TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー   作:(╹◡╹)

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16.計画

 既に陽は沈み、一行は夕食を食べ終えて食堂でくつろいでいた。

 遠くから聞こえてくる虫の音色が耳に心地よい。

 

「うーん… 満腹満腹。美味しい夕ご飯でしたねー」

 

「そうだな、屋敷で食べる料理ほどじゃないけど中々だったぜ」

「食材がこうまで新鮮なのはエンゲーブならではね、きっと」

 

 あれから買い物を終えた一行は、もう一度、村の散策をした。

 といっても、今度は旅に役立つ道具類を揃えようという目的のためだが。

 

 その結果、先の買い物に加えて幾つかの補充をすることとなった。

 

 セレニィは旅の道中のビタミン不足対策に露店でドライフルーツ類を。

 ティアは掘り出し物として売られていた防御効果のあるブレスレットを。

 ルークは家族や友人のためにあちこちの店から面白そうな土産物を。

 

 宿も用意し、これからの旅の目処もついたため最初よりは気楽なものだ。

 夕焼け空を背景に談笑しながら戻る頃には、食事の用意が整えられていた。

 

 

 

 ――

 

 

 

 そして今に至る。

 

 宿の食堂はリビングに併設されており、食後の歓談が楽しめるようになっている。

 そのソファに腰掛けていたルークが残る二人に向けて口を開いた。

 

「おまえら… ちょっといいか?」

 

「なにかしら?」

「はい、なんでしょうか。ルークさん」

 

 少し迷ってから続きを口にする。

 

「明日、北の森に行きたいんだ」

 

「………」

 

 先程までの和やかなムードから一転、その場は重苦しい沈黙に包まれる。

 先に口を開いたのはティアだ。常のような冷たい眼差しをルークに向けつつ言葉を紡ぐ。

 

「ルーク、一体何を考えているの? あなたの我侭で寄り道をしている暇なんて」

「ま… まぁまぁ、ティアさん。頭ごなしに叱っていては話もできませんよ」

 

「でも、セレニィ…」

「ルークさんも今、こうして相談してくれてます。なら、話し合ってこその仲間では?」

 

「そう… そうね。いきなり声を荒げてしまってごめんなさい」

 

 セレニィは宥めた側でありながら、内心でティアが素直に頭を下げたことを驚愕していた。

 彼女の中でティアは、ルークに素直に頭下げたら死ぬ病気にかかってそうですらあった。

 

 やはり食事による満腹効果が大きいか。……今後、ティアへの食事は絶やさぬようにしよう。

 

 セレニィはそう密かに決意しつつ、ルークに向かって口を開く。

 

「まぁ、そういうわけで。……ルークさんの考えをお聞かせいただけますか?」

 

「考えってほどじゃないけど、セレニィが疑われてムカついた。調べて文句言ってやりたい」

「(はい、論外! ていうか、マジで考えってほどじゃねー!?)」

 

 セレニィは笑顔のまま沈黙する。小市民ゆえ、その考えが既に大迷惑ですとは言えない。

 ルークの戯れ言に言葉を失いつつ、既に内心でどうやって説得しようかと考え始めている。

 

「あ… あのね、ルーク。私たちは全員揃って安全に帰るのが目的なのよ?」

「そりゃー分かってるけどさ…」

 

「わざわざ危険に踏み込むのはどうかしら? 必要のない危険を犯すのは賛成しかねるわ」

 

 キツい口調を反省したのか彼女なりの優しい口調でルークを説き伏せようとするティア。

 

 その横でセレニィは思索に耽る。心情的には、今まで良くしてくれたルークに味方したい。

 もし彼がいなくてティアと二人きりであったならば、早晩息が詰まっていたことだろう。

 同じ男同士という気安さと、今も含めて何かと気にかけてくれる彼に救われた部分は大きい。

 

 もし検討すらせずにここで突っぱねてしまっては、彼が気にせずともこちらにしこりが残る。

 

「(ふーむ… なんとも悩ましい…)」

 

 ルークに恩や親しみを感じているとはいえ、魔物が出る世界で森に特攻するのは恐ろしい。

 せめて調べるだけならまだしも… ん? 待てよ?

 

 セレニィは頭の中で瞬時に算盤を弾く。

 

「村の現状を考えるならこの話は… となると、話を持ちかけるべき相手は…」

「ど、どうしたのセレニィ… 急にブツブツつぶやきだして」

 

「セレニィも反対なのか? ……まぁ、だったら無理言うつもりはねーけどさ」

「あ、いえ。条件付きという形にはなりますが私は賛成しますよ? ルークさん」

 

 ルークが残念そうにため息をつくと、セレニィは顔を上げて否定した。

 

「………」

 

 すると何故かその場は異様な沈黙に包まれ、思わずセレニィは小首を傾げてしまう。

 なにか不味いことを言ってしまったのだろうか? と。

 

 とはいえ、彼らが驚くのも無理は無い。

 ルークもティアも、堅実なセレニィの性格上反対に回るだろうと予想していたからだ。

 

「え、えっと… マジでいいのか?」

「はい」

 

「セレニィ、ルークに気を遣ってないかしら? それは美徳だけど無理する必要はないのよ」

「まぁ、その側面がないとは言いませんけど。ルークさんには良くしていただいてますし」

 

 あっけらかんと言い切る。

 ならば止めなくては… と思うティアが口を開くより早く、苦笑いを浮かべながら続ける。

 

「とはいえ、それが全てでもありませんよ? 私なりの考えがあってのことでもあります」

 

「なら、いいんだけど…」

「なんか、悪いな。……セレニィのためって言いながら結局付き合わせちまってるし」

 

「そんなに難しく考えないでください。こうやって今後の行動を相談するのは楽しいですし」

 

 気不味そうな表情を見せる二人に微笑んでみせる。

 

「『思い付き』をみんなで知恵を出し合って形にする。凄く仲間っぽいじゃないですか!」

 

「セレニィ…」

「……あぁ、そうだな!」

 

「(クックックッ… それに、こうすることで次回はこっちの我侭が通りやすくなるしね!)」

 

 だが、いつもどおり中身は屑であった。

 

「それで、さっき言ってた条件ってのはなんなんだ?」

 

「あ、はい。まずは森で夜を迎えるとかゾッとしないので明日の朝は早めにしたいのです」

「正論ね… 夜の森は危険よ。私に異論はないわ」

 

 ティアが神妙な面持ちで頷く。

 おまえなんでそれで夜の渓谷を強行突破しやがったと思わないでもない。口には出さないが。

 

 無論、ルークにも異論はなく次の条件へと話が続く。

 

「続いて少しでも『危険そう』『手に負えないかも』と感じたら、引き返すこと」

 

「これについても異論はないわ。退き時を見誤れば被害は拡大する一方だもの」

「あぁ、わかった。……確かに、無茶して大怪我したりしたら元も子もねーからな」

 

 これについても二人に了解を得られる。いよいよ最後の条件だ。

 

「最後に… 明日は出発前にローズ夫人のお家に向かいたいのです」

 

「あそこに? なんで?」

「フフッ… ちょっとした『お仕事』の話です。詳しくは明日のお楽しみということで」

 

 彼女が具体的に明かさないのは、別に大きな成果を明かすことを焦らしたわけではない。

 むしろその逆… 彼女の試みが成功する保証がどこにもないからだ。

 

 成果が得られるかどうかは、明日のローズ夫人との話し合い次第ということになる。

 ここまでカッコ付けたことを言っておきながら失敗したら、赤っ恥どころではすまないが。

 

 問題は信じて任せてもらえるかどうかだが…

 

「まぁ、なんだか分からねーけどセレニィが言うなら任せるさ」

「そうね… でも手伝えることがあったら言ってね?」

 

「あ、はい…(なんでこんなに信じられてるんだろ? ……純粋なんだな、きっと)」

 

 なぜだかアッサリと信じてもらえたので、特に話し合いで問題は発生しなかった。

 

「ま… そういうわけで明日は早いので、そろそろ休みませんか?」

 

「だな!」

「えぇ」

 

 こうして一行はそれぞれの部屋で身体を休めるために宿の二階へと上がっていった。

 そしてセレニィは普通に男部屋に入り込もうとして、廊下にベショッと放り出される。

 

「……解せぬ」

 

 彼女は廊下に突っ伏しながら、そうつぶやいた。

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