復讐をしたいと望む少女…いや、クリスはただシルバーだけを睨みつけていた。
憤怒と言えるようなオーラを放つ少女は、シルバーの前に立つ私やヒビキが邪魔だとこちらにも鋭い視線を向ける。それを見てヒビキが一瞬肩を揺らしていたけれど、すぐに取り繕い話しかける。
「クリス…だっけ?お前何でシルバーの事怒ってんだよ」
「うんうん。いきなり許さないって言われても私たちにはよく分からないし、それにシルバーもなんかどうでもいいって感じだし」
「……そうか。シルバー、貴様は関心がなかったということか。私のプライドを粉々にへし折った貴様にとって覚えなくてもいい程度のことだとそう言いたいのかッ!!」
クリスの燃えている復讐心に油を注いだような気がするけど、シルバーは本当にどうでもいいようで私たちの後ろで新たに買ったオレンパイを食べている。
なんか無関心気味なシルバーを守るかのようにして立っているのに、その関心のなさに苛立ってきた。ヒビキもクリスの苛立ちがよく分からないが、シルバーの表情を見てあいつ一回だけ殴られてもいいんじゃねえのと独り言を呟いている。私もちょっとはわかるような気がする。
でもクリスはそんなことを知らない。気持ちが高ぶっているのか、こちらに向かって指差してから叫ぶ。
「いいだろう!教えてやろう。その男が私に何をやったのかをっ!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――――それは、ジョウト地方のワカバタウンで起きたこと。
ワカバタウンに生まれたクリスはウツギ博士の娘であった。いずれは父の手伝いができる優秀なトレーナーになろうと決心したクリスは学校に行き勉強していた。ポケモンのことをよく学んで答えをすべて言い当てていった。でもそれはウツギ博士が父親だから小さい頃にいろんな勉強をしたのだろうと皆に誤解されてしまった。お前なら当たり前の事だろうと言われてしまった。できないことがあれば「ウツギ博士の娘なのに」という理由で馬鹿にされた。だからクリスは必死に勉強した。ウツギ博士の娘としてではなく、ただのトレーナーの卵として生きるため、勉強していった。
七光りだと思われたくない。私は皆と同じトレーナーの卵なんだ!
クリスはこのままではいけないと分かっていた。博士の娘として生きることになれば皆自分自身を見てくれないと分かっていた。ただの【クリス】として見てもらう、そのためには実績が必要になる。博士の娘ならば難しい質問にも答えられるだろうと言われていろんなポケモンのタイプの弱点を答えさせられたことがある。きのみはどのフーズに一番効果的なのか宿題を出された時もノート一冊を使って書いて提出したことがある。人よりも数倍努力した。トレーナーとして学ぶべき答えをたくさん出していった。
成績を上げて【ウツギ博士の娘だから】優秀なのだという言葉を撤回させようとした。
――――そんな時に、ある課題が出されたことがある。
「…課題?」
「そうだ!ポケモンを一匹預かり、育成させるという学校の卒業に必要な課題だ!」
「ああー思い出した!確かあの時俺メリープ育てたんだっけな!」
「あ、もしかしてヒビキが育てたメリープってあのもふもふメリープ?」
「そうそう!課題って言ってもある程度の強さがあれば十分卒業できるんだけどな。そんで、シルバーは確かキャタピーだったっけ?」
「…ああ、だがキャタピーは早々に成長するポケモンだからな。育成に時間はかからない」
「そうだ。貴様はキャタピーをすぐバタフリーへと進化させ課題を終わらせた!その後の悪夢を私は忘れたことはない!!!」
クリスは課題にてホーホーを渡された。ホーホーは昼はよく眠り、夜に活動する夜行性なポケモン。夜行性にはどう育成すればいいのか図書館で本を借りてじっくりと育てようとした。まだ時間はあると考えてホーホーをポケモン広場に預けておいた。そして本を何冊も読みこれからやるぞという時にそれは起きた――――。
「――――貴様は、バタフリーだけじゃなく私のホーホーを育ててしまったんだ!ホーホーはヨルノズクに進化し、私の評価になってしまった。わたしは…私は自分自身の力で評価を勝ち取りたかったんだ!だが貴様は暇つぶしという理由でホーホーを育てたッ!挙句の果てには貴様が育てたと豪語せず私が育てたということになっていたんだ!!なぜっ…何故あの時事実を言わなかった?!私は何度も育ててないと言ったのに…シルバー貴様がそれを否定した!!!私が謙遜しているだけだと皆に言われた!!私はその事実が許せないッ!!」
「…あー」
『…ピチュ』
「それはシルバーが悪いな」
「というか、何でホーホーを育てたの?」
「ヨルノズクの進化を目の前で見たかっただけだ」
「じゃあ何で否定したんだ?」
「面倒だろうが」
「なっ?!面倒だとっ?!!貴様ァァァッ!!!!!!」
まさしく電光石火の勢い。トレーナーフィールドからぶっ飛んできたクリスが私たちを巻き込んでシルバーに掴みかかる勢いで殴りかかった。
私の肩に乗っていたピチューがクリスにぶつかりもみくちゃにされる。電撃を放ったりするけれど、クリスは止まらない。それどころか私たちが被害を受けダメージが重なる。シルバーが何気なく私たちを壁にしていて、やっぱり殴られるべきだと思ってしまった。でも勢いは止まらない。
「ちょっ痛っ!お、落ち着いてクリスさん!!」
『ピチュゥゥウ!!』
「ブッフォいってぇぇ!!おい落ち着けって!!」
【あーあーそこの選手たち。猛烈なショーは後でにしてさっさとバトルを始めてくれるかい?そこにいるボーイたち含めて棄権扱いになっちゃうよ】
「猛烈なショーじゃないから!!」
「おいクリスとやら。お前が暴れていると試合ができなくなる。やるのならバトルでだ」
「その言葉待っていたぞ!!貴様をバトルで叩きのめす!!その前にお前を倒す!!」
「ヒッ!」
『チュゥッ』
鋭い眼光がこちらに向く。ピチューがこわいかおされた時のように縮み上がり私の頭に抱きつく。私はピチューの身体を撫でながらもバクバクいう心臓を落ち着かせ、バトルフィールドにゆっくりと向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私たちの行動はどうやら一種のパフォーマンスのような扱いで見られていたらしい。野次馬のような人たちが見ていたり煽ったりしていたのに気づかなかったけど、いつの間にか結構見る人が増えたなと思った。バトル大会以外にも向こう側ではコンテストバトルを繰り広げていたり、パフォーマンス大会をしていたりといろいろやっているから観客は少ないと思っていたのに…。
「まあ、仕方ないか…」
『ピチュゥ?』
【さぁちょっとしたトラブルという名の騒動もあったようだけど無事にAブロック決勝戦始まるよォォオ!!】
「シルバーに勝つ!あいつのプライドへし折る!!やるぞ、チコリータ!!」
『チッコォォ!』
「とりあえず勝ちに行こう。ピチューやるよ」
『ピチュゥ』
クリスが出したチコリータは可愛い外見とは裏腹にかなり興奮している様子だと見てとれた。ピチューは一瞬でチコリータがクリスのために勝ちにいこうとしているからやる気があるのだと分かって私を見た。でも私はため息をついてどうしようか考えてとりあえずピチューを出す。
この試合で勝っても負けても面倒な反応が来るのは分かっているからだ。
勝てばクリスがこちらに向かって来るかもしれないと予想するが、負ければシルバーやヒビキがキレてくる可能性もある。ヒビキはさきほどクリスが向かってきたときに勢いで殴られたことに苛立っているようだと分かったからだ。シルバーの頭を叩いてから応援するために叫ぶ彼らを見てため息をついた。シルバーは殴られた頭を手でおさえ、ヒビキに突っ掛かっている。…まあ、何とかなるか。
【それではぁぁAブロック決勝戦チコリータ対ピチューの試合を始めさせていただくぅ!!試合開始!!】
「チコリータたいあたり!」
『チコ!』
「でんこうせっかよ!」
『ピッチュ!』
チコリータが勢いよくピチューに向かってたいあたりを仕掛けてくる。でもピチューはすぐに私の指示を聞いてでんこうせっかでチコリータの後ろにいき激突した。ピチューに物凄い衝撃でぶつかったチコリータは地面にバウンドして倒れるが、やる気があるのか根性が凄いのか立ち上がる。だがクリスの表情はすぐれない。
「クッ…まだレベルが足りないか。育成途中なのが壁となったか…いやそれでもやれ!どくのこなだ!」
『チィッコ!』
「ピチュー、でんじはでどくのこなを飛ばして!」
『ピッチュ!』
「こうごうせいにはっぱカッター!」
『チコリ!』
ピチューがどくのこなをでんじはで吹っ飛ばしている間にチコリータはこうごうせいで体力を回復させた。でもここは太陽の届かない地下通路。そのせいか体力は少ししか回復していないように見え、そのふらつく身体を頑張って動かしはっぱカッターでピチューに向かって行動した。
全力で向かってくる相手には全力で返せ。それがトレーナーとして私のできる礼儀だろう。
「ピチュー、ボルテッカー」
『ピィッチュゥウ!』
『チッコォォオッ!!?』
「チコリータ?!くっ…私の負け…か」
【チコリータ戦闘不能ゥゥ!勝者はヒナ選手だぁぁ!!】
試合が終わった後、ピチューに礼を言ってからボールに戻す。
クリスの方を見ると、彼女もチコリータによく頑張ったなと労りの言葉をかけてからボールに戻していた。そしてこちらを鋭く睨み近づいてくる。
「お前…確かヒナといったな」
「ヒッ…はい」
クリスはこちらに手を伸ばして握手を求めた。鋭い眼光はそのままに、でも怒りや苛立ちは込められていない瞳で私を見る。
「私のチコリータはここまで頑張ってきたパートナーだ。でもお前のピチューは私のチコリータよりも圧倒的にレベルが上だった。優勝できるような強さにはまだ達してはいなかったと分かった。…ヒナ、それでもお前は私に全力で勝負をしてくれた。ありがとう」
「え、いや…トレーナーとして当然のことをやったまでだよ」
「当然のことができないあのむかつくクソ野郎よりはましだ。ヒナ、私と友達になってくれ」
「えっと…」
「いや、むしろ私と友達になれッ!」
「アッハイ」
拒否権ない感じですか。
微妙な心境で返事をしつつも、私たちは握手をしてAブロックの決勝を終了させたのだった。