TALES OF THE ABYSS外伝ーセレニィー 作:(╹◡╹)
斯くして一行は大きなトラブルに見舞われることもなく、北の森へと足を踏み入れた。
入り口近辺は然程でもないが、奥に進むに連れ陽が遮られ陰が増える森。
それははなんとも言えない不気味な雰囲気を醸し出している。自然、一行の口数も少なくなる。
黙々と奥へと進んでいたその時、ふとセレニィが足を止める。
「? どーしたんだ、セレニィ」
「お静かに。……イオン様の気配がします」
「………」
……どうしよう、セレニィが壊れてしまった。
ここ数日の様々な出来事のせいか、あるいは交渉とか買い物とかを任せきりにしたせいか。
これからはもう少し労ってやらないと… ルークはそう考えて口を開こうとする。
「な、なぁ… セレニィ」
「こっちです! うぉおおおお、イオン様ー!」
「おい! ちょっと… って、はえぇ!?」
制止する暇とてなく、叫ぶが早いかセレニィは奥へと向かって駆け出していってしまった。
一体どうしたものか… 隣に並ぶティアに声をかけようとする。
「な、なぁ… ティア」
「流石セレニィね… こんな薄暗い森の中でイオン様の気配を探り当てるなんて」
「……あ、うん。……そーだな、すごいな」
キラキラした眼差しでセレニィが駆け去った方角を見詰めているティアを見て悟った。
おかしいのはコイツらじゃない。理解できない自分のほうなのだと。
そして仲間との間にある溝の再確認に若干肩を落としつつ、セレニィの後を追うのであった。
――
程無くセレニィの方から戻ってきた。
「ぎゃああああああああああああ!?」
「バウワウッ!」
「ガウガウッ!」
……三匹ほどの狼を引き連れて。
「魔物だわ、構えて!」
「だー! まったく世話のやける!」
それをルークとティアがカウンターにする形で魔物を迎え撃つ。
ただの狼とはいえ、れっきとした魔物。侮ることは出来ない。
だが夜の渓谷で積んだ戦闘経験、そしてエンゲーブで整えた武具を持つ彼らの敵ではなかった。
ティアの譜歌が接敵までに全ての魔物の動きを止め、ルークが順次それに止めを刺していく。
「フッ、流石ですね… ルークさん、ティアさん」
セレニィは戦闘が終わった頃を見計らって、ドヤ顔で茂みから現れる。
いい性格をしている屑であるが、頭の上に乗った葉っぱが間抜けだ。
最初の頃に比べ、多少息は切れているものの大量の荷物を背負っているにもかかわらず無傷。
魔物からの追い回され方にも、堂が入ったような手慣れた雰囲気をうかがわせる。
「こーら! ったく、勝手な行動しやがって。反省しろよなー?」
「むぐ、あぅあぅ…。ご、ごめんなさいー…」
「ま… まぁまぁ、ルーク。セレニィもきっと分かってると思うからそれくらいに…」
いつも冷静な妹分らしからぬ行動に、ルークは彼女の頭をわしゃくしゃにしつつ注意する。
ティアは「落ち込んで涙目のセレニィも可愛いわ…」などと思いつつフォローを試みる。
ルークにしても本気で怒ったわけではないので、ティアに窘められればアッサリと解放する。
これで当面の危機は去った。しかし、こんなことを繰り返せば問題であるのは自明の理。
ティアは考える。大事な仲間であるセレニィを守るための方策を。
「(セレニィ可愛い… 今の状況ではセレニィへのフォロー役が必要ね。セレニィ可愛い)」
どうでもいいけどそこの屑と思考が同レベルですよ、ティアさん。
その時、ティアに天啓が走る。
「(そうよ… はぐれないように、私がセレニィの手をつないでいてあげればいいのよ!)」
この思い付きこそ始祖ユリアの導きに相違ない。
……嗚呼、始祖の導きに感謝を。
始祖が聞いたら助走つけてぶん殴ってきそうなことを、ティアは大真面目に考えている。
『ティアさん、こっちこっちー! はやくはやくー!』
『フフッ… そんなに急ぐと転ぶわよ? セレニィ』
『ティアさん… ティアさんのこと、お姉さんって呼んでいいですか?』
『あら、私はとっくにそのつもりだったのに違ったの? お姉さんは寂しいわ』
『ティアさん… いえ、お姉さん…』
『セレニィ…』
良い… 凄く良い!
ティアは自身の輝かしい未来図(妄想)を想像して、小さくガッツポーズを決める。
さぁ、心は決まった。あとは実行に移してこの未来図(妄想)を形にするだけだ。
「セレニィ! またはぐれるといけないわ! だから私と手をつないでいきましょう!」
「え? 普通にイヤですけど」
「………」
ティア、轟沈。
そのあまりのショックに彼女は膝をついて項垂れる。俗にいうOrzのポーズである。
屑もここ数日間の付き合いで、彼らに対する遠慮というものがなくなってきている。
加えて絶対保身するマンとしても「捕まったら終わり」という脳内の警告を無視できない。
「あぁ… 始祖ユリア… 何故… 何故なのです… これも試練なのですか…?」
「(なんかブツブツ言ってる。怖いしティアさんのことはそっとしておこう)」
ついには虚ろな表情でブツブツつぶやきだしたため、ますます距離を取られることになった。
そんなティアを尻目にセレニィが思い出したように口を開く。
「あ、そんなことよりルークさん! やはりこの先にイオン様がいらっしゃいました!」
「え? ホントにいたのか?」
「はい、魔物は私が引き離しましたけどまた何かあっては危険です。すぐに向かいましょう」
真相は、単に魔物がセレニィにターゲットを変更して追い回していただけであるが。
ともあれ、イオンを心配したセレニィはルークの腕を両手で取ると先へと進むよう促す。
ルークは「セレニィってたまに人間やめてるよな…」と思いつつも素直にそれに従う。
別にセレニィに人の気配を感じる特殊能力などがあるわけではない。
単に何処に出しても恥ずかしい変態であるため、イオンの気配がわかってしまうだけだ。
「はやく、はやく! こっちですよ!」
「わーったって! 引っ張るなよ… ったく。おいティア、急がねーと置いてくぞー?」
「………」
ルークとセレニィが先へと進み、後にはOrzのポーズのままのティアが取り残される。
「フ… フフフ… フフフフフ…」
小さな笑い声が響き渡る。
鈴の鳴るようなその声には、底知れぬ冷たさが滲んでいるようですらある。
「残念よ、ルーク… あなたとはいずれ分かり合えるかも知れないと思っていたのに…」
ゆっくりと立ち上がる。
彼女は膝についた土を払うこともなく、言葉を紡ぎ続ける。
「あなたは… 私の敵だったのね」
今ここに、嫉妬ウーマン(逆恨み)が爆誕した。
――
「なんか寒気がする…」
「あらら… 風邪は引き始めが肝心と云いますし、ちゃんとティアさんに相談して下さいね」
「うん… でも何故だろう。余計に悪化しそうな気がする」
先行した二人はそんなことは露知らず… 平和に談笑しながら歩いていたという。
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