その身に宿すはキングストーンⅡ 作:桐生 乱桐(アジフライ)
申し訳ございません
いつも以上にアレな出来ではございますが、楽しんでもらえると嬉しいです
今回から修学旅行編
ではどぞ
10
修学旅行も目前に控えた、ある日の夜
ベッドに川の字となってすやすや寝ているのは浩太郎とアーシア、そして小猫の三人である
本来ならちゃんとそれぞれ部屋があてがわれているだが、浩太郎の部屋で夜更かしして遊んでいたらたまたま寝る流れになった、という感じだ
「…もうすぐ浩太郎さんは修学旅行に行ってしまうんですよね」
「あぁ。だけど三泊四日だし、すぐに帰ってくるからさ」
右腕に抱きつきながらベッドの上で小猫の言葉に、浩太郎は返答しながら微笑んだ
「うふふ…小猫ちゃんには悪いけど…三日間だけ浩太郎さんを独占させていただきます…♪ あ、でも最初の日だけ浩太郎さんはいないから、二日間、ですかね?」
そう言って左腕に抱きつきながら微笑むのはグレモリー眷属僧侶、そして梓馬家住人のアーシア・アルジェントだ
「それに小猫ちゃんは私が知らない間に浩太郎さんと急接近してます。ずるいです。もぅ」
「それは…謝る。…ごめんなさい」
そうは言いながらも抱きつく腕に力が入っている
小猫は頬をすりすりと寄せながら
「だから、今のうちに浩太郎さんの成分を補充します。私一年で、一緒に行けないので」
にゃあん、と甘い声色を上げながら彼女は隠していた耳と尻尾を顕現させ、それらをぴこぴこふりふり動かし始めた
可愛い
そうこうしていると不意にドアが開き、そこから黒い髪を靡かせた女性が銀髪の女性と一緒に入ってくる
メリーディエース・ルークスと彼女が我が家に引っ張ってきたロスヴァイセだ
彼女たちの後ろには遠慮がちについてきている飛鳥もいる
付き合わされたのだろうか
「こ、浩太郎さんたちは流石に寝ていますね」
「時間も時間ですし、修学旅行も近いですからね。夜更かしして当日に遅刻しては困りますから」
「…ほんっとお堅いわねぇ。そんなんだから今の今まで出会いがないのよ」
「い、今はそれとこれとは関係ないじゃないですかぁ!? う、うぅ…わ、私だって出会いがほしいんですぅぅ!
」
「はいはい、時間考えてロスヴァイセ。あたしらもそろそろ寝るよー」
そんな会話を交わしながら、三人は一階へと戻っていく
両親が共働きで今は家にいないことが幸運だった
「…そういえば、メリディさんは貴方の中に戻らないんですか?」
「うん? そうだなぁ…家にいるときは最近出たままかなぁ、ロスヴァイセさんっていう気の合いそうな人も引っ張ってきたし、色々謳歌してるんじゃないか?」
「そうですね、浩太郎さんとトレーニングしてる時や、ロスヴァイセさんと話しているメリディさんはとっても楽しそうです」
激動の時間を生きてきた彼女にとってこの時間は、過ごし得ない時間だったのだろう
笑顔を見せる彼女を見てると内心安堵している自分が居る
「…さて。そろそろ寝よう、二人共」
「了解です。…んぅ」
「はーぁい」
浩太郎の一声に二人が抱きつく力を一層強くする
以前なら理性がいろいろヤバかったかもしれないが、今となっては慣れたものだ
二人の安らかな寝息をBGMに浩太郎も睡魔に身を委ねた
◇◇◇
グレモリー家ダイニングルーム
「将来的には、こちらのグレモリー領に北欧魔術の学舎を作ったり、悪魔の女性からヴァルキリーを排出したり…など、新しい事業などをしてみたいと思っています」
「天使の私がこんなお屋敷にお邪魔できるなんて光栄です! これも主のお導きと。魔王様のおかげですね!」
ロスヴァイセが未来を語り、イリナが楽しそうに笑顔を振りまく
修学旅行間近、グレモリー眷属にイリナ、そして浩太郎を加えた一行はリアスの両親と一緒にお茶会に興じていた
彼女の眷属が揃ったので記念として、改めて彼女の両親に紹介することになったのだ
正直自分の場違い感が半端ない、そもそも浩太郎自身は(一応)人間なのだ
「ははは、ロスヴァイセさんは産業に関心をお持ちみたいですな。当主としては、期待が膨らみますな」
リアス父が朗らかに笑う
ダンディズム溢れている雰囲気だ
そこでふと紅茶を口にしていたリアス母がカップを置いて言葉を紡いだ
「そういえば、一誠さんたち二年の方々は修学旅行が近いのでしたわね。たしか、京都、だったかしら」
「あ、は、はい。もうすぐ京都に行くつもりです」
「ふふ。去年リアスが買ってくれた京野菜の漬物が美味しかったわね」
思い出すようにリアス母が目を閉じながら天井を向く
個人的にリアス母が漬物を食べる、ということに少しだけ驚いた
失礼だがイメージが湧きにくかったのだ
「あ、じゃあ自分お土産で買ってきますよ。京野菜」
「あら…そういうつもりで言ったのではなかったのだけど…ごめんなさいね、気を遣わないでもよろしいのよ?」
浩太郎の言葉を聞いてリアス母が口元を手で隠し、頬を染める
不覚にもその反応を可愛いと思ってしまった自分がいた
◇◇◇
茶会を終えて転移用の魔法陣で家に帰ろうとした時、グレモリーの城にサーゼクスが戻っている、というので帰り際にあいさつだけでも、ということになった
またその時
「僕も行きます!」
ミリキャスも行きたい、というわけで彼もご同行することに
サーゼクスが戻った時に使われた移住区の通路で、サーゼクス…に加えて見覚えのある黒髪の男と鉢合わせした
貴族服を来たサイラオーグだ
「邪魔をしている。元気そうだな、リアス、赤龍帝」
自然体な状態でもにじみ出るオーラ…やはり彼の強さは本物だ
「えぇ、来ていたなら言ってくれてもよかったのよ? だけど、貴方も元気そうで何よりだわ。…っと、挨拶が遅れました、お兄さま、ごきげんよう。いまこちらにお帰りになられていると聞きましたから、挨拶だけでも、と思いまして」
「気を遣わせてしまって申し訳ないね。ありがとう」
サーゼクスがミリキャスを抱きかかえながら微笑んだ
戻っている理由は今隣にいるサイラオーグ関連だろうか
となると、レーティングゲームに関するものか?
「お兄さま、サイラオーグがこちらに来ていた理由は…」
「うむ。バアル領の特産品である果物等をこちらにわざわざ持ってきてくれたのだよ。気を遣わせてしまい悪いと思っていたところだ。今度是非ともにとリアスをバアル家のお屋敷に向かわせようとしていたのだよ」
そういえばサーゼクスから見るとサイラオーグは母方の従兄弟、だという話を聞いていた
そんな風に考えると改めてサイラオーグの凄さというのがよくわかる
「今度のゲームについても話していてね。リアス、彼はフィールドのルールはともかく、戦いに関しては複雑なルールを一切排除してほしい、とのことだ」
「―――!」
サーゼクスの言葉を聞き、リアスは驚き、そして鋭く視線を尖らせる
「…それはこちらの不確定要素も全て受け入れる、ということでいいのかしら? サイラオーグ」
「あぁ。時間を止める吸血鬼も、女性の服を弾き飛ばし心を読む赤龍帝の技も、俺はすべて許容したい。…お前たちの全力を受け止めずに、次期当主は名乗れない…いや、名乗れるはずはない、からな」
サイラオーグのその言葉に、リアスを含むグレモリー眷属一同が息を呑む
気迫と覚悟、どれをとっても一級品…どことなく彼の背中からはうっすらとオーラのようなものが見える
彼から感じられるのは純粋な戦意…邪心を一切感じない、真っ直ぐな決意だ
「こ、怖いですぅ…僕の力を前向きに受け止める方がいるなんて…逆に怖いですよぉ」
浩太郎の後ろでガクガクと震えるギャスパー
確かにこの時間停止を真正面から受け止める、ということをさらりと言ってのけるというのはそれだけ自信がある、という現れなのだから
「…ふむ、丁度いい。サイラオーグ、赤龍帝…イッセーくんと少し拳を交えたい、と言っていたね」
「? えぇ。確かにそう申し上げましたが…」
「軽くやってみたらいい。彼の拳、その身で一度味わいたいのではないかな?」
突然のサーゼクスの提案
突拍子のない言葉に兵藤が驚きで目をパチクリさせている
つまりサーゼクスは今ここで軽く模擬戦してみるといい、と提案したのだ
「リアス、どうだろうか」
「…お兄―――いえ、魔王様がそう仰るのなら、断る理由はありません。…イッセー、できるわね?」
「は、はい! 俺でよかったら!」
一歩前に出て兵藤はそう宣言する
提案されたときは多少困惑していたが、今はもうその戸惑いは消え凛々しく、覚悟を秘めた視線をサイラオーグに向ける
彼の視線を身に受けてサイラオーグは気迫あふれる笑みを浮かべ
「これは良い機会をいただきました。―――存分にお見せしましょう、我が拳を…!」
◇◇◇
そんなわけでグレモリー白の地下にあるトレーニングルーム
駆王学園のグラウンドが全部入りそうなほどの広さのあるルームに、一行は場を移していた
それぞれ動きやすい格好へと着替え終えており、いつでも戦いは始められる状態だ
ちらりとサイラオーグを見やる
アンダーウェア越しからでも十分伝わる鍛えられた肉体、あれはかなりのトレーニングを積まなければあそこまではならない
兵藤が鎧を纏い、力を高めている間も彼はじっと見据えたままで動かない
余裕、ではない、全力を待っているのだろう
勝てないまでも、負けない戦いを見せて欲しいが…
まず先に動いたのは兵藤一誠
全力まで力を高めて一撃を急速接近し、思い切り叩き込む
その間、サイラオーグは一切動かなかった
避ける必要がない、からじゃない
<(…本当に真正面から受け止める気ね、彼)>
メリディのつぶやきが頭の中で聞こえてくる
<(恐らく並大抵の奴が相手なら、さっきの一撃でノックアウトよ。だけど、彼は違う)>
メリディの言葉の途中で、サイラオーグの姿が消えた―――そう思ったとき兵藤の背後から現れ拳の一撃を兵藤に叩き込んでいた
兵藤も慌ててガード、したが篭手の部分が破壊されているほどのパワーだ
―――速い
拳速、スピード、どれをとっても今までの相手とは比較にならないほどに
その後も兵藤とサイラオーグは互いに拳を打ち付け合い、時折サイラオーグと話し込んでいるような様子も見られた
浩太郎は少し離れた位置にいたので、その会話の内容まではよくわからない
だが、悪い内容でもなさそうだ
<(浩太郎、そろそろ模擬戦を止めるわ。貴方は兵藤くんをお願い)>
(止める? なんで?)
<(馬鹿ね、これはあくまでも模擬戦。フィニッシュまで殴り合わせては意味がないでしょう? 決着はレーティングゲームでつけるべきだわ)>
メリディにそう言われてそれもそうか、と納得する
眷属のみんなもどこかハラハラしている様子でもあったし、止めるのなら頃合…かな
メリディが隣に現れると同時、その場から跳躍し今にも殴り合わんとしている二人の間に割って入る
完全に水を差したようで申し訳ないが
「こ、浩太郎!?」
「ストップだ兵藤。ケリが付くまでやり合う気か?」
「気持ちはわかるけど、今日はここまでよ。決着はゲームでつけて頂戴」
「…メリーディエースどのの言う通りだ。思わず最後まで味わい尽くしてしまうところだったです」
「いいのよ別に。それに、この子―――まだ強くなるわよ?」
そう言いながら兵藤へとメリディは視線を動かす
その視線を受け、兵藤は? と頭の上に疑問符を浮かべたような顔をした
既に纏っていた鎧は解除され、いつもの彼がそこにいる
「なら、楽しみはゲームの時までにとっておきましょう。俺にもお前にも夢がある。だから、そこで再びまみえよう、次に出会うときは、夢に繋げるための舞台の上。…俺は全力で、お前たちを打ち倒す」
彼はそう言い残してサーゼクスに一言挨拶したあと、この場を歩き去っていった
緊張感から解放され、その場はとりあえず落ち着きが戻ってくる
サーゼクスが兵藤に歩み寄り、問いかけた
「どうだった? 彼の一撃は」
「…俺の拳に似てました。そっくりで…」
「うむ。君と同じさ。足りないものを補うべく必死に練り上げられたものだ。だからこそ強い、全てがストレートな攻撃…これは今の悪魔にないものだ」
サーゼクスの言葉を聞いて、ふと浩太郎は思った
彼の戦い方は―――どことなく兵藤に似ているんだ
殴るしかないから、それを極限まで鍛え上げたのだろう
「ちなみに、あの子は両手足に負荷のかかる封印を施して戦ってわ」
メリディの告白に兵藤は衝撃を受けたような表情をした
そしてそのあとに、楽しそうに微笑んだ
目標ができて嬉しいのだろうか
「彼はもうプロの王と比べても遜色はない。禍の団のテロも何度か防衛しこちらに勝利をもたらしている」
「けど、兵藤くんも大したものよ。彼と戦って戦意喪失しないってなかなかすごいことよ? 魔力が通じず、肉体だけで圧倒されるんだもん。プライド高い上級悪魔ほど、折れたら再起は難しいからねぇ」
サーゼクスとメリディはそう言って兵藤を褒めた
対して兵藤は小さく苦笑いを浮かべて
「…俺はもう負けたくないだけです。ゲームでまともに勝てたことはありません。ライザー、ソーナ会長…俺はこの二戦で黒星です。だから、次は―――!」
兵藤の気合と覚悟は本物だ
応援しかできない自分だが…彼には勝ってほしいな、とも思う
決意を新たにした彼を視界に捉えながら、改めて浩太郎は彼と、その仲間たちを支えていこうと身を引き締めた
◇◇◇
「そういえばお前、リアスさんが卒業したらなんて呼ぶんだ?」
帰り道、歩いている道すがら、浩太郎が何となく兵藤に問いかけてきた
考えなかったわけではない、卒業すれば彼女は部長でなくなってしまう…そうなると当然新たな部長が誕生するわけだ
その時、自分はなんて彼女を呼べばいいのだろう
マスター、お姉さま…なんていろいろ候補は浮かび上がってくるのだが、本当に呼びたい呼称は違う
―――リアス―――
それが一番呼びたい呼び方だ
一緒に住む家族だから
大切な人だから
一回だけでいい、そう、名前で、読んでみたい
◇◇◇
修学旅行当日
アーシアがゼノヴィア等と一緒に家を出たのを見送った後、浩太郎は大きく深呼吸をする
初日だけ自分は別行動を取るのだ
そのことは既に担任にも報告済みだし、桐生含み同じ班の人にも相談は済んでいる
とりあえず望月翔子に連絡して、待ち合わせでも聞いておこう
「(ところで、どうやって向こうに行くの? ライドロン?)」
「それも考えたけど、普通に屋根伝いに飛んでいくよ。運動にもなるしちょうどいいと思ってね」
<(…アホなこと考えるわねぇ。写真とかに気をつけなさいよ?)>
わかってる、とメリディに返事しつつ、浩太郎は一つ背伸びをする
みんな今頃は駅にいるころだろうか、あるいは出発したころか?
こちらもそろそろ出発しなくては
「さて、じゃあ行くか!」
太陽の光を体に浴びて、浩太郎は大きく足を踏み出し、跳躍する
どんな旅になるかはわからないが、こうして自分たちの修学旅行は幕を開けた