インフィニット・ストラトス the psychological organ 作:賽子の目
応接室の扉を開けた織斑千冬を待っていたのは、目つきの鋭い壮年の女性だった。顔には深く皺が刻まれているが、背筋は真っ直ぐに延び、それはまさに人の上に立つ人であると千冬に見せつけていた。
その女性は胸ポケットから名刺を取り出して、
「東日本の公安局局長、禾生壌宗です」
「IS学園全権、織斑千冬です。どうぞ、おかけになって下さい」
互いに名刺を交換し、席についた。
壌宗は社交的な笑みを浮かべると、
「挨拶はこれで正しかったですか?東と西では、常識すら変わってくると聞いたもので」
それがジョークだと気付くのに、千冬は少し考え込んだ。それから同じく社交的に笑って返答する。
「ええ、勿論」
「それは良かった。私のコミュニケーション能力も捨てたものでは無いですね」
想像していたより話しやすい、と千冬は心の中で安堵の息を吐く。
「ところで、今回の訪問のご要件は……?」
「ええ。端的に言わせて頂くと、IS学園でのシビュラシステムの稼働試験です」
眉をひそめる千冬に、壌宗はテーブルに両腕を組んで説明する。
「IS学園を東日本に取り込む、という訳ではありません。シビュラシステムが完璧に動作するために、幅広いデータが必要なのです」
「そのために、なぜIS学園に?」
「現在、世界ではISを配備し、女性優位の社会が形成されている国が7割を越えています。これは重大な変化であり、ある意味で常識の革命でもあります。そうすると、犯罪を抑制する、言ってしまえば“法そのもの”であるシビュラシステムの絶対性が崩れる恐れが出てくるのです」
壌宗が眼鏡を指で押し上げる。
「そこで我々は、その社会の先端を行くIS学園での稼働試験で、シビュラを現在の社会に適応させるためのデータを収集しようと考えました。もう一度言いますが、これはあくまでも稼働試験であり、IS学園にシビュラを配備する、という訳ではありません」
謝礼にささやかながら資金提供もさせて頂きます、と壌宗が微笑む。
千冬は顎に手を当てると、
「……一度、検討させてください」
「勿論です」
壌宗はにこやかに言って、少し頭を下げた。
「それでは、私はこれで失礼致します。良いお返事を期待します」
「すぐに返答できず、申し訳ないです」
「いえ、お考え頂いただけでも十分です」
壌宗が席を立つのを見て、千冬もそれに倣う。
「それでは、また」
「ええ」
千冬が手を差し出すと、壌宗がそれを握った。千冬の手に温かい体温が伝わる。
そのまま壌宗は応接室を出ると、振り向かずに廊下を去っていった。機械的なリズムで踵を鳴らす音が響く。
「……どうにも底が知れないな」
誰も居なくなった部屋で、一人呟いた。
会話中笑みを崩さず、緊張した素振りも見せなかった壌宗に、千冬は心に言いようのない不安が生まれたのを自覚していた。
と、千冬が思考に浸っていると、応接室の扉がノックされた。
「織斑先生」
「ああ、あなたですか」
扉が開く。そこに立っていたのは、一人の青年だった。
彼を一言で形容するなら、千冬はただ一言「白」と言うだろう。真っ白な髪に、真っ白なシャツ。頭にくっついた穏やかな笑顔は、千冬に根拠のない安心感をもたらす。
彼は、懐に本を抱えて、
「お疲れでしょう。職員室で、コーヒーを淹れたのですが、御一緒にどうですか?」
マドレーヌと一緒に、と彼は一層穏やかな笑みを向けた。
釣られて千冬も笑って、
「頂きます。ありがとう、槙島先生」
「いえ、構いませんよ」
そう言って、彼ーー槙島聖護は、ダンスのエスコートのように千冬を扉の外へ誘った。
時系列はISはラウラ加入後、サイコパスは一期の標本事件直後くらいだと思って頂きたいんですけど、きっとそのへんは有耶無耶になってくと思います
気にしないでね(ニッコリ)