オーバーロード ~俺の嫁は狂ってる件について~ 作:誤字脱字
薄暗い共同墓地の地下に冷たく冷え切った水が飛沫を上げた
「ッ!」
「目覚めたか……ならばさっさと儀式を始めろ」
「わ、わかってるわい!」
案の上、水を被ったカジットは意識を覚醒させ、何が起きたのかと辺りを見渡すが、目の前に自分の意識を落させた化け物がいる事で事態を把握し立ち上がった
カジットの声色からは僅かばかりの恐怖感を感じまだ、『絶望のオーラⅢ』の影響が残っている事がわかるが、こちらとしても事態に気づかれる前に事を済ませておきたい
『スイミンフダ』の影響でまだ意識を失っている少年をカジットに投げ渡し俺は柱に寄り掛かり辺りを見渡した
相変わらず湿った空気が入り込んだ地下施設だが、数日前から儀式の準備をしていた事もあり、地下には巨大な魔法陣が描かれている
魔法や魔術に疎い俺には、巨大な落書きにしか見えないのだが、カジット曰く魔方陣は、器の様なモノで中身を入れる事によって形を成す……らしい
どれほどの規模の儀式になるのか判らないが、中身であるンフィーレア少年の魔力量を窺っても対した儀式ではないのだろう
預けた少年の衣服を何かしらの加護の掛った装備に着替えさせたカジットは、徐にクレマンティーヌに声を掛けたが―――
「クレマン「私はダーリンとデートってくるから無理~」な、ん…だと!?」
「ダーリンの魔法が効いてるからカジちゃん一人でも大丈夫でしょ?さぁ、いこっかぁ~」
「お、おい!」
拒否されたアル
いや、心境としては俺もカジットと同じで『な、ん…だと!?』と声に上げずとも顔で語っていたのだが、俺の心境などつゆ知らずクレマンティーヌは腕を掴み地下施設から連れ出して行ったのだ
「…どういうつもりだ」
湿った空気が入り込んだ地下から朱い月が顔を出す外に連れて来られた俺は、クレマンティーヌの行動を疑問に思い声をかけた
確かに俺があの場にいる意味はないだろうが、クレマンティーヌは儀式の最終準備とかやらでカジットの手伝いをする予定になっていた
急に予定を変更しては計画に遅延が出てしまう可能性がある為、早急に儀式に取り掛かる必要があるのはクレマンティーヌも判っていると思っていたのだが?
疑問の声をあげる俺に対しクレマンティーヌは、朱い月と同じく紅い瞳で俺を見つめながらゆっくりと口を開いた
「ダーリンには伝えてなかったんだけどさ~。首飾りの本当の名前って『叡者の額冠』って云うんだよね~」
「あれは……冠だったのか?」
「ダーリン、ファッションには疎そうだもんね~」
「……」
確かにファッションセンスが無い事は重々承知している
しかし、あんな金属糸と宝石が散りばめられた装飾品なんて誰が冠だと思うのだ!
どう見ても首飾りだろ!
「んで~…その額冠なんですねど~膨大な魔力を与える代わりに代償があるんだよね?」
「代償?……カジットは死ぬ事は無いと言っていたが?」
いくら化物に身を落した俺だとしても子供の命を蔑ろにする儀式には参加したくはない
心の底では、子供…いや、人間自体を下等生物だと思っているが、いち武道家として『本心』では否定したい事実なのだ
その事を含め、カジットには再三少年の命を摘む事はないか確認はしてある
しかし、俺は認識が甘かった事をクレマンティーヌの言葉で思い知らされてしまった
「死にはしないけど……自我の崩壊」
「なっ!?」
―――ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!
「ッ!?」
「それに両目の失明かな?」
クレマンティーヌから告げられた思いもよらない事実が、俺の心を抉った瞬間、地下施設からンフィーレア少年と思われる悲鳴が辺り一帯に響き渡った
「私は~この身体になる前から人殺しとか拷問とか好きだったから何ともないんだけど、ダーリンって成りは兎も角そういうの嫌いでしょ?……特に歳いかない子供のとかの」
「~~~ッ!」
自我の崩壊……確かに生きてはいる。しかし、そんな事綺麗ごとでしかない!
知らずとはいえ、俺が未熟だったばかりに……また一つの命を奪ってしまった
身体の限界以上の力で拳を握り締めた為、骨が軋み割れ、割れた骨が肉を貫き夥しい異形な拳へと変化させていく
今、ンフィーレア少年は自我を失い、そして光を失ったと言うのに俺は血も涙も流す事の出来ない存在になってしまった事に嘗てない怒りを抱いてしまって―――――――――
―――――拳に暖かさを感じた
いつの間に俯いていた顔を上げて見ればクレマンティーヌが俺の拳を自身の両手で包み込んでいた
「ダーリンの事だから『目的の為』とかで踏ん切りつけるつもりだと思うけど……納得は出来ないでしょ?……見たくない事は見ない方がいいって」
「……謝謝」
なぜクレマンティーヌが俺を連れ出したのがわかった
俺達の目的を叶える為、もっとも良い手を考え、俺の信条も考慮し、でも通らなくてはいけない道を…犯さなくてはいけない罪を……逃げるのではなく対面する大切さをクレマンティーヌは俺に示してくれたのだ
俺は、クレマンティーヌの両手をそのまま引き、抱きよせた
「ッ!?……いや~、私って奥さんぽいことしたでしょ~?」
「……妻より先に恋人だろ」
「ッ!ねぇねぇ!今なんつった?ねぇねぇ!」
「ッ!二度も聴くな!恥ずかしい!」
俺の腕の中で喚くクレマンティーヌを尻目に俺は、よりいっそう強く彼女を抱きしめたのであった
◆
オーバーロード ~俺の嫁が可愛い件について~
◆
「壮観だねぇ~」
「確かにそうだが……」
クレマンティーヌが声をあげたのも仕方がない事だ
俺達の目下では、通常見る事の出来ない数百を超えるアンデット系モンスターが群れをなし町へと進軍してるいのだ
どうやらカジットの儀式は無事に成功し大量のアンデットを召喚する事が出来たのであろうが、俺として見れば大量の雑魚を召喚した程度で何の脅威にもなり得ない遊びに過ぎなかった
これがカジットの行いたかった計画だと思うと、落胆の方が大きいが、俺はそう思うだけで他は違うのかもしれない
「クレマンティーヌ」
「うん?」
「スケルトンを一体倒すのに普通はどのくらいの力量が必要なのだ?」
「ん~、私はそうでもないけどフツーの人は2人がかり、かな?」
「一人で突破するようであれば強者、か………ん?」
生前のクレマンティーヌは、レベル30程で英雄級の剣士と呼ばれていた
レベル10程度のアンデットに二人がかりなど、異常すぎる
彼女の言葉だけで、この世界の功夫が足りない事を感じさらに肩を落としたが、目の前で起きている奇怪を目にし思考が一旦停止した
「へぇ~、面白いのがいる」
「……ジャイアントハムスター、なのか?」
同じタイミングで声を上げたが、恐らく両者には決定的な違いがあった
クレマンティーヌは、雑魚の群れの中で無双する漆黒の鎧を身に纏った人物の力量に付いて面白がっているのだろうけど俺は、その上で飛行するモンスターに驚きを現した
ジャイアントハムスター
レベル30強の雑魚モンスターだが、ユグドラシルに登場するモンスター
この世界で初めて目にするユグドラシルに関連するモンスターだが、そのジャイアントハムスターが空を飛んでいるのだ
この世界で独自の進化を遂げたのかと心が躍ったが、ジャイアントハムスターの下でかの者を支えている術者を見つけ出し、一気に萎えた
生物進化は、人間の進化と同じく神秘的なモノであり、大切にしなくてはいけない事象だとブルプラ氏に云われていた俺は、神秘の瞬間を目に出来たのかと思っていたのにあんまりだ……
取りあえず、視線をジャイアントハムスターから外し鎧の男と術者の女に意識を向けたが、いつも見ただけで湧き上がる筈の衝動が無い事に俺は首を傾げた
「……鎧の奴は体格から男だとしても術者は女、だよな?」
「そうだけど~……ダーリン、興奮してないね?」
「変態みたいに云うな」
女性限定で湧き上がる殺人衝動が、なぜかあの術者には湧かない
距離があるとしても多少なりは反応を示す筈なのにまったくと湧かないのだ
今までそんな事は一度も無かったと言うのに、突然起こった現象に彼らが普通とは違う事を俺は本能的に感じた
「キナ臭い……カジットの所へ向かうぞ。時を見て俺も戦闘に加わろう」
「んふふ、りょうかーい」
あの武力の欠片もないカジットの元に彼らが辿り着いた場合、従者は兎も角あの男を押さえる術はないだろう
クレマンティーヌを抱きかかえ
カジットも異常が起きた事を察していた様で従者を連れて外で待ち構えていた
「なにが起きている!」
「冒険者二人と魔物一匹が此方に向っている」
「……なに?あのアンデットの大群を突破して来たとでも云うのか!」
「あぁ、わかっていると思うが奴らは『英雄級』だぞ」
「ッ!急ぎ『死の宝珠』を持ってくるのだ!」
従者にマジックアイテムを準備させているカジットを尻目に俺はクレマンティーヌに魔力を飛ばした
(カジットには適当な事を云って俺は控えに回る)
「え!?なにこれ?」
(伝言だ。頭で考えた事を魔力で相手に飛ばしている…らしい。やってみろ)
「えぇっと…(ダーリン、愛してる)」
(……もっと他の言葉はなかったのか?)
(ダーリン、だぁいぃすぅきぃ♡)
(……相手の出方が判らない以上、戦力は温存した方が良い。ピンチになったら呼べ)
(ちょっと無視とかないんじゃないのかな~)
(………
クレマンティーヌから逃げるかのように建物の上へと登った俺は、いつでも撃って出られるように待ち構え、そして奴らはやって来た
対面早々カジットをバカと呼び、ココをどうやって突き詰めたのかと丁寧に教えてくれる奴曰く、クレマンティーヌが食事に使っていたフォークに付いた男の血から逆探してきたと……最近、クレマンティーヌも美食家になったので自身の使う食器に拘りを持つようになったのが仇となったか
そして奴は事云うにクレマンティーヌに対し一対一を望み『本気を出さない』と口にしたのだ
(うわ~……カチンときたわ~)
(………奴の功夫を見てみたい。
(……はーい)「後悔しても知らないよ~?…じゃぁ、英雄の境域に足を踏み込んでいた私の力を見せてあげるよ!」
『能力超向上』『疾風走破』で一迅の風となったクレマンティーヌは、奴が振り下ろした大剣を『超回避』でいなすと肩にスティレットを突き当てた
しかし、男の鎧は思っていたより堅く貫く事が出来ずに、その隙を逃さないとばかりに振り下ろした大剣とは別の大剣で横に薙ぎられ距離を置かれてしまった
クレマンティーヌも全力で『武』を振るえば鎧など貫通させスティレットを突き立てる事が出来るだろうが、俺のオーダーを守り人間だった頃の力で『武』を振るっていてくれている。おかげで奴の功夫がわかり始めてきた
(……素人、か)
(そだね~、コイツは、肉体能力だけで戦ってきた木偶だね)
(功夫が足りない。鍛えればそれ以上の『武』を発する事が出来ると云うのに………才はあった。しかし、己を磨かなかった傲慢は頂けないな?)
もはや奴には何の期待も出来ぬ、俺が出るまでも無かったと離れた場所で戦闘を行うカジットの方へと視線を向けて見れば二体目のドラゴンを呼び出していた
(スケリトルドラゴン……第六位階以下の魔法を無力化する魔物だな)
(魔術師の天敵だけど、ダーリンはどう戦う?)
(ワンパンで終わり)
魔法が効かないのであれば物理で殴ればいい
生憎、俺は第七位階以上の魔法を習得していない為、スケリトルドラゴンに決定打を与える事は
そんな雑魚が二体に増えた程度では時間稼ぎも殲滅も出来やしない
カジットも決めに来た事だし、クレマンティーヌにも決める様に伝えようとし―――奴の言葉と態度に違和感を覚えた
「……随分と余裕だな?」
「いや~、形勢を考えてもこっちが有利かな~って?カジちゃん相手に従者の方は相性悪いし~」
「ふっ……確かに魔法に対して絶対的な防御を誇るスケリトルドラゴンは、ナーベにとっては相性が悪いだろう」
「そだね~…なんなら加勢に行っちゃう?……まぁ、その場合は後ろからズブリだけど」
クレマンティーヌと戦闘を始めてから今まで奴に有利な展開は起きていない。だと云うのに奴の態度には余裕が、言葉には強者の重みを感じる
器に対し中身の純度が高い……いや、中身と器に差があり過ぎる!
まるで自ら呪縛をかけ、器に合わせているようだ!
相手の中身が未知数な脅威だと肌で感じた俺は、戦闘に参戦する為に足に力を入れたが――――
「いやはや、この一戦は色々と勉強になるな。武技と云うモノの存在。バランスよく攻撃する大切さ。だが……お遊びは終わりだ。ナーベラル・ガンマ、ナザリックの威を示せ!」
「ッ!」(ッ!)
「さぁ、決死の覚悟でかかってこい!」
奴の言葉によって思考が停止したのであった
◆
「ッ!」
奴の雰囲気が変わった
今までは俺の対応を試すかのように武技を仕掛け、時折笑みを浮かべながら戦闘を行っていた彼女の目が…雰囲気が……一変し猛獣と対面したかのような殺気と野生が溢れ出ている。彼女も本気になったと言う事か……
彼女には、短い期間だとは云え『漆黒の剣』のぺテルさんの腕を破壊した罪がある
命まで取られなかったのは良かった。あの程度の傷ならナーベの魔法でも怪しまれずに治療する事が出来たからな?
彼女にはナザリックで武技の研究の為にマウスにでもなって貰おう
両手の武器を構え直し、彼女の行動を促したが彼女は手に持ったスティレットを俺に向けて確認を取るかのようにもう一度、我が家の名を口にした
「へぇ~…ナザリックか~。その話もうちょっと聞かせてほしいなぁ?」
「ッ!ナザリックを知っているのか!」
「私が質問しているんですけど~?」
もはや戦う気はないとばかりに手に持ったスティレットを回し遊んでいるが、視線だけは相変わらず隙あれば喉元に喰らいつくとばかりにギラついていた
……相手は、経験豊富な剣士。レベル差があれど本気になった彼女に対し油断は禁物だな
いつでも変化が解けるように両手に持った大剣から手を放した瞬間、ナーベラルの方で眩い光が走った
「うわ~見た事もない魔法。カジちゃん死んじゃったわぁ~」
視線を向ければナーベラルの魔法によって倒されたスケリトルドラゴンの残骸と先程まで退治していたバカが消し炭になっていた
ただ単に利害が一致していただけの関係だったと言う事か…
彼女の浮かべた表情について解析していると、目の前に空から降り立ったナーベラルが着地し俺に一礼をした
「アインズ様、こちらの片づけは終了しました。……このドブ虫も私が処理いたしましょうか?」
「まて、ナーベラルよ。コイツは、ナザリックについて何か知っているようだ。生かして捕らえるぞ」
「はっ!」
売名の為に引き受けた依頼だったが思わぬ収穫が出来たと、ナーベラルに奴の捕獲を命じたが奴は、自分が不利な立場になっていると云うのに危機感を抱いていない様だった
「さっきまでの威勢はどうした?掛って来ないのか?」
「いや~…アンタは兎も角、そっちの子は、今のままじゃ難しいな~、どうしよっかな?って」
「そうか…ならば安らかに殺し「だから旦那呼んだわ」は?旦那だッ!?下がれ!ナーベラル!」
「ッ!」
「火箭脚!」
僅かに聞こえた空気を裂くような音が人外の耳?に入り込んできたので、ナーベラルに下がるように命じた。そして、ナーベラルが俺の命に従い後ろへと下がった瞬間、彼女と俺達の間にミサイルが落ちたかのような爆音と衝撃が走った
舞い上がった砂煙で奇襲を仕掛けた奴の姿が見えないが、あの衝撃から察するに目の前の彼女よりも強者だと言う事がわかる
「くっ!まだ戦力を隠していたか!ナーベラル!対物理魔法!それと対魔法防御だ!」
「あ……あぁ…」
「どうしたナーベラル!」
「そ、そんな…まさか…」
「ナーベラル!「
聞き覚えのある声が聞こえた……
「
ナーベラルは相変わらず、驚愕しているが俺も同じだ
「
舞い上がった砂煙が、廻し蹴られた一閃によって掻き消され、中から見慣れた中国の拳法着『パオ』を戦闘に合わせ改造した服を纏った血の気のない男が姿を現した
「
「りーさん!?」
己の旗をアインズ・ウール・ゴウンに掲げ、共に戦い夢を追いかけた仲間……
ナザリック防衛隊長にして個人にして過剰戦力、現実ではマジで格闘家チャンピオンの俺の盟友………李鳴海が姿を現したのであった
END