この日、イーブイは本当に不幸だった。そして機嫌がとても悪かった。
まず、親であるマサキが寝坊したため慌てて食事する羽目になり、満足に食べることができなかった。船でたくさん食べようと思っていたイーブイはマサキに早くしろと急かした。だが、クチバシティに着いた瞬間、船に乗るためのチケットを忘れ、わざわざ戻らなければならない事態が発生。機嫌が急降下していった。
戻ることでまた時間がかかってしまった。しかも地下通路がお祭り騒ぎなため行くこともままならず、地上からハナダシティへ戻らなければいけない。それにも時間がかかる。クチバに戻ってきた時、もうお昼になる頃だった。でもようやくこれでご飯が食べられる。イーブイはそう信じていた。そうしたら、今度はバックをひったくられていた。イーブイのモンスターボールが入った、バックを全部。
「ハハハハッ!全部いただいていくぜぇ!!」
「悪党ぅぅう!!!!」
『…ブイ』
この日、イーブイは最悪な出来事が続いていた。だから不機嫌かつ怒りが頂点に達していたのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
森の中で聞こえてきた叫び声、その先にいた光景を見てすぐ追いかけはじめた。
走る走る――――木の枝を避け、動く足から逃げるポケモンたちを避け、逃げていく悪党を追い続ける。
黒服の男を見つけた瞬間、奴がロケット団だと分かったから私たちは走り続けているのだ。
ヒビキが走ることで乱れる息を懸命に整えながらも、悪態をついて叫んだ。
「もぉぉぉお我慢ならん!マグマラシ、ひのこ!!!」
『マァグ!』
「ぐっペルシアン防げ!」
『にゃぁん!』
ペルシアンが鋭い爪で炎を消し去り、そのまま奴らは逃げていく。
それを見て、このままだと逃げられてしまうと私は思った。だから奴らを止めるために懐からボールを取り出す。
ボールは熱く、ぐらぐらと揺れていた。
「ヒビキ、クリス!このまま追い続けて!私は上空から回り込んで捕まえるよ!!」
「おうわかった!気をつけろよ!!」
「囮は任せろ!」
私は逃げ続ける男と追いかけるヒビキたちから大きく横に逸れ、男に見られないよう走ったままボールを投げる。
「リザードンお願い!」
『グォオオオ!!』
リザードンに飛び乗り、翼を広げて大空へはばたく。そして黒服の男の目の前に炎を吐いて足止めし、着地した。男は逃げられないと思ったのか、バックを遠くの方へ投げて逃げようとする。
「男は任せろ!!ヒナ、お前は荷物をたのむ!!」
「わかった!リザードンお願い!」
『グォオ!!』
高く空へ飛んで行ったバックが地面に衝撃を受ける前に、リザードンの背中に乗ったまま荷物を掴むことに成功する。だが、荷物のチャックが開いていたのか一つのボールが放りだされた。ボールには何かポケモンが入っていると感じた。だから地面に落ちる前に掴まなければいけない。空を飛んでいるため後ろの方へ落ちていくボールに向かって私は叫んだ。
「リザードン!」
『グォオ!』
リザードンが空中で回転し、猛スピードでボールの方へ向かう。背中にしがみついたままボールを求めて手を伸ばし、掴んだ。
「あっぶないッ!!!」
『グォォ』
片手でキャッチしたボールを見てため息をついた私は、いつの間にか押してしまったようだった。そのボールの開口ボタンを…
リザードンの背中の上で小さな光が湧き上がる。そして私の膝の上に現れたのは小さな茶色のポケモン。
「え、イー…ブイ?」
『ブィイ……ブィィィイ!!!!』
目を鋭く尖らせたイーブイは、私を見た瞬間苛立ったように青筋らしきものを浮かべて―――――噛みついた。
「いったぁああああっ!!!!」
『グォォ?!!』
ポケモンが噛みついたのは初めてだった。頭の方をガジガジと噛まれ、血が滲んでいるように感じる。というか痛い!リザードンが異変に気付いたのかすぐに地面に着地したけれどイーブイは噛みつくのをやめない。むしろ痛みでリザードンの背中から転がり落ちても噛むのをやめない。
「やめてやめて痛い痛い!!」
『グォォ!!』
『ブィィイイ!!』
「おーい悪党捕まえたぞぉぉぉお?!!何やってんだよヒナ!というかなんでイーブイがいるんだよ?!」
「ほう、珍しいな…イーブイがここにいるとは…野生か?」
「クリスお前は冷静に言ってんじゃねえよ!」
「ねえお願い言い合いしてないで助けてってばぁあ!!!」
『ブィィイイ!!!!』
『グォォオ!!!』
リザードンがイーブイを私から離そうとして掴んで引っ張るのだけれど力強く噛みついているせいか離れない。むしろ血が派手に出てきそうで痛い。事の重大さに気づいたのかヒビキとクリスもやってきてイーブイを離そうとしてくれている。
『ブィイィ!』
「こりゃあ相当キレてる…というか珍しいな。ヒナがポケモンに懐かれていないだなんてさ」
「感心してる場合?!」
「む…これはダメージを入れるしかないか…チコリータ!」
『チッコ!』
「待ってやめて私の方が重傷になるから!」
『グォォ!』
『ブィィィイイ!!!!!』
―――――結局、その後バックを取られてしまった被害者が来るまで噛むのをやめなかった。
「シルバーでもいいからこの状況どうにかしてよぉおおお!!!」
『ブイブィィィイィィ!!!!』