私はただのマサラ人です!   作:若葉ノ茶

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第三十話~腐れ縁は酷なもの~

 

 

 

 

クチバ湾の小さなカフェテリア。かなりお洒落な外観が人気の店にて―――ポケモン達が一瞬飛び上がるほどの叫び声が響く。

 

 

 

「誠に申し訳ありませんでしたぁぁぁ!!!」

『マァニュゥゥゥゥゥ!!!!』

 

「大丈夫っすよ本当!」

 

「いやでも…ほ、本当にごめんなさい!俺、ストレスが爆発すると完全にぶっ飛んじゃうみたいで…」

『マニュマニュ…』

 

 

 

ダイナミック土下座をしているのはあの奇妙な行動をしていたはずの人とマニューラ。冷や汗をだらだらと流し、今にも死んでしまいそうなほど顔が白い。

マニューラなんて爪で自害しそうなほどだ。

 

 

 

「いや、あなたはまだマシな方ですよ…問題なのはこいつなので」

「…ふん」

「おいシルバー!!今回は船の人が笑って許してくれたけどなぁ…また次なんてことあったら容赦しねえからな!!」

 

 

そう、船の人は笑って許してくれた。いや、笑ってと言うより引きつった笑いだった。あの新品だった船が今にも沈没しそうな中古品になってしまったんだから当たり前だよね。

というか、新生ロケット団なんて奴らを捕まえて一応の借りを作ってなかったら酷いことになってたはずだろう。私達の方がよく捕まらなかったと安堵するぐらいやらかしたんだシルバーは。

 

 

「シルバーもちゃんと反省しなさい!」

「そうだぜシルバー!土下座しろ土下座!!」

「ポケモンの技で船が壊れる程度の強度が悪いだけの話だ。俺はただバトルをしたのみだからな」

「ドヤ顔するな馬鹿!」

 

 

「ええっと…」

 

 

 

マニューラと一緒に土下座している人が苦笑して困っている。目の前で喧嘩されたら困るものよね…よし。

 

 

「あの、私ヒナって言います!あなたの名前聞いても良いですか?」

「ああうん。俺はコウキ…シンオウ地方から来たんだ」

 

 

コウキさんは土下座をやめ、私たちと対面している椅子に座って話してくれた。マニューラも近くにある椅子によじ登り、話に耳を傾ける。

 

 

「シンオウ地方からっすか!!何で?」

「休暇でこっちに…」

 

 

ヒビキがシルバーに噛みつくのをやめてコウキに興味をもつ。

シルバーはカフェテリアから出されたココアを飲んで優雅に過ごしているんだけど…あとで拳骨だからね。

 

 

「休暇っていうと、トレーナーじゃないとか?」

「俺はこれでも研究員なんだ」

「へえ!じゃあオーキド博士とか…シンオウ地方だと、ナナカマド博士と同じなんですね!」

「いや、あの人たちのような凄い研究をしているわけじゃないけど…まあね」

『マァニュゥ』

 

 

コウキさんは少し誇らしげな顔で笑っていた。マニューラも似たような顔で照れている。やっぱり手持ちだから同じような反応になるのね。

 

 

「…ほう」

 

 

シルバーが研究員という言葉に興味をもったのか、ココアを飲んでいたカップを机に置き、コウキさんを見る。

なんか嫌な予感がするけど大丈夫かな?

 

 

「休暇というと、何かの研究が一区切りついたとかか?」

「いいや、まだまだやるべきことはたくさんあるよ…なんせ、今のシンオウ地方は大騒ぎだからね」

「大騒ぎ?」

「ああうん。あ、そっか違った…大騒ぎといっても一部の人間たちだから気にしないで」

 

 

何かをはぐらかすようにコウキさんはコーヒーを口にした。マニューラでさえ視線をそっぽ向けているけど、何があったんだろう?

思わずヒビキやシルバーを見ると、彼らも興味津々といった顔で私を見た。

 

 

「あの…話しちゃいけないほどのことなんですか?」

「ああ、いや…その…」

 

 

「ヒナは、あのポケモンマスターであるサトシさんの妹だ。だから話してはいけないことなどないはずだが?」

「え、サトシさんの妹!!?」

『マニュッ!?』

「ちょっとシルバー!!」

 

 

反射的にシルバーのほうを見た。シルバーはコウキさんに見られないよう親指を上げてニヤリと笑う。本当にその顔面殴りたいんだけど。

あとヒビキ、あんたもよくやったって顔でシルバーの背中叩かないでよねまったく…。

 

 

「そっか…サトシさんの妹か…なら話しても大丈夫かな」

『マニュラァァ』

 

 

コウキさんはマニューラを見て独り言のように呟いていた。

これで責任を問われたとしても私は知りませんからね?いや、確かに興味はあるから…もしもの時はなるべく弁護するけどさ…。

 

 

「分かった話そう。だが、ここで話した内容は他言無用にしてくれ」

「わ、分かりました…」

 

 

神妙な顔で頷き、続きを話そうとする口をじっと見つめた。数秒ほど、戸惑っているのか何も喋らずにいたが、やがて話し始める。

 

 

 

 

「シンオウ地方には今――というか、現段階でアルセウスが統括しているような状態なんだ」

「アルセウス!?」

 

 

 

何故ここでその名前を聞くことになるのだろうか。アルセウスは、兄が唯一手を出すことのなかった存在だ。

どんな伝説であろうとも、神であろうとも殴りつけO H A N A S I(物理)をするのが当たり前の伝説のトレーナー。そんな兄を知るみんなの中であり得ないほど対等である、とても珍しい創造神。そのアルセウスがシンオウ地方統括とは一体どんな物騒なことになっているのだろうか。

 

ヒビキやシルバーも名前は知っているのか、ごくりと生唾を飲み込む。

 

 

 

 

「実はギラティナが世界から忽然と消えてしまってね。代打で反転世界を収めるついでにと、シロナさん…つまり、シンオウチャンピオンと交流してこうなったってわけ」

「いや、意味が分かりませんというか、ギラティナは!?」

「アルセウスは何も話してくれなかったみたいだけど、どうやら彼の頼みで何処かへ行ってしまったらしい。おそらく別世界にいるだろうと、ナナカマド博士は考えているよ」

『マニュ』

 

 

「なんか規模が大きすぎるんですけど!!!」

 

 

 

ギラティナといえば、兄から聞いた私たちと同じ転生者だ。

そんなギラティナが世界から消えてしまったことを聞いて一瞬焦ったが、アルセウスが頼んだということは、何かしらの用事で何処かへ行ってるのだろう。世界は数多くあることを私はイッシュ地方で学んだから知ってるし…。

 

それで、ヒビキとシルバーは真剣な顔で何してるのかな?

 

 

 

「なあシルバー…ギラティナって確か」

「ああ。ジョウト地方で会ったな…本では伝説と呼ばれるポケモンだったが。なるほど、アレがそうか」

「あんなのが伝説で大丈夫かシンオウ地方!」

「いや、ギラティナは世界の裏側を管理するポケモンと言われている…つまり、全ての地方で関係するということだろうな」

「それヤバイなマジで」

「っって!ちょっと待って!ヒビキとシルバーは何でギラティナのこと知ってるの?」

 

 

 

ポケモンではなく人間の姿に擬態してヒカリさんやアーロンさんと共に旅に行くことが多いギラティナ。

人間の姿だから彼から話さなければ普通は気づかないはずなんだけど。

 

ところがヒビキとシルバーは微妙な顔で話してくれた。

 

 

「前にジョウト地方でポケモンが盗まれる事件が続出してさ…そんときに俺のゾロアークとシルバーのチルタリスも盗まれたんだ」

「あの頃はまだ育成途中だったからな。チルタリスがチルットの時にボールごと盗まれた」

 

「そ、そんなことあったのね…」

 

 

 

呆気に取られてしまった。

ポケモンが盗まれる事件なんてことに巻き込まれるヒビキもそうだが、シルバーも意外と兄と同じでトラブルメーカーよねぇ。

 

 

「それで?何でギラティナと出会ったの?」

「いや、俺もゾロアーク…というより、ゾロアを助けに行こうとしたら青い服を着たお兄さんと綺麗なお姉さんに出会ってさぁ」

「ヒナは知ってるか?ルカリオを連れていて、ギラティナをよく殴りつける人とポッチャマを連れてよく呆れていた人なんだが…」

 

「…うん、お兄さんの方は私の師匠だから分かる」

 

 

――――――師匠何やってるんですかぁぁぁぁ!!!

 

 

心の奥底で叫んでしまいたいほどの衝撃だった。アーロンさんとギラティナがその事件に関わってるのかぁ…なら、もう心配はなくなったも同じよね。ヒカリさんがいれば騒動の少しは収まったかもしれないから、うん大丈夫なはず。

というか、師匠って兄と同類の人だし…性格が似通ってるのかな。

 

 

 

「えと、つまり、ギラティナがポケモンに変化してしまうほどのことが起きたけど、アーロンさんのお陰でゾロアとチルットは助かったということね」

「おおそうだぜ!よく分かったなヒナ!」

「いやまあ…うん」

 

 

 

何も言えず乾いた笑みを無理やり浮かべて視線をコウキさんに戻した。コウキさんは何故か唖然として私たちを見つめているけど、何で?

 

 

 

「あの、どうしたんですかコウキさん?」

 

 

「い、いや…流石はサトシさんの妹だなって思っただけだよ」

『マニュゥゥ』

 

 

 

兄の妹だからって理由がいるようなことなのだろうか?

思わず首を傾けて考えるけど意味が分からない。というか、私は驚くようなことなにもしてないよね?ヒビキとシルバーを見たけれど、彼らは諦めろというかのような顔で私を見た。

 

 

 

いや、本当に意味が分からないから!

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

カフェテリアでコウキさんに別れを告げ、来たのはポケモンジム。

 

 

…何故かジムの天井に見覚えがある穴があるんだけど気のせいよね。

 

 

 

「さて、誰から始める?」

「やっぱり俺からだろ!」

 

 

 

ヒビキが扉を開けて、「たのもー!」と声を出す。結構大きな声だから、ジム内にいたトレーナーやクチバジムリーダーは私達の方を見た。

クチバジムリーダーであるマチスさんは、声を出したヒビキを通り越して、私の方を見る。その顔は満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

「Oh!久しぶりだなリトルガール!」

「お久しぶりですマチスさん。えっと…今日はジム戦に来ました!」

「そうかそうか!ついに約束の時か!リトルガールもトレーナーになったんだな!!」

 

 

 

マチスさんはこちらに近づき、私の帽子越しに頭を撫でる。

なんというか、覚えててくれてとてもうれしい気持ちはある。でもヒビキの方をちらりと見ると、少々複雑そうな顔だ。

その顔を見たシルバーが問いかけてくる。

 

 

「どうしたヒビキ。いつもの憎たらしい顔はどうした?」

「憎たらしいってなんだよこの野郎。いや、まあ…いろいろあったことを思い出しただけ」

「いろいろ?何だ、何かやらかしたのか?」

「…聞くんじゃねえよ阿呆シルバー」

 

 

 

ヒビキの声にいつもの力強さはない。仕方ないことだとは思う。というか、こっちも複雑だ。終わったことだから何も言うつもりはないのだけれども…。

だってクチバジムに挑んだ理由って、ヒビキが私達を挑発したことがあったから。あの頃はヒビキも含めて私に対して反発しまくってたよね。うわぁすごく懐かしい気がする。リザードンやピチューの入ってるボールがゆらゆらと揺れているのも私と同じ心境だからなのかな。

 

当の本人は黒歴史ですと言いたいぐらい、マトマのみを食べたような変な顔してるけど。

 

 

 

 

「えっと…とにかく、最初はこのヒビキがジム戦するので、その後でいいでしょうか?」

「Oh!リトルガールのboyfriend?そこにいるRed hairの子は前にジムに挑戦してきたよな!」

「ボ、ボーイフレンドなんかじゃないっすよ!!」

「ヒビキ、からかってるだけだから真に受けないの」

 

 

 

HAHAHAと笑い声をあげるマチスさんに対して、微妙な顔のヒビキ。「赤い髪の子」と言われたシルバーは普通な対応してるのに、ヒビキってばなんか戦う前からテンション下がりまくってるけど大丈夫なのかな?

 

――――だが、マチスさんは不敵な笑みを浮かべてヒビキを直接見た。その視線はすべての生き物を硬直させるような、殺気に満ちたもの。

 

 

 

「俺は強いぞ。来るなら全力でかかってくることだな」

 

 

 

 

 

 

 

 









Q、ところで何でシルバーはコウキに敬語使わなかったの?


A、鬼ごっこに勝利してたら使ってたかもしれない。





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