カゲヤside
トールバーナの北門をくぐったのは洞窟をでて1時間後だった。
時間を確認すると3時半をまわっていた。
まだ時間あるから大丈夫か
そう考えていると後ろからアルゴに声を掛けられた。
「おーい、カー坊。さっき情報が入ったが買うカイ?」
「一応買っとくよ。それで、いくら?」
「100コルだヨ」
「ほい」
俺はウインドウを開き100コルをオブジェクト化してアルゴに渡す。
アルゴは「確かに」と言うとお金をストレージに入れて話し始めた。
「さてと、さっき洞窟で言った会議のことだが、時間が今日の4時になったゾ」
「4時か……まだ時間あるから大丈夫か」
「それとサービスでもう1つ。会議にはキー坊も来るゾ」
「なら尚更行かないとな」
「あともう1つ。さっきの槍使いの女の情報もあるけど買うカイ?」
「それは止めておこう。女の子の情報を売り買いするのは気がひけるからな」
「にひひ、いい心がけだナ」
ふてぶてしい台詞を吐きながらアルゴはけたけたと笑う。
すると槍使いの女の子がこっちに向かって走ってきた。
「探していた人は見つかったのか?」
そう聞くと槍使いの女の子は表情が暗くなった。
そのあと首を横に振る。
「そうか……じゃあ、アルゴに頼むか」
俺は槍使いの女の子に提案するとキョトンとした顔でこっちを見て訊いてきた。
「アルゴって誰ですか?」
……アルゴを知らない奴もいるんだな
アルゴの方を見るとアルゴは驚きと悲しみが混ざった顔をしていた。
「おいおい、オイラを知らないなんテ。まぁいいカ。これを機に覚えておくれヨ」
「情報屋の《鼠のアルゴ》。情報屋としてもプレイヤーとしても絶対的に信用できる奴だ。何か困ったことがあったら、こいつに頼むといい。それ相応の金は取られるがな」
「おいおい、カー坊。幾ら何でもそれは過大評価しすぎだゾ」
アルゴは照れた様子で否定したが俺は気にせず素っ気なく言う。
「別にいいだろ。実際にそうなんだから」
「ナ……て、照れるじゃないカ」
アルゴはフードを深くかぶり小さい声で言った。
本当のことだから別に照れなくてもいいのに。まぁ気にしないでおこう。
そう思いつつ時計を確認する。
時刻は40分を過ぎたとこだった。
まだ早いが広場に行っとくか。
俺は槍使いの女の子の方を向いて話しかける。
「まだ早いが会議のある広場に行っとくか」
「あっ、はい。わかりました」
広場の方に向かって歩いて行くと、槍使いの女の子は後ろからちょこちょこと付いて来る。
数秒したあとにアルゴは置いて行かれたことに気付いて慌ててこっちに走ってきた。
アルゴが追いついた時に何故か後ろから飛び蹴りを喰らわされ、説教された。
広場には5分で着いた。
さすがにまだ誰も来ていなかった。
まぁあと5分もすれば集まりだすだろう。
「お姉ちゃん‼︎」
どこに座ろうか探していたら後ろにいた槍使いの女の子がいきなり叫んで走り出した。
走って行った方を見ると槍使いの女の子と同じ薄水色の髪をした女の子がいた。
「サキ‼︎」
薄水色の髪の女の子も叫び槍使いの女の子、サキに向かって走った。
サキは薄水色の髪の女の子に近ずくと飛びついた。
薄水色の髪の女の子はサキを受け止めるように抱きしめた。
「よかった〜、お姉ちゃん、生きてた〜」
「もう、心配したんだから」
2人は目に涙を浮かべながらずっと抱きしめていた。
俺たちはいきなりのことに訳が分からずただただ2人を見つめていた。
第3者side
「お2人さん、そろそろ離れた方がいいと思うぞ。人が集まりだしたからな」
カゲヤがそう言うと2人は慌てて離れ、恥ずかしそうに俯いた。
「それに会議があと少しで始まるから座っといた方がいいぞ」
そう言うとカゲヤは1番後ろの席に座った。
2人は少し間を空けて隣に座った。
アルゴはいつの間にか高い塀に腰掛けていた。
そういやアルゴがキリトも来るって言ってたな
カゲヤはそう思い周りを見渡す。
半分まで見た所でパン、パンと手を叩く音とともによく通る叫び声が広場に流れた。
「はーい!それじゃ、そろそろ始めさせてもらいます!」
堂々たる喋りの主は長身の各所に金属防具を煌めかせたソードマンだった。
男は広場中央にある噴水の縁に助走なしにひらりと飛び乗りこちらに振り向く。
その途端一部が小さくざわめいた。
理由はすぐにわかった。
それは男の容姿だ。
その男は何故、こんな奴がVRMMOをと思わずにはいられないレベルのイケメンだからだ。
だがざわめきなど気にも留めず爽やかな笑顔を浮かべて言った。
「今日は、オレの呼びかけに応じてくれてありがとう!知ってる人もいると思うけど改めて自己紹介しとくな!オレはディアベル、職業は気持ち的に
すると噴水の近くの一団がどっと沸き、口笛や拍手に混じって「ほんとは《勇者》って言いてーんだろ!」などという声が飛んだ。
SAOにはシステム的な《職》は存在しないが生産系などのスキルをメインにしている者は、《鍛冶屋》や《料理人》などの職名で呼ばれる場合があるが《騎士》や《勇者》という職はない。
だが、誰がどんな職名を名乗ろうとそれは個人の自由だ。
見ればディアベルは胸と肩、腕とすねをブロンズ系防具で覆い左腰には大振りの直剣、背中にカイトシールドを背負っておりいわゆるナイト系装備と言って言えなくない。
「さて、こうして最前線で活動してる言わばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由は、もう言わずもがなだと思うけど…」
ディアベルはさっと右手を振り上げ、街並みの彼方にうっすらとそびえる巨塔、第1層迷宮区を指し示しなが続けた。
「…今日、オレたちのパーティーがあの塔のボス部屋に辿り着いた!」
その途端、どよどよとプレイヤーがざわめく。
「1ヶ月。ここまで1ヶ月もかかったけど、それでもオレたちは示さなきゃならない。ボスを倒し第2層に到達してこのデスゲームそのものもいつかきっとクリアできるんだってことを、はじまりの街で待っているみんなに伝えなきゃならない。それが今この場所にいるオレたちトッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」
再びの喝采。
今度はディアベルの仲間たち以外にも手を叩く者がいた。
カゲヤもディアベルに拍手をしていた。
「それじゃ、早速だけどこれから攻略会議を始めたいと思う!まずはパーティーを組んでみてくれ!パーティーを束ねたレイドを作るんだ!」
……まずはキリトを探さないとな。
……なんだと。
……パーティー?レイドってなに?
上からカゲヤ、キリト、サキ達が同時に心の中で呟いた。
先に動いたのはカゲヤだった。
「すまない。少しここで待っていてくれないか」
カゲヤはそう言うと返事を聞かずに奥の方に座っている2人組の方に向かって行く。
もちろんその2人はキリトとアスナだ。
「キリト、どうせ組む相手いないんだろ。なら俺たちと組もうぜ」
「そういうお前も組む相手はいないんだろ」
「まぁな」
カゲヤはキリトにパーティー参加申請を出す。
キリトがOKを押すと2人の視界の左側に小さい2つ目のHPバーが表示される。
「そっちの人は?」
「お願いするわ」
カゲヤはパーティー参加申請を送るとアスナは素っ気ない仕草でOK押す。
「向こうにもパーティーを組んで欲しい人がいるんだかいいか?」
「俺は構わないよ」
「私も構わない」
カゲヤは2人を連れてサキ達の元へ戻る。
「2人も俺たちとパーティーを組んでもらってもいいかな?」
「あ、はい。いいよね、お姉ちゃん」
「えぇ、構わないわ」
カゲヤは2人にパーティー参加申請を送り、2人はそれのOKを押す。
それぞれの視界の左側に小さい2つのHPバーが追加された。
「そろそろ組み終わったかな?」
ディアベルは周りを見渡しながら言うと終わったと判断して話し始めた。
「よーし!じゃあ会議を「ちょお待ってんか、ナイトはん」
話に割り込むように真ん中に座っていた男が叫んだ。
その男は階段を降りてディアベルの前まで行くとこっちに振り向き言った。な
「そん前にこいつだけは言わしてもらわんと仲間ごっこはでけへんな」
唐突な乱入にも関わらずディアベルはほとんど表情を変えず、余裕溢れる笑顔のまま言った。
「こいつっていうのは何かな?まぁ何にせよ意見は大歓迎さ。でも発言するならいちおう名乗ってもらいたいな」
「………フン」
そのは盛大に鼻を鳴らすと言った。
「わいはキバオウってもんや。こん中に今まで死んでいった2千人にワビィ入れなあかん奴があるはずや!」
誰も何も言おうとはしなかった。
何か言えばその途端奴らの一員にされてしまうからだ。
だが、唯一ディアベルだけが言葉を発した。
「キバオウさん。君の言う奴らとはつまり、元βテスターの人たちのことかな?」
ディアベルは腕組みをして、今までで最も厳しい表情で確認した。
「決まっとるやろ。βあがりどもはこのクソゲームが始まったその日にダッシュではじまりの街から消えよった。右も左もわからん9千人のビギナーを見捨ててな!そしてジブンらだけぽんぽん強うなってその後はずーっと知らんぷりや。」
そう言うと周りに睨みを利かせ続ける。
「こん中にもおるはずやで、βあがりっちゅうことを隠してボス攻略に入れてもらお考えてる小狡い奴らが!そいつらに土下座さして貯め込んだ金やアイテムをこん作戦こために軒並み吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預けられんし預かれんとわいはそう言うとるんや!」
名前のとおり牙の一咬みにも似た糾弾が途切れても、声を上げようとする者はいなかった。
アスナやサキたちは何のことかわからず黙っており、キリトは奥歯を噛み締め息を殺していた。
…確かにキバオウが言うとおりそう思っている奴が大半だろう。
が、それは単に自分たちが勝手に決めつけていることにすぎない。
だから今ここで訂正しなくちゃいけない。
「発言をいいか?ディアベルさん」
そう言ってカゲヤは立ち上がる。
横ではキリトが驚いた顔で見ていた。
「あぁ、構わないよ」
「じゃあ、まず1つ。キバオウさん、あなたは元βテスターの気持ちを考えたことはあるのか?」
「なんやて!?」
「元βテスターだって、人間なんだぞ。命がかかった状況になったら誰だって自分のことを優先するのが当たり前だ。そんな状況で元βテスターが新規プレイヤーに説明出来ると思ったら大間違いだ!
それと1つ。元βテスターが1人も死んでないと思うなよ。SAOにログインした元βテスターは約80%、残りの20%は運良くログインできなかったんだろう。そして、その80%中、30%が既に死んでいる。
これは鼠のアルゴの情報だから間違いはないだろう」
カゲヤが言い終わった途端周りは動揺してざわめき始めた。
無理もない。元βテスターは新規プレイヤーよりも知識と経験が多いからだ。
だから普通のプレイヤーたち元βテスターたちは死なないと勝手に決め付けていたのだ。
…これで元βテスターへの敵対心がなくなればいいんだけどな
カゲヤはそう思いながら座ると次はスキンヘッドの男が立ち上がった。
「俺も発言いいか?」
「あぁ」
「俺の名前はエギル。キバオウさん、俺も彼の発言に1つ付け加えたい。このガイドブック、知ってるか?」
「道具屋に置いてあったやつやろ?それが何や!」
「これは、元βテスターが配布していたものだ。それも無料でな。いいか、情報は誰にでも手に入れられたんだ。これ程の物があったのにも関わらず、たくさんのプレイヤーが死んだ。その理由は俺は、彼らがベテランのMMOプレイヤーだったからだと俺は考えている。自身の経験だけでプレイし、引くべき点を見誤った。
だから、俺は今後の事を真剣に話し合った方が良いと考えているんだがな?」
誰も異論はなかった。
キバオウもエギルの堂々たる態度と真っ当な意見に噛み付く隙を見いだせなかった。
無言で対峙する2人の後ろでディアベルが一度頷く。
「キバオウさん。君の言うことも理解はできるよ。でも、そこのエギルさんの言うとおり今は前を見るべき時だろ?元βテスターだって、いや元テスターだからこそ、その戦力はボス攻略のために必要なものなんだ。彼らを排除して結果攻略が失敗したら何の意味もないじゃないか」
こちらも実に爽やかな弁活だった。
聴衆の中には深く頷く者が何人かおり、元テスター断罪すべし、という場の雰囲気が変わる。
それを感じとったのかカゲヤとキリトは安堵の息を吐いた。
ディアベルは真顔でキバオウをじっと見詰め、キバオウもしばしその視線を受け止めていたが、ふんと盛大に鼻を鳴らすと押し殺すような声で言った。
「ええわ、ここはあんさんに従うといたる。でもな、ボス戦が終わったらキッチリ白黒つけさしてもらうで」
そう言うと振り向き集団の前列に引っ込む。
エギルも元居た場所へ下がった。
「さて、それらをふまえて再開する。実は、先ほど例のガイドブックの最新版が発行された」
その瞬間場がどよめいた。
「ボスの情報だが、この本によるとボスの名は《イルファング・ザ・コボルドロード》。そして《ルインコボルト・センチネル》と言う取り巻きがいるらしい。それとボスの武器は斧とバックラー。4本あるHPバーの最後の1本が赤くなると曲刀カテゴリーのタルワールに武器を持ち替え、攻撃パターンも変わると言う事だ───」
そしてディアベルがいくつか説明した後
「───さて、攻略会議はここまでだ。最後にアイテム分配についてだが金は全員で自動均等割り、そして経験値はモンスターを倒したパーティのもの。アイテムはゲットした人のものとする。異存は無いかな?」
誰も異存はなかった。
「よし、それでは 明日の朝10時にここを出発する。では、解散‼︎」
その宣言の後、それぞれのパーティが解散していった。