TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

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13.教団

 宿に向かう途中、ティアが先程いた人物のことを思い出して怪訝な表情を浮かべていた。

 

「あれは間違いなく導師イオン。一体、何故こんなところに…」

「知っているんですか! ティアさん!」

 

「え、えぇ… ローレライ教団最高指導者であらせられるお方よ」

 

 それを耳ざとく拾ったセレニィが情報収集を試みる。

 過去最高レベルの食いつきを見せたセレニィに驚きを感じながらも律儀に答えるティア。

 

 とはいえ、それも仕方ないことなのかもしれない。

 周囲をうかがいつつも、その中身にはさほどの興味も執着も抱いてこなかったセレニィだ。

 

 急激な食いつきに違和感を覚えるのはむしろ自然といえるだろう。

 

「ほほう、ローレライ教団… とな?」

「……そう、あなたは記憶喪失だったわね。良かったら、道すがら説明しましょうか?」

 

「はい、お願いします」

 

 普段はルークに引っ付いていてあまり自分に寄ってこないセレニィがくっついてくれる。

 それがティアに満足感を与え、また、知識を披露できることで密かな優越感にも浸らせる。

 

 ちなみにセレニィは確かにティアから距離をとっているが、別に嫌っているわけではない。

 たまに(今とか)目付きが怖いので、なんとなく近付き難いというのは大きな要因だが。

 話をするならば、彼女の中で同性に位置づけられるルーク相手のほうが何かと気楽なだけだ。

 

 セレニィにとってティアは、嫌ってはいないが多少の苦手意識はある。というのが実情だ。

 

「(あわよくば、これを機にもっと仲良く… 『お姉さん』とか呼んでくれないかしら?)」

 

 ともあれ、そんなことを考えつつ、ティアは努めて真面目な顔でセレニィに講義を開始した。

 

「ローレライ教団は、ユリア・ジュエを始祖とする宗教組織。その歴史は二千年以上に及ぶわ」

 

「へー、二千年以上も… ローレライ教団以外には宗教組織ってないんですか?」

「ん… 私の知る限りではないわね。それだけ、この世界でユリア・ジュエは特別な存在だもの」

 

 仮にではあるが、かつて自分がいた世界に照らしあわせてこれを考えてみる。

 某四文字を崇め奉る感じの宗教組織が、大きな対立もなく二千年間繁栄してるようなものか。

 

 なるほど、信仰の是非は置いてもその影響力たるや相当なものだろうとセレニィは考えた。

 

「(とりあえずローレライ教団とやらに睨まれたらヤバイ。……把握した)」

 

 絶対保身するマンは教団のヤバさを感じ取ってその警戒を強める。小市民ゆえに宗教は怖い。

 こんなヤバげな宗教組織とは適度に距離をとって生きていかねばならない。そう決意した。

 

「ユリアは、このオールドラントの全ての記憶を読み取った偉大な預言士(スコアラー)でもあったの」

「記憶を読み取る? スコアラー?」

 

「知らねーのか? 確か、星には誕生してから滅亡するまでの『記憶』が存在するんだよな」

「その預言(スコア)を読み取れる存在が預言士(スコアラー)と呼ばれる。……ちょっとルーク、割り込まないで」

 

「別にいーじゃねーか。減るもんでもなしに」

 

 聞き慣れない単語に小首を傾げると、退屈していたルークが補足説明をしてくれる。

 一方ティアの方は自分の見せ場が取られた気がして、横目で軽く彼を睨み付ける。

 そんな彼女の視線を受けてルークは不満気にブツブツこぼしている。なんだか微笑ましい。

 

 そんな彼らの様子に微笑を浮かべつつ、ティアに尋ねる。

 

「ということは、イオンさん… もといイオン様は始祖ユリアの子孫か何かなのですか?」

 

「いえ、その… ユリアの子孫は別にいるらしいけど導師になったという話は…」

「なるほど…(今、一瞬だけど顔色が… 『ユリアの子孫』という単語に反応したのか?)」

 

 言葉を区切って静かに首を振るティアに相槌を打ちつつ、その表情の変化を観察する。

 彼女は、ユリアの子孫という単語になにか特別な感情を抱いているのかもしれない。

 とはいえ、多少は気になるが今の関係を無理に壊してまで踏み込むべき内容でもないか。

 

「じゃあ、導師はどうやって選ばれ… あ、ひょっとして預言(スコア)で決まるんですか?」

 

 恐らく地雷案件だろうと当たりをつけたセレニィは、サラッと話を流すことに決めた。

 絶対保身するマンは護身のため、地雷から距離を置く当たり障りない生き方を好むのだ。

 

「そのとおり。理解が早いわね、セレニィ」

「あ、あはは… どうもです…」

 

「んだよ! 俺への態度とセレニィへの態度で随分違うじゃねーか」

「な、なんか私のせいでごめんなさい… ルークさん…」

 

「セレニィは優しいわね。でも謝る必要なんてないのよ?」

 

 いや、おまえが謝れよ。セレニィはそう思うが怖くて口に出せない。ごめんよルークさん。

 

 嬉しそうにセレニィの頭を撫でるティアの瞳には、やはり獲物を狙うような光が宿っている。

 そのせいか美少女と触れ合っているというのにちっとも嬉しくならない。……解せぬ。

 

 やはり距離を取らないと(使命感)。そう決意を新たにしたところ、ティアが話を続ける。

 

「導師にはある資質が求められるの。そして、それを持つ者が預言に従って選ばれるわ」

「……資質、ですか?」

 

惑星(プラネット)預言(スコア)… かつてのユリア同様、それを詠める者が導師となる。それが教団の決まりよ」

 

 なるほど、預言が最重要視される世界かー。そして次に能力と。セレニィはそう理解した。

 恐らく二千年間かけて、ゆっくりとそれを『常識』として世界に浸透させていったのだろう。

 オマケに分かり易い預言(きせき)まである。ローレライ教団の手練手管にはむしろ感心すら覚える。

 

「へー… そうだったんですか。凄いんですね、ローレライ教団もイオン様も!」

 

「フフッ、今日の平和の多くは始祖ユリアの偉業と教団の努力が齎したものと言えるのかもね」

「けっ! 俺はワケ分かんねーとこに飛ばされて、現在進行形で平和じゃねーっての…」

 

 不満気にぼやくルークに反応したティアが彼と言い争いを始める。

 いつもどおりの言い争いをいつもどおり止めに入る。

 

 無論、セレニィには自分の内心を講義してくれた彼女に告げるつもりなんぞサラサラない。

 さり気なく教団を推してくる姿勢から、ティアも教団関係者なのだと推測できるからだ。

 根は悪い人間ではないのは分かるが、人格面に少々の問題があることは嫌でも伝わってくる。

 

 気付かぬうちにとんでもない犯罪行為に手を染めかねない危うさが、彼女から感じられるのだ。

 

「丁寧な説明の数々、大変ためになりました。……ありがとうございます、ティアさん」

 

「いえ、むしろ大雑把な説明でごめんなさい。語り始めると凄く長くなってしまうから…」

「クスクス… でしたら、次の講義の機会を楽しみにしていますよ? ……ティア先生」

 

「ま、まかせて! ……セレニィ、あなたの期待を裏切る結果にはしないと始祖に誓うわ!」

 

 何故か赤くなったティアは鼻息荒くそう宣言した。

 ……いや、そんなこと始祖に誓われても。セレニィは内心でドン引きしている。

 

 悪い人間ではないのだろうが、何故か本能的な恐怖を感じる。

 

「(とはいえ、なにかの時は出来るだけフォローするかな。見捨てるのも寝覚めが悪いし…)」

 

 それなりに同じ時間を過ごし、良くしてもらってきたという恩もある。

 口先だけで言ってみた『仲間』ではあるが、無惨に切り捨てるには少々情が移ったようだ。

 

 セレニィは絶対保身するマンらしからぬこの考えを、後で死ぬほど後悔する羽目になる。

 

 

 

 ――

 

 

 

 だがそれは少し先の話。

 

「(そうだ、そんなことよりイオン様に萌えよう。グッズとか売ってないかなー?)」

 

 今はのどかな村の風景を尻目に、一行はなにごともなく平和に宿に到着するのであった。

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