TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

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生存報告がてら…。
状況あまり進んでない…。

粗くて申し訳ありません。後で書き直したり消したりするかもです(汗)。


101.啓蒙

 ティアさんとアニスの二人は無事、厳重に守られたローレライ教団内部への侵入に成功した。

 さて、話の流れでモース様の中の人に緊急抜擢されたセレニィはその頃何をしていたのか?

 

 ここで教団本部最奥に位置する大詠師専用執務室に視点を移し、時計の針を少し戻してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わかった、わかりました。ここにいても良いですから」

 

 大きな溜め息とともに言葉を絞り出し、セレニィは白旗を()げた。

 相手は言わずもがな、モース様を思うあまりにちょっぴり融通が利かない男ライナー君である。

 

 極めて危険な場所に、尊敬する上司を一人残しておめおめと引き下がれるだろうか?

 否… 断じて否である。有り得ない。選択肢に置くことすら烏滸がましい。

 

 溢れんばかりの信仰心に芽生え始めた忠誠心、オマケに自覚させられた責任感。

 それらをいい感じに配合した結果、上司命令に真っ向からNOと言える部下が爆誕してしまった。

 

 その頑迷なる信念は、ついには絶対保身するマン・セレニィをも折れさせるに至る。

 

「お聞き届けいただきましてありがとうございます」

「……覚えてろよコンチクショウめ」

 

「? すみません、お声がよく聞き取れず。今、なにかおっしゃいましたでしょうか」

「いや、何も?」

 

 小声の悪態を聞き咎められたセレニィはすっとぼけてみせる。

 そのまま無言を貫く。……室内に沈黙の帳が降りた。

 

 その沈黙をどのように受け止めたのか、ライナーは咳払いを一つ行って朗々と言葉を紡ぐ。

 

「大丈夫ですよ、モース様。我々の信仰心ならばいかな漆黒の翼と言えど物の数ではありません」

 

 心なしか胸を張ってそう言ってのけるライナー。

 机の影に隠れているセレニィからは見えないが、その様子は彼女にとっても想像に難くはない。

 

 再度漏れ出そうになる溜め息を喉の中に飲み込んで、彼女はなんとか声を絞り出した。

 

「……そうだといいですね。それじゃあ仕事、しましょうか」

 

 満面の笑みを浮かべて頷くライナーと疲れ果てた仕草で両目を覆うセレニィ。

 重たそうな執務机を隔てた両者の表情は、まるで正反対だったという。

 

 いそいそと書類をめくり始めたライナーを尻目に、セレニィは暗澹(あんたん)たる心持ちに支配される。

 穏便にこの場から脱出するという試みは失敗に終わった。

 

 であれば、どうなるか? ……仲間からの救出を待つしかないだろう。

 

「(パーティの頭脳は人の心を持たないことに定評のあるドS… 私なぞ秒で見捨てるに違いない)」

 

 後ろ向きに全力疾走な思考回路からドSことジェイド・カーティスの行動を分析する。

 しかしパーティはジェイドのみで構成されているわけではない。ポンコツは思考を続ける。

 

「(ルーク様、トニーさん、ガイさんの常識人三銃士が取りなしてくれる… と良いなぁ)」

 

 思わず漏れ出る乾いた忍び笑い。希望的観測に縋るしかない八方塞がりな状況。

 そのことは他の誰でもない、セレニィ自身が一番自覚している。

 

 しかしそのまま座して死を待つほどセレニィは潔くもなければ仲間を過小評価もしていない。

 

 果たして、世界唯一にして二千年以上の歴史を誇る教団の奥深くに侵入できる者などいるのか?

 しかも普段ならばいざ知らず、何らかの非常事態により警戒が強まっているこの状況で。

 

 ……出来る。出来るのだ。

 

「(あの面子を舐めていたら命が幾つあっても足りないってモンですよ… 主に私のね!)」

 

 セレニィは誰に向けるともなく渾身(こんしん)のドヤ顔を決めてみせる。

 そして特に印象深い二人について思いを馳せた。

 

 オールドラントにて長い歴史を誇るキムラスカ・ランバルディア連合王国の国王の義弟であり軍を率いて数々の武勲を立てた元帥の私宅に単身乗り込み、預言(スコア)に言及されているが故に厳重に警護されていた筈の子息をピンポイントで掻っ攫って見事に姿を眩ましたナチュラルボーン・テロリストことティア・グランツ。

 和平のため導師に同行を願うという普通の目的遂行のために罪もないダアト市民にデマを吹き込み、挙げ句ローレライ教団内部で暴動騒ぎを引き起こして導師を回収した後は知らんぷりでダアトを去っていった人の心を明後日の方向に全力で投げ捨てている普通じゃない和平の使者ことネクロマンサーことジェイド・カーティス。

 

 ……お分かりいただけただろうか?

 ただ能力のみに優れるばかりでなく積み重ねてきた実績も抜群の二人である。面構えが違う。

 

 何故こんな歴史的事件の数々が惑星預言(プラネット・スコア)に示されなかったのか理解に苦しむ。

 それは飽くまで精神的には余所の世界の人間に過ぎないセレニィにとっては知る術もない。

 

 きっと始祖ユリアにもうっかりはあるのだろう。そう考えるしかない。

 ただ一つ言えることは、教団内部侵入は彼らにとっての不可能案件に該当しないであろうこと。

 

 憂慮すべきは「気分が乗らない」「面倒くせぇ」などの内的要因だ。能力的には充分すぎる。

 ……セレニィの胃とか周囲の被害さえ考慮しなければ。

 

 

 

 

 

 

 セレニィの胃とか周囲の被害さえ考慮しなければ! である。

 

「(……アカン)」

 

 来て欲しいけれど来て欲しくない。

 せめぎ合う感情。二律背反する強い思いからセレニィは涙目になって頭を抱える。

 

 ミュウがそんなセレニィの背中をよしよしと擦っている。

 そのおかげかセレニィも多少心持ちが楽なものになる。

 

 そして静かに、だが、深く息を吸い込むとそっと瞳を閉じた。

 

「(来てくれるならガイさんやアニスさんが来てくれますように… お願いします、神様)」

 

 脳裏に浮かんだ巨乳やドSの影を振り払い、セレニィは両手を合わせて真摯に神に祈る。

 一方その頃、ティアさんは衛兵をナイトメア(物理)してまんまと教団内部に侵入していた。

 

 現実は非情である。恐らく神はちょうど居眠りをしていたのであろう。

 

 

 

 ――

 

 

 

 セレニィの背筋を猛烈な寒気が襲う。いわゆる虫の知らせ、第六感というものであろう。

 

「さ、仕事仕事… と」

「はい、モース様!」

 

「お、良い返事ですねー。期待してますよー… もとい、期待しているぞー」

 

 彼女は猛烈に迫りくる嫌な予感から全力で目を逸らし、眼の前の仕事に心を切り替えた。

 何もできることがない以上はそれについて考えるべきではない。人は災害の前に無力なのだ。

 

 とはいえライナーの手から書類を受け取って、目を通したりするわけにはいかない。

 

 忘れられているかも知れないが、モース様(外の人)は暴漢(セレニィ)の一撃により昏倒中である。

 気絶している彼が動けるはずもない。それどころか下手に刺激を与えれば目覚めかねない。

 

 セレニィにとって今も昔も色々な意味でアンタッチャブルな存在、それが大詠師モースである。

 かといって中の人になっているセレニィが姿を見せて書類仕事を代行するなど以ての外だ。

 

 ならばどうするか?

 

「では書類を読み上げて、君自身の所感と意見を述べて貰えますか… 貰えるかね?」

「え? いやしかし、私の地位ではそのような権限は…」

 

「ランチタイム君も上の仕事を覚えても良い頃合いだ。まぁ、あまり深く考えずに気軽にね?」

「そこまで私のことを… 分かりました! ご期待に添えるように全力で取り組みます!」

 

「う、うん… 気楽にね? 気楽に」

 

 適当なおべんちゃらで持ち上げて、都合の良いようにその行動を誘導する。

 

 果たして狙い通りにはいったものの、どうやら薬が効き過ぎたようだ。

 若干引き気味になりながらも、ライナーの熱意に任せる形でセレニィは頷いた。

 

 セレニィにとってコレは仲間が来るまでの時間を稼げばそれでいいだけの話。

 ライナー自身が突っ走って話を続けてくれるならばそれに越したことはないと考えている。

 

 思わぬ効果が出てしまったが、これ幸いと乗っかりつつ適当に聞き流そうと心に決める。

 

「では、第八十九回セレニィ案件の報告についてですが」

「なんでさ!?」

 

「……はい? あ、あの今の声は」

 

 セレニィは思わず素の声で叫んでしまう。

 

 ミュウが慌てて口を塞ごうとするも、タッチの差で間に合わず。

 自分で掲げた順調な計画を自分の手で破壊する。……それは悲しいオウンゴールであった。

 

 しかし止めようとしてくれたミュウの存在で冷静さを取り戻せたのは大きい。

 彼(?)は遅かったかも知れない。間に合わなかったかも知れない。だが遅過ぎはしなかった。

 

 拳をキュッと握り締め、セレニィはリカバリーを試みる。

 

「あー… いや、うん。報告を続けてくれたまえよ」

「いやしかし… まるで女の子みたいな声が聞こえてきたような。それも机の影から」

 

「いいから。私だってそんな声を出してみたい時もあるんだ、多分ね」

 

 ライナー視点で無言で見詰め合うことしばし… 自分の心音がやけに大きく聞こえるセレニィ。

 そして一方でライナーは何を考えていたかと言うと。

 

「(……モース様の表情が読めねぇ! 今の一連の言動には一体どういう意図が!?)」

 

 さっきの“アレ”が、大詠師モース一流の質の悪いジョークであった可能性は否定しきれない。

 もはや声帯に喧嘩を売ってると言っても過言でない離れ業であったが、不可能と断定はできない。

 

 何故なら眼の前のこの男は持ち前の信仰心のみで花瓶を破砕せしめた男。

 不可能を可能にしてみせるとっておきの切り札を、1枚や2枚用意していてもおかしくはない。

 

 結果、彼は無難な選択をすることになる。

 

「えー… では、報告の続きをさせていただきますね」

 

「(よっしゃ、セーフ!)」

「(ですのー!)」

 

 即ち、見なかったこと・聞かなかったことにして話を続けることにしたのである。

 

 これにはセレニィも思わずガッツポーズ。

 ミュウと二人で小さくハイタッチをする運びとなった。

 

 そんな執務机の影で行われている二人のやり取りに気付くことなく、ライナーは報告を進める。

 

「出立前に申し付けられておりましたセレニィに関する啓蒙活動は順調に進んでおります」

「はて、啓蒙活動とな?」

 

「……モース様?」

「あぁ、いや。うん。その… 君の理解度を図るためのちょっとした確認のようなものだよ?」

 

「なるほど。そのような深謀遠慮が… 分かりました! ではご説明させていただきます!」

 

 張り切り「そもそも啓蒙活動とは」と一席持とうとしたライナーを「そこじゃねぇ」と誘導する。

 そして、相槌を打ったり細かい部分に質問を挟んだりして話を聞くことしばし。

 

 以下の点が判明するに至った。

 

 ・モース様はキムラスカで恐るべき邪悪の化身セレニィと対峙した! なんかもうヤバかった!

 ・ヤツによってキムラスカ貴族は洗脳されモース様は政治顧問の座を失う羽目になったよ!

 ・このままでは世界は邪悪の意のままにされてしまう! 善良なダアト市民だけでも守らねば!

 ・だから特殊機関を創設して日々セレニィの邪悪さを市民に啓蒙して回っているよ! やったね!

 

「(バカなの? 死ぬの? なんでこんなことに国家予算を注ぎ込んでるの?)」

 

 ダアトは金が余り過ぎた結果、日々金銭をドブに捨てる研究でもしているのではないだろうか?

 逆錬金術師じゃねーか。と、そんな益体もないことを考えつつセレニィは頭を抱える。

 

 ちょっとした悪戯程度だと思っていたが、その割りには市民の常識に浸透する期間が短かった。

 キムラスカでの謁見の間での出来事からの経過時間はオールドラント換算で一月も経っていない。

 

 ならばその無茶の帳尻合わせはどのようにして行ったのか?

 

「(ちょうどここにありましたね… うまい具合に金と人を持て余した世界一暇な組織が…)」

 

 泣きたい。笑うしかない。そして胃が痛い。

 

 イメージ戦略、情報戦… 古今東西様々な表現があるソレを否定するつもりはセレニィにもない。

 だが、国家プロジェクトでやることが、まさかのピンポイントでクソ雑魚の狙い撃ちである。

 

 無駄である。果てしなく無駄極まる国家予算の使い道である。そう、セレニィは強く確信した。

 自分が住んでる国家でこんなアホな税金の使い方をされたらエンドレスデモ行為も辞さない。

 

 敬虔なるダアト市民といえど、これをスルーするのはちょっと敬虔さが過ぎるというものだろう。

 

「(なんだってモースさんはこんなクソ雑魚なんかを過剰に憎んでやがるんですか。ちょっと自分が死にたくないからローレライ教団のやらかし一切合切全てをほんのり悪印象マシマシでモースさん個人に押し付けただけなのに! モースさんがそれらに慌てている隙にずっと私のターン発動してルーク様やイオン様という錦の御旗を利用しつつキムラスカ貴族の皆さんの印象操作をして破滅に追い込んだだけなのに! 子煩悩って情報のあった王様のパーソナリティを利用しつつ公私両面で揺さぶりつつあることないこと吹き込んでモースさんという存在に激怒させただけなのに! むしろ失脚で済んだことを感謝してくださいよ! 出来れば止めを刺したかったのに、クソがぁ! なのに何も悪いことしてない私個人を逆恨みしやがって… 畜生、なんて大詠師だ!)」

 

 恨まれて当然、殺されて当然の何処に出しても恥ずかしい鬼畜行為のオンパレードである。

 こんなことを初対面の人間に出会い頭に仕掛けられれば聖人だって助走つけてぶん殴るだろう。

 

 むしろ顔を合わせた瞬間、即座に光り物を抜き放たなかっただけモース様有情まで有り得る。

 悲しいかな、捕らえようとしたところを花瓶で頭をぶっ叩かれ昏倒する羽目に相成ったが。

 

 セレニィは逆ギレによる怒りとストレス、そして胃痛から目を逸らすため自らの親指の爪をガジガジ噛み続けている。

 そんな彼女の様子を心配そうに見詰めながらオロオロしているミュウの存在はこの場における一服の清涼剤と言えるだろう。

 

 しかし、微動だにしないモース様(外の人)の表情が読めないライナーは更に燃料を投下する。

 

「さらなる活動継続と活動範囲の拡大のために追加予算の申請をしているようですが…」

「ほほう… ほう、ほうほう。君の意見は? ライナー君」

 

「そうですね… 彼らは充分以上に任務をこなしています。私の中ではアリなのではないかと」

 

 プツリと頭の中で何かがキレる音がする。セレニィは花も綻ぶような極上の笑顔を浮かべる。

 そして不安に表情を青褪めるミュウの姿を視界の隅に捉えつつ、大きく息を吸い込んだ。

 

 一瞬の後に蓄積された不安とストレス、怒りやその他諸々の感情を解き放つように彼女は叫ぶ。

 

「アホですか! 即刻潰してください!」

 

 まるで予想外の言葉を聞いたとばかりにライナーの表情が驚愕に彩られた。

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