私はただのマサラ人です!   作:若葉ノ茶

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第四十一話~現状は悪化中~

 

 

 

 

 

 

シロガネ山の頂上付近。傷だらけになり、太い木の枝を使って杖代わりにして山を登りきった少女がそこにいた。

 

 

「や、やっと…着い…たっ!!」

 

『ダネッ』

 

『チコォォ!!』

 

『プリッ!』

 

 

少女が倒れたまさにその時、フシギダネがつるのムチでチコリータとプリンが吹き飛ばされ、少女の腹に落ちていく。ぶつかった衝撃でうめき声を上げた少女であったが、チコリータとプリンが己のポケモンだと気づき、優しく撫でていった。

 

 

「お疲れさま…チコリータ、プリン…私は頑張ったぞ。お前たちも頑張ったんだろう…?」

 

『チ、チコリ…』

 

『プゥリ…』

 

 

ナイフ一本だけでここまで来るのに、少女―――――クリスはため息をついて先程までの苦行を思い出していた。

野生のポケモンたちには追われるわ、崖に落ちそうになるわで本当に死ぬかと思った。だが、確実にヤバいと言う局面では必ずファイアローやムクホークなどといった鳥ポケモンたちが助けてくれたため、自分一人でできること以外は手を貸そうとはしないのだろうとクリスは理解していた。この山を登りきるのは自分自身の力のみ。命に係わる事故などが起きないよう見張りはしていたけれど、大体は見守っていてくれていたのだ。

 

だからクリスは必ずやりきってやろうと気合を入れて登りきった。

ナイフに関しては、きのみを取り食べる際に使っていたが、それ以外は使用しなかった。ナイフは食事だけにしか使わない。ポケモンを傷つけるために使うようなものなんじゃないと登っている時に分かったのだ。まあ最初は走ってくるケンタロスの群れに対して恐怖でナイフを装備しかけたけれど、そのせいで余計に興奮したケンタロスによって吹き飛ばされたのは今となってはいい思い出であろう。

 

クリスは苦笑し、遠い目をしながら青空を見上げた。

 

 

「強くなる。強くなって見返してやる!!」

 

『チッコ!』

 

『プリ!』

 

 

『ダネダネ…』

 

 

一人と二匹が意気込みを口にしているのを見て、フシギダネは小さく苦笑し…そして柔らかく微笑んだ。

 

 

――――――そんな時だった。

 

 

 

 

「お、久しぶりだなフシギダネ!…サトシは来てないのか?」

 

『ダネ!?』

 

 

手を上げて爽やかに笑う青年にフシギダネは驚き近づいて行った。もちろんフシギダネだけでなく、クリス達を見守っていたはずのサトシのポケモンたちもだ。

 

 

 

「…誰だ貴様は」

 

「ああ、俺はタケシ!これでもポケモンドクターなんだ!」

 

「はぁ。そのポケモンドクターが何故こちらに…?」

 

『チコリ?』

 

 

「いやいや、ちょっとしたサプライズだよ」

 

 

 

 

――――そう言った瞬間、大きな機械が上空から出現し、眩しくて目を開けていられないほどの閃光が襲いかかってきた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

あはははは、私何をやらなきゃいけないんだっけ?

 

あーそうだよねリザードン。私はあの人のために戦わなくちゃいけないんだー

 

あの人って誰だっけ?やらなきゃいけないこと…

 

あ、そうだ。私はあの人を支えられるようなトレーナーになって強くならなきゃいけないんだよね

 

どんなバトルにも対応できるような強さを持ったトレーナーにならないとねー

 

だから、強くならないと

 

強くなってポケモンを皆進化させていっぱいいっぱい勝っていってたくさんのポケモンを集めてあの人のために戦わないといけないんだよ

 

 

私はあの人のために――――――――――

 

 

 

あれ、あの人って誰だっけ?

 

 

 

 

 

 

「ピカチュウ、10まんボルト!!」

 

『ピィカッチュゥゥゥゥゥッッ!!!!!!』

 

 

 

「いただだだだだっっ!!!!!」

 

 

 

 

大きな雷撃とともに頭がはっきりと目覚める。

少々髪が焦げて身体中が痺れてしまったが、おかげではっきりと視界がクリアになった。

 

 

私は今何を考えていた?何をしようとしていたの?

 

 

 

 

「お、お兄ちゃん…?」

 

 

 

周りを見ると、私と同じように地面に座り込んでいるシルバーとセレナさん。そしてちょっとだけダメージを負ったリザードンとチルタリスとミニルギア、そしてニンフィアがいた。どうやらピカチュウが相当な手加減をしていたらしい。

そのピカチュウも何故か頭に大きなたんこぶがあるんだけど…何やったのお兄ちゃん…。

 

 

というか、兄だけが仁王立ちしているんだけど何で無傷なの?

 

 

 

 

「頭は大丈夫かお前ら」

 

『ピィカ』

 

「え、ええ…大丈夫よサトシ」

 

『フィア』

 

「電撃でちょっと痛い思いしたけど…一応大丈夫」

 

『ガゥゥ』

 

『…ギャゥ』

 

「……くっ…今のは…」

 

『チル…』

 

 

「洗脳だよ。俺以外の皆が、《あの人のため》とか口走ってたんだよ。だからまず先にピカチュウの目を覚まさせるために拳骨落としてから電撃を放ってショックを受けさせたんだ」

 

 

洗脳と言われてゾッとした。

カガリと一緒にいた城で洗脳をされた時には、頭がボーっとした程度で済んだと言うのに、今の洗脳の強制力はものすごく強かった。何も考えられなくなるほど…いや、新生ロケット団のために働かなければならないということしか考えられなくなるほど強い洗脳の力が働いていた。

 

耐性なんてあっても意味はないと思えるほどの力だったのに……

 

 

 

「待って…何でお兄ちゃんだけ洗脳受けてないの!?」

 

「ああ。あの人のためーとかそういうのは頭に直接叩き込まれたけどな…でも俺は誰かの下に付くつもりないから意味なかったってことなんじゃねえのか?無理やり俺を従わせるくらいなら、まず俺を倒して敗北を刻ませてからじゃねーとな」

 

「ああうんそうだねお兄ちゃんなら余裕で下剋上とかしそうだね」

 

「さすがサトシね大好きよ!!」

 

『フィア!』

 

「セレナさんはいつも通りだね!」

 

「ああ…流石ですサトシさん!」

 

『チル!』

 

「シルバーまでボケなくていいから!」

 

『グォォ…』

 

 

 

まあつまり、ピカチュウはお兄ちゃんに従ってるようなものだから洗脳を受けちゃったけど、お兄ちゃんを洗脳するにはまずバトルでちゃんと勝ってお兄ちゃんより実力が上だってことを刻ませなきゃいけないってことかな。そうしないと…もしもお兄ちゃんが洗脳されても余裕でボスとか直接殴り込みに行きそうな感じがする。

強いトレーナーと戦ってバトルして勝ちたいって思うほどバトル狂だもんねお兄ちゃんは…。

 

 

 

「とにかく、今の光は洗脳の光ってことだよね?」

 

「ああ…しかもその方角がシロガネ山からだった」

 

「待ってサトシ。ということは…」

 

「ピカチュウが洗脳にかかったんだから…あいつらも…フシギダネ達もかかってる可能性が高い」

 

 

 

言われた言葉にギョッとした。

 

 

 

 

「いやいやそれヤバいを通り越してまずい!!だってお兄ちゃんのポケモンだよ!?しかも絶対ミュウツーとかラティ兄妹とかレックウザもいるよね!?そうなると伝説も洗脳を受けてるってことになるだろうし…それにお兄ちゃんのリザードンとかジュカインとかもいるってこと?!それ絶対にまずいから!!」

 

「いやジュカインならボールの中にいるぞ。あとピジョットとルチャブルとガブリアスとワルビアルな」

 

『ピィカッチュ』

 

「あ、でもリザードンはいないのね…うぅ…これ本当にヤバい状況だなぁ…」

 

『グォォ』

 

「そうか?むしろリザードンが反抗期になった時のような状況だと思えば楽しいだろ。また教育のし甲斐がある」

 

『ピ、ピカピカチュ…』

 

「それもそれでどうなのよ!」

 

『グォォォ…』

 

『ギャウ?』

 

「格好良いわサトシ!大好きよ!」

 

『フィア!』

 

「セレナさん…」

 

『グォォ』

 

 

 

ため息をついた私に対して、リザードンが肩をポンッと叩いて励ましてくれることにちょっとだけ涙が出た。セレナさんとシルバーってなんか似てるところがあるから、お兄ちゃんに対してのツッコミを期待するならヒビキしかいない。だから私が頑張らないと…。

 

そう思っていると、お兄ちゃんが楽しそうに笑いながらも、ジャケットの内側にいるモンスターボールを見せてきた。確かに6つ(一つはピカチュウ用だけど)あるのが確認できる。懐の一番左にある、小さくなっているボールから微かにジュカインがこちらをじっと見つめている様子がみれたため、洗脳もなく正常だということが分かった。

 

それを見て、シルバーが首を傾ける。

 

 

 

「…ボールの中にいるポケモンは洗脳を受けないのでしょうか?」

 

「その可能性はあるな。だが、トレーナーが洗脳を受けている以上、無事な方のポケモンがそのまま正常でいる可能性は低い」

 

「私達みたいに、トレーナーが異常だと察知してポケモンが攻撃をしたとしても?」

 

「セレナ、洗脳を受けた連中は皆ただ一心に新生ロケット団の支えになるために働こうとするが、それ以外の感情や言動は変わらないんだ。素のままだと錯覚するぐらいにな」

 

『ピィカッチュ!』

 

 

 

ピカチュウがうんうんとお兄ちゃんの肩で何度も頷いている。

もしもそうだとしたら、ボールの中に入っているポケモンはただトレーナーの夢がちょっと変わっただけで、いつも通りだと思い込み、そして普通に付き従っていくかもしれない。言動も表情も…そして性格でさえ同じなのだから。

でも、攻撃でどうにか洗脳から解放されるなら、ここら一帯に電撃か何かの攻撃をすれば皆もとに戻るかもしれないっていうのはやばいかな。

 

まあそれをするなら、まず新生ロケット団をどうにかすることが先かな。

 

 

 

「だから……ヒビキはああなったのか…」

 

「…大丈夫、シルバー?」

 

「ああ、大丈夫だヒナ。むしろあの脳内に花畑でも咲かせている馬鹿の目を覚まさせるためにも、余計に新生ロケット団をぶっ壊さなければと思い直したところだ」

 

『チルルゥ』

 

「う、うん…そうだね。これは本気でどうにかしなきゃだよね…」

 

『グォォ…』

 

 

 

やる気満々なリザードンを見て、そしてちょっとだけ眠そうなミニルギアの頭を撫でる。ミニルギアはひんやりとしていてすべすべな肌のせいで、撫で心地が良い。目を閉じて何も言わずに撫でられているミニルギアの表情と。その感触に少しだけ心が落ち着いた。

 

 

 

「…ねえサトシ、私マサラタウンに戻ってもいいかな?」

 

『フィア?』

 

「ああ、そうだな。母さんなら問題ないように思うが…ミヅキが心配だ」

 

『ピィカ』

 

 

 

ボールからピジョットを取り出したお兄ちゃんが、セレナさんをピジョットの背に乗せるために手を掴み支える。ピジョットに乗ったセレナさんの後ろに乗る形でお兄ちゃんとピカチュウも座り、こちらを見た。

 

 

 

「ヒナにシルバー。お前たちも来てくれ。今ここで別々に行動するのは危険だからな」

 

『ピッカ!』

 

『ピジョォ!』

 

「うんわかった。リザードンお願い!」

 

『グォォ!』

 

 

お兄ちゃんに賛同する形でリザードンの背に乗り、シルバーを見た。だがシルバーはチルタリスに乗らず、何故か首を傾けている。

 

 

 

「…ミヅキとは誰だ?」

 

「あとで説明するよシルバー。私もミヅキちゃんのことが心配だし…ほら、早くチルタリスの背に乗って行こう!」

 

「あ、ああ…」

 

『チル!』

 

 

 

 

 

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