インフィニット・ストラトス the psychological organ   作:賽子の目

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1:貴方と話がしたいのです-3-

薄暗い室内の光源は、部屋の中に鎮座しているいくつものモニターだけだった。唐之杜志恩が入り浸っている分析官ラボに、公安一係のメンバーが揃っていた。

中央のソファに唐之杜が腰掛け、周りを取り囲むかのように、宜野座と執行官が二人、縢秀星と六合塚弥生が立っていた。部屋に入ってきた常守に、唐之杜が挨拶の意を込めてウインクをする。口の端に咥えていた煙草が、波打つ白煙を上げていた。

 

「はあい、朱ちゃん。よく来たわね」

「どうも、唐之杜さん」

 

唐之杜志恩はじめ、公安の刑事は大多数が、シビュラによって「犯罪を犯すかもしれない」という判断を下された、所謂潜在犯である。

一般的に、潜在犯は隔離施設へ、もしくはシビュラの管理が行き届いていない地域に押し込められ、社会の汚点として隔離される。

それでも潜在犯全てを把握しているわけではないため、犯罪行為はシビュラの監視下でも起こりうる。そうすると、それを取り締まる警察機関が必要なのだが、犯罪に深く関わる仕事柄、その警察機関が潜在犯になってしまう可能性が出てくる。

この事態を回避するために、潜在犯を猟犬として使役する、即ち執行官と監視官の制度が作られたのだ。

中には唐之杜のような、実際には現場に出ないが、その技術力を持って支援にまわる潜在犯も存在している。

 

「ごめんなさいねえ。ホントなら、二人っきりでガールズトークでもしたかったんだけど、そうもいかないみたいなのよ」

「何の用だ、ギノ」

 

猟犬の一匹、狡噛が軽く欠伸をしながら言う。すると宜野座が唐之杜に指示を出し、部屋の壁の大部分を占める大きなモニターに画像を投影させる。

モニターに映るのは、公安で使われている輸送用のヘリであった。鯱を思わせる黒い巨体に、翼とプロペラを強引に取り付けたようなそれが、静かにどこかの倉庫に鎮座している。

 

「昨夜、これと同型のヘリが、厚生省ノナタワーから盗難された」

「盗難?」

「やるぅ」

 

縢が口笛を鳴らすのを一瞥し、宜野座が説明を続ける。

 

「時刻は推定深夜二時。監視ドローンにも色相チェックにも記録はなし」

「データの改竄?」

「侵入された形跡はなかったわよ。これこそまさに透明人間の仕業ね」と唐之杜。「時間が時間だけに、目撃証言もなし。こんな犯罪がシビュラの下で起こるとは思えなかったわ」

 

呆れて息と煙を吐く唐之杜を尻目に、宜野座が再び説明を引き継ぐ。

 

「同時刻、西日本との国境付近で、このような写真が撮影された」

 

モニターに浮かぶのは、解像度の荒い夜空の写真。中心にうっすらと黒い影が見える。

 

「解析をかけた所、これが盗難されたヘリと同型の機体だと分かった」

「……これが盗難されたヘリだって言いたいのか」

 

いくらなんでも、と唸る征陸に唐之杜が補足する。

 

「これと同型のヘリが配備されてるのは、公安と一部の空港だけ。で、国境付近にはそれが配備されてる公安支部も空港もないの」

「別の場所から飛んできたわけじゃないのか」

「それもナシね。この時間に離陸許可を申請した空港も、支部もない」

「西の機体という線は?」

「だとしたらそれも問題よ。どうして東の技術を西が持ってるのって話」

 

ノナタワーは、厚生省最高の施設で、シビュラの本体があるとも噂されている。何にしろ、公安から盗難が発生したとなれば、シビュラの絶対性を損なう重大な案件である。

加えて、もうひとつ重大な事実があった。

 

「そして、来週にはシビュラのIS学園での試験運用がある。そこでこのような事態が起こってしまえば、それはシビュラの信頼が損なわれる。最悪の場合、東西の均衡が一気に崩壊、一時期の朝鮮なんて目じゃない喧嘩になるかもしれん」

「それで、俺達はどうしろってんだ」と狡噛。「この透明人間を来週までに捕まえろってのか」

「いや、それは別の係に任された」

「なら何を」

「IS学園での試験運用の護衛だ」

 

縢が顔を思い切りしかめ、不満そうにぼやいた。

 

「要は露払いっすか」

「口を慎め、縢。これはシビュラの信頼を保つ重要な任務だ」

「護衛って…………。どうやって?」常守が首をかしげ、「失礼ですが、宜野座さんたちは男性ですよね?女の園のIS学園に、どうやって」

「ホロで姿を隠すか、向こうの控え室で閉じこもるか、だな。動けるのは常守監視官と六合塚執行官だけだろう」

「俺達は懐刀ってことっすか」

「そういうことだ」

 

宜野座が息を吐く。

IS学園に東の機関介入するなど、前代未聞の出来事だ。まして公安ともなると、どのような化学反応が起こるか誰にも分からない。

 

「念のため、全員にドミネーターの常時携帯、及び執行が許可されている。電磁パルスグレネードも、特例で許可された」

「向こうさんに許しは取ってあるのか」

「勿論だ。だが、生徒への干渉は極力控えろ。ましてドミネーターを向けるなんて以ての外だ」

 

東西始まって以来の出来事に、常守は驚きを隠せないでいた。まさか、私がこんな仕事に携わるなんて。胸のうちには、言いようのない不安が渦巻いていた。

すると、ここまで沈黙を守っていた六合塚が、静かに言葉を発した。

 

「猟犬に番犬になれというのも、おかしい話ですね」




ちょっと久々に編集しました
身辺が落ち着いてきたので少しずつ再開するかも
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