私はただのマサラ人です!   作:若葉ノ茶

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これはまだ、始まりだ。





第二十六話~厄介なる依頼人~

 

 

 

 

 

それは、早朝の青空が広がるホールにて、バイキング形式の朝食をすませようとした時だった。

ヒビキが朝食用の自分たちに用意されたテーブルに様々な料理を持っていき、シルバーはポケモン用の洗練された特性フーズを選んで、私とヒビキのポケモン含めた手持ちたちにあげている。マサキさんは隣でイーブイにたくさんきのみを渡していて、眠そうにあくびしていた。ポケモンたちと共に食べているのは皆同じだ。ゾロアークがイリュージョンでリザードンの色を普通に見せているおかげか、騒がれることなく朝食を食べることができる。だから、おかしいと思う。

 

 

 

サンドイッチを食べつつ、私は周りを見渡して首を傾けた。

 

 

 

 

 

「あれ…」

『グォォォ…?』

「あ、ごめんリザードン…ちょっと気になることがあって」

『ピッチュゥ?』

『ナッゾ!』

「はいナゾノクサ」

『ナゾナゾ!!』

 

 

 

ナゾノクサにあげるはずのポフィンを手に取ったまま、周りを見ている私に対して首を傾ける手持ちたち。そんなリザードン達に首を横に振って大丈夫だと行動で示した。その後、また周りを探す。

 

でも見つからない。いるはずのトレーナーがそばにいない。いつもならシルバーに噛みついてくるあのクリスが、どこにもいない。騒ぎもなく静かすぎる空気がどこか居心地悪いと感じてしまう。

 

 

 

「ねえヒビキ……クリスはどこ?」

「んぐ…さっき聞いたら、用事があるみたいだから帰りましたーって船員の人が言ってたぞ」

「え、待って今海のど真ん中にいるのに帰ってったの!?」

「んーいや…夜中にヘリ出てたみたいだしそれに乗って帰ったんじゃね?」

 

 

「あぁ…そっか…帰っちゃったんだ…」

『ピッチュゥ』

「うん大丈夫。ありがとうピチュー」

『ピチュ!』

 

 

 

ピチューが肩に乗って慰めてくれつつ、呑気に笑うヒビキを見ながら、私は昨日のクリスのことを思い出していた。これから頑張ってやろうと決心した直後だった。これから、共に強くなろうと誓ったはずだった。だからなのだろうか。

 

強くなりたいから、船を降りたのだろうか。

 

 

 

「…また、会えるよね?」

「ポケモントレーナーなら会える…ってか、あのクリスはシルバーにいろいろと思うところあるみたいだし絶対に会うだろ」

「呼んだか?」

「呼んでねーよアホシルバー!」

「アリゲイツ」

『アリゲェイ!』

「ぶっほぁ!やめろ噛ませるな!ってかアリゲイツの歯ってなんでも砕くだろうから止めろよな!」

「安心しろ、手加減はしているはず」

『アァリゲェイ?』

「全然手加減できてねえんだよ止めろ!!!」

 

「あはは…」

 

 

 

 

いつもの光景だけれども、少しだけ寂しいと思うのはたぶんクリスがいないからだろう。

でも、ヒビキの言ったように、きっとまた会える。それを信じよう。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

その後、あと半日で船を降りる時間になるお昼頃にそれは起きた。

 

 

 

 

「…はい?私たちに頼みごと…ですか?」

「せやせや!船の騒動見ててな、きっと自分等なら出来ると思うんよ」

 

 

 

 

マサキさんの言葉に思わず私たちはお互いの顔を見る。イーブイはボールのなかにいるのか、出てきてはいないが、ちょっとだけ怪しい雰囲気が漂ってきた。あの船の騒動を見て頼みごとをするだなんて意味がわからない。

だから経験則で考えると、たぶんこれは厄介ごとの予感なのだろう。

 

ヒビキが訝しげな目でマサキさんを見る。

 

 

「何スか?俺らに出来るって…?」

「ポケモンタワーにな、最近変な声が聞こえるようになったんやで」

「ポケモンタワー…ですか?」

「せや。咽び泣いてるような怨念が轟くような声…やな」

「ポケモンタワーってシオンタウンのあのポケモンのお墓がたくさんある場所だろ?幽霊とかの可能性ってないっすか?」

「なんだヒビキ、幽霊でも信じているのか貴様は」

「からかうんじゃねーよシルバー!マサキさんの話を聞いたらそう思うだけの話だろーが!」

「まあ…ポケモンタワーで聞こえる怨念って聞くと幽霊の方を想像しちゃうよね…」

「ヒナの言うとおりだ!」

 

 

 

 

「とにかく―――」

 

 

 

 

私とヒビキが頷きあっている間に、シルバーが何やら納得した声をあげてマサキさんを見つめた。おそらく、ポケモンタワーで頼みごとと聞かれて想像つくことを予想したのだろう。

 

 

 

 

「…つまり、俺たちにそれを調べてきてくれ…ということですね?」

「せやせや!いやー頼むわ!ほんま普通のトレーナーやと話しにならへんから…そういう怨念をぶっ壊してくれる存在がいたら助かるって思うたんよ!」

「ぶっ壊すっていったら大概がシルバーなんですけどね…」

「破壊兵器シルバー&チルタリスだからな…」

「ふん。貴様らの力が足りないだけの話だ」

 

 

鼻で笑ったような声をあげるシルバーに私は苦笑し、ヒビキは眉をひそめた。そしてマサキさんは笑っていた。私達の会話を楽しんでいるのだろう。喧嘩さえしなければ私達の会話は、世間的に見れば微笑ましいものだと思うから。

 

喧嘩にさえならなければ。

 

 

 

 

「お前ちょっとは謙虚ってもんを知っとけ!」

「四年も長く付き合っている貴様らに謙虚なんてものをしなくてもいいだろうが」

「おっまえ…言っとくが親しき友にも礼儀ありって言葉わかってるか?」

「正しくは親しき仲にも礼儀あり、だ。普段使わない言葉を無理して使うな馬鹿め」

「んだとあほシルバー!!ぶっ潰せゾロアーク!」

『グァァァ?』

「返り討ちにしろ、チルタリス」

『チルルゥ!』

 

 

 

案の定というかなんというか…嫌そうな顔をしたヒビキがボールからゾロアークを取り出し、シルバーがチルタリスを出している。

でもゾロアークは呆れたような表情をしている。チルタリスは忠実そうに、喧嘩であろうともシルバーの指示には従うと言った顔だ。

 

いつも通りの喧嘩であり、いつも通りのポケモンバトル。でも今はマサキさんの話を聞いている話だと言うのに、何をやっているんだか…。

 

 

 

「やめなさい!喧嘩はしないの!」

 

 

「「ブフォッッ!!」」

 

 

 

拳を握りしめ、二人の頭に直接振り下ろす。その攻撃にヒビキとシルバーは耐え切れず地面に転がってしまうが私は知らない。

ゾロアークはまたもや呆れ、チルタリスは微妙そうな表情。私もため息をついて頭を抱えた。

 

 

 

「まったく、いつもいつも喧嘩ばっかりして…」

『グァァァ…』

『チルルゥ』

 

 

「おー大したもんやな!」

 

 

 

頭に煙を出しつつ、両手で押さえているのは二人の馬鹿。

大悲惨なバトルを行おうとしていたヒビキとシルバーに唯一、マサキさんだけ笑っていたのが本当にすごいと思えた。

 

私は一度咳をしてから、口を開く。

 

 

 

 

「あの…シオンタウンってマサキさんの家がある場所じゃありませんよね?」

「おん。シオンタウンにな、知り合いのおっちゃんがおるんよ。そのおっちゃんに頼まれてなー。でも自分やと無理やし…イーブイたちの世話しなあかんし…」

「ああー…」

「ちゃんとポケモンタワーの問題解決してくれたらお礼もするでー!」

「はぁ…」

『グァァァ』

『チルゥ!』

 

 

 

お礼って何だろう。いやそれよりも、やっぱりこれは厄介ごとだったとため息をついた方がいいのだろうか。

チルタリスとゾロアークがやる気満々でそれぞれバトルの予感か!というキラキラとした目をしている。でもポケモンタワーはお墓が多い場所なんだし、派手にやるのはよくないと思う。…とりあえず、私がしっかりしないとね。

 

やがて、頭を押さえているヒビキとシルバーがゆっくりと起き上がり、ふらつきながらマサキさんを見た。

 

 

 

 

「痛つつ…お礼って何スか?」

「起き上がるなりソレかい!」

『グァァァ…』

「うるっせーな!ゾロアークもそんな顔すんな!ちょっと気になっただけだよ!」

「くっ…ヒナ……お前腕をあげたな…」

「シルバー、ポケモンがレベルアップしたみたいな言い方しないでよ」

「それで、礼とは何でしょうか?」

 

「あんたらねぇ…はぁ」

 

 

 

 

礼について深く聞くのはなんだかがめついような気がしたから聞かなかったのにある意味凄い。でもマサキさんは気を悪くした訳じゃなく、笑いながら話してくれる。

 

 

 

 

「ははは!礼っちゅーのはな…まあ、そん時のお楽しみやで!」

「お…たのしみ?」

「せや!まあシオンタウンにいるおっちゃんに話しとくわ。ポケモンタワーの一件が終わったらおっちゃんから礼貰っといで」

「わ、分かりました」

 

 

 

なんか、ちょっとだけ嫌な予感がする。幼い頃に鍛えた勘がざわざわし、懐にあるボールが揺れる。

 

きっと、その考えは間違っていないのだろうと、私はそう思っていた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

シオンタウンの一件について悩んでいると―――アナウンスから大きな声が船の中に鳴り響いてきた。

 

 

 

【さぁさぁ船旅最終日!今日は中断した大会の全てを結集した大きな鬼ごっこをしてもらうよー!】

 

 

 

 

 

「鬼ごっこぉ?」

「また騒動起きないでしょうね…」

「ふん。あのバトルだけではつまらなかったからな。いいストレス解消になりそうだ」

 

 

 

【さてさて!鬼ごっこに参加するものは皆、大穴のあいたホールに来てねぇぇ!】

 

 

 

どうやら、クチバシティにてジム戦をする前にまた何か大会をやるらしい。私たちはアナウンスの指示通りの場所に向かう。

 

するとそこにあったのは、バンダナを巻いたポケモンとトレーナーの姿。ポケモンは皆小さな身体をしたものが多い。

鬼ごっこをするらしいが、ポケモンも一緒に参加するのだろうか?

 

 

バンダナを手渡してくるスタッフに私は話しかけた。

 

 

 

「あのすいません…この鬼ごっこに参加したいんですが…詳しいルールって何でしょうか?」

「鬼ごっこに参加していただき誠にありがとうございます!ルールは簡単です!ポケモンと共に赤と青のチームに別れて、鬼ごっこをしてもらいます。バンダナは大会の参加権であり、チームの色分けとなりますので絶対にはずさないようにしていてくださいね!大会が始まる頃に赤と青のどちらかが捕まえる側と捕まってしまう側に決定します!その色のルールに従って、大会を楽しんでください!」

「はい、わかりました」

 

 

「では、大会に参加しますか?」

「もちろんです!」

「参加する方のポケモンは?」

「うーん…よし、お願いナゾノクサ!」

『ナッゾ!!』

 

 

 

 

ボールから出したナゾノクサを見て、スタッフがその片足に小さなバンダナを巻いた。そして私にもナゾノクサと同じ色のバンダナを渡し、微笑んでくる。

 

 

 

 

「あなたのチームは赤色です!大会が始まるまでの間、少々お待ちくださいませ!」

「はい。ありがとうございました!」

『ナッゾナゾ!』

 

 

 

ナゾノクサとお揃いのバンダナを片手に巻き付け、ホールの中心に行く。するとそこにいたのは同じく他のスタッフに話したヒビキとゾロアーク。そしてシルバーとアリゲイツだ。

ヒビキが私のバンダナの色を見て笑いかけてきた。

 

 

 

 

「お!ヒナは俺と一緒か!」

「うん。…でも、シルバーとは別れちゃったね」

「むしろその方が楽しめそうだ」

「いや暴れないでね?」

「…ふん。そろそろ青のチームの方に行くぞ」

「ちょっと待った!なあシルバー…お前アリゲイツにはかいこうせん覚えさせてないよな?」

「え…いやいやいや」

 

 

 

冷や汗が流れ出て、思わずシルバーを見た。シルバーは嘲笑った顔でヒビキを見ており、アリゲイツは首を傾けて歯を鳴らして笑っている。

あの、大丈夫…だよね?

 

 

 

「シルバー?」

「安心しろ。貴様らとの約束は必ず守る」

「安心できるか!!」

「ハッ!不安ならばさっさと俺を負かすことだな」

『アァリゲェイ!』

 

 

 

負けないという瞳で、シルバーが笑った。その目に、ヒビキがトレーナー心と負けず嫌いに火をつけたようだ。

 

 

 

 

「絶対に瞬殺してやる!頑張ろうぜヒナ!!」

『グァァァ!』

「いやこれバトルじゃないし、どっちかのチームは鬼役になるから瞬殺できるかどうか…」

『ナァッゾ?』

 

 

 

 

 

【さぁぁぁー!鬼ごっこを開始するよー!】

 

 

 

 

 

 

ナゾノクサが可愛らしく首を傾けた直後――――アナウンスが大きく鳴り響いたのだった。

 

 

 

 

 

 








どこかの町の、どこかの室内にて。





『ビィィィ!!』
『ゴォォッストォォ!!!?』

――――ドゴォォォッッ


『…ふむ。これで何連戦目だ?』
『ミュゥゥ!』
『フォォォ…あのセレビィは自分の故郷に帰るつもりはないのか?こんなところでバトルをしなくても…』
『お前にだけは言われたくないだろうなダークライ。一応お前はシンオウ地方が故郷だろうが』
『ミュゥゥィ!』
『ふん…俺はこの地方が故郷だからな』
『ミュゥ?』


『ビィィィ!!!』
『ゴォォォォッッ!!!?』


―――ドゴォォォッッ!!



『はぁ…いつになったら終わるんだ』
『ミュゥゥ』
『フォォォ…まだ時間はかかるだろうな……』




『ビィィィッッ!!』



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