怖いのは誰?
ホール内にて響く声は熱気に包まれていた。ある者は息を呑みこみながら。ある者は感心しつつ戦術を考えながら。
そしてまたあるポケモンは彼女たちのバトルを見つつ、食事を楽しみながら――――。
「さすがやなぁ…あの子、あのサトシの妹なんやて」
『……ブイ』
「かわええし、ポケモンも育ってる…イーブイ。後で謝らな」
『…ブイィ』
―――――このバトルはまだ始まったばかりだ。
「ピジョン!つばめがえし!」
『ピジョォォォ!!』
「ピチュー!アイアンテールで受け止めてあげて!」
『ピッチュゥ!』
ピジョンの閃光がかった翼を受け止めたピチューが後ろに押し戻されつつ、電撃をバチバチと光らせて威嚇行動をとる。その電気に当たっていても、ピジョンは引くようなことはしない。鋭い眼差しに浮かぶのは勝利への貪欲な希望だ。このまま勝ちたいという、強さへの欲望だ。
それをヒビキは分かっていた。そしてもちろんヒナやピチューも負けるつもりはなかった。
「地面巻き込みながら10まんボルト!」
『ピチュ!』
「全部吹っ飛ばしつつ、たつまき!」
『ピッジョォォオ!!』
雷光と疾風が巻き起こり、爆発する。それでも二人は互いを見つめ合っていた。バトルに集中しながらも、笑いかけていた。これはただのバトルじゃない、パフォーマンスバトルなのだということもちゃんと理解できていた。
だから、すべてをぶつけつつ、審査員に良い評価が出るようにけしかけていく。
そんな中で、黒い煙幕の間から鋭い風がピチューの間を突き抜ける。それに容赦なく当たりそうになったピチューが避けつつも、ピジョンがいる方向を見つめた。
「ピチュー!ボルテッカー!!」
『ピッチュゥゥ!!』
「つばさでうつ!」
『ピッジョ!!』
「おお…これはすごいですね!」
「いやー好きですねー」
「こんなバトルを見られるだなんて…イッツグレイト!!」
光の刃と風の刃が再びぶつかり合う。その光景はまさしく幻想そのもの。誰もが息を呑む綺麗な光景であった。
「…ほう、あのピジョン…特性はするどいめか…?」
「あぁ?どう見ても普通のピジョンだろう!」
「ふん。貴様に言っても何も分かるまい」
「分かるに決まっているだろう叩き潰すぞ!!」
「やってみろ。…チルタリス」
『チルゥ』
「こいつを地面に沈めろ!プリン!」
『プリィ?』
――――観戦席で何かがあろうとも、二人の集中は途切れることはない。
「ピチュー!後ろに下がってわるだくみ!」
『ピッチュ!』
「へー珍しい技使ってんじゃん!んじゃあこっちはこうそくいどうだ!素早さを積み込め!」
『ピジョォ!!』
ピチューが後ろに下がって【とくこう】を強めるのならば、ピジョンは【すばやさ】を上げていく。どちらも真剣に、でもパフォーマンスになるように盛大に。
ピチューが可愛らしく審査員に向かって笑いかけながらもわるだくみを発動し、ピジョンは力強さをアピールしつつ翼を大きく動かしてこうそくいどうを行った。
二人は地下通路でのバトルを忘れているわけじゃない。ただ力のごり押しでどうにかできる相手じゃないと分かっているし、そういうバトルもあるのだとちゃんと理解していた。
「これで最後よ!!」
「望むところだ!!」
それぞれが最後の技を出そうとした――――瞬間だった。
「ここは我々新生ロケット団がハイジャック…いや、シージャックした!!バトルを止めろ!全員が人質だぞ!抵抗するなら弱いモノから殺していく!!」
その声はホール内のアナウンスから聞こえてくる。男の騒がしい声と、そして悲鳴のような恐怖に染まった声がする。ロケット団と言った声に反応し、それぞれがバトルを中断したところ、急にホール内に黒服の男たちが押し寄せてきた。
それを見て唖然とするのはバトルを行っていたヒナとヒビキだ。
「…はっ?…うわ…」
「え…やばくない?」
二人はとある少年を見た。クリスは黒服の男たちを睨みつけているが、隣にいた少年の異変に気づいて目を見開いた。
チルタリスは呆れていた。プリンはクリスに抱きつき怯えていた。
「…………」
何も言わない少年の顔は、綺麗に微笑んでいた。――――目が笑っていない状態で。
・・・・・・・・・・・・・・・
――――これやばいこれやばいこれ絶対にやばい主に船が沈没する元凶がやばい!!
「おとなしくしていろ!そしてポケモンたちや金目のものを出せ!ああもちろん大会の商品であるマスターボールや進化の石もだ!!」
「おいそこ!不要な動きをするな!」
「抵抗などをしたらアーボックの毒で殺してやるぞ!!」
ロケット団がホール内にいる。でもおそらく船のどこか他の場所にもいるのだろう。ポケモンを出しているのは順番が決まっているらしく。私達は運よく最後らへんでロケット団に渡さなければいけない。その時間に、奴を止めなければいけない!
幸いシルバーから遠い場所にいるから、私たちの焦りはわからないはず…だと思う。だから、その間に何とかしなければ。
「ヒビキ…シルバーを眠らせられる?」
「馬鹿なこと言うな今のあいつに手を出したら俺がぶっ殺されちまうだろ!!」
「じゃあどうしたらいいわけ!?あんな…お兄ちゃんが軽くキレている時のような感じで…もうあの惨状は見たくない!」
「お前だけじゃねっての!くそ…この現状がわからないようにできるには…どうすれば…」
「あ、ゾロアークのイリュージョンはどう?」
「…あ」
周りを監視されているため、ボールからこっそりとゾロアークを出すのは大変だった。でも何とか隙をついてできそうな気がする。だからこのままイリュージョンをして、ロケット団の皆を騙してしまえばいい。そうすれば惨状なんて起きずに終わってしまう。
そう、思っていた。
「おいそこ!何をやっている!」
「っ?!よしいまだゾロアーク、イリュージョン!!」
『ガァァ!』
「なっ?!くそ…おいヨルノズク!みやぶる!!」
『ホーッ!』
「え…!?」
「へへへッやっかいなことしやがって…!」
「おいあそこにいるピジョンもなかなかのレベルじゃねえか?」
「ゾロアークか!こっちじゃ珍しいポケモンになってんだ!よこせクソガキ!」
「ふざけんなこいつは俺の相棒だ!誰がよこすかよ!」
『ピジョォォ!』
『ガァァァ!!』
光に包まれていたゾロアークのイリュージョンを、ヨルノズクがすべて崩壊させてしまった。私達の最後の砦が、やぶられた。ロケット団がこちらを睨みつけてアーボックをけしかけようとしているけれど、それは怖くない。ピチューが攻撃に当たらないよう警戒してくれているし、ゾロアークもヨルノズクぶっ潰せば何とかなるというヒビキの考えを読み取って動こうとしているから問題ない。ただ欲しいのは時間だけだ。
シルバーの歩みを止める時間が欲しい。
―――でも無情にも時は進む。
「おいそこ!お前だよこのガキ!動くな!!」
「おいシルバー!?動いたら他のポケモンや人間に危害を加えられる可能性がある!やめろ!」
『プゥリ…』
「うわぁ動いちゃってるよこれヤバいよどうしよう!?」
『ピチュゥ!?』
「ヒナ…サトシさんが前にやっていたあの技覚えているか?」
「え?何の技?」
「あれだよあれ!!あれなら絶対にうまく弾くことができるはずだ!!」
「………ああ!分かった!」
一歩一歩と歩みを止めない彼が、隣に寄り添うチルタリスにある命令を仕掛けようとする。
それは、悪しきロケット団を潰すための行為であり、笑えないほどの威力のある破壊行為でもあった。
「チルタリス、はかいこうせん」
『チルゥゥゥゥゥ!!!!』
「「カウンターシールド!!!!」」
『『『――――――ッッ!!!!!』』』
一匹の白い竜の閃光と、三匹の大きな竜巻がホール内で繰り広げられた。