インフィニット・ストラトス the psychological organ 作:賽子の目
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千冬の眼前に二頭、鋼鉄のシャチが降り立った。西日本ではあまり見かけない、二つのプロペラを持つ真っ黒な鋼鉄。追従して無人機らしき武装ドローンも低空飛行に切り替える。
警戒されているな。千冬はヘリの暴風にもまれながら漠然と考えた。
ヘリの武装は輸送機だからか、一見しただけでは見えないが、それを覆う装甲が頑強な守りの片りんを見せている。周囲を浮遊しているドローンはというと、体の真下から生える回転式の機銃に加え、ミサイルを卵のように大事そうに抱えている。しかしこんなものはISにしてみればおもちゃのようなもので、一切の脅威になりえない。千冬が問題視しているのは、一匹のシャチの中から降りてくる、一組の男女だった。
「公安局刑事課、宜野座伸元監視官です]
「同じく監視官、常守朱です。本日からよろしくお願いします」
公安局刑事課。東の警察組織にして「シビュラの犬」。西での一般的な印象がそれだが、敬礼を向ける二人----特に常守と名乗った少女----には、そんな印象はあまり感じられない。
「織村千冬です」 軽く会釈を返す。「ご足労頂き、ありがとうございます。今回はシビュラシステムの学園内稼働実験ということで……」
「ええ、学内にシビュラの中継アンテナを設置させていただきます」
宜野座が表情を変えずに答える。設置するだけなら学生たちに支障は出ない。だが、千冬が案じていることはそれではない。
「それがドミネーターですか」
彼らの腰に添えられている、頭でっかちの拳銃を指さす。携帯型心理診断・鎮圧執行システム、通称ドミネーター。シビュラの目。照準した相手の犯罪係数を計測し、数値に見合った刑を執行する正義のギロチン。
「万一、あなた方がそれを生徒に向けると……」
千冬が危惧しているのは、学園の生徒が執行対象になってしまうことだった。シビュラは学内ではまだ試験稼働段階。何かの間違いで、生徒に向けられるかわからない。だが、それを宜野座が首を振って否定する。
「問題ありません。学園関係者の名簿を一時的に登録し、同時に彼らを執行対象から除外するよう、特別に設定しています。彼らが裁かれることはありません」
「あくまでも、そちらの捜査のための武装、という認識でよろしいか?」
「はい。しかし、危険が迫れば、通常通り執行は行われます。極力パラライザーを使用しますが」
最低限の脅し。それが、千冬に住む世界の違いを痛感させる。
不意に、沈黙を守っていたもう一頭の鋼鉄が、駆動音とともに口を開けた。果たして中からは、四人の男女が現れた。
「彼らを、同じ人間だと思わないでください」宜野座が苦々しい顔を浮かべつつ言う。「彼らはサイコ=パスの犯罪係数が規定値を超えた人格破綻者です。本来ならば潜在版として隔離されるところを、ただ一つの許可された社会活動として、同じ犯罪者を駆り立てる役目を与えられた」
千冬も名前は知っている。「健康的な市民を守る」ため、鎖でつながれた獰猛な猟犬。
「……執行官」
目を細める。これから先、何が起こるか予測がつかない。千冬にしては珍しく、眉根が不安により引き下がる。
「彼らが、しばらくこの学園を見張る番犬。我々監視官ともども、あなたの一時的な監視下に置かれる懐刀です」