「俺自身の眼魂は……どういう能力してるんだろう」
「俺様が幾ら偉大な大賢者だからって知るわけないだろ」
「この体になってから殴られたりするより熱とかのほうが痛いんだ」
「ガンなら――希とガンガンセイバーの最終調整入れてくる――って言って出かけてたよ?」
「……まだ喪っていないから、諦めない……ね」
「高坂先輩! 後ろ!」
「死ぬ気で! お前の命を! ボコボコに! 燃やす!」
『オメガストリーム!』
神田明神での眼魔との戦いから数日。
学校から帰宅をした希から、ある一報をトシロウは受けとった。
「西木野さん、スクールアイドルに入ったんやって!」
「……はっ!? スクールアイドルってあのスクールアイドル!?」
スクールアイドルとは、芸能事務所に所属し、職業として行うアイドルとは違い、学校ごとに存在する『学校の看板』のこと。
しかしトシロウには、スクールアイドルとはイコールでA-RISEのことしか知識がない。
希の言葉を額面通りに受け止めるとするなれば、それはすなわち――
「つまり真姫は
「いや、なんでそうなるのさ」
「え……スクールアイドルってA-RISEの俗称じゃないの?」
――真姫がA-RISEに入ったという解釈に繋がる。
さすがに事情を詳しく知っているツナがツッコミを入れるが、彼の反応が素であると理解し、ため息をついた。
「あのな、A-RISEってあくまでも『スクールアイドル』の一つであって、『スクールアイドル』自体はA-RISE以外にもいろいろといるんよ」
「……そうなのかぁ」
「つまり、今回彼女が入ったのは音ノ木坂学院のスクールアイドルっていうことなんだ」
「へぇ、音ノ木坂にもスクールアイドルってあったんだ!」
「それがね、つい最近できたばっかりなんよ」
ツナと希によるスクールアイドル講座によってある程度理解が追い付いたトシロウは、音ノ木坂に新しくスクールアイドルができたという言葉に首をかしげる。
今まではいなかったのかという疑問に、希は苦笑いと、少々哀しむような面持ちで一言だけ語った。
「前はあったんよ……前は、ね」
「……そうか……それじゃあさ、真姫が入ったスクールアイドルってどんなのなんだ?」
「グループ名は――」
「それは僕が説明しよう!」
希がトシロウに説明しようとしたその時、希の制服ポケットからクルセイダース眼魂――シンが飛びだし、意気揚々と語りを始める。
ここ最近、シンは希とともに音ノ木坂学院へ出向き、生徒会業務を共にしたり、学生の見回りなどを共に行ったりと、再びの学園生活を満喫しているみたいである。
「――シン君!?」
「そのグループの名前は『μ’s』! 名前の由来は――」
「ギリシア神話における文学芸術を司る女神たち『ムーサ』のこと。九姉妹いて、それぞれに明確な分野が与えられていて、昔は三柱だったり七柱だったりと人数がバラッバラだったり、ゼウスと記憶の女神『ムネーモシュネー』の子だといわれたり別論では――」
「――そう! ムーサなんだ! それに準えてメンバーも九人で活動させたいと思っていてね!」
シンの説明に口を挟むように『ムーサ』の説明を始めたトシロウ。
これは長くなるぞ。と戦慄したシンは焦り、急ぎ彼の話を中断させ、自身の説明を強引に再開するシン。
心なしかトシロウも希も彼を見る目が冷たくなっている気がする。
「んで、ということは九人いないってこと?」
「ああ、まだ九人そろっていないんだ。現在メンバーにいるのは四人だね」
「ちなみに真姫がウーラニアーだとして、ほかにどの担当がいるの?」
「さらっと幼馴染を『天上の女』っていうなんてすごいね……」
「まぁ西木野さんは確かに高嶺の花ではあるやね……」
呆れながら希がシンの代わりに解説をする。
現在そろっているのは
あと五人の女神が必要だというのだが、どこか希には余裕な笑みが現れている。
「あと五人だろ? 集めるの大変じゃないか?」
「ふっふっふ、ウチにはもうその宛てがあるんよ!」
「希! 僕はそんなこと教えてもらっていないよ!?」
「当然やシン君。ついさっき思いついたんやから!」
ドヤッと胸を張る希に困惑するシン、宛てがあるのなら九人揃うことも時間の問題であると理解したトシロウ。
そしてそれを眺めるツナはただ一言、あきれの言葉をつぶやいた。
「なんだろう、この光景」
***
都内某所。人々の往来が激しいある場所にて一陣の風が吹く。
風の一薙ぎを誰も気にすることのない人通りの中で、突如一人の男性通行人が硬直し、倒れこんだ。
心筋梗塞か、それとも心不全か、いずれにせよ、倒れたことはよろしい状態ではない。
「おい、あんた、いきなり倒れて大丈夫か?」
どの通行人も、君子危うきに近寄らずか、目を向けはするものの、その男性から距離を取って歩き続ける。
誰もが何事もないように通り過ぎてゆく中、近寄ったのは観光客らしき男。
――東京の人が冷たいって本当なんだな。とあきれを抱きつつ、男性を抱き起すために自分の側へ向かせたとき――
「ひっ……! うぁぁぁあ!?」
――男は叫びを上げた。
それもそのはずだ。
抱き起した男は呼吸をしておらず、その上眼は開かれっぱなし、さらに男の手には赤黒い液体――血液が付着をしているのだから。
――死んでる……!?――
突如倒れ、死亡をした男性と、それを抱え叫び声を上げて周りを見渡す男を怪訝に、誰もが離れゆく。
中には携帯電話でどこか――警察か――に連絡をする者も見える。
――違う、俺じゃない、俺は無実だ、誰か救急車を呼んでくれ。と叫ぶ男性を面白がって写真に撮る者もいる。
人間とはなんと愚かなものか。
あわれ、男はこのままでは犯罪者の汚名を着せられてしまうだろう。
――誰でもいい、助けてくれ!
そう願う彼の想いは、歪んだ形で応えられる。
「キャァァァァァ!」
「なんだ!? 今人が血を吹きだして倒れたぞ!」
「なんかの撮影だろ!? カメラ探せカメラ!」
「まってくれ! この人、死んでやがる!?」
遠巻きの群衆の中から一人の女性が突如血を吹きだし崩れ落ちる。
――どうせ映画かドッキリの撮影なんだろう。
と、軽く考えていた人々は、誰かが叫んだ『死んでいる』という言葉により、一気にパニックへと陥ることとなった。
「ウアァァァ!」
「ヤバイ! ここはやばいぞ!?」
「ヒィィィ!」
群衆が一度に逃げ出す。
腰が抜けたものはその場で多くの人に踏まれ、蹴られ、その身体に傷を付けられていく。
先ほど写真を取られていた男も、その流れに便乗して逃げ出そうとする……が。
「オイオイ、ニゲダスナヨォ? モットオレサマト、アソボウゼェ?」
「!? ヒッ、ばっ! ばっ! 化物ぉ!」
「バケモノトハシツレイダナァ……」
男の肩を掴み、現れたのは右腕に刀を纏った陣羽織の眼魔。
名付けるなれば『
軽い口調で男に語りかけながら、右手の刃を彼の喉元へと当ててゆく。
「やめっ……! やめてくれ!」
「ジャアアソボウゼェ?」
「あそっ! 遊ぶ! だから! だから命は!」
「ソウダナァ……」
男からの必死な命乞いに吹き出したい気持ちを抑える眼魔。
それはニタニタとあざ笑うような声で刃を男からどかす。
安心するような顔で息をついた男の首が直後――
「オマエノクビデ、サッカーシヨウゼェ?」
――眼魔の刀によって飛んだ。
眼魔にとっては人間の命一つどうだっていい。
約束をしていようがしていまいが結局首を最初から斬り飛ばす予定だったのだ。
血を断面から吹き出しながら男の体は音を立てて倒れる。
転がってきた顔を勢いよくシュートと叫びながら、蹴っ飛ばした眼魔は大きな声で笑う。
「ブッヒャッヒャヒャヒャ! シンジルトカァ、バカジャネェノォ!? オレサマァ、バケモノナンダケドナァ!」
「そこまでだ眼魔!」
悠々と街を歩き始めた眼魔に向かい銃弾が飛ぶ。
衝撃を感じた眼魔が振り向くとそこにいたのは、急いでやってきたトシロウ。
彼は眼魔の後ろにある首のない男の身体を見て、にらむその顔をこわばらせる。
「アア? キミィ、ダァレダイショウネェン?」
「お前……!? 人を……殺したのか」
「アア。ダカラドウシタ? ナニガワルインダァ?」
「お前たち……眼魔って奴らは……!」
トシロウは眼魔を糾弾しながら眼魂をセット、ゴースト・オレタマシイへと変身をする。
その姿を見て、眼魔は少し驚いたような声を上げる。
ただの少年かと思えばここ最近自分たちの活動を妨害している
『レッツゴー! 覚悟! ゴ・ゴ・ゴ! ゴースト!』
――ちょうどいい、今まで同胞たちを葬ってきたこいつを始末すれば自分の格が上がる。
そう内心舌なめずりをした眼魔は右手の刀を構え、ゴーストを挑発しだす。
「ダァレカトオモエバ、ゴーストデェハアリマセンカァ!」
「お前さ! 人を殺して何とも思わないのかよ!」
「オモウワケネェダロォ! オレサマハ、オマエタチデイウトコロノ、バケモノナンダカラナァ!」
「許さねぇ……!」
ガンガンセイバーを構え、怒りを隠すこともなく走り出したゴースト。
挑発に乗り、その影響をもって行動しているために、彼の動きは単調に荒々しくなっている。
そんな攻撃では余裕をもって動き回る眼魔に当たるはずもなく、スイスイと振るう刀を躱される。
「このっ! このっ!」
「ゴースト、落ち着くんだ! 相手のペースに持っていかれているよ!」
「アッヒャヒャヒャ! オマエノォ、コウゲキナンカサァ、クラッチマウナンテェナァ、ドウホウタチハァ、バカバッカリナンダナァ!」
「てっめぇぇぇ!」
ツナのアドバイスも何のその、変わらぬペースで相手を攻めてゆくゴースト。
眼魔はおちょくりながら彼の攻撃を躱していくのにも飽きたのか、その腕の刀で彼の胸部を斬りあげる。
荒々しくガンガンセイバーを振りぬくことでがら空きになっているため、刃の一撃は鋭くゴーストへ襲い掛かり、大きな衝撃を与える。
続いて振り上げたその刀を返し、彼の胴体の同じ個所を切りつける。
「ソォラヨッ!」
「うぁっ!?」
「ナンダァ? ソンナモノカァ、ゴーストッテヨォ?」
再び衝撃で怯まされたところに眼魔の当身が刺さる。
大きく吹き飛ばされた彼をあざ笑い、同時にその弱さに興をそがれた眼魔は、ゴーストを見逃してやるかのように悠々と、歩き去っていった。
眼魔の邪魔ものでしかない弱い相手と斬り合うくらいなら、抵抗もできないような一般市民でも惨殺している方が愉しいという、至極歪んだ趣味嗜好を優先したのだ。
「キョウザメダゼ。ザッケェナァ……!」
***
「……クソッ……クソッ!」
「トシロウ……!」
「なんで……なんで……」
倒れこんだまま変身を解除し、叫びと嗚咽を上げるトシロウ。
てっきり人の死体を見て動揺し、その上眼魔の挑発によって頭に血が上ったのかと考えていたツナは、直後の彼の言葉に驚愕を表わすこととなる。
「なんで……初めて人が死んでるのを見たのに……何にも思えないんだよ……!」
「トシロウ……!?」
「なんで……人が死んでるのを間近で見たのに……なにも感情が湧かないんだよ……!」
先の眼魔との戦いで動きが単調かつ荒々しくなったのは、自分の無感情に突如焦りを抱いたから。
忘れているかもしれないが、トシロウの実年齢はいまだ中学生。
ゴーストになる前はごくごく平凡な生活をしていて、友達とその手のゲームをすることはあれど、現実世界で人の死を間近で見たことも、その死体に触れたことも、当然ない。
当然性格破綻者などと評されるような人物ではなく、喜怒哀楽をはっきり示す少年なのだ。
故に普通であるのなら、トシロウは何かしらの感情を抱いてしかるべき。
しかし、彼は男の首のない死体を見ても、犯人が目の前にいたあの眼魔であることしか、考えが湧かなかったのだ。
だからこそ戸惑った。怒りすら抱けず、初めて人の死を見て、誰かが死んでいるということを実感したというのに、なんの感傷もわかない。
だからこそ恐怖した、自分に。己は異常なのかと邪推するほどに。
「それはトシロウ殿が
「っ!? 誰だ!」
「眼魂……?」
嗚咽交じりに悩みを吐き出すトシロウへと、何者かが答えを刺す。
それは緋色の装飾を施した眼魂。
それは事件によってあわただしくなる空間の中で、異様な静けさと凛とした雰囲気が浮いている。
眼魂が言葉を続ける。その内容は、先にトシロウへ刺した言葉を、掘り下げるもの。
「トシロウ殿は既に死人でござる。命に関する感覚が少々ながら歪んでしまっているのでござるよ」
「……嘘だろ……」
「申し遅れた。拙者は緋村剣心、ただのしがない侍でござるよ」
「緋村……剣心……?」
その眼魂の名を聞き、ツナの声のトーンが一段階下がる。
まるで自身の知識と照らし合わせているかのような声色だ。
そんなツナをしり目に、剣心は呆然とするトシロウに追い打ちを加える。
「嘘ではござらぬ。思い返して心当たりは、既にござらぬか?」
「心当たり……?」
「例えば最初に眼魔と戦ったとき、例えば自分が戦っていて周りに被害が出るかもしれないと思ったとき……などでござるな」
「……!?」
トシロウの眼が驚愕に開かれる。
確かに最初に眼魔と戦闘をしたときに、相手への恐怖というものは持っていなかった気がする。
それに、戦うとき、周りの命への余波などは、端から考えていなかったのも、同意してしまう。
「俺は……じゃあ、最初から……?」
「最初から生命関係の感情がうまく働かないのでござる」
「……ぁあ……」
彼が死人で有ることを理解させるように、とどめを刺す結論。
――存外に脆い少年だ。ここしばらく様子を見ていたが、実は期待外れだろうか。
と、剣心は崩れ落ちるトシロウを見て、考える。
だが、彼は一つ知らないことがある。
それはトシロウが何のために戦うか、既に決めていること。
それは彼が生きていようと、死んでいようとも変わらない覚悟。
それは、自身が死人で有ることを認識し、自身が生命に対して感慨を抱けないこととは切り離して考える、彼の絶対優先思考。
「……そっか」
「理由はわかったでござるか?」
「じゃあ、死んでも何も思えないなら、次は助けられたことで喜べばいいんだな!」
「……おろろ?」
目の前で死んでも何も思えないならば、誰も死なせなかった功績を喜べばいい。
トシロウの言葉は要するに、命そのものじゃなく、命を助けた自分の功績に感情を示せというもの。
唐突な解釈を始めたトシロウに、剣心は困惑の声を上げる。
「俺が既に死んでるからとか、そういう理由で結局感情を示さないからって、人を見殺しにしていいなんてことはないもん」
「……それは確かにそうでござるな」
「そうだよ、アイツは逃げちまった、つまりもっと死んでしまう人が増えることになるんだよな」
「……それもその通りでござる」
「だったら倒さなきゃ。やっぱ眼魔に命があるとか考えても、倒さなきゃいけないんだあいつらは」
――戦うことを躊躇うことで、普通の人たちが死に、それによって大事な人たちが苦しむなら、躊躇いは捨ててやる。
ツナに伝えたあの時の覚悟は喪っていない。
先は余裕を失うほどに焦ったが、なるほど、理由が『自分が死人だから』とわかるならばそれでいい。
理由さえわかれば満足して勝手に走り出すその若さ。
それこそが、トシロウの強さに直結する根本なのであろう。
「ツナ、ふっきれたぞ、行こう!」
「……まったく。今度は挑発には乗らないでよ?」
「任せろ!」
剣心のことをほおり、マシンゴーストライカーに乗って辻斬りを追うゴースト。
一人残された彼は思う。
――とんだ大馬鹿者の少年でござるな。
話を勝手に打ち切り、勝手に納得し、勝手に謝りもなく去っていった少年。
だが、存外わかりやすい男だったと思う。
立ち上がった瞬間の眼には迷いも惑いもなく、まるで晴れ渡った空のようにスッキリした雰囲気があった。
だからこそ、ひとまず彼が何者であるかを考えないことにした。
そして、剣心は彼らのことを追うことにした。
***
辻斬りは存外遠くまで行っていなかった。
ゴースト達がバイクを駆って数分もしないうちにその姿を見つける。
見たところ、止めるならば今。まだその刀は振るわれていない。
ゴーストは叫びをあげ、眼魔に向かってそのバイクの速度を上げる。
「今度こそぉぉぉぉ!」
「アァ!? ウグオァッ!」
ぶつかる少し前の距離でバイクから飛び降りるゴースト。
急に駆けてきた無人のバイクに驚いたのか、眼魔は避けることもできず、ぶつかり飛ばされる。
ゴーストは着地と同時に、オレタマシイから、ボンゴレタマシイへとフォームを変更し、走り出した。
『アサリ・イタリア・マフィアミリー!』
眼魔は先ほどバイクによって吹き飛ばされたことで驚き、実体化をしてしまう。
突如現れた異形の怪物に慄き沸き立つ通行人たちは、走って我先にと逃走する。
故に今、ゴーストの周りで喪われる命は、ない。
「さっきは不覚を取ったが、今度は退かせるわけにいかない!」
「ヘェ、サッキヨリカハ、イイメヲシテルジャネェカァ!」
眼魔が刀を振るうと同時に、ゴーストはボンゴレグローブに炎をともしその刀のしのぎを叩く。
すぐさま叩かれた刀を振り上げる眼魔と、それを肘でしのぎを下からかち上げるようにぶつけるゴースト。
彼が右手で拳を繰り出すと、それを受け止めるために左手で抑え込むように掴む眼魔。
だが、彼がその手に纏う炎は熱がない代わりに放射し、衝撃をぶつけることができるもの。
大きく後ろへ吹き飛ぶ眼魔。
ゴーストは右手を握り直し、駆け出そうとする。
「少々待つでござる」
「――あ、さっきの眼魂!」
「そういえばすっかり置いてけぼりにしていたね……」
それを引き留めたのは、自称しがない侍の眼魂こと緋村剣心。
ゴーストたちが移動をしてから時間はそんな経っていないが、追いつくことができるのは彼自身の性能ゆえだろうか。
「酷いでござるよ。拙者のことを忘れていくだなんて」
「あ……すいません」
「まぁそれは別に良いでござる。それよりも一つ、聞かせてほしいことがあるのでござるよ」
「あー……いいけど……」
「トシロウ殿は何のために戦うのでござるか?」
なんとなく、剣心は悟っていた。
目の前の少年が『世界のため』だとか、『みんなの命のため』などといった崇高すぎる目的で戦っていないことに。
だからこそ、彼は知らないから聴きたかった。
なぜ彼が戦うのかを。
なんの為に、誰のために戦うのかを。
「――そんなの簡単だ、大事な人のためだよ」
「……ふむ」
「世界を救うとかそんな理由を考えたことはあるけどしっくりしないんだ。だから、この理由で俺は戦う。それが、今の俺にとっての最高の答えだから」
「面白い少年でござるな」
「なんだよそれ……?」
ゴーストの手の中に剣心の眼魂が降り立つ。
それが意味することはつまり――
「力をお貸しするでござる」
「……なんか色々唐突だなぁ」
「あの眼魔は刀を武器としているでござる。それなれば同じ刀の侍に任せるのもまた、道理だと思うでござろう?」
「……それは確かに」
ゴーストが納得する声を上げるとともに、眼魔が立ち上がり、怒りの叫びを上げた。
それを見たゴーストは、ひとまずそれを倒すことが優先だと考え、眼魂を入れ替える。
『バッチリミナー! バッチリミナー!』
ドライバーから緋色のパーカーが飛び出してくる。
同時にボンゴレタマシイのパーカーは霧散。ゴーストはトランジェントの姿へと戻る。
それを確認した彼はレバーを往復、眼魂を開眼する。
『カイガン! 剣心!』
緋色のパーカーがゴーストへかぶさる。
オレタマシイと同じ複眼が光り、その顔の面に十文字の傷が刻まれる。
『
ガンガンセイバーがベルトから飛び出し、その手に握られる。
ゴースト・剣心タマシイへと、彼は成った。
「おぉ……なんか、和風って感じ?」
「侍だからでござる。少々この剣は扱いづらいところがあるでござるが、戦えなくはないであろう」
「よぉし、死ぬ気で、命……燃やすぜ」
ガンガンセイバーを構えるゴーストに、今までの余裕を亡くした眼魔が右手の刀を振りかざし、走ってくる。
ゴーストはすれ違いざまにその胴を一閃。
後ろ手に構えなおした武器で続いて眼魔の背中を突く。
「拙者の力は神速の刀、飛天御剣流の剣技でござる」
「飛天御剣流……!」
「御剣の剣、即ち、時代時代の苦難から弱気人々を護る理念。トシロウ殿なれば、きっとこの剣技を扱えるでござる」
「護る剣……!」
剣心の言葉に俄然自信、覚悟を増すゴースト。
もし彼が護るためではなく、倒すために力を振るうのであれば、確実に剣心は力を貸すことをしなかった。
だが、彼の戦いは『大事な人のため』、即ち『大事な人と、その人の大事なものを護るため』のもの。
彼の身体は中学生ながらも、ゴーストとしてなれば飛天御剣流の超人的剣技も、難なく振るえる体となる。
だから力を貸す。護るための剣ならば、今ここで与えずして何を護らせるというのか。
「ゴォォォォストォォォ!」
「毎度毎度、ワンパターンだなお前ら!」
冷静さを欠いた眼魔の刀が届く前に、ゴーストが振るう神速の剣が煌めく。
刺さる剣、薙がれる刃、先を斬る刀。
次第に眼魔の一挙一動がなくなってゆく。
それはつまり、剣技の速さが相手の動き全てを超えたこと。
つまり今は、ゴーストの独壇場なのである。
『ダイカイガン!』
敵を吹き飛ばし、直後ガンガンセイバーをドライバーにかざす。
とどめを刺そうとしたとき、再び剣心から制止がかかる。
「おめがどらいぶとやらを、併用するでござる」
「え? 同時に使えたっけ……これ」
疑問を抱きながらもレバーを往復させるとダイカイガンの音声が鳴る。
それを確認したゴーストは眼魔の眼前まで走り込み、技を仕掛ける。
『剣心! オメガドライブ!』
『オメガブレイク!』
音声の直後、ゴーストの姿が一瞬ブレる。
眼魔の瞳にはその『技』が見えず、気付いたときにはその武装で胸を突かれ、爆散した。
「……いまの……すっげぇ……!」
「飛天御剣流奥義『九頭竜閃』でござる。神速九連の乱撃奥義、基本的に躱せはせぬ」
「……すごいけど……恐ろしいなぁ」
***
暗闇の中、一体の異形が眼魂のような何かを握り、たたずんでいた。
そこに近寄る全身が白い人のようなナニカ。
その動きからして、男性なのであろうか。
「お呼ばれしてきたけど、ボクは一体何をすればいいんだい?」
「――――」
「……そう、まだ、待機なんだ」
「――――」
「別に構わないよー。どうせもうすぐ戦えるのは解っているんだ」
白いナニカは高く、おどけるような声で笑う。
それを諌めるように一体の眼魔が近寄るが、触れる前に爆散した。
「ボクにきやすく触らないで欲しいね」
「――――」
「別にぃ? ボクが君たちを裏切るなんてことはないさ」
その声には怒りがこもる。
恨み、憎しみ、殺意。
いったいなぜそれを駆り立てるのか。
「ボクはただ、ボンゴレ十代目を殺せれば、それでいいんだ」
「――――」
「はいはい、その話はもう聞き飽きたよ。今度からは気を付けるね」
「――――」
「それじゃあ、ボクは戻るね。あ、後でマシュマロよろしくね」
白いナニカはその場を去る。
すぐさま偉業は一体の眼魔を呼びつけ、白いナニカからの要望を伝える。
眼魔が去った直後、ナニカが去っていった先の空間を見つめ、それはつぶやいた。
「ビャク……ラン……」
・ゴースト・剣心タマシイ
飛天御剣流という剣技流派を活用して神速の攻撃を繰り出すフォーム。
一対多数の時に真価を発揮。現状ゴースト内最速のフォームでもある。
必殺技は九つの乱撃を超スピードで繰り出すことでほぼ同タイミングで放つ『九頭竜閃』。
内包された人格は、自称しがない侍である、飛天御剣流会得者『緋村剣心』。
・大地原トシロウ
ゴースト(死人)となったことにより、他人の生死、生命について感情を抱きづらくなった。
ほかにも色々と麻痺した感覚はある模様。
次回【ファーストライブ。二剣とナックル!】