私はただのマサラ人です!   作:若葉ノ茶

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強さはそれぞれ違うもの。







第二十五話~これからのこと~

 

 

 

 

 

 

その場で偶然見たのは、きっと運命だったのかもしれない。

 

 

「レッドさん!?」

「…だれ」

 

 

真夜中の船で散歩なんてしていなければ、きっと出会うことはなかったはずの、トレーナー。

ポケモンマスターになるのを拒否し、ポケモンのことだけを信じて様々な凶悪事件を解決したとされる…いまや伝説のトレーナーだ。時には暴れるポケモンや人間相手に立ち向かう彼のことを交渉人と誰かが呼んでいた。

それほどまでにも凄い人なんだと、幼い頃にテレビに出ていたのを知っていた。何もかもが謎に包まれているけれど、ポケモンには優しいこの人の存在を知っていた。

 

でも、そんなトレーナーが何故船にいるのだろうかと、クリスは考えていた。でも、考える必要は今はなかった。ただ、これはチャンスだとそう確信していただけのこと。

 

 

「お願いします!私を弟子にしてください!!」

 

 

――自分の望むことただひとつ。ポケモンと一緒に強くなるために【現状】を打開したいということ。

 

「断る」

「え…?」

「僕は強くない…強いのはポケモン……」

 

でも、レッドはそう考えていなかった。

弟子なんて要らないと、そう言う言葉にはなんの躊躇いもない。それでも、クリスは諦めきれないでいる。ボールのなかにいるポケモン達でさえ、クリスの気持ちに反応してぐらぐらと揺れているのだ。だから、クリスは諦めるという選択肢はない。

 

「お願いします…私は、このまま進みたくない!強いのはポケモンだということは知っています。友人が…ヒナたちが全てを教えてくれた!現状で満足していては駄目だと分からせてくれた!だから私たちは強くなりたい!」

 

「…友人に…ヒナたちに教えられた?」

「はい!ポケモンは最初から強いわけではない…ポケモンと人間が一緒になって戦うということ。そして強さはまだ限界がないということを知りました!」

 

 

クリスは、ジョウト地方の学校にて、シルバーにポケモンの知識量と育成で負けた。全てにおいて自分が上なんだと無意識のうちに驕ったせいで負けたとあの新生ロケット団を止めてくれた三人の行動によって気づいた。

自分はまだまだ弱いんだと、分からせてくれた。

 

だから、このままジムバッチを求める旅をしたとして、何が変わるのだろうかと不安があった。一時は大丈夫だと思ったけれど、それはヒナたちだからできること。クリスは、自分自身の力に自信はなかった。

 

 

 

「私は強くなりたい!皆に認められるのではない…ポケモンと一緒に強くなって、皆に勝ちたい!」

「…勝つってどういう意味なのかわかってる?」

「ポケモンとの絆の強さの証です!!」

 

 

 

クリスが力強く断言すると、彼の帽子の奥深くから見えた瞳が笑ったように見えた。

 

 

 

「……ついてきて」

「え…っ!」

 

 

 

クリスから背を向けて歩き出すレッドの言葉が一瞬幻聴だと思えたのだが、彼はちゃんと待っていてくれた。強くしてくれる。熱い思いが込み上げてくるのを感じる。

 

 

 

「っ…ありがとうございます!!」

 

「礼はいらない…とにかく、荷物持ってデッキに来て」

「はい!!」

 

 

 

 

大きく叫んだクリスはすぐさま行動を開始した。走りだし、廊下を突き進む彼女の心はとても晴れやかだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

デッキに向かった彼女に待っていたのは鍛えられたリザードンと、レッドの姿。

そんな彼を見て、一瞬騒ぎたい気持ちを抑えたクリスは素直にリザードンの背に乗り、船から飛び離れていく。

 

 

 

(…ヒナたちに別れを言っておけばよかったな…シルバーはどうでもいいが)

 

 

 

遠ざかる船を振り返って見ながら、あの時に笑いかけてくれたヒナたちの表情を思い出す。

でももう後戻りは出来ない。強く吹き荒れる風を身体で感じながらも、クリスは心の中で絶対に強くなろうと心に決めた。

 

 

 

 

「あの、ここは?」

「……行けば分かる」

 

 

リザードンが降り立った土地は地面がでこぼことしていて、地面タイプが気に入りそうな環境だ。

レッドが前に向かって進むため、クリスもすぐに後を追って前へ歩く。

 

 

すると、地形がゆっくりと変化していき――前へ進むごとに、環境は樹木の生えた森に変わる。これもポケモンたちの力なんだろうか。クリスは気になりつつも、前へ進んだ。

 

 

すると――――

 

 

 

『―――――ッッ!』

 

 

「っ…なんだここは!?」

 

 

 

見えたのは、様々なポケモンたちが整備されているバトルフィールドのような場所で戦っている光景。トレーナーと共に戦うのは見たことがあるが、ここにはそんなものはない。でも、人工的に取り付けられた明かりがあった。その照明らのおかげで、夜だというのに全てがはっきりと見えた。

これは異様だ。クリスは息を呑む。ここにこそ、自分たちの必要な強さがあるのではないかとそう思った。

 

ふと、レッドが草むらからバトルフィールドのような場所へ向かっていく。クリスもその後を追いかけ、立ち止まる。いや、立ち止まるを得ない光景だとクリスは思った。

ポケモンたちがこちらを見ているのだ。訝しげな表情で…たまに首を傾けたり飛行タイプのポケモンが何処かへ飛び去ったりとなかなか圧巻ある光景だ。

でも、ポケモンたちのあの微妙な行動はレッドを歓迎していないのではないか。レッド自ら鍛えているわけはないのか。様々な疑問がクリスの頭の中でぐるぐると回る。

 

「あの…レッドさ―――――」

 

「――――何でここにいるんだ」

 

 

クリスの耳に聞こえてきたのは怒気を抑えた小さな声。声は後ろから聞こえてきた。振り向くとそこにいたのはまたもや伝説のトレーナー。なぜ彼がここに…いや、レッドが連れてきたから、彼に会わせてくれたのか。

彼―――サトシは嫌そうな表情を隠さずにレッドを見た。

 

「……」

「なあ、何でここに…そんな女の子を連れてきたんだ?」

「……大きくなったね」

「四年も経てば大きくなるわ!」

『ピカッチュウ?』

 

クリスの思考が完全に停止している間、いつのまにかやって来ていたピカチュウがサトシの肩へ飛び乗ってクリスの方を尻尾で指した。それを見たレッドはただ小さく声を出す。

 

「強くしてほしいらしいよ」

「…は?」

『ピカピカ?』

「ヒナの友達らしいし…それに彼女のポケモンの強さの理論が面白かったから連れてきた」

「…なんだそれ」

 

 

サトシはため息をついて奥で伺うポケモン達に他のバトルフィールドを利用するように仕草で促す。するとポケモン達はすぐにサトシの言うことを理解し、動き出した。クリスの思考が正常に働くようになるまで数十秒。その時間さえあればポケモン達の移動は完了する。

だから今この場にいるのはクリスとレッドとサトシ、そしてピカチュウだけだ。

 

「あの…え?まさかポケモンマスターに強くしてもらうってことですか!?」

「……嫌?」

「そんなことないですむしろ大歓迎!!」

 

「即答だな」

『ピイカァ』

 

サトシとピカチュウが呆れているというのに、クリスは何も気づかない。というよりもこれは凄いことになるんじゃないかと驚き戦いている。冷や汗が流れ、視線はあちらこちらに向かい、そして両手は震えている。

つまり、クリスはびびっていた。でも強くなりたい気持ちは正直ある。だからここで引いては駄目だと覚悟を決める。

 

そして盛大に土下座した。

 

 

「強くしてくださいお願いします!!!!」

 

 

「……おー…こんな綺麗な土下座見るのシューティー以来だな…」

『ピカァァ…』

「…現実逃避してる?」

「してねえよ。むしろあんたが来たことに現実逃避しそうだよ」

「……ポケモンマスターなのに?」

「ポケモンマスターでも、俺はただのトレーナーだ。だからお前の望む強さを手に入れられるかは分からねえぞ?」

 

サトシはピカチュウの頭を撫でながらクリスに問いかけた。だから、クリスは土下座したまま、話し始める。

 

「私の欲しい強さはポケモンと人間の絆!ヒナたちのような強さが欲しい!!だから…強くなりたいのでお願いします!!!」

 

「絆の強さ…ねえ?」

『ピィカッチュウ』

 

サトシとピカチュウがお互いの顔を見た。その行動こそまさしく信頼しあっていて絆が深いことの現れであり、クリスの望む強さだと思えた。

気の乗らないサトシに、レッドが軽く助言をする。

 

 

「サトシ……僕とのバトルしたがっていたよね…?」

「…あんたバトルは嫌いだろ」

「それでも…必要ならやるよ。大事な息子の我が儘だからね…」

「嘘つけ。俺の我が儘じゃなくて彼女の交渉に使おうとしてるくせに…だからあんたはいつまで経ってもクソ親父なんだよ」

『ピィカァ…』

 

「むすっ!?おや…えっ!!?」

 

クリスは驚愕した。むしろ目ん玉が飛び出るかと思う衝撃だった。伝説のトレーナー二人が、親子同士だと!!?確かにレッドは大人だ。でも二十代かそこらにしか見えない容姿をしているからそうは見えない。でも確かにレッドとサトシは似ていると思う。帽子を深くかぶりなおしたらそっくりだ。

 

 

「なあ、お前の名前はなんだ?」

『ピイカッチュウ?』

「えっ…あ、クリスです!」

「そうかクリス…なら、しばらくこの山で修行だな。でも期待はするなよ…俺がやらかしたら妹に叱られるのは目に見えているからな」

「い、妹に…?」

 

 

また、よく分からない単語が出てきた。妹がいるのか。ポケモンマスターの頭の上がらない妹とやらが。

質問して聞きたいという表情を浮かべるクリスに、レッドが口を開く。

 

 

「サトシにとっての妹……僕にとっての娘はヒナだよ」

「え…」

「なんだよ?ヒナから聞いてないのか?」

「聞かないのも無理はないよ……ヒナは僕と同じで騒ぎが苦手だからね」

 

 

 

「ええええええッッ!!!??!!?」

 

 

 

大きな声でクリスは叫んだ。そのせいで声が届く範囲にいるサトシのポケモンたちが苦笑し、野生の飛行タイプのポケモンが誤って地面に落下し、とある船の上のベッドで寝ている女の子が小さなくしゃみをしてリザードンに心配されていた。

 

クリスの思考は素早く加速する。

ヒナが交渉人とポケモンマスターの家族ということは、強いのは当たり前だったのか。いや、彼女は最初から強い訳じゃなかった。でも、もしかしたらヒナは凄まじい人間かもしれない。

クリスは頭を働かせて――――やがて諦めた。ヒナはただの友達だ。友達の家族が誰であろうとかまわない。そう考えたことに、サトシとレッドが気づいた。

 

「まあ、ヒナの友達としては根性あるみたいだし…やれることは教えてやるよ。さっきもいったように、妹に叱られないように手加減はするがな?」

『ピカピカ』

「っ…はい!お願いします!!!」

 

クリスはまた土下座をした。レッドは何も言わず、サトシは頬をかいて呆れていたが、それでも土下座しなければいけないと思った。

 

(ヒナ、ヒビキ…私はこれから強くなる。だから、また会おう)

 

心の中で呟いた声を噛み締め、サトシをまっすぐ見つめた。そしてサトシもクリスを見た。

二人の師弟としての関係は、まさしくその時に始まったと言えるだろう。

 

その様子を見ていたレッドは小さく首を傾けて口を開いた。

 

「…クリスは一番弟子?」

「いや、二番弟子」

『ピカピカッチュゥ』

 

 

 

一番弟子はハルカだ――――。

 

 

そう答えてくれたサトシの声が、森のなかに静かに響き渡った。

 

 

 

 

 

 







「親父はもう帰れ」
「…分かった。でも様子は見に来る……」
「ああ、そん時にバトルな」
「うん…楽しみにしてる…」
「あんたじゃなくてポケモンが…だろ」
「そうだね…じゃあまたね……」
「あ、あのっ!おやすみなさい!!」
「うん…おやすみ…」





・・・・・・・・・・





「えっと…今日は…?」
「とりあえず今日は寝るぞ」
「は、はい!」



――――ガッシャン




「あ?…あー」
『ピカピカァァ…』
「な、誰だ…!?」
「俺の嫁」
「え」





「サトシ?浮気して…っ!」


「どっかいっちゃったんですけど良いんですか!!?」
「すぐ帰ってくるから心配すんな。むしろ俺から離れろ危ないから」
「え?」



――――ギュゥィィィィッッ!!!



「サトシが浮気して私から離れるくらいなら私がサトシを殺して私も死んでやるんだからぁぁぁ!!!」




「どっから出したんだそのチェーンソー!!?」






続く…?



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