鬼ごっこルール
赤チーム(ヒナ、ヒビキ)
・逃げる側
・バンダナを取られたらリタイア
・ポケモンの技使用はあり
・無線にて仲間チームでの連絡は使える
・勝利条件は、誰か一人でもバンダナを取られなければ勝ち
・敗北条件は、全員がバンダナを取られたら負け。
青チーム(シルバー、コウキ)
・追いかける側
・バンダナを取りあげるまで追いかける
・ポケモンの技使用はあり
・無線にて仲間チームでの連絡は使える
・勝利条件は、赤チームのバンダナ全部を奪い取ったら勝ち
・敗北条件は、赤チームのバンダナをひとつでも逃したら負け
共通ルール
・客室は使用禁止
・客が入ってはいけない場所は立ち入り禁止
・ルールが守れない場合は即座にリタイアとなる
【さあ聖・アンヌ号の鬼ごっこ大会の開始だぁぁぁ!!!】
「「「「テレポート!!!」」」」
『『『『ッッ――――!!!!』』』』
大きな声が頭上から聞こえてきたため、ヒビキ達赤チームが即座に上を見上げる。そして見えてきたのはシルバー含めた数人のトレーナーがエスパータイプのポケモンを連れてテレポートし、奇襲してきたという事実。
開始同時に攻めてこられたせいか、動揺してしまいまともに動けずにいた数人の赤チームがシルバーらの青チームによってバンダナを奪われてしまう。
シルバーが不敵な笑みを浮かべた。ヒビキは歯軋りをして周りにいる赤チームに目配せをした。目配せに気づいた赤チームは、皆が頷く。
「瞬殺するのはこちらだ!ヒビキ!」
「っっ――負けてたまるか!赤チーム、作戦B決行!」
「「「「「おう!!!」」」」」
シルバー達に降りかかってきた閃光。それがフラッシュだと気づいたときは、もうバンダナの取られていない赤チームが全員逃げていた頃だった。
・・・・・・・・
(うっわぁ…えげつな)
コウキは先程までの戦いに戦慄し、これから怪我をしないようにアルセウスに祈っていた。
だがそんな祈りがアルセウスに届くわけもなく、先程から不気味に笑っているシルバーの隣で立ち止まっていた。シルバーは胸元に設置している無線で、仲間に連絡をとろうとする。
「あの…」
「ククク。ヒナはいなかったが…まあ、これから楽しめばいい。おいゼニガメ部隊!船内の近道となる部分を全て凍らせて防いでおけ!」
「いやぁ凍らせちゃったら船の人に迷惑になるんじゃ―」
「「「はっ!了解しました!!」」」
「それからヒトカゲ部隊!フラッシュしてくるポケモンにはすべて炎で応戦しろ!それかで眠らせてしまえ!」
「いやそれ大事じゃね!?」
「「「「「サーイエッサー!!!」」」」」
シルバーも仲間である青チームもみんな、コウキの声なんて聞いていない。コウキはマニューラの背で泣いた。マニューラは嫌そうな顔で逃げようとしてくる。その顔にも泣いた。
(逃げたい…)
もちろん逃げられるはずもない。コウキはマニューラとともに引きずられながらも、シルバーの隣にいたのだった。
・・・・・・・・
「くそっ…ここにも氷の壁か…」
ヒビキが船の通路を塞いでいる氷の壁を叩き、舌打ちを溢す。それを聞いたのはヒビキと共に逃げてきた赤チーム数名。そのうちの一人がヒビキに話しかけてくる。
「な、なあ…今からでも遅くないし、迂回してみるか?」
「いや、駄目だ」
ヒビキが首を横に振って、壁の向こう側を見た。眉をひそめて思い悩む姿は断言した言葉と正反対だと赤チームの皆は思っているが、ヒビキの言っている言葉が正しいことも分かっていた。
「この通路は逃げ道に最適で、俺たちにとって必ず必要になる!迂回なんて出来ない…強行突破だ!」
『ガゥゥゥゥ!』
氷の壁に向けて指差したヒビキを見たゾロアークが、あくのはどうを放つ。氷はそれに耐えきれず、粉々になり、道が開けた。その先へ、ヒビキは歩き始める。
赤チームも戸惑いながら、ヒビキの後ろへ歩きだした。
ヒビキは歩きながら無線をつけ、話し始める。
「皆、位置についたか?」
「「もちろん!」」
「こっちはまだだ!少し待っていてくれ」
「わかった。でも早めに頼むぜ!」
「ヒビキ…やっぱり私も出た方が…」
「言っただろヒナ。俺たちが囮になるってな。だから気にせずお前は自由に逃げていてくれ」
ヒビキが無線から離し、歩くのに集中する。周りはとても静かだ。それはこれからの嵐の前兆なのだろうか。
斜め後ろを歩く赤チームの一人がヒビキに話しかける。
「ね、ねえ…もしも待ち伏せしてたらどうするの?」
「その時は受けて立つ!!」
そう言った瞳には、強い意思が秘められていた。
―――その瞬間、だった。
「見つけたぞ赤チーム!!」
複数の青色のバンダナをつけた青チームが曲がり角から現れた。
人数は5人。前に3人と、後ろに2人だ。見つけたと言ってはいるが、おそらく待ち伏せをしていたのだろう。
彼らの足元にいるポケモンは全員が水タイプであった。
彼らが一斉にヒビキ達へ向けて指示を出す。
「「「「「みずでっぽう!!」」」」」
『ッッ――――!!!!』
「ゾロアーク!」
『グァァァ!!!』
ゾロアークが赤紫色の閃光を走らせる。イリュージョンの前兆だと気づいたのは青チームの3人。
だが、ヒビキはそれだけに留まらない。
「全員、攻撃体制!!」
「「「おう!!」」」
「ゾロアーク、あくのはどう!」
『グァァァ!!』
「はっぱカッター!」
『キュゥゥ!』
「みずでっぽう!」
『ゼニィィ!』
「たいあたり!」
『ラッタァ!』
「なっ!?」
みずでっぽうを噴射した勢いを吹き飛ばし、赤チームがまとめて前後の青チームに攻撃を返す。逃げるのではなく攻撃をするという指示に戸惑った青チームが、動揺から復活したのは彼らのポケモンが赤チームによって戦闘不能になってから。
そして、負けたくはないと奮闘する彼らが赤チームのバンダナに手を伸ばすのを防いだのはゴースを手持ちにしている赤チームのポケモン。
「さいみんじゅつ!」
『ゴォォォ!』
「よし!」
『グァァァ!』
さいみんじゅつによって青チーム5人が眠りについた。そのすべては赤チームの作戦通りの結果であった。
・・・・・・・・・・
「あーあー…聞こえてますかぁシルバー君よぉ」
「っ!?」
無線から聞こえてきたのは馴染みのあるもの。たまに苛立つこともあるヒビキの声だ。
赤チームと青チームの無線は別に分けられており、交じることはないはず。だというのに、その声が聞こえてきたと言うことは――――
「そうか。逃げなかったのか貴様は」
「正解だぜシルバー!」
「ふん…ルール破りめ」
「ルールは破ってねえぜ?ってか、ルールの中には追いかける方の青チームを戦闘不能にしては駄目だってこと言われてねえしな!」
「なるほど…グレーを突っ走ったか、ヒナと共に考えたんだな?」
「おう!それだけ俺たちが全力だってことだぜ?なあシルバー、お前ら青チームには負けたくないってな!」
「…ふん」
「じゃあな!俺たちは絶対に勝ってやる!」
ぶつり、と切れた無線の音に、シルバーはにやりと笑った。その顔に反応したのは近くにいたフシギダネ部隊と、隣にいるコウキだけ。無線からヒトカゲ部隊の声が聞こえてくる。ゼニガメ部隊は何も言っていないため、おそらくヒビキが取った無線はゼニガメ部隊からだろうと分かった。
いや、そんなことよりもシルバーの様子がおかしい。笑っている笑みをみて、足元にいるアリゲイツがつめとぎのようなことをして爪を研いでいる。
アリゲイツってつめとぎ覚えてないよな?え、覚えられたっけ?とは、コウキの呟き声。
「ふふふ…クッ…おい、聞こえているかヒトカゲ部隊」
「「「さ、サー!」」」
「ホールへ向かえ。おそらくそこにいる可能性が高い」
「「「サーイエッサー!!」」」
「フシギダネ部隊!貴様らは俺と共に展望デッキへ行くぞ!」
「「「サーイエッサー!!!」」」
「あ、え?…ぼ、僕は?」
『マニュゥゥ?』
「貴様らも俺についてこい!」
『アリゲェイ!』
「うぇぇぇ?!!」
『マニュゥゥ!』
引きずられていくコウキは冷や汗を流しつつ、このあとに待ち構えている衝突が少なく済むことを祈った。アルセウスにではなく、自分自身に。
・・・・・・・・・
「…見つけたぞ!」
『アリゲェイ!』
「えぇ…本当にいた…」
『マァニュゥゥ』
「待ってたぜ!青チーム!!」
シルバー達の前にいるのは赤色のバンダナをつけたヒビキら赤チーム。
見つけることができたのは、ただの勘。幼馴染みが勝負を挑んでいるのだから、広い空間を選ぶことは勘で分かった。そしてそれは見事に成功した。
でも、ヒナの姿は見えていない。もしかしたらホールにいるのだろうかとシルバーは思考の片隅で考えつつヒビキを睨み付けた。
「ここですべてを終わらせる!」
『アリゲェイ!』
「はっ!んなことさせるかよ!逃げるぞゾロアーク!」
『ガゥゥゥゥ!』
「ッッおい待て…クソ!フシギダネ部隊はここにいる赤チームを捕まえろ!」
「「「サーイエッサー!!!」」」
「うえっ!?ちょっと!!?」
『マ、マニュゥゥ!!?』
シルバーがコウキの手を引っ張りながらヒビキのもとへ急ぐ。シルバーの進む先を塞ぐ赤チームには、シルバーの仲間である青チームが捕らえようと動き、展望デッキは混沌と化していった。
でも、そのままシルバーは先へ進む。コウキの手を引っ張りながら、足元には彼らを追いかけるアリゲイツとマニューラがいながら。
――――そしてようやくヒビキが止まったのは、船の通路のど真ん中。様々な曲がり角がある、先程まで氷で覆われたはずの通路であった。
「逃がすか!」
『アリゲェイ!』
「うるせえ!俺は逃げる!ゾロアーク!!!」
『ガゥゥゥゥ!!!』
赤紫色の閃光をゾロアークの両手から放たれようとしてくる。その閃光に、シルバーがいち早く反応しコウキに向かって叫んだ。
「みやぶるだ!やれ!!」
「えっあ、おう!みやぶる!」
『マニュゥゥ!!!』
みやぶるによって白色の光が輝きだし、全てを見通す。光が消えた瞬間、見えてきたのはヒビキとゾロアークが曲がり角から逃げる姿。
「んなっ!?くっそ!!」
『ガゥゥゥゥ!?』
「はっはっは!逃がすかぁぁ!!」
『アリゲェイ!』
シルバーがコウキから手を離し、アリゲイツと共に走り出す。それはまさしくコウキの役目を終えた証し。コウキは苦笑しつつ、マニューラに労りを込めて頭を撫でた。
これでようやく解放されると、そう思ったのだ。
「はぁぁ…疲れた…」
『マニュゥ…ッッ!?』
「ん?どうしたマニューラ?」
マニューラが廊下の先を見つめている。じっと先を見て、何かをコウキに訴えている。
「まさか…?」
『マニュゥゥ!』
「へへへ、そのまさかだぜ!」
『グァァァ!』
「おいおいマジ!?」
『マニュマニュ…』
廊下の先にいたのは、先程まで逃げていたはずのヒビキとゾロアーク。何故ここにいるんだ。シルバーとアリゲイツが追いかけていったあの2人はまさか…。
「幻覚…だったの?みやぶるをしたのに?」
「あったりまえだろ!ゾロアークは日々成長してるんだぜ?あのロケット団の連中にみやぶるをされて以降、ゾロアークは絶対にやぶられないように鍛えたんだ!」
『グァァァ!!』
そう、ヒビキはあのあと半日かけて鍛え上げていた。みやぶるに怯んでイリュージョンが消えるような事態にならないように。ゾロアークは何度も練習し、まだまだ未完成ではあるものの、鬼ごっこにてみやぶるが前提で来ると分かっているからこそ先程のマニューラの攻撃に耐えられた。
耐えた上で、わざと破られた幻覚を見せてシルバーから離れた。こうすれば、奴はこちらに来ることはないと分かっているから。
コウキは頭を抱えて嫌そうな声を出す。
「結局意味なかったし!!」
『マニュゥゥ!!』
「ってことで、あんたには気絶してもらうぜ!」
『ガゥゥゥゥ!!』
『マ、マニュゥゥ!!?』
「うわ、マニューラ!!?」
ゾロアークのあくのはどうがマニューラに放たれる。それを見たコウキが目を見開いた。
ヒビキとゾロアークはコウキとマニューラを敵として見ている。だからコウキは叫んだ。
「ま、待ってくれ!僕とマニューラはもうこの大会を棄権するよ!だから倒さなくても大丈夫だ!」
「そんなの信用できねーっすよ!俺らはトレーナーだ!目と目があったらバトルは確実!そしてトレーナー同士のバトルは逃げることを許さない!ゾロアーク、あくのはどうだ!」
『ガゥゥゥゥ!!』
『マニュゥゥ!!!?』
「マニューラ!」
「逃げるなら、戦略立ててから逃げないとな!鬼ごっこってーのはそういうもんだ!でもあんたは俺らを捕まえる側。なら、俺を捕まえないと駄目だぜ!!」
「な…ぁっ…そ、それはそうだけど…でも、でも…」
トレーナーとしての暗黙の了解はある。それは、逃げてはいけないこと。
逃げることは、鬼ごっこで逃げる側になったヒビキにしかできない。
でもコウキは疲れていた。シルバーに振り回され、ヒビキにバトルを仕掛けられ、疲労が身体に回っていた。だから、逃げたいと思っていたのだ。
「ゾロアーク!マニューラを倒せ!」
『グァァァ!!』
『マニュゥゥ!!!?』
目の前で、マニューラが吹っ飛んでいく。まだ気絶するほどのダメージは負ってはいない。でも確実に痛みを蓄積していく。
コウキの命令を待っていたから、反撃はしなかったマニューラが、何度もあくのはどうを打たれ、傷ついていく。
『マニュゥゥ…ラァァ!』
「マニューラっ!」
疲れたと言っている場合ではなかった。このままでは負けてしまうのだ。
でも、僕は、
僕は――――
――――カチリッ
嫌な音が、コウキの脳内で鳴り響いた。
・・・・・・・・
「…あれ?」
『グァァァ?』
ヒビキは妙な雰囲気を感じ取ってゾロアークの攻撃を止めた。今目前にいるのは青チームであるコウキと、マニューラ。
棄権すると言っている言葉は、信用できなかった。だから、攻撃した。それも全力で。トレーナーとして当たり前だった。だからマニューラに向かって攻撃した。
ヒビキにとって予想外なのは、コウキのマニューラがあくのはどうを何度も耐えられるほど鍛えられていること。そして、コウキの様子が一変したのに気づいて攻撃を止めてしまったこと。
「…まあ、いいか。ゾロアーク!」
『グァァァ!』
ゾロアークがあくのはどうを放つ。そして、マニューラに向かって、攻撃しようとする。
だが、あくのはどうをマニューラが足で蹴り飛ばした。呆気ないほど、簡単に。
「はぁぁッッ!!?」
『ガァゥゥ!?』
よく見ると、コウキがマニューラと同じようにふらふらと身体を揺らしていた。それはとても奇妙で気味の悪いもの。まるでシンクロしているかのような動きを見せて、2人がヒビキとゾロアークに向かって顔を上げた。
その顔に、ヒビキは驚いていた。もちろんゾロアークもだ。
コウキとマニューラの瞳は、獣のように瞳孔が開ききっていた。ふらふらと揺れる身体は、まるで糸に吊られたマリオネットのよう。
「なんで…え、はぁ!?」
『グァァゥ…!』
「…ふひっ」
『マニュっ』
――――ところで、シンオウ地方には【シンオウ三大悪】というのがあるのをご存じだろうか。
これらは、カントー地方の問題児と同じように、とある押してはいけないスイッチが隠されている。
一人は【シンオウの災害】として、よくバトルフィールドその他もろもろを破壊するシンジというトレーナー。
そしてもう一人は【シンオウの騒音】として、よく騒ぎを起こしつつトラブルメーカーであるジュンというトレーナー。
そして最後の一人が、【シンオウの変人】として知られている研究者かつトレーナーであるコウキ。
「ふひぃ…ふっひゃっひゃっひゃ!!!痛みなんて快楽に変えれば誰でも極上の道具になるんだよ!!!!ひゃひゃっぁあーひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ殺してやるぁぁぁ!!!!!!!」
『マーニュゥゥゥ!!!!!!』
――――ドォォォォォッッッ!!!
「うわぁぁぁぁぁっ!!!!?」
『グァァァァァァッ!!!!?』
これは、コウキの押してはいけないスイッチをヒビキがその手で押した瞬間でもあった。