オーバーロード ~俺の嫁は狂ってる件について~   作:誤字脱字

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お久しぶりです祈願です

長い間、執筆していなかったのでリハビリで書きました
題材は、今期人気の高かったアニメから選択しました

リハビリしている暇があるならログホラ書けとか石を投げないで!
続けるかどうかは皆さんの評価次第にします
評価次第ではリハビリとして短編に変更します

そんな訳ありのリハビリ作品で良ければどうぞ


~俺の嫁は狂ってる件について~

――――――――ユグドラシル

 

2126年当時の最先端技術を投入し日本のメーカーが発売した体感型 MMORPG。専用コンソールを使いゲームの中に『ダイブ』してプレイするネットゲーム。桁外れの自由度、クリエイト要素、そして「未知を既知とする事」 を目的とした斬新な作りから爆発的な人気を誇った

 

言わずもがな『ダイブ』するとは海や川に飛び込む事を示す言葉ではなく、ゲームの中に飛び込むと言う意味を持っている

つまり感覚や体感、動作に至るまでリアルのスペックが反映され、流石に痛覚は感じられないがよりリアルにアバターが自分の手足の様に動くと言う事だ

 

その事実を耳にした俺は、迷わず近所の百貨店に購入しに行った

然程ゲームに興味のなかった俺であったが、トレーナーや会長から「休む事も練習だ」と厳しく言われ不貞腐れていた俺にとって仮想模擬試合の出来るユグドラシルは身体を休める事もストレスも晴らせる絶好の場所だと判断したからだ

 

………あの頃の俺はユグドラシルに対して余りにも無知であった

さっそくスパーリングを行おうとして町を徘徊するガタイの良いプレイヤーに喧嘩を吹っかけログイン初日に運営から忠告メールを受けたのは良い思い出だ

 

「あの後、種族が人間の相手に対するPKはペナルティが発生するって知ったんだよな」

「どうしたんですか、李さん?」

「いや、なんでもない。それより今日の挑戦者は?」

「また何も対策してないんですか?……アウトボクシングを型にしたヒット&ウェイをスタイルにしています」

「遠距離攻撃を仕掛けてくる敵か……俺を倒したかったら第7位階魔法でも持ってくるんだな」

「またゲームに例えて……格闘家がゲームに夢中とか笑い話ですよ?」

 

如何にも「貴方には似合いません」とでも言いそうな顔で俺にローブを掛けてくるセコンド……コイツ、イメージトレーニングの大切さを知らないな?

 

「ゲームを馬鹿にするのは良くない。……ヘビー級のアレックスもユグドラシルで鍛えて優勝したのだからな」

「アレックス・サーストンが?……笑えない冗談です」

「いや本当だから!アイツ、『ファイトマネー全額課金してやったぜ!』って言ってたぞ!」

「はいはい、とりあえず目の前の相手に集中しましょうね」

「おい!信じてフガフガっ!」

 

人が話している最中だと言うのにマウスピースを入れてくるセコンド……おかげで少し舌を噛んだ

敵は味方にいるとはよく言ったモノだが、流石のウルベルトも味方に『悪』がいるとは言わなかったぞ?

俺の抵抗は虚しく無視され、セコンドに促されるままに入場口へと押し出される

 

『―――cm77kg!中国武術に多彩な技術を取り入れた生きる中国の歴史!!!!』

 

スモークが炊かれ先の見えないリングから俺の紹介をする実況の声が響く

……流石にこの場に立てば俺だって気持ちの切り替えは出来る

相手は全力で王者である俺を倒しベルトを奪いに来るのだ

 

軽くシャドーをして身体を揺らしていく………

仕上がりは悪くない、気分も上々! TVで見ているであろう仲間の為にも……今日の試合、勝たせてもらいますか!

 

気合は十分!後は敵を倒すだけだと言うのに――――

 

「あ、そう言えば…ユグドラシルのサービス終了も今日でしたね?」

「……………………………什么(なんだと)!?」

『赤コーナー!!!ミドル級チャンピオォォォォン!!!リィィィィ!ミンハァァァァ……い?』

 

俺は思わずマウスピースを落す程に口を開け驚きを露わにし、情けない入場を果たすのであった

 

 

 

 

オーバーロード ~俺の嫁は狂ってる件について~

 

 

 

 

時刻は23時51分!!!

挑戦者を1R47秒と言う短時間でリングに沈め、ただユグドラシルをプレイしたいからと言った理由で挑戦者を秒殺してきた俺は勝者インタビューそっちのけで自宅へと帰ってきたのだ

後で会長やトレーナーからドヤされる事は間違いないが俺はどうしても家に帰ってユグドラシルをプレイしたかったのだ

そもそも開幕直後に懐に入られただけで動揺する程、メンタルを鍛えられていないのならユグドラシルをプレイして出直して来い!六本腕の巨体が意気揚々に武器を振り回している中、懐にも入らずひたすら躱す事に集中すれば嫌でもメンタルが鍛えられるぞ!

 

あのまま勝者インタビューを受けていたなら間違いなく言っていたであろう言葉を心の中でぼやきながら急いでユグドラシルを立ち上げ、コンソールを付ける

ゲームのメイン画面が映し出されている間にメールBOXを確認すると俺の格闘家人生に尽力してくれた仲間からメールが届いていた事に驚きを露わにした

 

『御忙しい中すみません。お元気ですか?もしよろしければユグドラシルのサービスが終了するとのことですので最後に皆で会いませんか?ナザリック地下大墳墓でお待ちしています    Fromモモンガ』

 

「もも~!オマエってやつはーーーー!!!!!」

 

『茶釜』や『るし★ふぁー』なら兎も角、俺を仲間に誘ってくれ、今も尚、去っていった仲間の復帰を待ち続ける心優しいギルドマスターからのメールに俺はTKOをくらった気分であった

 

「すまないモモ!あんな雑魚の相手をする為に3ヶ月も放置しちまって!今行くから待っていろ!」

 

認証確認が済み、俺はユグドラシルへと『ダイブ』するが時間は刻々と過ぎていき23時58分―――よりによってログイン先はホームから遠く離れたアレックス達とパーティを組み、荒らしまわった廃ギルドの跡地の森林……即ちナザリック地下大墳墓域には間に合わないと言う事実

 

転移札を使えば間に合うか!?と思いストレージを漁るも運悪く品切れ状態、せめて一言だけでも言わなければと思いギルドマスターであるモモンガさんに《伝言(メッセージ)》を飛ばした

 

『モモ!对不起!迟到了(すまない、遅れた)!!』

『中国語!?…って李さん!てっきり防衛戦でログインできないと思っていましたよ!』

『あんな雑魚瞬殺だって!見ては…ないよな。ここにずっといたんだろ?』

『えぇ、最後ですしね?……李さんの試合を見れなくてすみません』

『気にするな、君の気持ちもよく分かるって……こんな事を言う俺もユグドラシルがやりたくて1RKOを狙いに行ったんだからな!』

『ハハ、ゲームがしたいからKOを狙いに行くって李さんらしいです』

 

音声の向こうから乾いた笑い声が聞こえるが、もはやユグドラシルをプレイするのが目的でKOを狙うのが常習犯となっている俺にとっては聞き慣れた笑い声であった

 

『……本当ならもっと早く来れたら良かったのですが、すみません』

『仕方がないですよ……李さんは今どちらに?』

『……「筋肉大好き同盟ギルド!ウホ!」の跡地。すまないが顔を見せに行くことが出来ない』

『そうですか……仕方ないですよ。私は最後に李さんと話せて良かったですよ?』

『………那是这边的对白(それはコッチのセリフだ)

 

男に向って事も無げに恥ずかしい言葉を言ってくる為、思わず中国語で返してしまったが感謝の割合では俺はモモンガさんに恩を返しきれない

始めは単なるイメージトレーニングの一環で始めたゲームがまさか、仲間の大切さや仲間と協力し達成する喜びを教えてくれるとは思ってもいなかった

これも全て俺を〈アインズ・ウール・ゴウン〉に誘ってくれたモモンガさんのおかげだ

 

『俺の格闘家人生は〈アインズ・ウール・ゴウン〉の栄光と共にあったと言える』

『李さん……』

『例えユグドラシルが無くなろうと俺はお前達を忘れはしない!今日勝ち取ったファイトマネーは全額運営に寄付してやりますよ!』

『はは、それでユグドラシルⅡが出来る事を待ち望みましょう』

 

ユグドラシルⅡか……確かに面白そうだ

俺はゆっくりと眼を閉じ、最大の感謝を込めてギルドマスターに感謝の言葉を送った

 

『あぁ……これで最後。再重新开始吧、尊敬的我朋友(また再開しましょう、尊敬する親友よ)

『え!?最後は日本語で―――――』

 

サービスが終了するのと同じタイミングでモモンガさんが、何か言っているけどこんな言葉、日本語じゃ恥ずかしくて言えませんよ

 

閉じていた眼を開き、生い茂る木々に目を遣ればユグドラシルがサービスを終了したことが……………

 

 

 

ってあれ?なんで目の前が生い茂った木々なんだよ!

というか俺の居た場所って自宅のマンションだよね!?コンクリートジャングルだよね!?なんでリアルジャングルに居るんだよ俺!?

 

脳裏によぎったのはモモンガさんと交わしたユグドラシルⅡ……『実はサービスは終了してませんwww』とか、『サービス終了すると思った?ねぇ、恥ずかし言葉を言った君ってwwww』とかドッキリがあるのかと思い身構えるが一向に運営から通達がくる気配がなかった

 

「おいおい、マジでどうなってんだ?まさか、アレックスが運営会社を買収して密かにユグドラシルⅡを作成していたって落ちじゃないだろうな?」

 

ワールドチャンピオンでもあり、筆頭株主でもあるアレックスならやりかねないと思うが、これはあまりにもリアルに近すぎだ

草木の臭いも肌を撫でる風もリアリティがあり過ぎて本当にユグドラシルの世界に来たように感じる

 

「アレックスもそんな事は一言も言ってなかったし、これはマジで意味が「ぎゃああああぁぁぁ!」ッ!悲鳴!?」

 

森の奥から響き渡る悲鳴に俺は思わず、ゆっくりと歩きだし声がする方へと林を抜けていく、声質から一刻の猶予もならない程緊迫した雰囲気が感じられ進みは歩くような速さから自然と駆け足へと変わっていった

リアルでも親交のあるリア充騎士に影響されてか自分の持つ力で誰かが救えるのなら救いたいと思うようになっていた俺は一片の恐怖もなく悲鳴を上げた者を助ける為に走り出した

 

暫くするとボンヤリと明かりが見え、鉄分と水気を含んだ臭いが鼻を刺激し始める

次第に焦る気持ちが高揚感に変わっていく事に気づかなかった俺は林を抜け――――

 

「ひ、ひぃ!た、たすけでッ!」

「誰が悲鳴以外を口にしていいって言ったかな~?…って、あらら~もう一人追加ですか~」

「…………ふむ」

 

拍子抜けというかなんというか、男が女に襲われていた

本来なら『リア充死ね!』と言って右ストレートをかましたい所だが、切羽詰まる男の表情から男女間の修羅場ではなくドロドロの殺人現場。……さしあたり俺は殺人現場に立ち寄ってしまった一般市民、悲鳴に誘われて呼び寄せられた野次馬と言った所か?しかし―――

 

「綺麗だ…」

 

頭上まで伸びきった木々に塞がれて今まで確認できないでいたが、俺の真上に広がる夜空はリアルではもう拝む事が出来ないとされていた光の海が広がっていた

 

「うふふ、綺麗だ~なんて私照れちゃう~……でもさぁ~、あんた今の状況分かってんの?」

「たすげてぐれ!俺はまだ「あ~アンタはもういいや」ッ!」

 

ブルー・プラネットさんが如何に自然の大切さや自然回復を熱弁していたのか今になってやっとわかる気がする

この美しい風景を見れば心が洗われ社会に囚われていた己が心を洗浄し細かい事など気にならなくなる程の幻想さを醸し出しているな

 

汚染が進み厚い雲で覆われしまったリアルの夜空と違いありのままの空に魅せられ感動に浸っていた俺に空気を裂くような音が近づいて来るのを感じ取った

 

それが顔を目掛けて一直線に向かって来る事に気づいた俺は反射的に顔を逸らした

そして見える一本の鉄と猫科の動物を思い浮かべさせる顔立ちをした女が驚きの表情で此方を見つめていた

 

俺と女の視線が重なり合い互いに距離を取る。

夜空に魅せられて忘れていたが、今この場は殺人現場。………しかも犯人がいる殺人現場だったんだよな?

 

「やっと気づいてくれた~、ひっどいよ~?口説いといてそのまま放置するなんて~?私悲しくって思わず楽しまないで殺しちゃったじゃな~い」

 

月をバックにクスクスと笑いながら鉄……あれはスティレットか?まぁ、RPGよろしく、これまたリアルでは拝む事の出来ない時代錯誤の武器を構えた女が俺に笑みを浮かべた

彼女の後ろに先程まで助けを求めていた人間が血を流しながら静かに横たわっているのを見るに殺されてしまったようだ

確かこういう時は「あぁ、×××よ。死んでしまうとは情けない」と言葉を掛けるべきだとペロロンチーノさんが言っていたな

 

「あぁ、見知らぬゴミよ。死んでッ!?」

 

ペロロンチーノさんの教えに則り言葉を掛けようとした俺は次の瞬間、得体の知れない衝動に駆られた

 

「あ…が…ああ…」

「うふん、やっと自分が置かれた立場がわかったのかしらぁん?……うふふ、やっぱいいわ~、恐怖に慄くその表情」

 

己が武器をぺロリと舐め淫気に満ち視線を送ってくるが、今の俺には玩具(かのじょ)が言葉を発する度に駆り立てられる衝動が強くなってしまうのを抑えきれずに身を震わせていた

 

「……い……ほしい」

「……あぁん?」

「……欲しい、貴様が欲しい!肌を血に染め髪を毟り取り、目玉を潰し!……貴様の全てを俺のモノにしたい!」

 

我慢できず己が欲望を口にしてしまう

俺はどうしてもあの玩具(かのじょ)を自分の手によってグチャグチャに犯したくて堪らないのだ

 

「……テメェ、自分が何言ってんのかわかってんのか?このクレマンティーヌ様が欲しいだって?ふざけんのも大概にしな!」

 

玩具(かのじょ)の表情が先程とは180度変わり怒気を含んだ笑みに変わったが俺には関係ない

あの白い肌を貪り、ハニーブロンドの髪を汚し、あの笑みを絶望へと変えたくて仕方がないのだ

本能が告げるままに一歩また一歩と俺を魅了してやまない玩具(かのじょ)へと無遠慮に近づいて行く

 

「ッ!へぇ~…なら見せてあげようじゃん、英雄の領域に足を踏み込んだクレマンティーヌ様の実力をよ!」

 

俺から発する気配がただ事ではないと感じたのか玩具(かのじょ)は、羽織ったマントを脱ぎ棄て、身が地に付くほどに屈め獲物を狙う野獣の様に俺を睨むと知らぬ言葉を口にし始めた

 

「〈疾風走破〉…〈能力向上〉…〈能力超向上〉………行くわ、よ!」

 

僅かに残る理性が、玩具(かのじょ)が俺と戯れる為に魔法で身体能力を上げていると理解を促してくる。

ユグドラシルでは見た事も聴いた事も無い魔法の為、警戒するに越したことはないのだが、今の俺は両手を広げ自身から飛び込んできてくれると言う玩具(かのじょ)を待ち望んでいた

大凡人間では理解できない思考だが、俺の本能が一刻も早く玩具(かのじょ)を抱きたいとワザと『隙』を作っている様に感じられた。そして……ミサイルの発射の様にスタートを切った玩具(かのじょ)に対し俺は拳を真っ直ぐに伸ばし―――

 

「〈流水加速〉…っ!つあああぁああぁぁぁぁ!」

 

回避すると予想できていた場所へと蹴りを放つ

案の上、俺の初撃を回避した玩具は伸ばした腕の脇を抜けて俺の死角に入り込んできた。

身体の性質上、伸ばした腕の腱と同じ側の足の腱は伸び、重心を支えなくてはいけない為、動かす事が出来なく武術において決定的な『隙』を生む事になるが……この身体と積み上げてきた技術があれば、その『隙』も無くせる

 

重心を腕とは反対の足に移し、支える必要が無くなった足で脇を抜けスティレットをこちらに構える玩具(かのじょ)へと蹴りを叩き込んだ

 

本来の力…理性がある状態で行えば一撃で仕留める事の出来る必殺であったが、本能に従っている現状、技の威力は期待できず、石壁を二枚しか貫通させることが出来ないような無様な結果になってしまった

 

「う……う…がはっ」

 

玩具(かのじょ)を叩き付けた事によって崩れ落ちる石壁に近づけば案の定、玩具(かのじょ)は息をしており、必殺になり得なかった事が確認できたが、蹴りを入れられた腹部からは折れたアバラ骨が突き出ており、吐血も止まらないでいた

 

……アバラの骨折、内臓破裂、頭部裂傷もしかしたら背骨も折れているかもしれない俗に言う虫の息

玩具(かのじょ)の中身は既に壊れて、治しようもない状態だが、奇跡的に外部の損傷は少ない

その奇跡が俺の本能を更に刺激し、玩具(かのじょ)ともっと遊べと強く訴えかけてきている

 

「う、うわぁぁ…あぁ…や、やめて…もうやめ…」

 

吐血し口周りを真っ赤に染める玩具(かのじょ)から救いの声が漏れるが、今の俺には欲望を加速させる興奮剤にしかなり得なかった

ゆっくりと手を伸ばし玩具(かのじょ)の髪を掴み上げ宙に浮かせると腰の辺りで拳を固める

 

「だ、だずげて…やめ、て…」

 

いまだに命乞いをする彼女に応える様に俺は腰に溜めた拳を玩具(かのじょ)の腹部に叩き付けたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

本能が収まったのは彼女から漏れ出す興奮剤が聞こえなくなった頃合いであった

俺の両手は真っ赤に染まり、欲望の対象になっていた女性は口から大量の血と涎を垂れ流しピクピクと痙攣を起こしている

彼女の身を守っていた鎧は既に破壊され尽くされ、彼女の身を刻む刃として身体に埋め込められており、あの白く美しかった四肢は黒ずんだ紫に変わり無残にも捩れ曲がっていた

一番酷いのは腹部であり、色は紫を越して黒かった……

 

人間に与えてはいけない程の重傷、既に命が尽きても可笑しくないと言うのに彼女はまだ生きていた。……彼女の使った魔法の恩恵か?と思った矢先、謎は直ぐに解けてしまった

 

無造作に置かれた大量の空き瓶、そしてストレージにあった筈の〈上級回復薬〉が消えている事実

この事が意味する事は即ち……………………致命傷を与えながら自身の欲を満たす為に彼女を生きながらえさせたと言う事だ

 

脳裏に残る彼女の『殺してくれ』と言う要求が今となって頭に蘇ってくる

 

「糞が!……俺は格闘家である前に人として犯してはならない事をしてしまったのか!」

 

決して犯してはいけない領域に足を踏み入れる所かフルマラソンをしていた事実に途轍もない罪悪感と嫌悪感に押し潰されそうになるが…次の瞬間、淡い光が俺を包み高ぶった感情を抑え込んだのだ

 

「これは……〈精神作用無効〉の特殊能力か?はは……手に感じるものは、リアルだと言うのにこんな所はゲームのままだとはな!」

 

種族が人間から〈僵尸(キョンシー)〉になってから初めて、発現したスキルがこんな場面で現れるとは皮肉なモノだ。これではまるで俺が人間ではなく本当に内側まで〈僵尸(キョンシー)〉になってしまったようだ

 

「………ッ!」

 

赦しを請うにも俺は〈僵尸(キョンシー)〉。既に死んだ人間である俺は、どのように彼女に犯した罪を贖えばいいのかわからず、一思いに自身の命を絶とうにも精神が異常を満たしたと判断され〈精神作用無効〉の効果が発動する。

回数を重ねていくほどに冷静になっていく自身の身体に嫌気がさした瞬間、一筋の光が浮かび上がったのだ

すぐさまアイコンを浮かび上がらせ自分のステータスを確認していく

武術のイメージトレーニングとして始めた為にスキルは適当、スキル効果もイマイチわかっていないモノばかりだが俺は必死にあるスキルを探し………見つけ出した

 

「……許せとは言わん。これは俺の未熟さ故の結果……俺の罪だ。死を受け止め俺を恨んでくれても一向に構わん。……しかし、仮初の生であっても生きる事から逃げないと誓えるならこの指を……噛め」

 

四肢は動かない、恐らく首の骨も折れている為、顔を動かす事も出来ない彼女の意志を確認する為には些か卑猥ではあるが、彼女の口に指を入れるしかなかった

舌も抜かれており、すんなりと彼女の口に侵入した指を歯に当てる

彼女の意志を聞き逃さない様に全神経を指に集中させ……………応えた!

 

「……わかった。俺はお前を殺めた罪を背負い、お前を見捨てたりはしない」

 

力なく横たわる彼女を抱きかかえ、首筋に向い俺は牙を突き立てたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで~?僵尸(キョンシー)って言う化け物の本能が動かすままに私を犯し殺して剰え、眷属にしたってわけ?」

「……すまない、俺が未熟だったばかりに」

「ふ~ん……」

 

結論から言うと俺は本当に僵尸(キョンシー)になってしまったようだ

まさか死に体な彼女を同じ僵尸(キョンシー)として蘇らせる事に成功してしまったのだから言い逃れは出来まい

〈精神作用無効〉の能力が作用した事からスキルも同じ様に使えると踏んだ俺は彼女の意志を尊重すべく僵尸(キョンシー)のスキルである〈眷属作成〉を使用したのだ

 

空想の化け物である僵尸(キョンシー)も噛み付いたりして仲間を増やしていた事を再現したスキル、ゲーム時代では無用なネタスキルであることは否定できないロール専用のスキルだと思っていたが、今は素直に感謝しよう。……ありがとう運営!ファイトマネーは寄付しよう!

 

「しっかし、死んだって言うのに変わらないもんだね~……体温が下がった自覚も心臓が動いてない事も確認できるって言うのに、あんたの言う精神の狂化は感じられないし」

「……ない、のか?俺は今も狂化されている。男は虫けら程度にしか感じられなく女は己の欲を満たす道具にしか感じられん」

「ふーん…」

 

経緯はどうあれ僵尸(キョンシー)として蘇った彼女は今、自身の血を流し落す為に彼女の要望でもあった水浴びをしながら体に不具合が無いか確認してもらっている

 

しかし、精神には異常はないのか……

俺は、彼女を殺害してしまったような感情の高ぶりは、鳴りを潜めたと言うのに人間に対する心情に変化が見られるのだが?

 

………いや、まてよ?僵尸(キョンシー)である俺には〈精神作用無効〉の能力が備わっている。しかし、あの時は作用しなかったのは何故だ?

心の中では僅かながらも意識を保てていると言うのに体は本能に従う凶暴性……まさかと思うが、本物の僵尸(キョンシー)が月夜では凶暴になるのを再現して月夜限定で〈精神作用無効〉能力を無効にしているとでも言うのか!?………なんてことをしやがる運営!ファイトマネー返しやがれ!

 

「…なら私が変わらないのも道理ってわけか~」

「……なにを言っている?」

 

理不尽な運営の設定に頭を抱えていると水浴びを終えたであろう彼女がコチラヘと歩いて来た

考え込んでいたとは言え気配を感じ取れなかったとは俺も、まだまだ未熟!

振り返り彼女の精神が変化しない訳を聞こうとしたが……

 

「なっ!」

「んふふ、自己紹介がまだだったね?私は………クレマンティーヌ。人殺しと拷問が大好きなただの人間だった女よん。よろしくね、あ・な・た♡」

 

彼女の精神に変化の無い理由に驚き、そして―――

 

「ふ、服を着ろ!それとなんだその呼び方は!」

「え~?私をひん剥いて犯し殺した本人がそれ言う~?ウケるんですけど!それに~……お前の全てが欲しいって告白しておいてシラを切るとか……意味わかってんだろうな?」

 

何時ものふざけていた笑みを一転させ心にズシリと響く様な声を出してきた彼女に俺は今更NOと言えるはずがなかった

 

「っ!……好きにしろ!」

「うふふ、ダーリンやっさしぃ~!」

 

ケタケタと生まれたままの姿で笑う女……クレマンティーヌに抱き付かれたまま俺は深く溜め息を零すのであった

 

なぜユグドラシルが現実として存在するのか、俺と言う化け物がこの世界でどのような影響を及ぼすのか、分からない事が多すぎるが確実に言える事は……………

 

「………いい加減、服を着てくれ」

「えぇ~!……言葉ではそういうけど本当は好きなんでしょ?あ・な・た♡」

「ッ!」

 

コイツに振り回されながら、この未だ何処なのかも分からないこの地を彷徨う事は決定している様だ

 

 

END

 

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