これで最後の戦いとなる。
【この一戦で優勝者が決まる!!決勝戦だぁぁあ!!!!】
大きな歓声が湧き立つ。人々の興奮が高まっていく。その中心にヒナはいた。
決勝戦だからか、観客たちは数多く集まる。トレーナー達が連れているポケモンたちもこちらを興味津々で見つめている。そして、天井からぶら下がっている設置されたライトによって派手にヒナ達を照らしていく。いろんな色で照らされた決勝戦のバトルフィールドに、観客たちは集まっていた。
「おい押すなよ!」
「煩い。ヒナを応援できないだろうが!チコリータ、チョコポフレ食べる?」
『チコ!』
「ったく…」
「決勝戦はおそらくリザードンで勝負を決めるだろうな…リザードンは先ほどのバトルで疲労が溜まっているかもしれないが、それでもレベルは強い。一般的なトレーナーならば勝てるはずだ」
「でもよ、さっきCブロックに強敵いたって言わなかったか?観客が凄くて見れなかったけどよぉ」
「それが不確定要素ともいえるな。まあなんにせよ、これで優勝は決する…あと、今までと同じシングルバトルになるかどうか分からないがな」
「シングルじゃなかったら…ダブルバトルか?」
「ポケモンバトル大会の詳細を知らないのか。決勝戦はどのバトルになってもおかしくないと言っていたぞ。シングルでもダブルでもトリプルでも…もしかしたら6対6もありえたかもしれん」
「いやいや無理だろ。ヒナってそんなに手持ち居たっけ?」
「いないな。だからやるとしたらシングルかダブルか…もしくはトリプルだろう」
「まあそうなるよなぁ」
「ヒナ頑張れ!!」
『チコリ!!』
「お前等は相変わらずだな」
「喧しい!ほらちゃんと応援しろ!!!」
『チッコォ!』
ヒビキ達も集まって観客たちと同じように決勝戦を見ている。いまだ始まらない決勝戦だが、これからどうなるのか楽しみだと言うかのように話し合っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【それではぁぁあ決勝戦の対戦相手の登場だぁぁあ!!!】
「……………」
「…うわぁ」
―――――なんか怪しい人がいる。
バトルフィールドに上がったヒナは相手トレーナーを見て一瞬動きを止めてまじまじとその姿を見つめてしまった。目深に被った黒いマント。そしてサングラスに偽物のような白髭。マントは身体全体を覆い隠し、体格がはっきりと分からないようになっていた。分かるのはマントからはみ出しているちょっとだけ長い黒髪だろう。白髭とは見事にあっておらず、それが余計に怪しさを引き出していた。
視認による波動はヒナは特定の人を探し当てることにしか教わっていないため、ルカリオやアーロンのようにはできず、彼がどんな姿をしているのかさえ分からない。でもはっきりと怪しい人物だとは分かってしまった。
【最終戦はダブルバトル!!それですべての勝利が決まるよぉぉお!さあ両者ともにポケモンを出してくれ!】
「ダブルバトルね…よし、リザードンにピチューお願い!」
『グォォオオ!』
『ピィッチュゥ!』
「……フシギダネ、ゼニガメ頼んだ」
『フッシィ!』
『ゼニゼェニ!!』
ポケモンを出した瞬間――――ヒナはその違和感に気づいた。
声だけを聴くとヒナよりも年上のような青年の声。でも少々声を誤魔化しているのかわざと低く声を出しているような感覚。そんな、違和感が彼にはあった。
「あの…どこかでお会いしましたか?」
「うぉっほんゴホン…君のようなトレーナーには会ったことありませんなぁ!」
「はぁ…」
わざとらしい、けれど何処か知っているような感じ。波動がぶれてよく見えない。マントで顔を隠して声まで変に誤魔化している。怪しさ満点なトレーナーなのに、居心地の悪さは感じない。でも、やっぱり変な感じがある。
違和感だらけのトレーナーだと、ヒナは思った。
『グォォオ…』
『ダネダネ』
『ピッチュゥ?』
『ゼニィ!』
『ピチュ…ピチュゥ!?』
『ダネフシ!!』
『グォォォゥ…』
ヒナ達とは違って、ポケモンたちは決勝戦で対戦相手だと言うのに何故か緊張感なく仲良く話をしているようだった。だが何故ゼニガメはフシギダネに蔓で叩かれているのだろうか。そしてリザードンは何故頭を抱えてため息をついているのだろうか。ピチューだけはやる気十分という感じみたいだ。でも、フシギダネやゼニガメもどこかで見たことがある気がする…というより、なんだか誰かさんのフシギダネとゼニガメに見えるんだけどマントの人は違うかな?いやもしかして?やっぱりよく分からない。ヒナは首を傾けた。
―――――マントを着た対戦相手が小さく微笑んだような気がした。
【それではぁぁリザードンとピチュー対フシギダネとゼニガメのダブルバトルを始めさせていただくぅぅ!!!試合開始!!!】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「まずは先手必勝よ!リザードンかえんほうしゃ!ピチューは10まんボルト!!」
『グォォオ!!』
『ピチュゥ!!』
「ゼニガメ、てっぺき。フシギダネ、ゼニガメの前に出てまもる」
『ゼニ!』
『ダネフシ』
リザードンの大きな炎とピチューの電撃をフシギダネのまもるによって躱される。観戦者は「あのフシギダネまもる覚えているんだ」や「レベルが同じくらいってことか?いやそれよりも強いなあいつら」という声が溢れる。
ゼニガメがてっぺきをしているため、すぐにヒナは攻撃を切り替える。
「リザードン、きりさく!ピチューはてんしのキッス!」
『グォォォオ!』
『ピチュゥ!』
リザードンとピチューがまもるを解除したフシギダネとゼニガメに近づいてくる。このままだと攻撃を受けてしまうかもしれないというのに、彼らは余裕でマントのトレーナーを見た。
「ゼニガメ、フシギダネ。いばる」
『ゼーニィ!!』
『フッシィ!』
『グォォオッ?!』
『ピィッチュゥ?!』
「嘘ぉ?!リザードン!ピチュー!」
ゼニガメとフシギダネが接近した瞬間に同時にいばるを発動させた。いばるの攻撃によって混乱したリザードンとピチューはお互いポケモンではなく地面などを攻撃してしまっている。それに気づいたヒナが彼らの目を覚まそうとするが、混乱は続く。
「フシギダネ、せいちょう」
『ダネダネ!』
『ゼニ!』
「ヒナは負けるかもしれない」
「ど、どういう意味だよ?!」
「おいシルバー!貴様ヒナを愚弄する気か!!こんな時に…っ」
『チッコォ!』
「いや、ヒナもよくやってはいるが、マントの男の方が凄まじい。ちゃんとポケモンの技について熟知して攻撃している。攻撃だけじゃないな…ダブルバトルのメリットを最大限活かして行っているんだ」
「何だよそれ?」
「ゼニガメが防御力を上げている間にフシギダネが攻撃を防ぎ、今は混乱に乗じてフシギダネがこうげきととくこうを上げている。両方とも通常よりも強い力を出せる状態だ。しかも混乱しているリザードン達は分が悪い」
「つまり、対戦相手の戦略が上手だということか?」
『チィコ?』
「ヒナ…!」
フシギダネがせいちょうを発動し、ゼニガメがマントの男が何も言っていないにもかかわらずてっぺきを行う。それらを見てシルバーは息をのむ。ヒビキの背に冷や汗が流れる。ボンボンを持ったクリスがチコリータと共に頑張れと応援する。
「リザードン目を覚まして!!ピチュー頑張って!!」
『グォォ…ォォ!!』
『ピィッチュゥ…!』
「おっといけない。フシギダネ、ねむりごな」
『ダネ』
「リザードン!!!ピチュー…!!」
「フシギダネ、発動準備」
『フッシィ』
フシギダネがリザードンとピチューに向かってねむりごなを派手に落としたせいで、彼らは眠ってしまった。ちゃんとヒナの声を聴いて混乱から覚めようとしたと言うのにすぐに眠ってしまい、ちゃんとした攻撃ができなくなってしまう。その事実にヒナは焦っていた。このままではいけないと。
―――――だが、現実というのは無慈悲なもの。
「起きて皆!!!リザードン!!ピチュー!!」
「フシギダネ、ソーラービーム。ゼニガメ、ハイドロポンプ」
『ダネダネダネ…フッシィィィ!!!!』
『ゼェニュゥウウ!!!!』
フシギダネの黄緑色の閃光とゼニガメの水の放射がリザードンとピチューめがけて放たれる。リザードンとピチューはヒナの声も届かず、眠ったまま攻撃を受けた事により、受け身もとれずに倒れていった。
何が起きたのかヒナにはよく分からなかった。周りの観客も、進化していないポケモンだと言うのに何故あそこまで戦えるのか分かってはいない。
審判がゆっくりと手を上げてマントの男の勝利を示した。優勝したと言うのに、観客たちは静かなまま。司会進行役も異様な戦い方に何も言えないまま―――ただ、彼だけが動いていた。
マントの男がゼニガメとフシギダネに礼を言ってボールに戻す。そしてリザードンとピチューに駆け寄って彼らを強く抱きしめるヒナに近づいた。
「いつまでもレベル差でごり押しできると思うな。バトルはそんなに甘くない」
その声は、ヒナにしか届かないぐらいの音量だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ヒナ、元気出せ!あれは仕方ない!!」
「あんなにも強い戦い方がある。状況によっては何もできずに戦える」
「シルバーお前ヒナに対して何かいうことはないのかよ…」
「ああ、お疲れ」
「それだけか!!?」
「いいのいいの…私は大丈夫だから」
ヒナは苦笑しながらクリスたちに向かって言った。そして準優勝者の商品であるゴージャスボールを手に取ってぎゅっと握りしめた。中には何も入ってはいないが、ヒナはボールを握りしめて決勝での戦いを思い出していた。
何もできなかったわけじゃなかった。
あの時、最初の攻撃の時点で彼らは手加減をしていたのだ。本気になれば攻撃をする余裕なんてない。そんな気迫をヒナは感じていた。
「まだまだ遠いなぁ…」
懐の中にあるモンスターボールがヒナの声を聴いてゆらゆらと揺れる。ボールは2つ、悔しいと言いたいような感じで揺れていた。ヒナはため息をついてクリスたちと共に歩き出していた。これからどうすればいいのか考えながら。
クチバシティへと向かって歩き出していた。
――――――青年は、地下通路から外に出ていた。
誰もいないことを確認してからマントを脱ぐ。そしてサングラスと白髭を取り、ゆっくりと息を吐いた。
「フゥ…熱くなかったかお前達」
『ピィカ!』
『だいじょぉぶ!』
青年―――――サトシは、笑みを浮かべて肩にのっているピカチュウとリオルを撫でた。撫でられたピカチュウは目を細めて嬉しそうに鳴き、リオルは短い尻尾を揺らしてもっとやってくれと手をすり寄せた。
「本気になっても、まだまだひよっこだな」
『ピカピ…』
『ひよっこ?あちゃものこと?』
「いや違うぜ」
『うーん?』
リオルが首を傾けて考えている間に、サトシは笑った。
ヒナはサトシと本気でバトルすることはない。一度だけマサラタウンにいた頃にやろうといってやったことがあるが、あの時はヒナは勝てると言う意気込みでやってはいなかった。
―――――本気で俺に勝てるとは思っていなかった。
負けるだろうと言う無意識の感情のせいで本気になれないヒナに、サトシは決勝で戦った。
リオルのおかげで波動の力を身につけたヒナを惑わすことに成功したため、ヒナはマントの人としてしか認識しない。そのため、バトルについてもヒナはちゃんと本気で行えた。
――――だが、まだまだ力は足りていない。
「あいつの戦い方は、リザードンとピチューの力技しかねえからな…」
『ピィカ』
リザードンとピチューは、幼いころにヒナと共に強くなろうとそれぞれが修行をして力をつけていった。そのせいである程度ごり押ししてもやっていけるとヒナは考えていたのかもしれない。これぞと言う時にナゾノクサを出さなかったのも、そのせいかもしれない。
…いや、ナゾノクサはまだ育成しきっていないみたいだったから問題はないか。
『そうだ!ますたー、りざーどんとぴちゅーきづいてたよ?』
『ピィカッチュ』
「ははっやっぱりか!」
サトシは笑ってバトル開始前のフシギダネとゼニガメの漫才のような話し合いを思い出していた。無理して別ポケのように見せかけていたが、リオルの波動はまだ彼らまでは届かない。だからこそ、ポケモンの言葉が通じるリザードンとピチューには気づかれていた。
でもまあそれで構わないとサトシは思っていた。
リザードンとピチューの強さにもつながるかもしれないが、現在求めているのはヒナの成長なのだから。
「楽しみだな…」
ヒナがこれからの旅でどうなるのか、サトシは笑って歩いていた。
――――――ホウエン地方に向かって、歩き出していた。