ぱちり、ぱちりと乾いた音が一室に響く。
フィレスとエルドが小さなテーブルを挟んで互いに向き合い椅子に座っている。
二人の間のテーブルには遊戯板が置かれており、人の手がその上の駒を動かす。
交互に駒を動かす音のみがこの部屋に存在する音であり、時に早まり時に遅くなるその音は勝負と同じで全く先が読めなかった。
----------
駒を動かす音がしなくなったのは、いくつの手を交わした後であったろうか。
「アタシの勝ちね。」
「・・・・・・・」
フィレスの勝利宣言にエルドは返答しなかった。
「勝ったんだから、アンタの問いに答える必要は無いわよ。」
疑問形ではなく言い切ったフィレスは空色の瞳をテーブルからからエルドへと移した。
「だから、この部屋から出て行ってよ。」
フィレスの声はいつもより少し低い。真剣な場面になると彼女の声がそうなる事を知っているのは、限られた者達だけだ。
「ケッ、偉そうに言いやがって。」
刺々しい返事をするエルドもまたテーブルから視線を上げ、腕を組みながら、椅子の背に伸びをするようにもたれかかった。
「大した事じゃねえだろう。だから教えろよ、お姫様。」
お姫様と呼ばれた人物は、確かに見た目はそう呼ばれても差し支えない。が、中身は外見と一致してはおらず、それを承知の上での台詞だ。
エルドは相手に対して侮蔑の色を隠しもせずに口を歪め、そして嗤った。
嗤われた当人といえば、静かな表情のまま空色の双眸を僅かに細めただけだ。
沈黙と時が流れる中で二人は、良く言えば睨み合い、悪く言えば見つめ合っていた。
フィレスが椅子を引き立ち上がりながらエルドに言う。
「アンタが出て行かないなら、アタシが出て行くわよ。」
言い終わると、壁とテーブルの間を扉へと向かって通り抜けようとした。
椅子とテーブルが倒れる音が響き、ばらばらと乾いた音と共に遊戯板の駒が床一面に散らばる。
「待てよ!」エルドの声は自身の靴音を消した。
フィレスは突然の大きな音と自分に迫ってくる相手に驚き、思わず壁へと後ずさった。
エルドは乱暴にフィレスの顔の横へと両手を付き、口端を上げたままゆっくりと肘を曲げる。
それは罠にかかった獲物を確認するかの様だ。
「そんなに言いたくねえのかよ。」
嗤いながら出た声は侮蔑の色を含んだまま空間へ浸透していく。
二人の距離もじわじわと縮んでゆき、互いの鼻先が触れそうになる。
「勝負に勝ったんだから、当然じゃない。」
フィレスの言葉の後は互いの呼吸音が聞こえるのみとなった。
二人は視線を逸らす事無く、床に散らばった駒の様に時も止まる。
フィレスは完全にエルドに包囲された。