TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー 作:(๑╹◡╹)ノ
「えー… セレニィのヤツ、街に出ていったのかよー? 折角土産持って帰ったのによー」
タルタロスの中でタトリン夫妻から説明を聞いたルークが声を上げる。
とはいえ、目立った危険もない街だ。
軽く観光をしてくる程度ならば問題ないだろう。
セレニィも一晩を外で過ごすことなくちゃんと帰還する程度の良識は備えているはず。
逆に戻らぬようであれば、なにかトラブルが起きた可能性が高いこととなる。
そう考えたトニーが、ティアの姿がないことに気付いてルークに続く形で夫妻に尋ねた。
「どうやら行き違いになってしまったようですね。……ティアはこちらには?」
そこにタトリン夫妻ではなくガイが返答をする。
「あぁいや、ティアはセレニィに付いてるらしいぜ。途中、アリエッタが見たってさ」
「おや、そうなのですか? アリエッタ」
「ん。高い民家の壁に貼り付きながら気配を殺しつつじっと眼下のセレニィを見守ってた」
「………」
ヤモリかな?
純真無垢なアリエッタの証言を聞いた一同に沈黙の帳が降りる。
ガイはアリエッタの発言を軽く聞き流していた自分の楽観論をちょっぴり後悔した。
悲しいことにティアさんはたまに人間をやめている。
……別に今に始まった話ではないが。
心ある民間人に通報されていないことを切に願う。
あるいは見事に逃げ切っていて欲しい。仲間と思われたくないから。
仲間たちの心がしょうもないことで、今、一つになった。なってしまった。
そこに咳払いを一つ、ジェイドは眼鏡のブリッジを直しながら言葉を続けた。
「となると、ひとまずセレニィの身の安全は担保されていると考えて良いでしょう」
「確かに。導師守護役のアニスちゃんから見てもティアの動きはトーシロじゃないね!」
「えぇ、ティアならばグランコクマでセレニィを救出した実績がありますもの!」
アニスとナタリアによる補完に一同も頷いて見せる。
一同もティアさんの常識認知度は疑っているが、その実力そのものは疑っていない。
六神将クラスの実力者相手でもなければそうそう遅れを取ることはないはずだ。
六神将筆頭格のリグレットさんを大規模攻撃譜歌で追い回していたことは記憶に新しい。
……嫌な事件だったね。
マルクトでも突然消えたと思ったらチンピラからセレニィを救って帰還したのだ。
彼女が守る限りセレニィに直接的危害が及ぶ可能性は限りなく低いと見て良いだろう。
まぁ帰還した際にセレニィがぐったりと疲れ果てていることが大半だが、さておき。
「救出する際に流れで皇帝陛下もぶっ飛ばしていたらしいですが、きっと大丈夫ですわ」
「はい、ピオニーは頑丈ですからね。その程度は些細な犠牲と目をつぶりましょう」
「良かったです。セレニィが一人で出歩いているようだと心配でしたがティアもいるなら」
ナタリアがそう太鼓判を押せばジェイドとイオンも笑顔でそれに続く。
……ティアさんに限らず旅の仲間たちの倫理観も良い感じに壊れているのであった。
「そこは気にしましょうね? ……あー、では、ひとまず一晩まで待つということで?」
キリキリと胃を痛めながらトニーがそう纏めると、仲間たちも異論なく頷くのであった。
がんばれ、トニーさん。負けるな、トニーさん。
パーティ唯一の常識人としてメンバーの面々をこれからも見事正道へと導くのだ。
セレニィ?
ヤツはこの世界の倫理的規範たるローレライ教団に牙しか剥いていない狂人ですが何か?
「いや、俺がこれから二人を探してくるよ。アリエッタの話を聞き流した引け目もあるしな」
「いいのか、ガイ?」
「あぁ、みんなは艦で待っててくれ。またこうやって行き違いになったらコトだからさ」
しかし、ここでパーティの良心・ガイさんが待ったをかけます。
やったね、トニーさん。
比較的マトモな常識人が増えたよ。
やったね、セレニィ。
狂犬と死神に囲まれてる現状だけれど比較的マトモな常識人が救援に来るかも知れないよ。
……さて。
そんな狂人セレニィと狂犬ティアさん、あとついでに死神ディストさんへと場面を移そう。
「まず、結論から言おう。28号… お主を造ったのは『世界を救うため』じゃ」
「はえー… 世界ですか。これはまた大きく出ましたね、ファーザー」
「うむ。どうじゃ? 誇大妄想に取り憑かれた老人の戯言と思ったのではないかね?」
「……まぁ、正直なところちょっぴり」
「く、く、く… 正直で良い」
スピノザは愉快そうに喉奥を揺らして笑う。
彼にとって理解を得られないことは想定通りの反応であった。
しかし、同時にセレニィに席を立つ気配もない。
まだ自分の話を聞く姿勢を保っている。
あるいは、『これで話が終わりではない』ことを理解しているのだと伝わってきた。
それが彼にとって何より嬉しいことであり、また、奮起を促す姿勢でもあった。
「この世界を『滅び』が蝕みつつあること、これは紛れもない事実じゃ」
「……ひょっとして、『瘴気』のことですか?」
「ほう。知っておったか」
片眉をあげて反応を示すスピノザ。
老博士の皺の深い顔立ちに、今度はハッキリと驚愕の皺が刻まれた。
このオールドラント全域に蔓延しつつある瘴気蝕害の脅威。
その事実は世間一般に厳に伏せられているというのが実態である。
自分のように『深く知り過ぎて教団に囲われた』一部の学者か、さもなくば…
──『アクゼリュス』の一件から深読み出来る一部の天才しか辿り着け得ぬであろう真実。
それくらいに、一般人には『瘴気蝕害』という滅びの足音は認識されてないのだ。
自身の持つ情報の価値を知ってか知らずか、セレニィは頷きながら補足する。
「えぇ、縁があって六神将のみなさんとパッセージリングの調査に同行した時に」
「なるほど、パッセージリングまで知っておったか。……ネイス博士とはその縁で?」
「まぁ、そこは当たらずとも遠からずといったところですかねぇ…」
本当はもっと前から『心友』だったりしたが、それを言っても脱線するだけだろう。
肩をすくめてセレニィは曖昧な笑顔でそれを濁した。
パッセージリングとはこの『世界』を支える支柱。
今より進んだ『先史文明』期の技術によって造られた譜業技術の粋とも言える装置である。
当然、二千年以上も昔に作られたソレには様々な意味で限界が訪れつつある。
むしろ今日まで持ったことこそが一種の奇跡なのかも知れない。
ザオ遺跡でのことやアクゼリュスの『崩落』を思い出してセレニィは背筋が寒くなった。
「後は色々とありましてユリア・シティにも足を踏み入れましたからね」
「ほう、
「あそこは街の外全部が瘴気で覆われていますし、嫌でも目についてしまいますしねー…」
苦笑いを浮かべるセレニィに深く頷くスピノザ。
一般人が大地と信じているその場所。
それらは真の大地からせり出したパッセージリングに支えられた仮初の陸地に過ぎない。
そんな中で『本来の地上』に存在するユリア・シティはこの世界唯一の例外である。
ユリアの加護なる結界によりなんとか生存圏を維持できているものの、本来外は死の世界。
彼の地に足を踏み入れてその全てを見てきたのならば実感として理解しているだろう。
(……そう、この星が既に破綻を迎えつつあるという厳しい『現実』に)
スピノザはこの真実に触れられた数少ない人間の一人であった。
そう、星の中心部には生命が生存できないほど濃密な瘴気が千年単位で渦巻いている。
それはユリアがいた時代から今日に至るまで二千年間、減ることなく増し続けたのだから。
彼は訴えた。
世界を救うために叡智を結集すべきであると。
しかし、理想は裏切られた。
彼の焦燥は、信じることすら恐ろしい真実は、ただの狂人の戯言と一蹴されたのだ。
世界の裏側に気付いている者にとっては公然の秘密であっても。
その警鐘は、多くの人類にとっては『早すぎた』のであった。
それがため、シェリダンはもとよりベルケンドでも浮いた存在となり孤独を強いられた。
「では、『世界を救う』というのは『瘴気蝕害問題』を解決するということですか?」
「然様じゃ。ほんにおまえは賢い子じゃのぅ、28号よ」
「けど、具体的にどうやって? アクゼリュスの時ですら根本的な対処は見込めなくて…」
セレニィの質問に対して、スピノザは明確な答えを示さない。
ただ、正しい手順を追うように質問を返すにとどめた。
「瘴気を打ち払うためにどのような手順を求められるか、28号、君は知っているかね?」
「え? いえ、それは…」
「── 第七音素をぶつけることです」
答えを知らず言い淀むセレニィ。
其処にもう一つの声が割って入った。
ディストである。
流石に一般的ではない知識をセレニィに求めるのは酷であろう。
そう思っての助け舟であった。
咎めるようにスピノザを軽く睨めば、申し訳無さそうに頭を掻く老人の姿があった。
特段気に留めることなく、セレニィは頬に指を当てながら言葉を紡いでゆく。
「第七音素… ティアさんやナタリア様が扱える回復効果をもたらす音素、でしたっけ」
「えぇ、その第七音素です。そして微量ながら瘴気を『中和』させる性質を持ちます」
「うむ。『消す』でも『弾く』でもないその『中和する』性質にこそ儂は注目したのじゃ」
話題の中心は、いよいよ『核心』へと移りつつあった。
ディストが今日ここを訪れた目的の一つにはスピノザの研究資料の回収があった。
そしてもう一つ、『勝手な行動の目立つスピノザの真の目的を探ること』もあったのだ。
おかげで第二の目的も、心友のおかげで期せずして果たせる。
ディストは内心で幼馴染であるセレヌィ*1に感謝しながらも言葉を続けた。
「しかし、第七音素譜術師は極めて希少な存在。しかも瘴気を祓うほどとなれば…」
「はい、始祖ユリアか最低でも彼女の子孫でもなければ現実的ではないでしょう」
第七音素譜術師は謎多き第七音素『ローレライ』を扱う本来希少な存在なのだ。
だからこそ、そうであると判明しただけでローレライ教団に就職可能となる勝ち組だ。
1つのパーティにティアさんとナタリアという二人がいることがおかしいのである。
しかし、それでも瘴気多き世界の弊害故かはたまた別の理由故か。
存在が確認されている第七音素譜術師は揃って出力に問題があることが多い。
蔓延する大量の瘴気を相手に第七音素譜術師を以って世界を救うなど到底現実的ではない。
頭おかしい出力で脳筋でブッパするティアさんとナタリアがおかしいだけなのである。
苦悩の皺を額に浮かべ、首を左右に振りながらため息とともにスピノザは続ける。
「しかし、ユリアの子孫など本当にいるものか… 絶滅していても不思議ではない…」
「………」
「いや、そもそもユリアを実在の存在とする証拠すら未だ発見されていない始末…」
「………」
「む? いや、失礼を。仮にも教団所属のネイス博士に語ることではありませんでしたな」
追従の愛想笑いを浮かべるスピノザに合わせて同じく誤魔化し笑いを浮かべるセレニィ。
(いや、いますけどね? ユリアの子孫。……あなたの目の前に、私の隣に)
ティアさんの特級危険人物っぷりに内心で頭を抱えそうになる。
この人、教団に突き出せばお金貰えたりしないかな?
……ダメだ、そもそも教団所属だったわこの人。
というか賞金首にされてたので教団に顔を出したらまず自分が捕まるわ。
(ガッデム! ちくしょうめぇー!)
笑顔を作ったまま、セレニィは内心で力いっぱい床を叩いていた。
そんなセレニィの隣でユリアの子孫ことティアさんが我関せずとお茶菓子を食べている。
もっ、もっ、と口いっぱいに頬張って食べている。(顔だけは)可愛い。
呆れの色を含んだ目で見詰めていると、ふと目が合った。
「セレニィ、おかわり」
「今大事なお話してるんですからちょっと黙ってて下さいよ。ドライフルーツあげますから」
「食べさせて」
「はいはい。あーんしてくださいねー…」
「あーん」
「お主ら、仲いいのぉ…」
「時にファーザー」
「おん?」
「例えばこの大きな16歳児がユリアの子孫ですよって言ったらどうします?」
「く、く、く… なんじゃ、28号は冗談も一流じゃなぁ? 流石にそれは信じられんわい」
「ですよねー。ごめんなさい、ふざけた
はぁ… と、大きなため息を吐くセレニィ。
ごめんなさい。こんなのがユリアの子孫で本当にごめんなさい。
セレニィは誰とも知れないこの世の全ての存在にティアさんの残念さを謝るのであった。
そこにディストが咳払いを一つ、ティアを庇いつつの話の軌道修正を試みる。
「ならば貴方の研究とは、第七音素に関することでしょうか」
「ほっほっ、確かに良い着眼点ですな。然様、第七音素には未だ多くの謎が残されている」
「ですね。……そもそも、何故第七音素にのみ瘴気を中和する力があるのか」
「毒素を消すなら火を司る第五音素で良いはず。燃焼が必要なら第三音素を足せば良い」
「確かに一般的な毒素なら火の第五音素と風の第三音素で充分事足りるでしょう」
ディストの言葉に、スピノザも『理解』を示しつつ会話に応じる。
しかし、推測への『同意』には至っていない。
(なるほど… 未だ『明言』しないそこにこそスピノザという人間の『核』がある、と)
ディストは確信した。
恐らく本来の予定通り自分一人で訪れていたら、はぐらかされて終わっていたであろう。
セレニィという彼にとっての『娘』がいてこそ初めて明かされる真実なのだ。
そこにセレニィが無邪気に声を上げる。
「ならばファーザー! ズバリあなたのすっごい研究とはどのようなものなのですか?」
そんな彼女の言葉に相好を崩して笑みを浮かべるスピノザ。
「く、く、く… 知りたいかね? 28号」
「もう、じらさないでくださいよ。世界の滅びに抗う命題ってことなんですよね?」
「うむ、察してくれて嬉しいぞい」
「じゃあ、具体的な手段こそがファーザーの本領発揮ってことじゃないですか」
「まぁ、そうなるかのぉ」
「気になります。ディストさんも気になりますよね? ね?」
その笑みは意欲旺盛な生徒を対する教師のものか可愛い孫娘を見遣る老人のものか。
いずれにせよ、良い意味でスピノザに作用したことは疑いようもない。
(こういうところが本当にセレヌィの強みですね。上手い具合に学者心をくすぐってくる)
知の探求者など一部の例外を除いて語りたがり・教えたがりの人間が多いのだ。
まして教団の紐付きとなればある程度プレゼンテーション能力も求められる立場である。
問われれば自身の理論、研究意義の正しさを証明するため解説したがる人種なのだ。
無論、あまりに理解の悪い凡人相手には苛立つこともあるかもしれないが…──
しかし、セレニィは戦闘能力はゴミカスながら頭の回転や理解力は悪くはない。
そして自分を下に置き、他者の虚栄心をくすぐるおべっかは得意中の得意分野なのだ。
結果、スピノザのような研究者特攻として機能する。……ディスト特攻としても機能する。
「えぇ、セレヌィ。……私も気になりますね、是非お聞かせいただきたい。スピノザ博士」
当然、ディストも乗ってきたとなればスピノザ博士からしても口を閉ざす術はなかった。
なんせスピノザから見たディストは世界的譜業技術の権威・ネイス博士なのだから。
……悲しいことにオールドラントの機密意識、そのガバナンスは割りとガバガバであった。
お陰でセレニィのような口八丁の小悪党が今日まで暗躍できてきた訳であるがさておき。
「さて、第七音素とはそもそもなんじゃと思う?」
斯くしてスピノザは厳かな気配すらまとって語り始めた。
「先史文明の譜業技術の弊害で瘴気が溢れ世界は滅びの危機に瀕した。……今のように」
それはセレニィもジェイドからかつて学んだ基礎教養の一つである。
ディストも小さく頷いている。となれば訂正する必要もない事実ということ。
「えぇ、其処に第七音素を操る聖女ユリアが降臨し世界を救って回ったんですよね?」
「うむ。ツッコミどころは多々あれどそういうことになっておるな?」
スピノザとセレニィが互いに眉に唾をつける仕草をしながら苦笑いを浮かべる。
教団のプロパガンダをそのまま信じるほど素直な性格をしていないのはお互い様であろう。
ディストは小さくため息を吐きながら肩を竦める。
一応教団の職員ではあるが、心情的には二人寄りであったために明確な反論はしない。
「何故じゃ?」
「はて? 『何故』、と言いますと?」
「先史文明に今より遥かに進んだ譜業技術が存在したことは数々の物的証拠からも明らか」
「……まぁ、パッセージリング一つとっても今の技術での再現は困難でしょうね」
ディストがそう補足すれば、セレニィも納得の表情を浮かべ「確かに…」と呟いた。
しかし、本題に入っていない。
それに気付いているディストは視線でスピノザに続きを促す。
スピノザは一つ頷いて言葉を続けた。
「何故、そんな『進んだ時代』でユリアがもたらすまで第七音素は確認されなかった?」
「……あっ!」
「コレは大きな矛盾じゃ。宗教という価値観が、この当たり前の疑問から目を逸らさせる」
確かにそのとおりだ。
ユリアがチーグルに第七音素譜術を授けられて云々という神話を無視するにせよ、だ。
──『それまで先史文明に第七音素は発見されていなかった』のは事実なのだろう。
もし発見されていたのであれば、先史文明ならばある程度の対処は試みられたはずである。
しかし、結果はどうだ?
少なくとも神話では何も出来ずにユリアに縋り、新天地に逃げ込む姿が記されている。
それは、ユリアの価値を相対的に引き上げるために矮小的に描かれた結果かもしれない。
しかし今日に至るまでの数々の傍証が一定の歴史的真実を担保しているのは疑い難い。
「儂の仮説はこうなる」
「………」
セレニィも、ディストも息を呑んだ。……ティアさんはドライフルーツを喉に詰まらせた。
「第七音素とは、この世界が生み出した『星の抗体』である」
「───ッ!?」
その場に衝撃が走る(お茶でドライフルーツを流し込んでるティアさんを除いて)。
……なるほど。
第七音素とは、世界あるいは星が危機に瀕して初めて発現する存在… 『抗体』である。
それが事実と仮定するならば先史文明において長らく発見されなかったのも筋が通る。
それは誰にとっても『その時』が来るまで観測し得ない『未知の概念』だったのであろう。
……しかし、それは仮説というには余りにも乱暴で荒唐無稽な憶測に過ぎなかった。
少なくとも、スピノザ自身はそうと確信しているにせよ、である。
余りにも衝撃的な仮説をぶつけられ、額に汗を滲ませながつつディストが問いを投げる。
「……論拠は?」
「『
間髪入れずスピノザが返す。
──『
一部の素養ある第七音素譜術師のみ知覚し得る『星の記憶』を刻んだ譜面である。
そして預言は、人類がその意味を汲み取れ得るように刻まれる。
……一体、誰から?
そもそも何故、人類が受け取れるように刻まれるのか?
関連する研究者ならば誰しも一度は抱き、そして、理解を放棄する疑問。
それに対してスピノザは真摯に、そして狂的な執念で向き合い続けたのだろう。
「……つまり、あなたは『第七音素』とは『人類へのコンタクト』であると?」
「然様。であるが故に、儂は動き出した。動かねばならぬと思った」
「馬鹿げているッ! それはあなたの妄想に過ぎませんッ!」
「妄想で結構。その時は愚かな爺が残り僅かな人生を浪費したと笑われるまでのことよ」
「………」
ディストをして黙らせるほどの真摯な瞳には、鋼の如き揺るがぬ意志が満ち満ちていた。
それを正面から見ていられなくなったディストは眼鏡を直しながら呻くように言葉を返す。
……まるで、視線を逸らすかのように。
「……それと、セレヌィに一体何の関係があるというのですか?」
「知れたこと。彼女には『橋渡し役』になって貰う必要がある」
「……橋渡し役? 一体誰と… ッ、まさか!?」
「然様、御賢察の通り第七音素を司るとされる存在『ローレライ』じゃよ」
そんな話を脇で聞きながらセレニィは「えぇ、面倒くさそう…」と考えていた。
交渉は比較的得意であるが別に好きではない。むしろ胃を痛め続けるので嫌いまである。
絶対やりたくないでござる。セレニィは拳を握りながらそんなことを考えていた。
そんな屑の内心を余所に二人の天才の会話は続いてゆく。
「しかし、セレヌィはローレライの同位体ではない。その適性も限りなく薄いはず」
「ほう? まるで他にローレライの同位体を御存知かのような口振りですなぁ」
「ぐっ!?」
「てっきり、『伝説上の概念に過ぎない』と切って捨てられるかと思うておりましたが…」
「………」
「ま、良いでしょう。それを突くのは余りにも無粋というもの。今は忘れましょうとも」
会話の主導権はスピノザにあった。
悔しげに歯噛みするディストと他人事のようにそれを見守るセレニィとティアさん。
そこで空気を読まないセレニィが気楽に口を挟んでくる。
「それでファーザー。結局、私は何のために造られたんです?」
「……おぉ、すまんすまん。28号には退屈な話じゃったな」
「いえいえ、聞いてる分には楽しかったですよ。でも結論を知りたいのも子供心でして」
「うむ。すまんかったな、年寄は話が長くての… では、結論を述べよう」
「『世界を救うために』ってのはナシですよ? それはもう散々聞いたんですから」
苦笑いで釘を刺せばスピノザも苦笑いで頷きつつ、咳払いの後に口を開いた。
「28号、お主は宇宙より飛来した隕石の技術で造られた存在じゃ」
「……は?」
「そう、あの日儂は音譜帯より落ちてきた譜石を確認するため現地を訪れていた」
「……いや、ちょっと」
「現地の警護に賄賂を渡し、時に眠らせ現場に突撃した時に目にしたのは…」
「……いやいやいや、それ犯罪行為」
「なんと、全く未知の星系のモノと思しき技術が記された『宇宙の遺産』だったのじゃ!」
「な、なんだってー!?」
つい叫んでしまったセレニィ。
そのノリの良さがスピノザの熱弁に火を点けた。……点けてしまったのだ。
「儂は狂喜乱舞した。この世界は未知で満ちておる、と。……駄洒落でないぞ?」
「いや、それは心底どうでもいいんですけど」
「始祖ユリアにもたらされたファースト・コンタクトは失敗に終わった」
「いや、人の話聞いてます? おい」
「人類は無為な二千年間を過ごした。星の抗体の力は及ばなかった。では外宇宙ならば?」
机を叩き、熱の籠もった瞳でスピノザは弁を奮う。
セレニィは嫌な予感がした。
こういう目をした人間にはロクなヤツがいない。経験則からの悲しい判断であった。
「儂はそのままソレを抱え自分の研究室へと飛んだ。一刻も早く研究したかったのだ」
「盗掘&略奪じゃねーですか!?」
「そしてその未知の星は驚くほど儂らの世界と酷似した問題を抱えていることが分かった」
「いや、聞けよ? 聞いて下さいってば! ツッコミが追いつかねーですから!?」
「記された内容に燦然と輝く『世界■の守護者ディ■■ダー』なる存在」
「■■ってなんですか? 叫んでるの? ハハッワロス」
「分からぬ。掠れて読み取れなかった… 儂は『ディバイダー』と解釈したが」
「聞こえてんじゃねーか!? なんでそんなどうでもいい質問だけ拾ってんですか!?」
「ディバイダー… 『区切るもの』ですか。セレヌィの事績を考えれば言い得て妙か」
思えば我が心友は物事を区切り、整理し、立ち向かうのが殊の外に得意であった。
敵味方の区別なく手を差し伸べ、言葉を尽くし、努力して隔たりを埋めてきた。
それは曖昧に任せたままの『惰性』では得られなかった一つの成果であろう。
無論、その性質がそのまま彼女の成立に由来するものではないだろうが。
しかし、そのような『願い』を抱いて生まれてきた心友の在り方を誇らしく思ったのだ。
ディストは目頭を押さえながらも胸に宿る熱い想いにただただ感じ入るのであった。
(── ダメだ、コイツら人の話を聞いちゃいねぇ)
セレニィは頭を抱えた。
あとディストさんや、なんでそこで乗っかりやがったんですか? 縁切るぞ、心友。
「そうと決まれば儂の結論は早かった。早速この世界が誇るレプリカ技術の研究と…」
「なるほど、その未知の星系の技術を組み合わせた全くの新技術を編み出そうとしたと?」
「然りじゃよ、ネイス博士」
「では搭載されたその機能とは…」
「うむ。瘴気を吸収し体内で分解・整理しながら蓄積し続ける機能を持った新人類」
「やはり! 我が心友セレヌィはそのような希望を背負って生まれてきたのですねッ!」
まさに同じ穴のムジナ。
未知の新技術を使った研究成果に、そして己が心友の特別性に。
根は研究者のディストは徐々に頬を紅潮させ大いに興奮し始めた。
しまいにはスピノザと肩を組んで高笑いを始める始末。
セレニィは世界中の瘴気を集めて集積する。
無論、そのままだと破裂してしまうのでそこを第七音素譜術を扱い中和させる。
これがスピノザの考えた『世界救済計画』の概要であったのだ。
なんと素晴らしいことか。
ディストは感動した。己が『心友』が世界救済の立役者となるのだから。
スピノザも感動した。孤独な己の研究を理解する叡智に恵まれたのだから。
そんな彼等を見たセレニィは静かに笑顔を浮かべた。
「……ティアさん」
「なぁに?」
「あの二人、懲らしめちゃって下さい」
「ユリアビーム」
「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」」
ティアさんの必殺の譜歌『ジャッジメント』こと通称『ユリアビーム』が二人に炸裂した。
絶叫がレゾナンスして響き渡る。
二つの黒焦げな何かが床に倒れ伏した。
セレニィは何処か清々しい表情で満足気に頷いてから口を開いた。
「さぁ、帰りましょうか! 仲間たちのもとへ!」
「えぇ!」
そのままスピノザハウスの扉を開けて光差す世界へと…──
「ちょ、ちょっと待ってくれぇええええええええええええええッ!!!」
黒焦げの物体Aことスピノザ博士が上体を起こしながらセレニィを呼び止めた。
このまま流れに乗ってフェードアウトしようと思っていたのに呼び止められてしまった。
「……ちっ」
空気の読めないファーザーの呼び声にセレニィは舌打ちを漏らす。
ヒロインがしてはいけない顔をしている。
しかしセレニィはヒロインではなかったために何も問題なかったのであった。セーフ。
「………」
黒焦げのままセレニィを見上げるスピノザと、そんな彼を冷たい笑顔で見下ろすセレニィ。
そんな二人の構図はまさに対照的なコントラストを描いていたのである。
しかし、セレニィとしても思うところがあった。
……むしろ、思うところしかなかった。
何故ならこの製作者のおかげで今まで多大な迷惑を被ってきたと判明したのだから。
そう。
虚弱に生まれたのも、すぐに吐血してしまうのも、なんか常に胃が痛んでいたのも…
(全部、全部、全部! この
セレニィはブチ切れていた。
今までの不遇は全て、瘴気を吸収し、圧縮? 整理?
しながら体内に蓄積するという誰得な謎性質を付与されたせいだったのだ。
そう確信していたのである。少なくとも、セレニィ本人は。
思えばこの世界に転移した時からこのボディは雑魚過ぎると思っていたのだ。
巨乳ロン毛テロリストとドS軍人に目を付けられて精神的サンドバッグにされ続けるし。
フリーダム過ぎる仲間たちの仲を取り持とうとしては常に胃が痛める始末だし。
魔物たちには美味しそう認定されて優先的に襲われ続けるし(ライガ女王のお墨付き)。
イオン様の出奔やらティアさんの蛮行やらを耳にしてうっかり吐血しちゃうし。
ドSの艦に無理やり連行されたと思ったら3~4回ほど教団に大規模襲撃されるし。
調子が芳しくないルーク様やシュザンヌ様と接触したら体調悪くなるし。
モース様を追い落とすためにバチカルで熱弁奮ったら終生の敵認定されるし。
その後、逆恨みしたモース様の手の者(多分)に襲撃されて拉致されるし。
あ、六神将のみなさんとの生活はかなり快適でしたね。戦わなくて良かったですし。
アクゼリュスで救助活動に勤しんでいたらものすごい勢いで体調悪化していくし。
崩落に巻き込まれ魔界に落下したらいきなり瘴気蝕害に侵されて死にかけるし。
なんとか生還したと思ったらダアトで指名手配されて賞金首にされてるし。
いきなり演劇に巻き込まれて逃走したら迷子の果てにうっかり漏らすし。
ダアト脱出の際にドSの発案でトクナガに詰め込まれて窒息死しかけるし。
グランコクマに到着したらチンピラに追い回されてイケメンにき、き… ぐあー!
その謎のイケメンが皇帝陛下だったせいで会談で無駄に胃壁をすり減らしてしまったり。
ヴァンさんが勝手にとっ捕まったせいでこんな場所まで来る羽目になったり。
その過程でナタリアさんのデス・クッキングを味わって生死の境を彷徨ったり。
(ガッデム! 全部ファッキンファーザーのせいだったとか… おのれ、許すまじっ!)
久々に黒セレニィが降臨していた。
まぁ、大体いつも黒いのだが。
半分以上、セレニィ自身や仲間たちの自業自得じゃないかって? ……まぁ、それはそう。
「フンッ! 聞く必要ありませんよ。行きましょう、ティアさん!」
「分かったわ、セレニィ。このハウス、燃やしとく? それとも燃やしとく?」
「……あ、いや、別にそこまでしなくても」
相棒が暴走超特急だと一周回って冷静になることはままある。
セレニィは慌ててティアさんを止めた。腰が引けている。
これ以上はどう見てもやり過ぎ案件に思えたからだ。
今ですら訴訟されれば負けそうなこの状況である。流石のセレニィも訴訟沙汰は避けたい。
これで裁判になったら果たして仲間たちが庇ってくれるかどうかは怪しいところ。
むしろドS星人たるジェイドだったら相手検事側の席に立っていても不思議ではない。
(ぐぬぬ… 仲間がっ! 仲間たちの存在が私を追い詰めるぅ! ……あれ、本当に仲間?)
── それ以上考えてはいけない。
そんな心の声に従うことにしたセレニィは踵を返してハウスを後にしようとした。
しかし…
「……ちょっと、離してくださいよ」
「どうか… どうか、話を聞いて欲しい。……この世界を救うためにも」
「………」
研究者が、恐らくその道の権威であろう博士が、少女の足元に縋り付いていた。
大きなため息を吐いて、セレニィは歩みを止めた。
……流石のカスもそれを蹴飛ばせるほど非道にはなれなかったのである。
もう一つの黒焦げ物体Bが声を上げる。
「そんな! 危険ですよ、スピノザ! 迂闊にセレヌィを怒らせてはなりませんッ!」
「いや、なんでそんな危険人物扱いになってるんですか…」
「現に、つい先程も軽い気持ちで
「それは、なんか、ごめん…」
「彼女を怒らせると『あの』リグレットですら泣かされるのですよっ!?」
「その話何回擦る気ですか? いい加減リグレットさんが可哀想になってくるんですけど…」
「止めてくれるな、ネイス博士ッ!」
老博士の一喝。
それにディストはもとよりセレニィすらも言葉を失う。
「儂は、今こそ言葉を尽くして28号に相対せねばならんのだ! 一人の製作者としてッ!」
「しかし、スピノザ。セレヌィはこう見えて意外と獰猛で野生のハムスター顔負けで…」
「でぃ・す・と・さ・ん? ……誰が野生のハムスターやねん、おぅ」
「ひぃっ!? ちょ、痛い。痛いです、セレヌィ! 棒でツンツンしないでくださぁい!?」
セレ棒で黒焦げ物体Bを小突けばなんとも情けない悲鳴を上げる。
セレニィからすれば百年の友情も覚める無様さであった。
しかし、思ったことと言えばそこまで。
こちらが望みもしないのに、不可思議な改造の数々を施されて世に送り出されたのだ。
セレニィからすれば文句を言いたい気持ちは多々あれど、思惑に乗ってやる義理などない。
確かに瘴気問題が深刻化する事態にその回収と圧縮を行える人材は有用であろう。
あるいは『世界を救うため』という彼自身のお題目も誇大広告ではないのかも知れない。
……まぁ、掃除機にされたみたいで気分はよろしくないが。
──しかし、である。
(けど、それでも私一人で出来ることなどたかが知れてますって… わかるでしょ?)
セレニィはそう考えていた。
そう、セレニィ一人で出来ることなどたかが知れている。
そもそもが彼女自身、この世界に今なお本当の意味で馴染めていない感覚がある。
余所者なのだ。少なくとも、精神的には。
だから、気軽に『願い』を受けるわけにも背負うわけにもいかない。
それがセレニィなりのこの世界への線引きであり、誠意でもあったのだ。
「……申し訳ありませんが、ファーザー。私は」
「儂はな、ネイス博士。研究者とは孤独であってはいかんと思うておるのじゃよ」
しかし、その『断りの言葉』は決意を滲ませた独白じみた言葉に掻き消される。
呼びかけられた当のディスト本人は眼鏡を直しながらそれに応じる。
「……また、唐突ですね。しかし、天才であるならば孤高もまた宿命でしょう」
「く、く… じゃが、孤立すればするほど出来ることは限られてきやせんかね? 若いの」
「それは…」
「儂なりの倫理観じゃがな? 『何のために研究するのか』は大事じゃと思うておる」
「……それが貴方の言う『世界を救うため』、ということなのですか?」
ディストの問い掛けに、老人は腕に力を入れて立ち上がると眼鏡の煤を磨き始める。
そして大きく息を吐いてから、両手を広げるようにして天井を見上げながら語り始める。
「無論、それもある。じゃが、根本はもっと小さく、有り触れた感情じゃよ」
「……それは一体?」
「人々の役に立ちたい。研究を通じて人類に貢献したい。そんな学者としての原点じゃよ」
「やれやれ、ここに来て綺麗事ですか? ……ガッカリですね」
地面に倒れ伏しながらも肩を竦めるような仕草で失笑を浮かべるディスト。
そこにはある種の『綺麗事を否定したい』捻くれた感情が見え隠れもしていた。
だからだろうか。
スピノザ博士は怒りを示すでもなく、ただ、あるがままに受け入れる。
「そうとも、綺麗事じゃ。しかし、ネイス博士… 逆にこうとも考えられんかね?」
「はい? なにを…」
「ただ出来るからと闇雲に手を伸ばし続ける。……それは時に後悔をも招く行為だ、と」
その言葉にディストは「うっ…!」と、言葉を詰まらせてしまう。
かつて幼き日に親友・ジェイドが犯した二つの過ちを思い出す。
そう、ジェイド、ネフリー、ピオニー、セレヌィらと過ごしたネビリム先生の教室。
(あれ? セレヌィいましたっけ? ……いや、いましたね。……えぇ、間違いなく)
セルフ洗脳完了。
ともあれ、ジェイドはその時に二つの過ちを犯していた。
一つは軽率に危険極まりない第七音素譜術に関する実験を行い爆発を引き起こしたこと。
そして、もう一つは…
その際に己を庇って瀕死の重傷を負ったゲルダ・ネビリムの
それは人が壊れてしまっても複製を作れば問題なく元通りに修復できるという解釈。
技術的には可能であっても、本来倫理的に許されることではない。
だが、彼等を教え導いてきたネビリム先生以外にジェイドを止められる者はいなかった。
そして、
……本人ではなかった。
自己を補完する音素を求め、いたずらに人々を殺傷する怪物となったレプリカ・ネビリム。
その存在は多くの悲劇を招き、そして、関係者らに深い傷跡を残すに至ったのだ。
かつての幼馴染たちはその関係が変化し、それぞれ別の道を歩むようになってしまった。
── そんな、遠い日の思い出。
(フッ、あの時は泣きじゃくるセレヌィを慰めるのに苦労しましたっけ。優しい子でした)
おい、ついには記憶の改竄と捏造を始めたぞこの死神。
そんなディストさんを余所にスピノザは言葉を続けていた。
「ただ一人孤独に駆けて、駆けて、駆け抜けて。果たして最後に何がその手に残ろうか」
「………」
「そうして後から其奴は決まってこう零す。……『こんなはずではなかった』、と」
その囁くような声音には、何処までも真摯さが含まれていた。
思わずセレニィも足を止めて、耳を傾けてしまう程度には。
それはディストとて同じだったのだろう。
彼も返す言葉もなく、老博士の言葉に反駁の言葉も失せて傾聴している。
あるいは、この老人の半生にも悔恨にも似た『何か』が存在しているのかも知れない。
「だから、この通りじゃ。どうかこの老いぼれに力を貸して欲しい… 我が娘よ!」
「………」
「どうする、セレニィ? このハウス、燃やしとく? ……それとも、燃やしとく?」
「ティアさん、ステイ。いや、マジで空気読んで下さい。ホントお願いですから」
一方、ティアさんは何処までもティアさんであった。通常運転であった。
織田信長かな?
……いや、アレは焼き討ちされた側だったかもですが。
(なんでそんなに焼き討ちしたいの? なんでそんなに暴力で解決したいの?)
デッドリーかつバイオレンスな世界オールドラントでは暴力こそが生きるための法なのだ。
序盤のライガの群れもセレニィの余計な交渉がなければ暴力で排除されてましたし。
つまり強者こそが法! ユリアの譜歌を扱えるユリアの子孫などはその筆頭候補!
まさにティアさんは誰よりも世界に適応したスーパーオールドラント人なのであった。
実の兄を始末するため、躊躇なく他国の公爵邸を殺害場所に選ぶ女はやはり格が違った。
(なんなのこの人。くっ殺女騎士なの? 「くっ、殺せ」じゃなくて「くっ、殺す」方の)
セレニィは内心で涙を流す。
(嗚呼、世の中にはファーザーのように真摯に世界を憂う学者がいるというのに…)
「ね、セレニィ。燃やしましょ? そうした方が良いと思うの。私の勘がそう言ってるわ」
「ティアさん、燃やすの大好きですの? そういうの、あんまり良くないですの」*2
(何故自分の傍にはこんな狂犬みたいな存在しかいないのか!? ミュウさんは許すッ!)
辛い。とても辛い。
退職したい。
しかし、果たして自分がパーティから離脱して無事にその後を生きられるだろうか?
残念ながらその保証はない。
何故ならここはデッドリーな激詰み世界オールドラントなのだから。
かと言ってディストについていくというのもどうだろう?
勿論、『心友』を自称する彼のこと。
セレニィの加入を喜んで迎え入れてくれるであろうことは想像に難くはない。
ない、のだが…
「フフ… そうです、セレヌィ。これは二人だけの思い出です。幼き日の誓いなのです」
「………」
なんかブツブツ言ってて単純にキモかった。
『もう! 待ってよ、サフィールったらー!』
『ははは、こっちですよ! セレヌィ!』
『こらー! 待ちなさいってばー!』
『ははは、簡単に捕まるようでは天才失格ですからねー!』
『……サフィールは、さ。なんでいっつも私の面倒を見てくれるの?』
『それはまぁ、ジェイドやピオニーからも貴女の面倒を見るように言われてるのですから』
『ん~ふふふ… それだけぇ?』
『……まったく、それ以外に何があるというのですか?』
『さて、なんでしょう? 私、サフィールやジェイドと違って頭悪いから分からな~い』
『わぁ、綺麗… 朝陽に照らされる樹氷がこんなに綺麗だなんて…』
『フフ… 前の晩から待った甲斐があったでしょう? 私たちが一番乗りですよ』
『うん、素敵ね! ……くしゅんっ! ちょっと寒いかな?』
『これは私としたことがとんだ手抜かりを。すぐに紅茶の用意を… あっ!』
『でもね? こうして手を繋いでいるとすっごく暖かく感じるの。……サフィールは?』
『……はい。そうですね、セレヌィ。……とても、暖かいです』
『あのね、サフィール… 私、都会に転校することになったんだ』
『……そう、ですか。寂しくなりますね』
『でもね、私とサフィールはずっと友達だよ! だから、だからね…ッ!』
『えぇ、私とセレヌィ… 二人は永遠に『心友』ですとも』
『──ッ!』
『約束です。いつか、必ず迎えに行きますから。その時は、また…』
『うん…ッ! うん…ッ! いつか、また…ッ!』
次から次へと勝手に増殖されてゆく『存在しないはずのケテルブルクの思い出』の数々。
ケテルブルクの雪景色が良く似合う小悪魔系パーフェクト幼馴染セレヌィちゃん。
残念ながら彼女はディストの妄想が生み出した架空の存在であった。悲しいね。
そんなことを知る由もないセレニィは、ただただ背筋の寒気に身体を震わせるのであった。
「……ふぅ」
気付けば随分と時間が経過していた。
壁に掛けられたアンティークな時計を目にしながらセレニィはそう考える。
結局、今の自分には力もなければ選択肢もない。
自由など夢のまた夢。
仲間たちのもとに戻るより他はないのだ。
そう、セレニィは背中に走る寒気を振り払いながら嘆息する。
仲間たちのもとに戻る時間である。
この『べるけんどWalker』があれば迷わず艦まで辿り着けることだろう。
「そろそろお暇させていただきますね。ファーザー… いえ、スピノザ博士」
「……もう、父とは呼んでくれないのかね?」
「えぇ、『線引き』はしっかりすべきでしょうから」
「……どうしても、ダメかね?」
「………」
「『世界のため』などという大義でなくても良い。この哀れな老人を助けると思って」
「申し訳ありません。……私にも、生活があるので」
なんだかんだと甘ちゃんなセレニィはスピノザの言葉の数々にだいぶ心動かされていた。
セレニィとて根っからの悪党というわけではない。
そもそもそんな御大層な存在でもない。
ただ、自分の利益のためにとせせこましく立ち回る『小悪党』に過ぎないのだ。
自分をこんなザマに設計しやがった製作者に感じていた怒りはもはやかなり鎮まっている。
(……まぁ、うん)
掃除機だか空気清浄機だか知らないがそんな存在にされていたことに思うところはある。
だが、セレニィの側にその能力を積極活用する意図がなければ存在しないも同じこと。
特段得はしなかったものの、出生の謎について教えられたことはマイナスでもないはずだ。
(まして私のような『小悪党』にゃ世界を救うのは荷が勝ち過ぎますって…)
そう思って固辞するために口を開こうとしたところ…──
「ひょっとして金か? そんなんで良ければ儂の持てる全てをお主に譲るが?」
「……なんですと、ファーザー」
セレニィさんは世界を救うためのお誘いを固辞して退室しようとしていた。
この高潔な老学者の矜持をヌルい小悪党の自分が穢してはいけない。そう考えて。
そう。間違いなくそうしようとしていたのだが…──
なんか、こう、セレニィさんの欲深い口は勝手に動いていたのだ。
多分『その時歴史は動いた』的なサムシングであった。人体のふしぎ。
「くわしく」
「うむ。先に言った通り、儂の望みは『人類のために役立つ研究』、ただそれのみ」
「はい、言ってましたね」
「世界の瀬戸際、財貨で最重要人物からの協力が得られるならば差し出すが筋じゃろうて」
「ほうほう。とってもとっても、素敵なお心掛けかと思いますよ。ファーザー」
「く、く、く… そう言ってくれるかね? 我が娘、28号よ!」
「当然じゃないですか! マイ・ファーザー! ……ところで総資産は如何ほどで」
「騙されちゃダメよ、セレニィ! 早くこのハウスを燃やして帰りましょうっ!」
金銭欲にまみれた笑みを浮かべたセレニィがスピノザと急速に距離を詰めていく。
危機感を覚えたティアさんがなんとか正気に戻そうと呼びかけをする。
しかし、効果がいまひとつのようだ。……ある意味セレニィの通常運転なのだがさておき。
「ちっ… うるさいですね、このロン毛目隠れ巨乳テロリストさんは…」
「嘘などつかんよ。儂は然程金銭に執着しておらんし生涯生活に困らん程度の蓄えはある」
「ほら! 聞きましたか、ティアさん! ミュウさん! この高潔かつ清貧な志を!」
「すごいですのー! セレニィさん、お嬢様でしたのー?」
「いやー、あっはっはー! それほどでもー! ……あ、『お嬢様』はやめて下さいね」
考えてみれば音機関都市ベルケンドの住宅街の中でも一等地に居を構えているのだ。
並の研究者の給料で出来得る暮らしぶりではない。あるいはよほど太いパイプがあるのか。
その辺の事情に詳しいであろうディストさんは妄想の旅行から未だ帰還していないが。
「無論、慈善団体などに寄付するほど酔狂ではないが我が娘にならば喜んで譲ろうとも」
「はい! 私、ここの子になりますっ!」
「やだー! セレニィは私とずっと一緒なのー! このハウス燃やすのー!」
「ちょっ、何を言ってるんですかティアさん。……すみません、この人ちょっと頭おかしくて」
「おかしくないもん! 普通だもん! やだー! セレニィは私の妹なのー!」
ついにティアさんは勝手に姉を主張し始めた。それは前からだって? それはそう。
床に転がって駄々をこねる16歳児に手を焼きつつセレニィは今後の立ち回りを考える。
スピノザの娘としてお金を貰えば悠々自適の生活を送れるかも知れない。
とはいえ、旅をしながらではその両立は難しい。
しかも、こんな16歳児までいるのだ。資産を得てもその使い所は悩ましいところだ。
(はぁ、やれやれですね… 一体どうしたものか。──ん?)
その時、セレニィに天啓が奔る。
(……待てよ? 別に私がパーティにしがみつく理由って、もう、なくないですか?)
逆に考えるんだ、セレニィ。『捨てちゃってもいいさ』と考えるんだ。
そんな理論が脳裏に燦然と浮かび、輝きを放つ。
気付いてしまった。
今まではパーティを離脱したら早晩野垂れ死ぬしかないからこそ必死にしがみついてきた。
しかし、裕福な学者の娘として有り余る資産を受け継ぐことが出来るならば?
もう胃を痛めたり胃を痛めたりたまに譜術の標的になるそんな生活とはオサラバできる。
(確かにイオン様やアリエッタさん、アニスさんやナタリア殿下の可愛さ美しさは惜しい)
それは惜しい。心底惜しい。唇から血が滲み出る勢いで惜しい。
── しかし、である。
推し活というものは距離に縛られるものではないはずだ。
むしろファン活動というものは適切な距離感からこそ生まれるものではなかろうか?
苦渋の決断とともにセレニィは自己の理論武装を行い、非情な決断を下した。
ティアさんに至ってはもはや『誰それ? 刹那で忘れた』状態である。
うん、以降は謎の富豪枠として適切な距離を保とう。
そして安全地帯からたまに投げ銭するポジションとして陰から支援を行おうではないか。
一ファンとしてファンサをお願いする程度ならばむしろ節度ある距離感だろう。
これぞWin-Winの関係では?
そんな身勝手で楽観的な『せれにぃのかんがえるさいきょーのぷらん』が脳内で描かれた。
(うん! それ、すごくイイ!)
自己保身に走った屑の瞳がキラキラと輝き始める。
うっとりと涎まで垂らす始末。
その間、僅か3秒。
セレニィは仲間たち(特にティアさん)のパージをあっさりと決意。
精一杯のキメ顔でティアさんの手を取り、そっと囁いた。
「大丈夫ですとも、ティアさん。貴女は強い人。……えぇ、私抜きでもきっと大丈夫」
「無駄にキラキラしないでセレニィー!? 可愛いけどやだー!?」
「はてさてファーザー、養子縁組の手続きとかってどのようにすれば?」
「ほっほ、そういうのは全部儂に任せればええ。お主は実験に協力してくれれば充分じゃよ」
「あ、そういう話でしたよね」
「やだー! セレニィいなくなっちゃやだー! このハウス燃やしましょうよー!」
「ティアさんうっさい。よーし! ファーザーのためになんでもやっちゃいますよー!」
そうと決まればさっさとティアさんを追い返さないと。
そう、セレニィは決意する。
他の仲間達は自分が消えても別にあっさり流してくれそうだが、ティアさんだけは面倒だ。
良く言って聞かせて丸め込まないと諦めてはくれないかも知れない。
どうか諦めて欲しい。
そしてどうか騙されて欲しい。
自分は詐欺師じみたペラ回しだけはちょっとしたものなのだから。
ここで自分とミュウさんは優雅にドロップアウトするのだから。
……いや、ミュウさんには自分自身で道を選択させてあげないと可哀想かな?
後々ちゃんと意思確認をしようと思いつつセレニィはこれまでの旅の軌跡に思いを馳せる。
(ろくでもない体験ばかりでしたが決して悪い思い出ではなかったかもしれませんね…)
「……俺は、誰なんでしょう?」
(くっくっくっ… コイツら、チョロい!)
「許しますよ! 当然じゃないですか!」
(あ… 死んだな、これ…)
(どうした? 笑えよ、セレニィ…)
「え、えへへー… 捕まっちゃいましたー…」
(……神よ、このドSにどうか寝ている時に落下する夢見てハッと目覚める呪いを与え給え)
(あ… 今日、死ぬんだ…)
(うん、無理だこれ)
「ギャグですか?」
「ディストさん、私は悲しいです」/「トラストミー」
「……ぶっちゃけ、私がいた意味ってありませんでしたよね?」
「……ローレライ教団を破壊します」
「そう… 私が、あなたの『死』です!」
「はぁー… 辛い辛い。いやー、
「マジかよ皇帝の名代サイテーだな!」
「私は謎の六神将シンクゥですよ。決してセレニィじゃありません」
「回復譜術お願いできますか? ……奥歯折れたんで」
「わ、私は悪くありませんよっ!」
「あーあー、ヴァンさんが最初に話してれば脱出できたのになー!」
「えへ。ご飯美味しかったです」
「私、悪くないもん!」
「どこにでもいて、誰でもない… そんな無力なただの『石ころ』。それが
「殺せー! いっそ殺せー! うわぁあああああああああああんっ!!!」
「そうですよねー、ヒゲの相手なんて時間の無駄ですよねー」
「そーだそーだー!」
(……うん、やっぱあのヒゲ要らないな)
『いやじゃぁああああああああああああああああああ!!!!』
(……あれ? ろくな思い出がねぇな?)
唐突に動悸、息切れ、目眩の数々がセレニィを襲う。
胃がキリキリと痛み始める。
いや、うん、振り返ってみれば、多分、きっと、良い思い出のはず? だよ?
……うん、良い思い出だったとも。メイビー(セルフ洗脳完了)。
深呼吸を一つ。
落ち着きを取り戻したセレニィは瞳に慈愛の色を宿しながらティアさんを優しく見詰めた。
いっぱい苦労とか苦労とか苦労とかかけさせられてきたけれど、それらも全ては過去。
(……残念ながら私はここでパーティ離脱です。みなさんは強く逞しく生きてくださいね)
あとはティアさんを上手く丸め込めればセレニィ的にはミッションコンプリートである。
良いところの子供として平和にオールドラントで生きていくのみ。
だからそっちはそっちで世界救済を頑張ってほしい。私の将来のためにも。
そんな私欲に塗れた内心を覆い隠すように、今、セレニィの口から別れの言葉が放たれる。
「ねぇ、ティアさん…」
何処かしんみりとした声音に万感の想いを込めて、セレニィはティアに語り掛けた。
ティアさんはいやいやと首を振ってそれを拒絶する。
「やだ! 聞かないわ! セレニィ! 聞きたくない!」
「ねぇ。聞いて下さい、ティアさん。私から大切なお願いがあるんです。それはね…──」
── 『TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー』、ここに完結…ッ!
「それでは解剖させて貰おうかの。大丈夫じゃ、最後まで痛くないようがんばるぞい」
「このハウス燃やして下さい今すぐ」
「ユリアビーム!」
スピノザハウス炎上。
残念。
スピノザがこの世界標準のマッドだったばかりに惰性に満ちた物語は完結しなかったのだ。
今回もやたら燃やそうとしてたティアさんの直感は正しかった結果に落ち着いた。
悲しいね。
ティアさんのユリアの譜歌は近隣に影響を及ぼさず、ただスピノザハウスのみを灼いた。
みるみるうちに灰になっていくスピノザハウスと研究成果の数々。
「わ、儂の屋敷がぁああああ! 何故、何故じゃああああああああああああああああ!?」
「何故だもクソもありますかこのファッキンファーザー」
「希少な成功例ならばまずは解剖してその量産化を考えるのは必然じゃのに… うぅ…」
ディストさんに屋敷の研究成果のコピー取らせてて良かったね、ファーザー。
満面の笑みを浮かべて炎上するハウスを見上げるティアさん。
研究成果が灰になっていく姿に泣き崩れるスピノザ。
妄想世界にトリップしてたと思ったら周囲が炎上(物理)してて慌てて脱出するディスト。
そして、それらをやさぐれた表情で見詰めているセレニィ。
(けっ! このクソゲー世界にちょっとでも期待したこの私がアフォでしたよ! ぺっ!)
うん、いつもどおりの光景ですね。
いつもの日常が帰ってきた。
そんな彼女らの背に明るい声が掛かる。
「おーい! ここにいたのか、二人とも!」
ガイであった。
「ガイ、迎えに来てくれたのね」
ティアさんは炎上する屋敷から視線を外し、長髪を風に靡かせながら微笑む。
その表情は何処までも輝いていた。
「あぁ、探したぜ。……なんだ、何か良いことでもあったのかい?」
「えぇ。──『愛を取り戻せた』の」
「? なんだか良く分からないが、それは良かったな!」
事情を分からないなりに素直に祝福してくれるガイの言葉に、ティアさんは深く頷いた。
「良いことと言えば、俺も二人を探してる間に携帯端末の最新モデルを見付けられてな」
「へぇ、ひょっとして手に持ってるソレ?」
「あぁ、ファブレ家での給金半年分が飛んだが良い買い物をしたと思ってるよ」
現世で言うところのスマホに酷似した携帯端末を、ガイは高々と掲げて見せ付けた。
通信が発展していないこの世界ではベルケンドやシェリダンでしか活躍しないだろう端末。
それでも自他ともに認める譜業マニアのガイはとても嬉しそうに持ち歩いている。
その喜びを分かち合おうとティアさんに
ティアさんも苦笑いを浮かべながらも今の達成感に身を任せるままに耳を傾けている。
「いや、ティアが聞いてくれて嬉しいなぁ。こういうの中々語り合える機会がなくてさ」
「そう? 聞いているだけだけど、お役に立てたのなら良かったわ」
「あぁ、嬉しいよ! で、どうだ? 良いものだと思うだろ? これ!」
「そうね… でも通信譜業としてはここ以外だとだいぶ制限がかかるのではなくて?」
「うっ… それはそうなんだが。あ! でも、画像端末としても使えるんだぜ?」
「……画像端末?」
「あぁ、写真… 肖像画のようなものを即座に写し取り画像として残すことが出来るんだ」
写真に興味を惹かれたように端末を覗き込むティアさん。
女性の圧に若干距離を取りながらも、ガイはイケメンスマイルを浮かべつつ言葉を続けた。
「なんだったら、ここでセレニィと記念撮影でもしてみるかい?」
「いいの!? 良かったら是非お願いしたいわッ!」
「お安い御用さ。さ、そこに並んだ並んだ」
「えぇ! ……さぁセレニィ、ミュウ。こっちよ。肖像画を残してもらいましょう?」
「ヴー…」
「ですのー!」
なんだかセレニィが人としての鳴き声とか尊厳を失っている気がするがさておき。
「はは、厳密には肖像画じゃあないんだけどなぁ… 準備はいいかい?」
「……ガイはいいの?」
「だいぶマシになったけど肩組んで
「そう… それじゃお言葉に甘えて。ありがとう、ガイ」
「いいってことさ。礼のつもりなら、最高の笑顔を浮かべて写真に収まってくれよ」
その言葉にティアさんは満面の笑みを浮かべる。
「ほい! ……よし、綺麗に撮れたぜ! 見てみるかい?」
「えぇ、是非! 見せて見せて! ……わぁ、素敵ね。セレニィもミュウも可愛いわ」
「ヴー…」
そこには花咲くような笑みを浮かべるティアさん。
ミュウも最高の笑顔でポーズをキメている。
そして死んだ瞳で肩を抱かれているセレニィの姿があった。
背景には燃え盛る屋敷。
泣き崩れる老人。
ぶっ倒れているディスト。転がっている黒焦げの球体(タルロウXX)。
「へへっ、いい仕事をしたな。報酬はレディたちの笑顔ってね」
そんな中で最高の写真を撮影したガイもやっぱり異常者の一人だったかも知れない。
結果、パーティの常識人はトニーさんしかいないことになってしまった。
がんばれ、トニーさん。超がんばれ、トニーさん。
「ん? ……『投稿』って表示が出てきたわ」
「あぁ、撮影した画像はどこかに投稿することもできるんだ。試しにやってみるかい?」
「へぇ… じゃあ、この『べるけんどWalker』っていうのにしようかしら」
「ふんふん、ベルケンドの名所を紹介するレビューコーナーらしいな。出来るか、ティア」
「……やってみるわ。セレニィの可愛さを後世に残したいの」
「よし、やってみな! 応援してるぜ、ティア!」
「えぇ!」
譜業オタクに優しいギャル… もといテロリスト… もとい少女となったティアさん。
彼女はガイの声援を受けて、一生懸命に取り組んで見事に投稿を完成させた。
| 『眺め良し、住んで良し、燃やして良し』 | ★★★★☆ | 投稿主:魔界生まれのTさん |
|---|---|---|
| ようやく愛するセレニィのご実家にご挨拶にうかがうことができました。 セレニィゆかりの地ということもあり空気が柔らかく清らかで、 大きく深呼吸をすることで心身の健康を増進してくれたものと実感しております。 自慢の譜歌で良い感じに燃えてくれましたのでとてもスッキリしましたが セレニィの父を名乗る不審な置き物が邪魔だったため星4つとしておきます。 機会がありましたら、みなさんも是非この焼け跡に足を運んでみて下さい。 | ||
この投稿は見事に炎上した。
SNSって怖いね。
そしてセレニィの危険性が再確認されて、ダアトでの懸賞金額が増額されたらしい。
画像は全てを語る。
これは残当(残念でもないし当然)。
「なんでですかぁ!? 私、なんも悪くないのにぃいいいいいいいいいいいいッ!?」
ティアさんに指図して実の父親(製作者)の屋敷を物理で炎上させたんですがそれは。
こうして叩き起こしたディストから飛行艇──『飛晃艇』の存在を聞き出した一行。
彼等はもう一つの音機関都市シェリダンを目指すのであった。
「あの… そろそろ解放して欲しいのですが? ダメ? きぃいいいいいいいいッ!!!」
「断固抗議しますともっ! 私、悪くないもんッ!!!」
屑と『心友』が揃って叫ぶ姿を後目に仲間たちの旅は続いていく。
……きっとこれまでも、これからも。
よろしければアンケートにご協力ください。このSSで一番好きなキャラクターは?
-
セレニィ
-
ルーク
-
ティアさん
-
ジェイド
-
それ以外