「トシロウ……あなたが死んでもう一年が経つのね……」
「あの子ね? 音ノ木坂学院に進学したらしいのよ。」
「トシロウ君の悩み、聞かせてほしいな」
「もしかしたら、これは夢で、いつか目覚めた時、何にも起こっていないんじゃないかって」
「トシロウ……? トシロウなのね!? トシロウ!」
「俺は戦うことをためらわない!」
「今なら、君にもアレが使える!」
「X――BURNER!」
「どうするかは西木野さん次第やで」
「例えるなら――キラキラの学園生活を約束する生徒会みたいなもの!」
「はぁ……それでいいぜ、シン様……」
トシロウが一皮剥け、ゴーストとしても成長してから早数日。
思った以上に眼魂の捜索ははかどらず、時折現れる眼魔をパワーアップしたオレタマシイや、仲間の力で撃破するといった日常が続いていた。
音ノ木坂の廃校が決まるかもしれないと言って涙を見せていた希も、どこか前よりも余裕ができたのか、自然な笑顔を見せることもまた増えていた。
しかし、廃校自体を如何にする手段はなく、どうしたら覆せるか、どうすれば学校のイメージが印象付けられるのかと悩むことには変わりがない。
トシロウ達が勇み、案を出すものの、それらはすべて男子特有の考え方。
さらに学校の目線というよりかは完全に一生徒。
イメージアップとはならないだろうと却下をされる。
しかしだ……そんな彼女たちの前に一筋の希望……といい難い何かが現れた。
白黒パンダがデフォルメされたようなぬいぐるみ。
自らのことを『大賢者パッキー様』と名乗ったそれは、希の家の机に立ち、手にもった小さいバットを振りかざしながら弁舌を行っていた。
「いいか! 学校の廃校を救うにはだ、学校全体のイメージアップではなく、もっと他にやることがある!」
「……あのさ、パッキーさんだよね? あんたいきなり現れて何なの?」
「……そう! それは、ライバルを削ること!」
「いや、無視するなよ」
「……音ノ木坂学院のライバル校といえば! なんかよくわからないけど街頭でも宣伝されていたグループのところ!」
「A-RISEってグループとUTX学院やね」
「そう! UTX学院だ!」
ツッコミを入れるトシロウ、詰まった部分に用語を入れていく希、えらそうに弁舌を行うパッキーなるぬいぐるみ。
それを遠目に眺めるツナたち眼魂三人衆は、彼らだけで会話をする。
話題は当然、大賢者パッキーと名乗ったそれについて。
「ツナ、あいつについて何かわかることとかないの?」
「それが……大賢者パッキーという名前に心当たりがなくて」
「マジか、俺ら眼魂としての知識はあるけど誰がどんな存在か知らないんだよな」
「そうそう。まだ教科書に載ってる人とか都市伝説として有名なヤッターマン一号とかならわかるんだけど」
「アハハ……ちょっとね、そういうのに詳しい人がいるからってだけだよ」
ヤッターマンは世界中でその姿を見られてきたために具体的な伝説として信憑性の高い情報が流れている。
しかし、けんぷファーのことまで知っているとはナツルたちは想定外だったようで、ツナの情報量、その人物性に疑念が多少湧いていく。
けんぷファーというのは過去に情報があるにしろ、決して公として伝えられているものではない。
何より、ナツル自身が戦いを終わらせた際にその情報は隠蔽され、完全に闇に葬られたはずなのだ。
つまり、それを知っているツナは、間違いなく『裏』の存在。
「ほんっとに人当たりよさそうなやつにしか見えねえんだけどなぁ」
「まぁ、オレ自身はもともと普通の学生だっただけだから……いろいろあったのはこうして残ってるけどさ」
「なるほどな、俺とかと同じ意図しない非日常とかいう、漫画やラノベの世界の主人公じゃないか」
「ちょっとむなしくならないそれ?」
「……ちょっとだけ」
トシロウ達の会話は大変混沌とした状況に陥っていた。
パッキーが突如跳ね、転がり、のたうち回る。
困惑するトシロウと希。
ピクピクと痙攣するぬいぐるみらしきナニカに触れることが恐ろしくて仕方がないのだ。
両者が顔を見合わせた時、パッキーが何事もなかったようにスックと立ち上がる。
そして、先ほどとは違い、少年のような、青年のような声で話しかけてきた。
「やぁ、さっきはパッキーがごめんね。僕は咲良シン、眼魂としての意識は僕のほうがつかさどっている感じかな」
「……え? あ、はい、大地原……トシロウです」
「東條希……です」
「うん、トシロウと希だね。僕に任せてもらえれば、キラキラの生活は約束するよ!」
「……キラキラの?」
「生活?」
パッキー……いや、シンがポーズを決めながら宣言する。
キラキラの生活とはいったいどのようなものか。
「トシロウが日々の日常を楽しめるように、そして希の残りの学園生活を充実させるために、この僕、『流星学園生徒会会長』咲良シンに、お任せあれ!」
少なくとも、先ほどまでえらそうに弁舌していたパッキーよりも信頼性を感じさせるのは確か。
顔を三度見合わせ、うなずき合う二人。
シンの言葉に対する返答は、ただ一言の肯定だった。
「よろしく、シン!」
「よろしく、シン君」
「うむ、挨拶は人間関係の基本! 二人ともいいよ!」
***
時はさらに進み、数日。
音ノ木坂学院では一つの大きな話題で盛り上がっていた。
そう、廃校の件だ。
音ノ木坂学院の廃校がほぼ決定し、来年新入生が入らない――
すなわち、今の一年、二年生には後輩が新しくできない。
それを気にしない生徒も、どことなく寂しそうな表情を見せる。
大事な学校を失わないようにと、一人の少女が立ち上がるも、そのあきらめのムードは校舎でも強く漂うために、上手く協力者を募れない。
そんな空気を生徒会室の窓から見ながら、希は手に持った黒い装飾の眼魂に話しかける。
「なぁシン君、キラキラの学園生活って、どないするん?」
「まずは廃校問題をどうにかしよう。みんなが不安になってしまってるからね」
「そうは言うけど……シン君、簡単に決められることでもないんやで?」
「大丈夫。この数日間でトシロウに協力してもらって調査はしたんだ」
調査? と、首をかしげる希をよそに、眼魂はふわふわと浮き、視えないはずのキメ顔を幻視させる。
「そう! スクールアイドル! キラキラの彼女達が、皆の学園生活をキラキラにするんだ!」
「スクールアイドルって……ああ、話題にもなるし、学校の顔にもなるしで悪いことはないんよね」
「そうそう! キラキラの学園には生徒も自然と集まる。そうすれば希の学園生活もエンジョイでキラキラさ!」
「でもなぁシン君、今からスクールアイドルって……」
ふわふわと浮きながら眼魂は希の手の中に着地する。
諭すように言葉を紡ぐ眼魂――シン――は、可能性を説く。
「この学校はとてもいい空気だと思う。言葉と経歴では示されない、空気というのが感じるんだ」
「……なんか、ウチが褒められてるわけやないのに、嬉しくなってまうよ」
「自分の学校に愛を持つのは良いことだよ。楽しむためには、まず好きでいなければできないしね」
「……せやね、好きでもない学校で生活を楽しむっていうのも変な話やね」
「うん。だから、この学校を好きだと言っている子が実際にいて、学校を護るために動いてるんだ。いっそのこと希も参加したらどうかな?」
「シン君、それってどういう――」
シンの言葉に疑問を告げようとしたときに突如生徒会室のドアがノックされる。
急いで眼魂を制服のポケットにしまい、返事をしようとしたところで希は自分の状況を思い出す。
そう、時は五時限目のチャイムが鳴り響いた直後。
自身が授業をさぼり、ずっとシンと話し込んでいたことに気付く。
と、なるとこのノックはおそらく――
「希、やっぱりこんなところにいたのね」
「あー……やっぱりえりち……」
「やっぱりってどういうことかしら? 怒られる前提でサボるのも大概にしてほしいものね」
――同級生かつ友人の絢瀬絵里だ。
生徒会長の彼女は生真面目な性格で、教師に頼まれてこの立場を引き受けるほどには責任感も強い。
サボり癖などで少々不良の気がある希では、少々分が悪い。
呆れるような顔で希を軽くにらみつける彼女に、冷や汗を垂らしながら希は苦し紛れの言葉を返す。
「悪いとは思っとるよ……けどな、ちょこっとやることがあってな?」
「あなた、最近そればっかりじゃない。本当にどうして生徒会に入れたのかしらね」
「入れてくれた張本人がそれいうんやな」
「フフッ。でもね、希。最近あなたサボり過ぎよ? 先生に見逃してもらうのもここ最近――」
希の茶化しに微笑みつつも説教を始める絵里。
空気がよろしくない。と、感じ取った彼女は即時謝罪へと出る。
実際、いつもサボっている自分をフォローしてくれているのは、この友人であるという事実を、彼女が認識しているためでもあるが。
「ゴメン! ゴメンって! ウチが悪かったから、ちゃんと授業も出るから許してえりち!」
「――まったく。そう思ってるなら最初から出なさい。生徒会役員が授業のサボり魔だなんて示しがつかないわよ」
「……もうすでに手遅れだなんて言えんよ」
「希?」
絵里の視線が絶対零度になったと感じた。
ヤバイ、まずい。となった時。ポケットに入れたシンが、この場では希にしか聞こえない声を上げる。
「眼魔が出たようだね……希、急がないと!」
「あっ、えっと、うん、えりち! 書類だけはやっておいたからウチ、帰るね!?」
「はっ!?」
カバンをひっつかんでドアの前に駆けだす希。
突然のことなので絵里の反応も遅れ、呆けてしまう。
希は、ドアを開けようとした手を離し、絵里のほうを見ずに問いかけた。
「なぁ、えりち」
「……なにかしら?」
「……えりちは、この学校が、好き?」
「……変なことを聞くわね。ええ、好きよ。この学校のこと」
「うん、それだけ聞ければ、充分。また明日」
「ええ、また明日」
希が退室した一人きりの生徒会室で、絵里は希が座っていた机に脚を向ける。
机の上に乱雑におかれた書類を一枚手に取り、嘆息をする。
そこに書いてあるのは、生徒会に必要な勝利ではなく彼女の用意した殴り書き。
そこに書かれていたのは――
「キラキラの学園生活計画……ね。あの子、いつの間にこんなことしてたのかしら」
――シンと話しながら作っていた、希なりの廃校阻止計画、及びその暁に開催してみたい学校のイベントだった。
乱雑ながらもその文面、イラストから、希の学園生活へのやる気と意志を読み取った絵里は、一人ほほ笑んだ。
「……面白そうね、夏の部活対抗運動会とか、音ノ木坂部活専用アルバム作成……とか。」
***
――東京某所――
ゴーストはそこで、二体の眼魔を相手に立ちまわっていた。
一体はその手に鈍器を握る、巨体の眼魔。名づけるなら『
もう一体は猫のような体を持った眼魔。名づけるなら『
猫又が軽快に仕掛け、離れた瞬間に鉄槌がその重い一撃を叩きつける。
コンビネーションのとれた攻撃に防戦一方のゴースト。
どちらも厄介ではあるが、特に厄介なのは鉄槌のほうであろう。
猫又の一撃一撃は素早いものの軽く、ゴーストへのダメージも小さい。
しかし、鉄槌の一撃はそこそこの速さを持った上に重く、痛い。
一撃でも喰らえば体力が大きくそがれてしまうだろう。
しかし、だからと言って鉄槌を狙おうとすると、猫又からの横やりが入る。
防戦一方というよりも、攻撃を封じられているという表現のほうが正しいであろう。
「くっそ! 邪魔! 攻撃に回れない!」
「俺に変わってくれゴースト! ケンダマジックで封じよう!」
「……そうか!」
ガンの声に従い、一瞬の隙を突いて眼魂を交換。
また襲い来る攻撃の嵐を避け、避け、避け――
少々遠目に離れた時点でレバーを引き、戻す。
『カイガン! ヤッター!』
ゴースト・ヤッタータマシイにフォームチェンジを遂げ、ケンダマジックを構える。
襲い来る猫又をどうにかいなしつつ、槌を振りかぶる眼魔に向かいけん玉の持ち手を振るう。
しかし――その判断は甘かった。
「グォォォォ!」
「うわ! 引っ張られる!」
「バッカおまえ、ゴースト! あっちのほうが力強いんだから意味ないって!」
「そんなこと言われてもぉ!」
鉄槌の眼魔のほうがゴーストよりも力が強い。
当然ケンダマジックでからめとったところで引きずられるのが落ちにしかならないことを、完全に彼は失念していた。
引っ張る力に抵抗するということは当然だが、ゴーストの動きは止まる。
その隙を、猫又が狙わぬ道理はない。
「痛いっ! 痛い! 痛い痛い!」
「バカ! 力緩めたら――」
「グァァァァァァ!」
「っわあぁぁぁ!?」
攻撃を仕掛けたのは力の拮抗に必死になるゴーストが的確に痛がり、反応せざるを得ない場所――脚、そして腕。
反応するということは力の位置が動き、体勢がぶれる元にもつながる。
ぶれたなら後はただ、鉄槌が勢いよくゴーストを引っ張ればいいだけのこと。
そうするだけで、簡単に彼は宙に浮き、自身が引っ張ったほうへと吹き飛んでいく。
「いったぁ……」
「ゴースト、まずは鉄槌をひるませるといいんじゃないか? その隙に猫又を何かで叩く!」
「ずいぶん適当だけど、それならナツルが最適かな?」
吹き飛ばされた先が少々遠目なのを良いことに、眼魂を入れ替えようとする。
しかし、彼はふと思いとどまる。
けんぷファータマシイに変わることで、自分は女になってしまうという事実を思い出したからだ。
散々に全員に弄られたことまでも思い出したせいで、戦闘中である事実も忘れ、悩みだすゴースト。
だからこそ、迫る敵にも気づけない。
「バカ! 前見ろ!」
「へっ? どわっ!?」
目の前に現れたのは鉄槌の巨体。
純粋なその身体での直接攻撃――体当たり――をあっさりくらってしまったゴーストは、再び大きく吹き飛ばされることになる。
眼魂を入れていない今のゴーストはいわば『普通の人間と大して変わらない身体能力』である。
それはまさしく『
無名な存在の彼は貧弱であり、鉄槌の一撃で大きくダメージを受けてしまう。
「ウァァッ……きつい……」
「トシロウ、油断したらだめだよ。オレで行こう!」
「よっぽどトラウマなのか……」
「ぅん……頼む……」
よろよろとか細い声を出しながら、ボンゴレ眼魂をセット。
レバーを引き、戻す直前に一度、両手で仮面の頬部分を挟むように叩く。
気合いを入れなおしたゴーストはレバーを勢いよく戻した。
『カイガン! ボンゴーレ!』
炎をグローブに灯し、眼の前から迫ってくる猫又に迎え撃つ。
鋭い爪からの一撃一撃を避け、しゃがみ、払い、受け止め。
同じようにゴーストの攻撃をいなし、躱し、止め、抑える猫又。
数度の攻防を経て、ゴーストは猫又の腕を固定することに成功する。
「くらえ!」
「ギャァァァァァ!」
「予想通りだ! 来るよゴースト!」
猫又のほうへ向けた手のひらから炎を噴出。
その衝撃によってよろける相手に向かって追撃を加えようとしたとき。
ゴーストがすっかり意識の外に追いやっていた鉄槌の一撃が襲う。
しかし、ツナの警告であらかじめ予感を得ていたために、クルリと避けつつ、距離を取る。
「めっちゃ……めっちゃくちゃ……じり貧なんだけど」
「どうしようか、このままじゃあこっちの精神が先に尽きそうだね」
「簡単に言ってくれるよ……」
肩で息をし始めるゴースト。
彼の想像以上に2対1の空間は厳しいものであった。
先ほどトランジェント状態で一撃をもらったのも大変なハンデとなっている状態。
心なしか眼魔二体の行動にも余裕と、ゴーストをあざ笑うかのような雰囲気も表れ始める。
「――ゴースト!」
「……っ!? 希!」
走ってきた希に一瞬気を取られそうになるゴースト。
しかしこのまま気を抜いてしまえば彼女が襲われる。
幸い眼魔たちも希に一瞬意識を持っていかれている。
即座に彼は判断をし、ドライバーのレバーを一往復させた。
『ダイカイガン! ボンゴーレ! オメガドライブ!』
気力の炎、その温度を反転させ氷点下へと落とすことで氷を生成する『死ぬ気のゼロ地点突破』。
ゴーストはそれを自身と希を囲むように展開し、一時的な壁とする。
ゴーストは希へ駆け寄ってゆく。
「希、家で待っててもよかったのに」
「ウチ、やることはやるって決めてるんよ。はい、シン君の眼魂」
「――ありがとう、希」
「ううん。君が頑張るから、ウチもやることはやらなって思ってるだけなんよ、お互いさま」
「ああ、そうだね」
希からシンの眼魂を受け取ったゴーストは、彼女が安全なように彼の持つすべての眼魂を預ける。
受け取った希は、できるだけ安全圏だとわかる範囲まで後ずさりで退がってゆく。
ゴーストは、シンに声をかける。
「なぁ、シン」
「……なんだい?」
「俺さ、今に向き合いたい。」
「うん、良いことだね。とっても、良いことだ」
「だから――」
息を深く吸い込み、一度大きくうなずくと、ゴーストは彼に『頼み』を伝えた。
「――俺が今を全力で過ごすために、アンタの力を、眼魂の力を貸してほしいんだ!」
「……合格! 君はやっぱり、僕の思った通り良い子だ!」
「……へ?」
「おいおいゴースト、お前はシン様に認められたってことだぜ? もっと喜べよ」
快活に笑うようなシンの明るい声に続き、パッキーが声を上げる。
どういうことか戸惑うトシロウをよそに、パッキーは変わらずえらそうな弁舌を始める。
「もともとシン様はお前に力を貸すって腹積もりだったが、魔王様がホイホイ人助けなんて俺は反対だったんだぜ?」
「ま……魔王?」
「そう。だから俺様が提案して、お前やその周りの人柄を見極めさせてもらったんだ」
「お……おう」
「その結果! 何事もなくシン様の力を使うにふさわしいってことを、今決めたんだ。つまり、合格っていうのはそういうことさ」
「パッキーが頑なだったからだけど、僕は最初から認めてたんだ。君ならば僕の――」
ふわふわと眼魂が浮き、まばゆく輝く。
光が収まるとともに、トシロウの前に幾人もの人物たちが並んでいた。
多種多様、十人十色の衣装を身にまとうものたち、その中心に立つ黒色のローブを着る白髪の青年が、ゴーストに手を――
――流星の柄が描かれた眼魂を差し出した。
「――クルセイダースの、僕らの力を扱える。って」
ゴーストがその手から眼魂を受け取るとともに、人物たちの姿は消える。
彼は気付く。
手の中にある眼魂を渡してくれた白髪の青年こそが、キラキラの生活を推奨した咲良シン、パッキーによって魔王と呼ばれた人物その人であると。
彼は想う。
キラキラの生活、それは楽しむだけじゃなく、全力で取り組むこと全てを含めているのだと。
「お墨付きもらったなぁ……じゃあ、キラキラの生活を……謳歌しなくちゃなぁ!」
先ほど受け取った眼魂――クルセイダース眼魂――をドライバーに装填。
音声とともに、黒いパーカーが飛び出してくる。
『アーイ!』
突如、氷が砕ける。
眼魔たちが必死に攻撃を加え続けていたゼロ地点突破の氷が破砕したのだ。
『バッチリミナー! バッチリミナー!』
意外にも堅かったのか、氷を壊し肩で息をつく眼魔たち。
だからこそ、ゴーストへその瞬間を与えることとなった。
『カイガン! クルセイダース!』
黒いパーカーが重なると同時に、フードは白髪の青年を表すように白く染まる。
その仮面には十字架、翼が重なるように描かれる。
『ティンクル・星降る!』
パーカーの腕、腰、胸の部分。計五か所に炎、水、雷、光、闇を示すマークが表れる。
パーカーの裾が伸び、ローブのような形へと変わった。
『魔族来るー!?』
右手に長い杖が握られる。
ゴースト・クルセイダースタマシイがここに変身のシークエンスを終えた。
「さぁ……死ぬ気で、命燃やすぞ!」
杖をかざすゴーストに果敢に立ち向かう眼魔たち。
すかさず、ゴーストが杖を振るうと一つの闇色の球が敵に向かっていく。
同時に彼は背後へ飛び上がり、眼魔たちと距離を取る。
「っていうかさ、この状態でいったい何ができるんだってばよ!」
「おいおい、ぶっつけ本番でやろうとするからそうなるんだよゴースト」
「その声は! パッキー!」
「シン様は力使えるってお前に渡したけど、正直今のお前じゃシン様の半分の力すら引き出せないんだぜ」
「んなっ!? じゃあどうするんだ!」
パッキーの声にショックを隠せないゴースト。
しかし、先ほど飛ばした球が鉄槌に当たる様子が見える。当の眼魔は激しく苦悶に体をひねらせているように見える。
その様子は一度杖を振るうことで飛んでゆく球は大変に高威力であることをうかがわせるため、ゴーストはシンの力の大きさに一種の恐怖も覚えた。
「オメガドライブってやつがあるだろ。シン様の力を引き出すためにはそれしないと無理だからな」
「……つまり一撃必殺ってしなくちゃあいけないのか……」
「シン様の力を振るえるだけで感謝してほしいものだぜ。そう都合よく肉体以上のスペックを扱えるなんてあるわけがないからな」
パッキーの呆れ声を受けながら、ゴーストはレバーを往復させる。
『ダイカイガン! クルセイダース!』
ゴーストの背後に複数の人物が並ぶ。
見た目麗しい女性が並ぶその集団は、眼魂に収められた歴史に記された咲良シンの仲間たち――クルセイダース――。
彼らは皆、眼魔に向け各々の携える武器や、その手をかざす。
『オメガドライブ!』
ゴーストが杖を上に掲げ、振り下ろすと同時に数々の攻撃が眼魔たちを襲う。
火球が、炎の気流が、雷が、氷が、光が、波動が、剣戟が、銃弾が、拳が。
四方八方から襲い来る攻撃を避けられるわけもなく、眼魔たちは爆発した。
「今のがシン様の力『アルケインメテオストリーム』――の下位互換。『フェイタリティーフォース』だ」
「……いまので下位互換なんだ……」
「だから言ったろ。今のお前にはせいぜいオメガドライブってやつで半分程度だせるか出せないかってことさ」
「……魔王ってすごいんだな」
「だろう? わかったらシン様を敬えよゴースト」
パッキーがどこか辛辣な調子で、変身を解除したゴーストに解説を行う。
うん。とうなずくゴースト――トシロウの顔には、異様に沸くやるせなさと、どこか哀愁みたいなものが漂っているのであった。
「だけど、お前さん自体の覚悟は悪くはねぇ。お前が守護者になった事情とかも分からないけれど、こうなった以上、俺様も助力していくぜ」
「……うん、ありがとうパッキー」
「おう! この大賢者パッキー様に任せれば、お前の成長は確約されたものだからな!」
***
シンの力――クルセイダース眼魂――が解放されてから数日後。
音ノ木坂学院では、一人の少女と西木野真姫が音楽室で初めての邂逅をするのであった。
「あのっ、いいピアノだよね!」
「……そう、ですか。ありがとうございます」
差す陽のようなオレンジ色の髪をサイドに軽くくくった少女――高坂穂乃果――が真姫の奏でるピアノの率直な感想を述べるも、当の本人はそっけなく返事を返す。
前に希から、『トシロウからの手紙』を受け取り、読んだことで前よりも幾分その冷たさは緩和されたものの、もともとの性格が人付き合いを煩わしく考えるのか。
「あのねッ――――」
穂乃果が勇気を振り絞る。
直後彼女から告げられた言葉に、真姫は思わず一言で聞き返すのであった。
「――スクールアイドル! やらない!?」
「――バカ?」
春の桜も散り終わる五月ごろ。
学校を救うための一歩を踏み出した少女の言葉を、一度大事な者を喪った少女の呆れが貫いたのだった。
・ゴースト・クルセイダースタマシイ
魔法攻撃に特化したフォーム。魔法攻撃が強力である反面、近接戦闘はからっきしである。
必殺技は眼魂に刻まれた盟友たちとともに攻撃を放つ『アルケインメテオストリーム』だが、
ゴースト―トシロウ―の基礎スペックがあまりにも眼魂の内包する力に追いついていないために半分の能力すら引き出せていない。
内包された人格は異例にも二人存在する。眼魂の力を象徴する『魔王咲良シン』と、その相棒の『大賢者パッキー』である。
・ゴースト・トランジェント
ゴーストがタマシイのパーカーを羽織る直前に現れる状態。
この状態のゴーストは『大地原トシロウ』でもない名もなき存在。
スペック以前にそもそも普通の人間と大差ない状態で、違いはどんな攻撃を受けても死にはしないことくらい。
次回【変形分離!攻勢装備!】