ラブゴースト!~歴史へ成る少年~   作:次郎鉄拳

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前回のラブゴースト!

「トシロウ……」

「しってるさ……向こうから……視えないし……触れないもんな……」

「オレがいる。それに、君には今、力がある。それを成し遂げるための力が」

『カイガン!ボンゴーレ! アサリ・イタリア・マフィアミリー!』

「死ぬ気で、おまえを倒すぜ」

「……やっぱり、気にしてるのかい?」


希望の巫女

雨が降り注ぐ夜。

時は三月の終わりごろ。

傘も差すことなく一人の少年がうつむきながらとぼとぼと、歩いていた。

少年の名は大地原(だいちはら)トシロウ。

彼は中学二年の春休みが終わりに近づいたとき、ある幼馴染と喧嘩をしてしまった……

 

 

その相手は、音ノ木坂近辺に住むものなら誰でも知っているであろう、西木野総合病院……

……の、院長の一人娘。西木野真姫だ。

幼稚園ぐらいの頃から、きっかけはどちらも思い出せないが、ずっと一緒に過ごしてきた相手。

自分への自信故か少々ナルシストなきらいがある真姫を、トシロウはずっと周りに溶け込めるように努めてきた。

運動くらいしかずば抜けていなかったトシロウに、音楽を奏でることを真姫は教え続けた。

そうやって二人は、互いの悪いところを補ったりするように過ごしたりしてきたのだ。

 

 

喧嘩のきっかけは些細なものだった。

いつも通りなトシロウから真姫への苦言。

真姫のナルシストさ、それを裏付ける才能からくる、他人を無意識に貶める言動。

それに憤慨する同級生たちの怒りを収めたトシロウからの、端的な注意だった。

しかしだが、真姫も当然その言動に悪意があるわけではない。

いつも通りのことをして、それができないことを、なぜできないの? と一言問いかけるだけのいつもの光景。

 

 

しかし、この日はたまたま真姫の気分が落ちていて、たまたまトシロウが苦情をそのまま伝えた時の口調がきつめで……

たまたま、たまたま、そしてたまたま。

偶然の積み重ねとは恐ろしいもので、この日、真姫からの彼への答えは平手一撃。

衝撃によろけたトシロウへただ一言、バカと叫んで彼女は自宅まで走り去っていった。

 

 

……そう、トシロウは幼馴染の大事な少女から平手をもらい、気分がとても落ち込んでいたのだ。

平手の衝撃でついでに手から離れていった傘を拾うこともなく。

今家に帰っても母親に何があったか問われるだけだから、帰ろうと思うこともなく。

ただぼおっと、ゆっくりと、放心するように雨の中を歩いていた。

まだ少し肌寒い季節の、水にぬれた体より体温を奪われる恐怖。

しかし、彼女からもらったその一撃が、それをやわらげるように痛みと熱さを伝えてくれている。

 

 

トシロウはポケットからあるものを取り出した。

右手で持つ目玉の形をまねた道具……それは眼魂。

透き通るようなオレンジ色で装飾を彩られたその眼魂は、数年前に喪った敬愛する父親の形見。

考古学者として活躍をしていた父のことを、母も鼻高々に語っていたことを、ふと思い出す。

帰ろう。母のご飯を食べたい。

その想いで家路のほうへ足を向けた……その時だ。

 

 

トシロウの胸、肺のあたりから……細く鋭いナニカが伸びていた。

先ほどまで、誰もいなかったはずの自分の周り。

いったいいつ、このナニカを持ったものは近づいたのか……

たった一瞬で考えをめぐらすも、現状が変わることはない。

体に刺し込まれたナニカが体から抜かれた感覚とともに、彼はよろけるように2、3歩。

それは、その姿を自身の眼に収めようとする、最後の彼のあがきだった。

だがその抵抗は叶わない。

自身の体重移動を制御できず、真正面から地面へ勢いよく倒れこんでしまう。

刺された痛みに加え、体を打ち付けた痛みが、二重で彼に危険と、逃走を促すため響く。

しかし、その警鐘は彼に届くことはない……

彼が意識を失う最期、視えたのは、強く握った大事な大事な、父の眼魂から漏れ出した、綺麗なオレンジ色の光だった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

トシロウが目覚めたのは秋葉原駅近くの裏路地。

先日戦った後、結局秋葉原まで戻ってきて、そのまま疲れはててしまったのだ。

本来一度死んだ身である彼は寝る必要も、ものを食べる必要もない。

しかし人間の習慣とは酷なもので、気付けば寝られる場所を探し横になり目を閉じ、気付けばきっかり三食食べようと食事を探しに行っている。

人間2週間有れば環境になれるとは誰かがいったものだが、少なくともまだゴーストになって一週間ちょっとしか経っていないような彼には、今の生活は精神が持たないのかもしれない。

 

 

そんな彼を気遣うようにふわふわと浮くツナ。

『彼が死んだ』日の夢を『感じた』であろう故に、声をかけるかを一度迷うが、その前にトシロウがツナを視線でとらえ片手を上げて挨拶をする。

 

 

 

「よっすツナ」

「おはよう、トシロウ」

「今日も頑張って眼魂を探さないとな」

「うん。地道な作業になっちゃうけど、きっと見つけられるさ」

 

 

 

当ても何もない眼魂探し。

まだ蘇ってから時間が経ってないために遠くに行くのもままならなく、ここ数日は原則秋葉原から音ノ木坂に掛けてでしか探索ができていない。

彼らは、今日は音ノ木坂を中心に探索することに決めたのである。

 

 

 

「そういやさ」

「なに?」

「眼魂ってアレどうやって見つけるの」

「ああ、言ってなかったっけ……」

 

 

 

自身の説明不足をここで認識するツナ。

彼の若き頃に就いていてくれた家庭教師が、ここにもし、いたとするならば。ではあるが、

彼の事を辛辣に、端的に、そして一言で、「バカツナ」と罵ったに違いない。

いないはずの人物に罵られた感覚を覚えながらもツナはトシロウに説明を始める。

 

 

曰く、眼魂は歴史そのものであるために、世界と同化している。

曰く、同化した世界に物的な象徴が存在する。

曰く、それが眼魂である。

曰く、その象徴を見つけただけでは眼魂は顕現しない。

曰く、自分と同様に彼らは意識を持っている……

 

 

しかし、ここまで話し終えたツナは直後、もっとも致命的で、そしてもっとも今のトシロウにとってありがたくない一言を告げる。

 

 

 

「でも、オレ……どの歴史がまだ眼魂として残ってるのか、知らないんだ」

「……は?」

 

 

 

ツナは慌てて説明をする。

歴史とはそれこそ山のように存在すること、しかしそれの多くは眼魔によって封印されてしまっているということ。

自分たちが探すのは、ただ一つの事象の歴史ではなく……

『ターニングポイント』という、『大成を成した』歴史であるということ。

または、『強大な力を保持する』者、俗に言う『開祖』の存在もこれに当たるという。

それを聞き、トシロウの中にとても単純な疑問が湧きあがる。

 

 

 

「じゃあさ、ツナって……何をしたんだ?」

 

 

 

ツナは、応えるべきかどうかしばし、ためらう。

その時、遠くの方にて甲高い悲鳴が上がった。

声からしてその人物は女性か。

同時に懐にある眼魂が震え、眼魔の察知を伝える。

方向は……

 

 

 

「神田明神のほうだ! 急ごうツナ!」

「……うん!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

東京、神田明神。

鳥居をくぐってすぐの道で、眼魔は、巫女の少女に詰め寄っていた。

全身紙で覆われ、腕からはだらんと紙の束を垂らし、歩く動きはまるで『亡者(ゾンビ)』。

しかし、その雰囲気はトシロウ達が前に戦った鎌鼬よりも、はるかに弱く見える。

だが、それでも、そうだとしても。

眼魔という未知の存在は、ただの少女には、脅威として大きすぎる。

 

 

 

「グォォォ……」

「ヒッ……いやぁ!」

 

 

 

少女は怯え、手元にある石や砂利、脱げた草履などを眼魔に投げつける。

しかしそれはひるまない。

痛覚も、衝撃も、その程度のモノでは届くことがない。

眼魔にとっては、せいぜい体中を指で優しく突かれるほどの、柔らかい刺激にしか思えていない。

 

 

しかしそうだとしても、それにとって結局、少女の抵抗は邪魔臭い。

よくわからないが気に食わない。

だから殺してやろう。

知性を持っていないように見られる眼魔だからこそ、行き着く実に単純明快な結論。

今のそれがすべきなのは少女を殺すことではないが、それもいつの間にか思考の外に追いやっていた。

 

 

だらんと伸びた紙束が突如固定される。

まるで伸縮剣のようなその紙の動き。

眼魔はその右腕を振りかざす。

実に大振りで、力を入れやすい攻撃。

だが、それゆえに……

 

 

 

「ウオォリャアァ!」

 

 

 

……ヒーロー(トシロウ)が隙を狙うことも大変に容易い。

 

 

眼魔は突然思考の外にいたトシロウにタックルをくらい、体勢の縺れを含め大きく吹き飛ばされる。

少女は見た。自身を助けるために未知の恐怖に立ち向かう少年の姿を。

少女は気付いた。彼は、人間だが、それと同様に『違う』と。

そして少女は見た。彼の傍らに浮かぶ、幽霊のようなてるてるぼうずのような『誰か』を。

彼女の体からは、気付けば震えが消え、その視線は、彼らを追っていた。

 

 

 

「ウアァァァァ!」

「お前さ! 女の子怖がらせて何が楽しいわけ! 許せねぇぞ変態野郎!」

「いや、トシロウそいつ、どうやら君の声が届いていないようだよ」

 

 

 

突如自分が誰かに飛ばされ、それをやったのは目の前の子供。つまりは邪魔、だから殺す。

と、眼魔はこれまた実に明快な結論を設け叫びあがる。

ただ、知性が抜けてるとしても、眼魔は重大なことを忘れている。

 

 

 

「言葉も通じないんなら実力行使だな!」

 

 

 

『アーイ!』

 

 

本来、それに与えられていた使命というものを。

彼が、どんな存在であるかを。

 

 

『バッチリミナー! バッチリミナー!』

 

 

眼魂をベルトにセットしカバーを閉じるプロセス。

トシロウが脳裏に思い浮かべるは、彼が好きだったカッコいい戦士の数々。

左腕を上に伸ばし、右手をレバーに添える。

彼は、精神の集中のため、目を閉じる。

 

 

『バッチリミナー! バッチリミナー!』

 

 

眼魔はその奇抜さに興味津々に彼を見る。

少女も同様に、音声が響く彼のベルトを見つめる。

トシロウは、左手を自身の顔と並行の向きに90度回転、そのまま薬指と小指を掌に丸めながら、ゆっくり……顔の前に降ろす。

 

 

 

「……変、身……!」

 

 

 

戦士として戦うためのキーワードとともに眼を開き、右手で添えたレバーを引いて、戻す。

ベルトの中心にある目玉を模した部分が瞬きをする。

開眼の時。

ベルトの中からオレンジ色と黒色で染まったパーカーが飛び出し、トシロウはベルトから黒色の全身装甲を展開する。

パーカーは黒色の彼の背後から覆いかぶさり……同化した。

 

 

『カイガン! オレ!』

 

 

黒色の顔面がオレンジに染まる。

 

 

『レッツゴー! 覚悟!』

 

 

黒色の複眼が表れ、戦士に角のような触覚が現れる。

ここで眼魔はその重大なことを、思い出す。

 

 

『ゴ・ゴ・ゴ! ゴースト!』

 

 

その戦士の名はゴースト。

眼魂を奪いあう最大の、障害。

眼魔が倒すべき相手であり、同様にまた……

 

 

『GO! GO! GO! GO!』

 

 

……彼にとっても、眼魔は倒すべき相手である。

 

 

 

「さぁ……死ぬ気で、この命……燃やすぜ」

「ゴーストォォォ!」

 

 

 

双方同時に走り出す。

眼魔は伸びた紙の腕を鞭のように振るう。

ゴーストはそれを飛び込み前転の要領で危なげなく避ける。

 

 

 

「ヴォォォ!」

「うわっ! あっぶね!」

 

 

 

彼の飛び込んだ位置にそれは腕を振りかぶり、たたきつける。

横に転がる要領で難を逃れるが、たったそれだけで眼魔の追撃が緩まるわけもない。

大振りで横からのしなる一撃。

ゴーストはさすがに二度の回避をした故に気が抜けたのか、防御が間に合わず吹き飛ばされる。

 

 

 

「アッ!」

「……ゥア?」

 

 

 

戦闘を見ていた少女が、彼が飛ばされると同時に短い悲鳴を上げる。

眼魔は、少女の存在がすっかり頭から抜け落ちていた。そのため、彼女が先ほど抵抗してきた人間だと気付いてもいない。

だがそれにとってはどうでもよいこと。見られた、だから殺す。

前の鎌鼬であるなら、目の前でゴーストを嬲り、希望を目の前で打ち砕かせてさらなる恐怖を与えようとしたであろうが……

知性の足りない下級の中でも下級な亡者には、そんなことを思いつく頭もない。

だからこそ、少女に意識を持っていかれた今の亡者は、隙だらけだ。

 

 

 

「よそ見すんなぁぁ!」

 

 

 

眼魔の斜め背後から助走の勢いに任せたドロップキックが突き刺さる。

あっさりと吹き飛ぶ眼魔。

ゴーストは肩で荒く呼吸をする。

 

 

 

「ゴォォォォストォォォォ!」

 

 

 

眼魔が立ち上がり、再びゴーストを視認、少女の存在をまたしても忘れる。

ゴーストはこれ幸いとばかりにベルトのレバーを引き、そして戻す。

ベルトの瞬きとともに、眼魔への宣告が響く。

 

 

 

「むやみに彼女を襲ったことを……」

 

 

 

『ダイカイガン!』

 

 

 

「俺に倒されて悔いろ!」

 

 

 

『オレ!』

 

 

オレタマシイというのは『大地原トシロウの歴史』としての力そのもの。

ただの一般人であった彼にはまだ、力を持つほどの歴史は歩んでいない。

故に最弱のゴースト。故に戦いにもさほど活躍できない。

しかしだ、このオレタマシイにも、特色はある。

 

 

『オメガドライブ!』

 

 

それは、トシロウ自身の生前の身体能力を200パーセント引き出すこと。

たかが中学生の体と笑うことなかれ。彼の能力は、既に、高校生アスリート並の実力を誇る。

その能力を、さらに収束した一撃が、戦いを終えるために放たれる。

 

 

 

「セイッ……ヤァァァ!」

「グァッ……!」

 

 

 

全身をバネとし、右足を弾丸のように撃ち出す、シンプルなキック。

下級程度の眼魔では、この一撃に耐えうるほど、身体は堅くない。

亡者の眼魔は、叫びたる叫びを上げることもなく、爆発、消滅した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「さて、それじゃあまた探しに行くか」

「あー……そのことなんだけどね、トシロウ」

 

 

 

眼魔を倒し、伸びをしながらその場を去ろうとするトシロウに、ツナが申し訳なさそうな声で引き留める。

ツナの示す先を見ると、そこにいたのは、おそらく眼魔の素材になったであろう祓い棒を抱える、先ほど襲われていた巫女。

トシロウはすぐに気付く。そして、少女の特異さにも。

 

 

 

「……あの……視えるの? 俺のこと」

「……うん。さっきはありがとう、どうなるかと思ったんよ」

 

 

 

怖かったわー。と間延びしたトーンで話す彼女をしり目に、トシロウはツナに困惑の視線を向ける。

そんな視線を向けられてもどうしようもない……と、ツナはその頭を振る。

 

 

 

「ええと、巫女さん、俺のことは!」

「もちろん、誰にもいわへんよ。ウチは東條希っていうんや。君の名前は?」

「あっ、うん、ありがとう東條。俺は大地原トシロウ。このてるてるぼうずみたいなのがツナっていうんだ」

「トシロウ君とツナ君やね。よろしくや!」

 

 

 

明るい笑顔の希をみて、トシロウは自然と涙がこぼれる。

久方ぶりの、ツナ以外の誰かとの会話。

すでに死んで、霊としてこの世にいる自分が、紛れもない『人間』だと感じた瞬間。

トシロウの、擦り切れそうになっていた心は、歓喜の海に溺れた。

トシロウは、この瞬間を、何よりも、誰よりも、感謝し、泣いた。

 

 

 

「へぇ……あれが眼魂の守護者かぁ……でも、あれだけの装備じゃあちょぉーっと、心もとないよなぁ……」

 

 

 

大泣きするトシロウを見守っているように見えた赤いバンダナを巻いた帽子が、声を発しながら物陰に消えた。

 





・ゴースト・オレタマシイ
本作品最低スペックを誇るゴースト。
『大地原トシロウ』自身の歴史経験で幾らでも強さは変わるため、最低スペックからどのように伸びるかはトシロウ自身で決まる。



・ゴースト・ボンゴレタマシイ
自動的に両手に展開されるグローブ『ボンゴレグローブ』を用いて戦うオールラウンダー。
必殺技は『死ぬ気のゼロ地点突破』という、掴んだ相手を凍らせ、砕く技。
ツナこと、『沢田綱吉』が人格意識として存在する。







次回、【勝利のポーズ!メカニック!?】
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