やっぱりホウエン地方は平和である。
ホウエン地方のとある町のとある家。
その家のキッチンにて、炎が飛び交っていた。
ただし家に燃え移らないようちゃんと調節されており、かつモモンケーキの表面を焼け焦がすように熱していく姿はまさしく新妻。アチャモたんだった時は可愛らしくて小悪魔だったけど、今は最上級の天使。たまに炎が壁を焦がすだなんてことあるけど、アチャモたんを貰った時に家の壁紙を全部炎ポケモン専用の防火材入りになったから炎上することはない。
むしろ俺にとって壁をちょっとだけ焦がして『あ、やっちゃった…』というちょっぴり反省した顔がまさしくキュート過ぎて心にくるね!ドジっ子可愛いよワカシャモちゃんまじワカシャモちゃん!!!!
『シャモ!』
「あああワカシャモちゃんマジ俺の嫁!いつもありがとうワカシャモちゃん!!」
『シャモシャモ!』
「うわぁその笑顔良いね!さっそくネットに投稿しておくよ!!!」
写真を連打する俺の姿を慣れたように斜め四十五度で可愛らしく笑ってくれるワカシャモちゃんが本当に天使だ!!
しかもワカシャモちゃんが焼いてくれたモモンのケーキは本当に美味い!!どうやら現在このホウエン地方のカイナシティのカイナ市場――――つまり、ショッピングモールにある場所で一時的にやっていたルカリオカフェの特番を見て、ポケモンでもお菓子を作れるんだとイマジネーションが湧いたらしい。
ワカシャモちゃんも進化して手足が動かせるので、自分で好きなお菓子を作って食べたいという願いを叶えるためたくさん練習して作ったもんな。最初は失敗ばかりで黒焦げが多かったけど、今はおかわりしちゃうほど美味すぎるもんな。
流石はワカシャモちゃん!本当に俺の嫁になってほしいぐらいだ!!!
「ワカシャモちゃん。炎のジャグリングお願いしまーす!」
『シャモ!』
カメラを構え、動画を撮影する俺に対して自信満々にフッと笑ったワカシャモちゃんが、片手に大きな炎の玉を発生させる。そしてそれを二~三個増やしていき、天井スレスレまで投げてはキャッチを繰り返す。まるで小さな炎の踊り子だ。
このジャグリングもお菓子の時と同じように失敗して天井に穴を開けるばかりか二階の床までぶち空けたことがあったよな。それでしょぼくれてしばらく布団に引き籠って本当に可愛かった。精一杯慰めたけど、俺としてはどんなに失敗してもワカシャモちゃんと別れない限り絶望なんてないし、怒ることだってしないんだから気にしなくてもいいのに…。でも、ちゃんと何度も練習してジャグリングを成功させたときは最上級の笑顔を見せて俺に抱きついてきたから一瞬ヘブンが見えた。俺本当にワカシャモちゃんを幸せにするって覚悟を決めたぐらいだ。
「はぁぁ…ワカシャモちゃんマジ愛おしいよ…」
首に水玉模様の青色スカーフを巻いているから、とてもキュートで可愛い。フリフリがたっぷりはいったレースのエプロンも付けてジャグリングしてるから本当に可愛い。もう俺だけのワカシャモちゃんだからネットに投稿したくないけど、全世界に自慢したい気持ちもあるから仕方ない。
たまにネットで「お前何でコーディネーターじゃねーの?」とか、「パフォーマンス力あるんだからデビューしちゃいなYO!」とか意味わかんねえこと言われるけど、俺はこのままで十分だ!!!
―――――ドタドタドタドタッッ
「いい加減にするかもユウキ君!!!!!!」
『バシャ!!!』
キッチンの机で先程撮っていた動画をパソコンで投稿していた時に来た邪魔者師匠。
俺はため息をついてハルカさんを見た。
「うるせーよハルカさん。ってか何がいい加減にするわけ?ちゃんとハルカさんの言った課題は完璧にこなしたんだから…逆に褒められてもいいはずだろ?」
「何が完璧にこなしたのよ!あなたのアチャモは進化したくないって願望がなかったから進化させてって言ったけど……一歩も外に出ないで進化させろとは言ってないかも!!…というか、どうやって進化させたのよ?」
「別に進化する方法ならいっぱいあるもんな。な、ワカシャモちゃん」
『シャモ』
ワカシャモがにっこりと笑って冷蔵庫から取り出されたあのお菓子を見せる。
それを見た瞬間ハルカさんの顔が面白いほど変わった。この顔はたぶんハルカさんのファンに見せたら「貴重な一面いただきました!」って言われるか、「ハルカさんがそんな顔するだなんて!?僕もうファンやめます!!」って絶望するかのどちらかだな。
そう呑気に思っていたら、ハルカさんが肩を振るわせつつ少々低い声で言ってくる。
「ちょっと待つかも…何であなたの家にこんなに大量のふしぎなアメがあるの!?私でもこんなに持ったことないかも!!!」
『バッシャァ!!』
「ネットって偉大ですよ。アチャモたんファンの皆さんにふしぎなアメの提供を呼び掛けたらものの見事にいっぱい集まりました。ちなみにバシャーモに進化できるレベルであります」
『シャモォ!』
「ネットなんてクソ食らえだわ!」
「ハルカさん今の言動絶対にファンの人に聞かせちゃ駄目ですよファンがいなくなります」
「コーディネーターになろうとしないユウキ君に言われたくないかも!!!」
ネット文化万歳。何か困っていることがあったらすぐに助けてくれるフレンドに万歳。助け合い精神って本当に重要だよね!!
というか、貴重なメガストーンとかならまだしも…ふしぎなアメならばバトルリゾートのバトルハウスにて連戦連勝してるフレンドのトレーナーがいるらしく、そいつから「そうかい…バトル嫌いなアチャモたんを進化させなければならないんだね。正直、アチャモたんの成長のためにはならないが…分かったよ、手を貸そう」と言ってくれたことによって大量のふしぎなアメをゲットすることができたのだった。だから細かく言えばバトル大好きなフレンドに万歳なのだ。
あ、今ワカシャモちゃんが『フフッ、進化するならバトルしない方法を選んでくれたマスターが大好きよ!それにこれが一番いいの!』と笑って言っているように感じて、ちょっぴりドヤ顔したワカシャモちゃんのことをカメラで何度も激写した。さっそくカメラで投稿しなければ…!!
――――と思っていたら、ハルカさんが俺の頭をギュッと掴んで真顔で言ってくる。
「そうね、分かったわ……ユウキ君は本当に家から一歩も出たくないってことがね」
「ようやく分かってくれましたかハルカさん。あの、頭が握り潰されそうなんですけど痛い痛いッ」
「あなたのお母様からも頼まれてるの!私はあなたを立派なコーディネーターにするために外に出すってことをね!だから絶対に私はあきらめないかも!!」
『バッシャァ!!』
「いやだから痛いって言ってるだろ握力ケッキングかいだだだだだだだッッ!!!!!」
「ニートを卒業させるために!ユウキ君をこのままミナモシティまで連れて行きます!!!バシャーモ、ユウキ君のワカシャモをお願い!!」
『バシャァ!』
「嫌だァァァァ!俺は絶対に家から出ないからなハルカさんの馬鹿ァァァァァッ!!!!!」
「本当にいい加減にするかも!!!!!」
『……シャモ』
ワカシャモちゃんは一声、面倒そうにため息をついた音が聞こえてきたと言うのに――――貴重な一面を写真に撮ることができないだなんて全部ハルカさんのせいだ!!!