コダックという生き物は、何も知らずに初めて見たトレーナーからだとそのポケモンが強いという印象は感じられない。進化すれば成長は期待されるし強いかもしれないと思う人が増えるが、コダックよりもほかのポケモンを育てたいというトレーナーの方が多いぐらいだ。
黄色いボディにちょっと真面目そうには見えない顔、そしてぼんやりとした性格。とぼけた表情に騙されるトレーナーは数多く存在していることだろう。
そんなコダックを手持ちとして育て上げたカスミさんが恐ろしかった。
『コッパァ?』
『ピィッチュウ』
ピチューがコダックを警戒して睨みあげている。でもコダックはただ首を傾けているだけ。何も知らないトレーナーならただのコダックかと笑うだろうが、それはコダック自身の力を理解していないための事実。
私とピチューはカスミさんのコダックを見てごくりと生唾を飲み込む。サクラさんが両手をあげるのを今か今かと待ちわびた。
「それでは、コダック対ピチューのバトルを始めたいと思います。試合開始!!」
「ピチュー、早く終わらせるよ!10まんボルト!」
『ピィチュ!!』
「サイコキネシス!」
『コパァ』
ピチューの10まんボルトがコダックに向かって一直線に放たれる。
でもカスミさんは何も心配していないという表情でコダックに向かって指示をした。10まんボルトはコダックにとって弱点となるのに、それは大丈夫だと分かっているかのように。だがそれは現実となった。
コダックがサイコキネシスで自身へと向かってきた10まんボルトを操って止めたのだ。10まんボルトとして発せられた電撃の光が空中で止まる。バチバチと鋭い音と細かな光が当たるはずだったコダックの真上で止まり、そのまま空中を回っていた。
雷撃が呆気なく止められたことに、私とピチューは驚愕する。
「嘘っ!?」
『ピッチュウ?!』
「そのままお返ししちゃいなさい!」
『コッパァ』
電撃がサイコキネシスによってピチューへと向かって行く。ピチューが慌てて避けようと逃げているのに電撃はピチューの後を追い掛けるかのように動き回る。サイコキネシスによって意志を持って動くその電撃に、このままでは直撃してダメージを食らうと考えて私は口を開いた。
「くっ…でんげきはで躱して!」
『ピィッチュ!』
ピチューの放ったでんげきはによってコダックが操っていた雷撃に当たり、爆発する。それを見たカスミさんはただ笑って楽しんでいた。私たちはコダックの脅威に少々焦っているというのに、カスミさんはそれらすべてを楽しんでコダックに指示をしていた。そういうバトル好きな部分は兄に似ているなと感じながらも、ピチューに向かって口を開いて叫ぶ。
「ピチュー、一気に接近してからアイアンテール!」
『ピッチュゥ!』
「コダック、ハイドロポンプ!」
『コパァ』
「上にジャンプして回転!」
『ピチュ!』
ハイドロポンプがピチューに向かって迫ってきたが、それを躱すため上に飛び上がる。そのまま回転し、勢いをつけた状態でコダックの頭上にアイアンテールを放った。コダックはアイアンテールによってフラフラとしていたが、それでもダメージは少ないようですぐに顔を左右に揺らして意識をはっきりとさせ、一体何が起きたんだというような表情で周りを見ていた。
もちろんカスミさんはそんなコダックに仕方ないわねと言うかのように笑っていた。アイアンテールのダメージを与えられてもまだ大丈夫だとはっきり理解しているようだと分かった。
『コッパァ!?』
「大丈夫よコダック!なみのり!」
「こっちもなみのり!」
『ピチュゥ!』
コダックのなみのりとピチューのなみのりが激突する。プールの水が波によって極限にまで減っていき、そしてピチュー達が発生させた大波によってぶつかりあいプールからあふれ出ていく。頭上からシャワーとなって降り注いだプールの水が冷たく感じる。でも水浸しになってしまったという思いはなかった。ただ前を向いて叫ぶだけ。
「ピチュー、もう一度でんげきは!」
『ピッチュゥ!』
「コダック、サイコキネシスでお返しよ!」
『コパァ』
「でんこうせっかでコダックの後ろに回り込んで!」
『ピチュ!』
コダックが電撃に当たらないようにサイコキネシスを使うのは分かっていた。サイコキネシスでピチューに向かって電撃を操ると言うのならコダックにそれが当たるように後ろに向かえばいいのではないかと思ったのだ。サイコキネシスで電撃を操る方法はかなり難しいのではないか、ピチューの後を追っている電撃に当たらないようにしなくても隙が生まれるのではないかと考えた発想だった。
ピチューがすぐさまコダックの後ろに回り込んで操られている電撃を待つ。コダックはこの後どうしたらいいのかカスミさんを見ていた。カスミさんはただ、小さく微笑んでいた。
「甘いわねヒナちゃん!コダック、爆散させてしまいなさい!」
『コパァ』
「ええぇうっそぉ!?ピチュー逃げて!!!」
『ピッチュゥゥ!?』
コダックが操っていた電撃を広範囲に広げて爆発を起こさせていた。バチバチと光るプール内に爆発と黒煙が舞いあがる。私はとっさに手で顔を隠して爆発から身を守った。でも近くで起きたコダックにとってそれは自爆にも等しい行為なのではないかと思ったのだけれど、あのカスミさんがやることだから絶対に意味があると思ってピチューに逃げるよう指示をした。ピチューはスピードが速くすぐに逃げることに成功したが、それでもダメージを負ったようでちょっとだけふらついていた。
「大丈夫ピチュー!?」
『ピ、ピッチュ!』
『コパァ』
ピチューが力強く鳴き声を上げてコダックを見た。そして私もコダックとカスミさんを見た。爆発によってプールにわずかに残された水分が吹っ飛び、黒焦げを残しているほどの威力があったのだと分かるぐらい酷い有様になっていたのに、コダックの周りは爆発が起きずダメージも通っていないのだと理解できる光景―――真っ白な円が刻まれていた。
サイコキネシスを鍛え上げたらここまで強くなるのかと思えるほどの威力だ。
「さてヒナちゃん。ここからどうやって勝ってみせるのかしら?」
「とにかくやって見せますよ!!…ピチュー、痛い思いをすると思うけどそれでも頑張れる?」
『ピッチュ』
サイコキネシスによる防御と攻撃の鋭さは理解できた。電気技で攻撃しようとすれば跳ね返されることも理解した。だからこそこれからやることはピチューにとって少々ダメージを食らうやり方になる。でもそれしか方法がないと分かったから私は覚悟を決めた。ピチューも私の言葉を聞いて覚悟ができたと頷いた。
「ピチューもう一度でんげきは!」
『ピィッチュゥ!』
「何回やっても同じよ!コダック、サイコキネシス!」
『コッパァ』
でんげきはがコダックのサイコキネシスによって操られピチューに向かうのが分かった。サイコキネシスを使う間は他の技が使えないと言うことが分かっているから、コダックよりもスピードが速いピチューに向かって指示を飛ばす。
「今よ!コダックに向かってしがみつく!」
『ピチュ!』
「なっ?!」
『コパァ!?』
「そのまま10まんボルト!」
『ピィッチュ!』
『コパァァアア!!!』
「コダック!!?」
コダックの腹にしがみついたピチューは10まんボルトを放つ。直接電撃技を食らったコダックはダメージのせいかサイコキネシスで操っていた電撃を避けるようにすることができず、ピチューとコダックの腹に直撃する。ピチューは己の電撃を食らってしまったが、それでもまだ平気なようで電撃を放つのを止めない。コダックは痛みからか涙を流していた。
「コダック!そのままピチューをひっかいて叩きつけなさい!」
『コパァ!』
「ピチュー、耐えて!そのまま10まんボルトよ!」
『ピィッチュゥ!』
コダックは腹にしがみついているピチューに向かって鋭い爪でひっかく。そして痛みからか離れてしまったピチューを水がなくなったプールの床へ叩きつけた。それでも電撃は止まず、コダックにダメージを与えることに専念するピチューに頑張ってと私は叫んだ。
電撃とひっかくたたきつけるによる攻撃はやがて爆発を引き起こして攻撃が止んだ。
立ち上った煙が消えていき、見えてきたのはピチューとコダックが倒れている姿。
「両者引き分け!」
サクラさんの手が上がったのを見て、私は息をゆっくりと吐いた。
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コダックの弱点が電気技でなければ倒れることはなかっただろう。ピチューが頑張って電撃を放ち続けてダメージを蓄積していなければ私たちが負けていたことだろう。ピチューが勝ちたいと気力を出し続け、コダックに向かって電撃技を放った。そのおかげで引き分けにできた。でも、一歩間違えていれば私たちはすぐ負けていただろう。
電気技を受けてもずっと倒れず怯まず攻撃をしたコダックの姿勢に感嘆するが、引き分けとなったからにはまたジム戦で相手するかもしれないと思った。
ピチューを抱き上げてお疲れさまと言い、ボールに入ってもらった。カスミさんやサクラさんに礼をして、ジムから出ようとする。
「ちょっと待ちなさいヒナちゃん!どこいくの?」
「えっと…引き分けになったのでもう一度挑戦するためにちょっと修行しようかなと…」
「そんなのはいらないわ。まあ、もう一度戦ってみたいって言う気持ちはあるけどね。はいこれ!」
「え!?これって……」
「ブルーバッチよ!ヒナちゃんの持ってる古いバッチと交換しましょう!」
カスミさんが私に渡してくるブルーバッチに、何でという疑問が沸き起こった。ジム戦をして勝つこともできず引き分けになったと言うのに、何故バッチを渡してくるのだろうかと。
でもカスミさんはサクラさんと顔を見合わせてから苦笑して口を開いて言ってくる。
「ヒナちゃん、4年前のあの時カスミはあなたに負けたのよ?」
「サクラ姉さんの言うとおりよ。あの時からブルーバッチを持つ資格はもうヒナちゃんにあったの。今回バトルしたのは私の我儘ってところね」
「カスミってばジムリーダーなのに本気で戦うんですもの」
「サクラ姉さんそれ言わないでよ!」
「えっと…」
手に持たせてきた新品のブルーバッチに困惑している私はカスミさんとサクラさんを見る。カスミさんとサクラさんは仲良く口喧嘩のようなことをしていたが、私の視線に気づき喧嘩を止めて言う。
「これはもうヒナちゃんのものよ。古い方のブルーバッチは…そうね、4年前の記念として私がもらっておくわ」
「ほらヒナちゃん。カスミがそう言ってるんだから受け取りなさい。その資格はあなたにはあるわぁ」
「あっ…りがとうございます!」
じわじわとバッチを持たせてくれた意味を理解した。ハナダジムに認められてバッチを渡してくれたんだと分かった。私は次第に笑みを浮かべてバッチをぎゅっと握る。
ありがとうと叫んだら、カスミさんとサクラさんは笑ってくれたのだった。
ハナダシティにはポケモンセンターがある。
そのポケモンセンターにヒナはいた。ジムバッチを貰った彼女はポケモンの体力を回復するためにこちらにやって来たのだ。
ポケモンセンターにいるのは彼女だけじゃない。他にもいろんなトレーナー達がジムに挑もうとやってきたり、バトルフィールドにてバトルしていたり宿泊したりと様々だ。
「ヒナさーん!ポケモンが元気になりましたよ!」
「はい!ありがとうございます!」
ジョーイの言葉にヒナはポケモンを受け取って礼を言った。そしてあいているバトルフィールドを見て考える。
誰もいないけれど中央で使われているバトルフィールドのように人気が全くなく、こっそりとバトルできそうな雰囲気が漂っているのが分かる。
何かをやっていても、どんなポケモンを出しても誰も気づかなさそうだ。
「あの…ジョーイさん、あっちのバトルフィールドって借りられますか?」
「ええ大丈夫よ!」
ジョーイの言葉によってヒナはその誰もいないバトルフィールドへ歩いて向かう。そしてボールから出した3体のポケモンに向かって口を開いて言ったのだった。
「ナゾノクサの特訓でもしよっか!」
『グォォ』
『ピッチュ!』
『ナゾ!』