう言って彼は、半ば無理やりに己がサーヴァントに手渡した。

 

 

例の立方体を。

 

 

押し付けられたソレを、まだ言いたいことはあったが律儀に受け取るアーチャー。

仕方がないとばかりに大きく息を吐き、コレを見るだけでマスターが納得するなるばと自分の手にあるソレへと、視線を下ろした。

下ろしてしまった。

 

「は……?」

 

またも出てしまった間抜けな声。

しかしそんなことはどうでもいい、ナンダ…コレハ…

 

「土、なのか…」

 

掠れる声で呟くアーチャー。

恐らくその手触りから推測したのだろう、確認を取る為にマスターへと視線を向ける。

 

「……」

 

マスターは何も言わない。

しかし彼の指先が左から右に、上から下に、そして最後にぐるり1周する。

 

 

周りを見てごらん、アーチャー…

 

 

彼の目がそう言ってる、気がした。

アーチャーは立方体の恐らくは土を手にしたまま、ゆっくりと辺りを見渡してみることにした。

 

辺りを確認するようにゆっくりとその場で体を動かすアーチャーを、彼は罪悪感の篭った瞳で見ていた。

その瞳が語っている。

 

ごめん…

巻き込んじゃって、ごめん…と。

 

辺りを確認し終えて再びマスターへと視線を戻すアーチャー。

鷹のように鋭かった眼光は、もうなかった。

 

「なあにぃ…これぇ…」

カクカクな世界を目の当たりにした英霊の思考も、止まった。

 

「だよね…」

 

青年は小さく呟く。

固まってしまった英霊を無理やり再起動しようとは、思わなかった。

だって、分かるもんその気持ち。

色々と折れるよね。

気が抜けるよね。

なんか…ごめんね。

色んな感情を混ぜこぜにして、彼は動かないサーヴァントへと優しい笑みを浮かべる。

アーチャーの言っていることは確かに正しい。

聖杯戦争や自分が着手する筈だった任務なら、こんな無駄な時間を過ごすなんて選択肢は自分だって取りたくはなかった。

でも、と彼はあまりにも平和でのどかすぎるカクカク世界を眺める。

 

「聖杯…あるの?」

 

勿論あって欲しい、てかないと困るんです。

だがこの世界と聖杯、あまりにもジャンルが違いすぎる気がしてならない。

むしろこんなカクカクした世界に本当に聖杯があったら、笑ってしまうかもしれない。

自分のサーヴァントはまだ処理落ちしままだ。

彼は、誇り高い英霊が再び己の力で動きだすのを、優しく見守ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メェェー」

 

「なんか人懐っこいな、この…羊? いや羊だよね鳴き声的に、見た目もぽいし。 でもなんでだろう…絶対の自信を持ってコレを羊だと断定できる勇気が、ない…」

 

自分のサーヴァントに強制停止のバッドステータスを与えてしまってから、少しばかり時間が流れた。

まだアーチャーの硬直は溶けていない。

きっと頭の中で色々とカタルシスとか混乱とかが大騒ぎしているのだろう。

そんなことを考えつつ、彼はいつの間にかそばに寄ってきていた羊のような生き物を撫でる。

フカフカしてて気持ちいい。

平和だなぁ…と、あいも変わらずカクカクの世界を眺める。

 

「他の魔術師達も、ここに来てるのかな…」

 

パッと見た感じ、自分達以外に人気は全くない。

もしも誰かいるのなら、合流したい、すぐにでも。

しかし此処に立ち止まりアーチャーを召喚してから大分時間が経つが、向こうから誰かが来るということは終ぞなかった。

もしかしたらこの世界はとんでもなく広いのかもしれない。

それならばいつかは誰かと出会えるかも……

 

「いやそんなの駄目だ。 待ってるだけなんて耐えられない。 早くここから脱出して、少しでも早く冬木に行かないと…」

 

人類史が終わってしまう。

未来が、失われてしまうのだ。

しかしかといってどうすれば…

 

「はぁっ…」

 

何度目かなどとうに数えることこを放棄した溜息。

結局、今自分にできることなどないに等しいのが現状なのだ。

「絶望的すぎるよ…」

 

その場に座り込み、特に意味もなくなく側の地面の1マスをコンコンと軽く叩いてみる。

 

ポコンッ

 

やはり飛び出る立方体。

意味が分からない。

そもそも地面の癖に数回コンコンと叩かれたくらいで飛び出してくるなよ、腹立つな。

イライラしつつ、今の行動で抉れた部分を睨んでいると、不意に背後に気配を感じた。

 

「あ、アーチャー…再起動したんだ」

座ったまま首だけを後ろに向けると、想像通りそこにいたのはアーチャーだった。

「…ああ。 時間を取らせて悪かったマスター。 その、なんだ…私の常識がブロークンファンタズムしてしまってな…もう大丈夫だ」

 

憔悴を隠しきれていないあたり、かなりのダメージを受けたことが伺える。

マスターである彼はよいしょっと立ち上がるとアーチャーと向き合った。

 

「俺の言いたかったこと、伝わった?」

 

これだけの衝撃を受けたのなら、改めて言葉にする必要もないだろう。

アーチャーはすぐに頷いた。

 

「ああ、確かに君の言う通りだった。 戦略なんかよりよっぽど先に確認するべきことだった。 まぁ、できれば知りたくはなかったがね…」

 

心底参りましたといわんばかりの様子のアーチャー。

うん、そこには全面的に同意したい。

さぁ聖杯探すぞ! と息巻いて、いざ蓋を開けてみればそこに広がるのは平和な世界ーでもカクカクしてるけどー

こんな状況に陥れば、例え英雄でもフリーズの1つくらいしてしまうだろう。

 

「さて、アーチャー」

 

「ん?」

 

しかし落ち込んでばかりはいられない。

そろそろ流れを変えなければ。

「俺の名前はユウ。 で、英雄さん、君の名前は?」

 

彼、ユウのいきなりの名乗りに一瞬遅れ、アーチャーも自身の名を返した。

 

「私は英雄なんて大それた者ではないんだがね…エミヤ。 それが私の名だ」

 

「ん、よろしね、エミヤ」

少し捻くれたアーチャーの自己紹介に、ユウは満足そうに頷いた。

 

「じゃあアーチャー。 まずは俺の話を聞いてくれ。 俺の目的、君を呼んだ理由、その他諸々をね」

 

「そうだな。今回の召喚はかなり…いや、イレギュラーではない部分を探す方が難しい。 聞けることは全部聞いておくべきだな」

 

ユウの言葉にうなずくはアーチャー。

2人の真面目な話し合いが始まった。

カクカクした草原の上で。

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