TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

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09.冤罪

 3人でリンゴを食べながら散策を続行する。

 とはいえ、そう大きくない村のこと。

 やがて一周してしまい宿屋の前へと戻ってくる形となった。

 

 まだ営業は再開していないようだ。

 しかし、今回は先ほどまでと違って入口付近に人が大勢集まっている。

 何やら思案顔で、問題ごとの相談をしているようだが…

 

「駄目だ…。食料庫のものは根こそぎ盗まれてる」

「北の方で火事が起こってからこっち、ずっとだな…」

 

「ひょっとしたら脱走兵かなんかが…」

「いやいや、漆黒の翼の仕業ってことも…」

 

 聞いたことのある単語が飛び出て、3人は思わず顔を見合わせる。

 

「また漆黒の翼とやらが噂になってますね。……ていうか滅茶苦茶評判悪いですね」

「まぁ、軍に追われて橋落とすような連中だ。きっとロクでもない盗賊団なんだろうさ」

 

「確かに… 橋が壊れて彼らが戻ってこれないのは、幸運といえるのかもしれないわ」

 

 そんな連中に何度も間違えられたのかと、ため息や悪態の一つもつきたくなる。

 

 ともあれ、もういない盗賊団のことより今晩の宿の確保をしてゆっくり身体を休めたい。

 恐らくたむろしている彼らが関係者なのだろうが、現在は議論に夢中のようだ。

 どうしたものかとティアとセレニィが様子をうかがっていると、ルークが一歩前に進み出る。

 

「おい、食べ物の話なんかどうでもいいからさっさと中に入れろよ。俺らは休みたいんだ」

 

「ルーク!?」

「ちょっ、おま…」

 

 ティアとセレニィにしてもルークの言いたいことは分かる。

 というより他人事である以上、全面的に同意したい程なのだがその言い方はまずい。

 

 案の定、話をしていた男性陣が気色ばんだ表情で詰め寄ってくる。

 

「『なんか』とはなんだ、『なんか』とは!」

「うぜーっての! 別に話すなとは言わねーよ。ただ、ここでされると通行の邪魔なんだよ」

 

「ちょ、ちょちょちょっと… ルークさん!?」

 

 ルークの言っていることは間違いなく正論だ。

 だが悩んでいる時に、他人に上から目線の正論を言われるほど腹が立つことはない。

 

 ティアは絶句し、苦虫を噛み潰したような表情で頭を抱える。

 小市民であるセレニィは怯えきった表情でルークを止めようと必死に縋り付く。

 

「なに! 俺たちが一年間どんな思いで畑を耕してきたと… ん?」

 

 激昂し、ルークに詰め寄ろうとしたところで前に出てきたセレニィに視線が集まる。

 

「……どうした?」

 

「いや、そのチビ… さっき『勝手に人の家に入った』とかなんとか言ってたような…」

「あ、それなら俺も聞いたぞ! 確か『空腹が生んだ気の迷い』とも言ってた!」

 

 まさかの方向に事態が進み、セレニィはルークに縋り付いたままガタガタと震えだす。

 一方のルークとティアは、「何言ってるんだコイツら」と言わんばかりに堂々とした態度だ。

 

 なんでそんなに自信満々なんだよ。その肝の太さを少し分けろよ。セレニィはそう思う。

 

「ケリーさん、ついさっき俺の店に来た時も『まだ入るのか』とか言ってたのも聞いたぞ」

 

 そこに、まさかの方向から屋台のリンゴ屋さん参戦である。

 お金を支払いわざわざ商品を購入してくださったお客様を背後から狙撃する。

 豪華オールキャストが揃い踏みだ。かなり嬉しくない事態だ。

 

 一方セレニィはもう既に半泣きである。絶対保身するマンはアドリブに弱い。

 万が一でのピンチを嫌うからこそ、他人の顔色をうかがって生きるのだ。

 そもそもピンチでの対応力があるならば、絶対保身するマンになどなる必要はない。

 

「怪しいな… おい、どうなんだ! アンタ!」

「食料盗難の犯人じゃないだろうな!?」

 

「黙ってちゃ分からんだろ! なんとか言ったらどうなんだ!」

 

 ルークが先制口撃で場を暖めていたため、彼らの怒りと興奮はピークを維持している。

 そんな連中に口々に責められ、睨みつけられてはたまらない。

 小市民的には逃げ出さないだけ褒めて欲しいくらいだ。……まぁ、足が動かないだけだが。

 

 だが、誤解を解かなくては。大丈夫、やれば出来る。ルークやティアを見習うのだ。

 そう思い、セレニィは意を決して口を開いた。

 

「し、しししししししし知りませんじょ…?」

 

 ……開いてしまったのだ。頼りになる仲間たちのフォローよりも先に。

 

 身体は小刻みに震え、目線は逸らしたまま、言葉は噛みまくりで、冷や汗は止めどない。

 誰が見ても犯人より犯人らしい態度としか言いようがなかった。

 

「……そうか」

 

 ケリーと呼ばれていた男が、一つ頷くと大きなため息をついた。

 わかってくれたのか! と、セレニィの口元に笑み(引き攣っていたが)が浮かぶ。

 

 そして、セレニィはヒョイと小脇に抱えられた。

 

「あ、あるぇー…?」

 

「正直に言ってくれれば手荒な真似はしたくなかったんだが。……軍はローズさんとこか?」

「あぁ、まだ話し合いをしてたはずだ」

 

 そのまま彼らはスタスタと歩き出す。

 セレニィを小脇に抱えたまま。

 混乱に支配された彼女の脳内ではドナドナがエンドレスリピートされている。

 

「おい、オメーら! セレニィをはな…」

「ルーク! ……『今は』抑えて」

 

 セレニィを助けるために木刀を抜き放とうとしたルークを、ティアが小声で窘める。

 

「……まさか、セレニィを見捨てるって言うんじゃねーだろーな?」

「それこそまさか。でも、ここで暴れたところで状況は悪い方にしか転ばないわ」

 

「だからってアイツを見捨てることなんか…!」

 

 ただでさえ相次ぐ食料盗難事件で苛立っている村民たち。

 その燻ぶる怒りに油を注げばどうなるかは、先程ルークが証明したとおりである。

 

 ここでこれ以上、彼らを刺激することはティアも避けたかった。

 

「落ち着いて。……抵抗しないところを見ると、セレニィにもなにか考えがあるのかも」

「けどよ…」

 

「勿論、いざとなったら割って入ってでも助けるわ。彼女に対して責任があるもの」

 

 無論、セレニィに御大層な考えなどありはしない。単に抵抗する腕力がないだけだ。

 

 なおも渋るルークに対し、ティアは自身の決意を明かす。

 その悲壮な色を滲ませた瞳にルークは思わず息を呑む。そして彼女は彼から一歩離れる。

 

「先に謝っておくわ」

 

「……え?」

「場合によってはあなたを送り届ける責任、果たせなくなるかもしれないから」

 

 そこまで言って、ティアは背を向けて男たちの後を追って歩き出した。

 自身の無罪は明らかだが、「犯人にされてしまう」可能性とて大いに有り得るのだ。

 

 反射的にティアに続こうとしたルークだが、そこに足を止めた彼女の声が被さる。

 

「あなたは、今ならまだ無関係と主張できるわ。私にしても巻き込むつもりはないし」

 

「………」

「ついてくるつもりなら、そのことをよく考えてからにしなさい」

 

 彼女は返答を待たず、今度こそ歩き出した。『いざとなったら』の事態に備えるために。

 

 後を追う足が止まりかけたルークの脳裏に、先程までのセレニィの笑顔が浮かぶ。

 

「……ええい、クソ! だから既に巻き込まれてるっての!」

 

 ヤケクソ気味に声を上げると、村の奥の一番大きな家に向かう彼らの後を追って駆け出した。

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