ただし何を考えているか分からない。
「えっと…お兄ちゃんこの人たちどうするの?」
「……チッ」
「ヒィ?!」
兄が懐から取り出すモノが凶器か何かだと思ったらしい悪党たちは舌打ちの音によって緊張が限界突破に陥り、泡を吹いて気絶してしまった。兄は動かなくなった彼等を横目で見ながらも、懐から取り出した最新型のポケナビに連絡を入れているようだ。ナゾノクサが興味津々で兄のポケナビを見つめているのが見えて私はちょっとだけため息をついた。
何コールかの後、女性の声が聞こえてくる。
「おつきみ山のふもとにポケモン盗もうとした連中がいるからジュンサー呼んで来てくれ」
【はぁ?いきなり何言ってんの―――――】
ピッという機械音とともにポケナビの通信機能が閉じられ、女性の怒ったような声は聞こえなくなる。そして縄で縛った悪党たちを置いて私たちに近づいてきた兄に、複雑な表情を向けながらも口を開いた。
「今のって…カスミさん?」
「ああ、ハナダって言ったらカスミだろ?」
「いや意味わかんないから」
兄の言っていることは知り合ってばかりの人ならば理解できないと思う。
つまり兄は悪党を捕えてそのままにしておくことができず、かといって自分が捕えたと言えば兄の立場から考えて大騒ぎになると分かっているからハナダシティのジムリーダーであるカスミさんに後のことは頼んだと言ったのだろう。怒りっぽい所があるカスミさんだけれども、それでもちゃんと兄の言う言葉を理解してやってくれるはずだ。それでももう少し言い方ってものがあったんじゃないかと私は思う。
4年前ならもうちょっと言語力があったような気がするんだけどもしかしたらそれらは全てバトルの方へと流れていったのかもしれない。
「行くぞヒナ」
「行くってどこに?」
「面白い所」
何処だそこは
場所について聞いていても兄はちゃんと答えてくれない。ピチューは兄のピカチュウに話しを聞こうとしているけれど、ピカチュウもピカチュウあるまじき表情で苦笑して言葉をはぐらかしているようだ。でも兄が面白い所と言ったら本当に面白い所なんだろうと考えて私は素直に従った。
後ろにいた悪党はそのまま放置で…でも可哀想だから早くカスミさんが来れるようにとピチューに空に向かって電撃を放ってもらいながらも。
その後、ピチューをボールにいれた私は兄の横に行く。そしてそのまま…ちょっとだけ静かになる空気になりつつも、私は兄の向かう方向へと歩く。
兄は4年前とは違って喋ることが少なくなった。イッシュ地方に旅してた時は結構喋っていたのだけれど、カロス地方から戻る頃にはポケモンを見た時の子供っぽさは消えて口数が減っていたのを覚えている。…まあ、怒る時は容赦なく激昂してキレるし、感情とかも表情に表れて言葉も増えるからあまり変わってないようにも感じるけれど、こうして歩いて見ればやっぱり静かになったなと思う。でもそんな静かな空気は苦手じゃない。森の中で聞こえるポケモンの鳴き声や自然の音を聞きながら私たちは森の中を歩く。静かだからこそ聞こえてくる音に耳を傾ける。
そしてナゾノクサが楽しそうにはっぱをゆらゆらと動かしながら兄やピカチュウを見ているのに気づいて私は微笑みながら観察する。昔から幼いポケモンの世話をよくしていたピカチュウはナゾノクサの興味が自分に向いているという視線を感じたのか、私の肩に乗って抱きしめているナゾノクサに挨拶をしていた。ピカチュウの声にナゾノクサは反応して笑うように鳴く。ピカチュウ尻尾とナゾノクサのあたまの葉っぱが触れ合って楽しそうだなと思った。
それを見ていた兄が口を開いて私に聞く。
「そのナゾノクサはどうしたんだ?」
「おつきみやまでピチューが拾ってきたたまごから生まれたの」
「生まれたばかりか」
「うん。ちょっと変わってるところもあるけどね」
『ナゾ?』
『ピィカッチュ?』
変わっている所について兄は深く聞かず、ただ小さく頷いてそうかと呟く。ポケモンに個性があるのを兄はよく理解しているからこその声だなと私は理解しつつも、ちょっとだけ複雑な思いのまま兄に向かって言う。
「なんか微妙」
「……何が」
「まだ旅をし始めたばっかなのにいきなりラスボスに会った気分なの」
「だいたい合ってるな」
「…お兄ちゃんなんでこっちに来たの?山にいる皆は?」
「用事があって来た。山はフシギダネに任せてる」
「用事って?」
「聞くな」
「セレナさんは?」
「ポケモンパフォーマーの仕事」
兄はこの世界のトレーナー達の頂点…ポケモンマスターだ。今はシロガネ山に住んでいるが、それはポケモン達のためだと兄を良く知る皆が理解している。
ポケモンの組織機関によって話が来た当初、夢が叶ったと兄は笑っていたが、その表情はどこか悲しそうだったのを覚えている。ポケモンマスターはまだ夢への通過点に過ぎないのだとセレナさんは言っていたし、シゲルさんから聞いた話もよく覚えているからこそ、兄はうまく笑えずにいたと分かった。そんな兄にできることはあるのだろうかと私は思う。まだまだ新米トレーナーだからこそ、私はやるべきことをやらなければいけないのだ。
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兄によって連れられた先にいたのは、キラキラと輝く石の塔。
見たことのない造形とハナダシティでそんなモノが作られているだなんて知らない私は驚いた。前にテレビでカロス地方特集でやっていたヒャッコクシティの日時計に似ていた。形ではなく、色や輝きが似ていたのだ。
日が当たれば、宝石の塔にもなりそうなほど綺麗だと感じた。
「こんなのがあったなんて」
「綺麗だろ」
「うん」
『ナッゾォ!』
「あ、こらナゾノクサ!!」
『ピィカッチュ』
ナゾノクサが私の腕から飛び降りて石の塔へ向かう。それを見て私は追いかけようとしたのだけれど、私の肩に乗っていたピカチュウがやれやれと言うかのようにため息をついて、ナゾノクサを追いかけて逸れるのを阻止して立ち止まられてくれたため大丈夫だと判断する。
ピカチュウにお礼を言ってからナゾノクサを抱き上げて、そして兄に向かって聞いた。
「お兄ちゃんこれってなに?ハナダシティの近くにこんなのあったらすぐ大騒ぎになると思うんだけど…」
「何だと思う?」
「え?」
「お前には何に見える?」
兄が言っている言葉の真意はつかめない。というよりも、教えてくれる気はないのだろう。兄はいつも何か大事なことはうまく隠す。だから私は石の塔を見上げて兄が聞きたい答えを考えた。教えてくれないのならば、自分で考えて答えを見つけなければいけないから。
石の塔はとても輝いていて宝石のようにキラキラとしている。周りにある樹木が違和感にならないほど綺麗にその場に収まる姿。それの雰囲気を、私は知っていた。つい最近見たその感情を、私は理解していた。
「ポケモン…というより、ポケモンのたまごみたい」
『ナゾォ?』
「…まあ、及第点だな」
『ピィカ』
兄は小さく頷いて微笑んでくれた。兄の言葉に私とナゾノクサは首を傾ける。ああいや、ナゾノクサは首がないから身体を傾けてると言った方が良いだろう。
兄はこちらに近づいて私の横に立ち、石の塔を見上げた。
「これが何なのか知りたかったらシンオウ地方に行ってみろ」
「ちょっと遠いけど…分かった」
「行くぞ」
「どこに?」
「ハナダシティ」
ジム戦あるんだろ?
そう言った兄の声に私は頷いて歩き始めた兄の後を追う。一度だけ後ろを振り返り、石の塔を見てからすぐに前を向いて歩いた。石の塔について兄は何も教えてはくれなかったけれど、シンオウ地方というヒントはくれたから行けばわかるかもしれない。シンオウ地方と言えば師匠は何してるかな。少しだけ懐かしく思いながらも木の葉の揺れる音を感じつつ歩いていった。
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「ここからまっすぐ行けばハナダシティだ」
「え、お兄ちゃん行かないの?」
「用事があるからな」
ハナダシティの近くで兄はここで別れようと言ってきた。その言葉に私は無理に引き留めようとはせず、分かったと頷く。兄がハナダシティに行ってトレーナーにでもあったら大騒ぎになると私は知っているし、兄は兄で用事があると言っているからここから先は別れて行動すると言う意味を理解した。
ちょっとさみしくなるけれど、ここから先は私の旅に戻るだけだから仕方ないだろう。そんな私に兄は小さく笑って近づいた。
その両手には何やら布の小さな袋を持っているのが見える。巾着袋にも見えるそれは、モンスターボールが1つ入るぐらいの大きさしかない。袋には片方がピカチュウのような黄色い色、そしてもう片方はリザードンのようなオレンジ色で染められていた。
何時の間に両手で持っていたのだろうと首を傾けている私に、兄は口を開く。
「どっちがいい?」
「えっと…」
『ナッゾォ!』
「こっちか…分かった」
私が戸惑ってどちらの袋を選ぼうか悩んでいたら、抱きしめていたナゾノクサがすぐさまこっちだ!とでも言うかのように鳴き声を上げてオレンジ色の方を選んだ。そのオレンジ色はナゾノクサにとって大好きな炎に似た色だったから選んだのかと私は考え、兄から受け取ったオレンジ色の袋の中身を覗き込んだ。
――――すぐにその袋を閉じて兄を見てから叫ぶ。
「何でこれ入ってるの!?」
『ナゾォ?』
「使いどころ間違えるんじゃねえぞヒナ」
『ピッカァ』
兄が言った言葉に私は何度も頷いた。これはしばらく出してはいけないものだ。ポケモンたちが触れない場所に置いておいた方が良いと考えてリュックの奥の奥までしまいこんだ私に、兄は帽子の上から頭を撫でた。
「またな」
『ピィカ』
「…うん、またね」
『ナゾ!』
兄がモンスターボールからポケモンを出して、どこかへ行ってしまうのを見届ける。急にきて急に去って行った兄だけれど、トレーナーとして上を目指していけばまた会えると考えて私はナゾノクサを連れてハナダシティへ走って行ったのだった。